2 メイちゃんの考えごと
メイちゃんの視点です。
(大好きな人がいなくなるのはもういや!)
あたしは、準備してもらったマルルカちゃんの部屋に入ると、そのままベッドに倒れるようにして突っ伏した。
春になったとはいえ、森の夜の空気は冷たい。街の中とは違ってどこか鋭い感じのする空気だ。
そんな澄み切った空気を思いっきり吸い込んで体中にいっぱいにすると、だんだんと頭がすっきりとするような気がしてくる。
マルルカちゃんと一番最初に会った時、お人形さんみたいな女の子だと思った。とってもかわいくて、あたしより2つお姉さんだなんて思えなかった。おしゃべりするのがあまり得意じゃなかったみたいだけど、それでも本当にあたしやおかあさんのことを心配してくれているのがよくわかった。
あたしの代わりにお買い物してくれたり、おかあさんのためにシェルドンさんに立ち向かおうとしてくれたり、とっても勇気のある子なんだって思った。
あたしがつらいとき、いつも一生懸命に助けてくれようとしてくれた。
だから、次はあたしがぜったいマルルカちゃんを助けるんだ!って決めてたのに……
まだなんにもマルルカちゃんにしてあげられていないのに、おうちに、帰っちゃうなんて……
マルルカちゃんは嫌なことがあって逃げてきたって言ってたな。
私も一緒にいったら助けてあげられるかなぁ?
でも、マルルカちゃんはあたしに助けてって一言も言ったことない。
あたしは頼りないのかな…… まだマルルカちゃんの助けにはなれないって言うこと? マルルカちゃんは何にも自分のこと話してくれない。
あたしはやっぱりまだ頼りにならない子どもなのかな・・・・・・
いなくなったらいやって言うのは、子どもが言うことだったね。
あたしのわがままだ。
なんだか悲しい。
おかあさんも助けてあげられなくて、マルルカちゃんの助けにもなれない。
わがまましか言えなかったなんて……
あたしが今、マルルカちゃんのためにできることって何だろう?
…… それって、ここで待っててあげることかなぁ?
そうだ!
いつでも帰って来れるように、居心地いい場所を作ってまもっていくことだ。
あたし、おかあさんがいなくなって本当に心細くて、どうしたらいいかどこにいったらいいかわからなかったんだ。
そのとき、オルトさんとマルルカちゃんがずっとそばにいてくれた。
アルさんも…… そして、今、あたしの場所がある!
アメリアがいて、何だかわからないうちにシェルドンさんの家にいる。
「いつでも帰ってきてね」って言ってあげることが、あたしがマルルカちゃんにしてあげられること……
しばらくして、そっと部屋を出た。
マルルカちゃんが扉の開く音に気付いて、心配そうな顔をして私を見ていた。
「メイちゃん、ごめんね……私……」
「マルルカちゃん、あたしこそごめんね。
マルルカちゃんがいつでも帰って来れるように、ちゃんとこの場所を守るから!
ずっと待っているから。
だから、マルルカちゃんの帰る場所があることを忘れないで!
ここを忘れないで」
あたしがそう言うと、マルルカちゃんはびっくりした顔をして、それからとびっきりのやさしい顔になると私の方へくると思いっきり抱きしめてくれた。
「メイちゃん、ありがとう。本当にありがとう……
私、ぜったい帰って来るから。ちゃんと帰って来るから……」
マルルカちゃんの声は、少しだけ震えていた。
涙でくぐもったマルルカちゃんの声を聞いていたら、心の中がじんわりと温かくなってきて、あたしも思いっきりマルルカちゃんを抱きしめた。
どうか、マルルカちゃんが優しい笑顔であたしのところに帰ってきてくれますように……
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朝、目が覚めるとすっかりお日様が高くなっていた。
(寝坊した! いろんなこと考えてしまったから、あんまりよく寝れなかったからだ……)
「おはよう! オルトさん、マルルカちゃん。ごめんなさい。寝坊しちゃった!」
慌てて飛び起きると急いで着替えを済ませて扉を開けた。
「おはよう。メイちゃん。
マルルカならアル兄ぃと出かけたよ。
メイちゃんによろしくって。必ず帰って来るからって伝えてって言って……」
「そんなぁ…… あたしが寝坊しちゃったからだ……」
ちゃんとマルルカちゃんにあいさつできなかったなんて……
朝出発するってわかっていれば、絶対寝なかったのに! マルルカちゃん言ってくれてもよかったのに。昨日ずっと起きていればよかった。
黙っていってしまったマルルカちゃんが恨めしい。
「ごめんね。マルルカが戻るところはアル兄ぃが一緒じゃなきゃ行けないからさぁ。
わかってあげて。
しばらくは僕だけでがまんしてね。
僕も時々留守にするけど、ここはメイちゃんが好きなだけいていいところだから。ね!
ちゃんと薬草畑をお世話してくれる人がいるから、ここにある薬草は好きなだけ使っていいから」
「え? なんで、大好きなマルルカちゃんやアルさん、オルトさんに会えないのに、ずっとひとりでここにいなきゃならないの? そんなの嫌だよ」
「そうなの?」
オルトさんはすごく不思議そうな顔をして私を見ている。
あたしがいくら薬草に興味があったって、人のおうちの薬草畑を好きに使っていいって言われてもうれしくない。
みんながいておしゃべりしながら薬草のことを知っていくのが楽しいのに。
「オルトさん、留守にするときはちゃんとあたしに言ってね!
その間、やっておいてほしいことは私がちゃんとやるから!」
あたしがそう言うと、オルトさんは、もっとびっくりした顔をした。
なんか変なこと言った? あたし……
オルトはわからなかった。
人は欲しい物を与えれば誰もが満足した。メイにとっての薬草畑にしてもそうだろう。だからメイに薬草畑を渡そうとした。面倒な世話もなく高品質な薬草を採取できるのだから、これほどいいものはないだろう。そうだというのに、私たちに会えないのなら嫌だ、いらないと言う。
そのうえ、私に要望があればそれを叶えてあげると言ってきた。
これまで人の欲望や要望を聞き叶えたことはあっても、私の要望を叶えてやると言ってきた人間は誰もいなかった。
おもしろい。
「だったらメイちゃん、メイちゃんの薬草畑の友だちをたくさん増やしてほしいな。
大勢の友だちがここにいたら楽しいでしょ? みんなでおしゃべりしながら薬草を育てたり調合したりして勉強する。作った薬やお茶、石けんなんかを国中に売るんだよ。ここをそんな場所にしてみない?」
オルトさんは、とんでもないことを言ってきた。オルトさんの夢? なのかな?
薬草畑の友だちを増やす?
でも、それってとっても楽しそう!!
「わかった! やってみる!! おもしろそう。オルトさん
でも、時々はいなくなってもいいから、ちゃんと教えてね」
マルルカちゃんが戻って来るまで、あたしはやることができた。
いっぱいお友だちを作って連れてきて、マルルカちゃんをびっくりさせてあげよう!
なんだかワクワクしてきた。
メイが起こしたクローネ王国のプーレフェミナ・スザンナの薬屋は、高品質な品で人気となり、その後世界有数の薬局になったのは別のお話。




