1 森のおうちで
ノージスに転移してきて、もうすぐ1年。マルルカは森のおうちで変わらない日々を穏やかに過ごしていた。薬草の手入れをするときに魔力をながすこともなくなったし、ハーブティやせっけんも作れるようになった。薬も少しずつ作れるようになっている。
メイちゃんがやってきては、薬草畑の手入れを手伝ったり、オルト兄ぃにそれぞれの薬草の効能を教えてもらったりしている。メイちゃんはオルト兄ぃの説明を真剣に聞いてメモをしながらいっぱい質問をする。その姿は、私よりも年下と思えないくらいしっかりしていて、明るくかわいいだけの子どもじゃなくなった感じだ。
メイちゃんは、ちゃんとひとつずつつらいことを乗り越えてきたんだ……
私はそう感じた。
それはとても頼もしくもあったけど、なんだか置いてけぼりをくらってるみたいで、自分だけが何にも変わってないんじゃないかって思えてくる。
ハリーとデレクに会うのが怖くて、ノージスに逃げてきた。でもメイちゃんの前を向いて進もうとする姿を見ていると、ちゃんと私も乗り越えなくっちゃ……って思う。
でも、私、どうしたいんだろう……?
そんなことを、時間があればふと考えるようになっていた。
「マルルカ、最近元気がないみたいだね?
悩みごと? レイスのことか?」
食後のお茶を飲んでいると、オルト兄ぃが私の顔を覗き込むようにして聞いてきた。
もう! なんでレイスの名前が出てくるのぉーって思ったけど、何か言うとからかわれるから、ちょっとだけ睨む。
「メイちゃん、大人になってきたんだなぁって思って……
私、ちっとも変ってない。
ヤービスから逃げてきた弱虫のまんま」
「そんなことないと思うよ。マルルカだってちゃんと大人になってる。
ヤービスに戻りたくなった?」
「……戻りたいわけじゃない……
ノージスでの生活はとっても幸せ!
メイちゃんやレイス、それにいっぱい友だちや仲間もいる。ずっとここで暮らしたいって思う。
でも、戻らなくちゃいけないんじゃないかって思うの。ここでずっと暮らすにしても、ちゃんとしなくっちゃって……」
「敵をやっつける気になったの? マルルカは前よりもずっと強くなったよ。
簡単にやっつけられるくらいにね」
オルト兄ぃは笑いながら2杯目のコーヒーをいれる。
「前はね、ハリーとデレクをやっつけられたら仕返しできたら気持ちがいいかな? って思った。
でも、今はよくわからない。
そりゃぁ、私を殺そうとした2人を思い出すといい気持ちはしないし、なかったことになんかできないけど……
でも、ちゃんと私が生きてるって、言いたい」
「そっか。それだったらアル兄ぃが来た時に頼んでみるといいよ。
別にダメだとは言わないだろう」
それから1週間くらい過ぎた頃、アル兄様がやってきた。
その日はメイちゃんが泊まりに来ていて、オルト兄ぃから、薬草の組み合わせを教えてもらっているところだった。
「いいかい? ポロ草にジンジャの葉を少し混ぜると、体がぽかぽかと温めてくれるから、冬の夜のお茶にいい。ジンジャの量が大事だ。ジンジャは眠気を飛ばす作用があるから入れすぎるとポロ草の作用が消えてしまう。これくらい。
ジンジャの根は使っちゃダメだよ……」
「ジンジャの葉っぱね!
アメリアはいつも手足が冷たいって言ってるから、ジンジャのお茶をいれてあげたらいいかしら?」
「そうだね。それだったらジンジャの葉とオルニの葉を2:1でブレンドしてあげたらいいよ。オルニの実は血のめぐりをよくする効果が高いけど、葉っぱは穏やかだからね」
「わかった。今度やってみる。オルニってなかなか実がつかないのよね?」
メイちゃんの薬草の興味はつきないみたいだ。アル兄様が来ているのにも気づかないくらい。
「メイちゃん、薬草博士になりそうだね」
アル兄様が戸口からメイちゃんの様子に目を細めてみていた。
「あっ! アルさん!!
オルトさんから教えてもらうのがすごく楽しいの
今日はアルさんもいるのね!
あたし、すごいいい日に来ちゃったね」
その日は4人で食卓を囲んで賑やかな夕食を楽しむことができた。
のんびりと食後のお茶を飲んでいるとき……
「アル兄様…… 私、元の……その……おうちに一度帰ろうと思うの。
その、ちゃんと……」
「いいんじゃない? マルルカがそうしたいと思ったのなら。
いつでも連れて行ってあげるよ」
「マルルカちゃん、帰っちゃうの? どうして?
あたし、聞いてないよ!
どこに帰るの? クローネ王国のどこ? もっと遠いところ?
またブリドニクに戻ってくるんでしょ?」
私がアル兄様にお願いすると、メイちゃんがお茶をひっくりかえすくらいにびっくりした顔をして、私が答える間もないくらいに質問攻めにしてきた。
「メイちゃん、ちょっと聞いて。
私、ここが大好きよ! メイちゃんだってレイスだってみんな大好き。
私ね、前のところで嫌なことがあって逃げてきたの……
でも、メイちゃんやみんなと過ごしているうちに、ずっと逃げてちゃダメなんだってわかった。ちゃんと前に進まなきゃって……」
「マルルカちゃんはいつもあたしを助けてくれたよ。兄さんだって……たぶん、マルルカちゃんのことが大好きなんだと思う。きっと寂しがる。
だから、ここにずっといてほしい」
「ありがとう。そう言ってくれるのはすごくうれしい。
でも、決めたの。ここに戻ってくるためにも、私、ちゃんとしなきゃって!」
「あたし、嫌だ…… 大好きな人がいなくなるのは、もういや……」
メイちゃんはそう言うと立ち上がってベッドのある部屋へと行き、そのまま出てこなかった。
10月はなかなか書く時間を作ることができませんでした。
第4章 遅くなりましたけれど、少しずつ始めます。
更新が遅くなりますが、どうぞよろしくお願いします。




