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2つの世界の物語 ~魔力の化け物と呼ばれた少女の物語~  作者: 星あんず
第1章 はじまりの1歩
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10 魔王城にて(1)

 ふかふかの大きな天蓋付きのベッドで目が覚めた。

 あたしが5人くらい寝ても余裕だ・・・・・・

 ここは、魔王城だろうなって思う。



 頭の中がぐちゃぐちゃだったのが、いっぱい寝たせいか、すっきりしている。

 もう、あんなにびっくりすることは起きないっていうくらい、昨日は信じられないことばっかりだった。

 まさか、魔王城にお泊りしてぐっすり寝るとは思わなかった。


 アルさんの仕業だ。それだけはわかる!


 昨日の黒いアルさんには二度と会いたくない! 

 思い出しただけで、背中がぞわぞわしてくる。

 アルさんは、簡単に近づいちゃいけない人だったんだ……

 いや! 存在すらも知っちゃいけない人だったんだ、と思う。

 あれは怖い…… 怖すぎる……


 一瞬で命を狩り取られる、いや、きっと自分が死んだことすら気が付かないと思う。


 あたしは、本当に生きてるんだろうか? 

 

 思わず、自分の胸に手を当てて、本当に心臓が動いているか確認した。

 今、自分の命があるのかどうかさえ、疑問に思ってしまう。


 これ以上、黒いアルさんのことを考えるのはやめよう!! また、どうにかなりそうだ……




 ベッドから降りて辺りを見渡してみる。

 アルさんのおうちが丸ごとはいっちゃう大きさの部屋だ。


 足元には沈んでしまうほどの毛足の長い敷物だ。なんかの毛皮?

 今度は魔王城のお姫様にでもなっっちゃった? 

 何があっても、もう簡単には驚かない!! 


 たぶん・・・・・・



 昨日のできことが、アルさんのいろいろ「教えてあげる」って言ってたことだったのか……

 でも、もっとわかんないことは増えた。


 ダメだ、ダメだ、ダメだ! これ以上、アルさんのことを考えたら!!


 頭の中がぐるぐると巡っている間、

 足をベッドから投げ出してぶらぶらさせながら、足先に触れるふわふわの感覚に意識を向けていた。

 


 

 ベッドから離れたところにある大きな扉をノックする音がした。

 アルさん…… どんな顔をして会ったらいいんだろう…… どうしよう


 心臓がバクバクしてきた。


「おはようございます。お目覚めでございましょうか?」


 女の人の声で、ちょっとホッとする。


「お嬢様、しばらくお嬢様のお世話をするように主様より仰せつかっております。

 お着替えをする間に、お食事のご用意をさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 お嬢様? あたしのこと? そんなこと言われたのは生まれて初めてだ。

 何か、言わなくっちゃいけないの? でも、なんて言ったらいい?


 あたしは小さくうなずくのが精いっぱいだった。




 メイドさんみたいな女の人が2人やってきて、「こちらでございます」っていうと、ベッドの奥にある右側の扉を開けて、あたしが来るのを待っている。


 扉の向こう側には、大きなお風呂があった。温かいお湯がいっぱい満たされていて、ネモの花の香りがする。いつもの香りでちょっと安心した。


「1日朝と夜の2回、湯あみをしていただくように仰せつかっております」


 女の人たちはとても手際がよくて、あっという間にすっぽんぽんにされると大きなお風呂まで連れていかれた。


 1日に2回も湯あみをするのは、本当にお嬢様だ……

 アルさんのところで、毎日湯あみすることすら驚ていたのに。



 それから、体を洗ってもらって、ネモのクリームで全身をマッサージしてくれて、ふんわりした淡いピンクのドレスを着せられる。

「ドレスをこちらで選ばせていただきましたが、お気に召しましたでしょうか?」


 そんなこと聞かれてもわかるわけがない。


 あたしは、さっきから何にもしてない。

 自分のことのはずなのに、ぜんぜんついていけない・・・・・・



 気が付いたら、あたしは朝ごはんが並んでるテーブルに座っていた。

 ふかふかパン、フレッシュジュース、ほかほかのオムレツやサラダ・・・・・・食べきれないほどの、見たこともないような上等な朝ごはんが並んでいた。


「あの……アルさんは?」

 壁際に並んで立っているメイドさんたちに おそるおそる声をかけてみる。


「主様からは、しばらくここを離れると伺っております。その間、お嬢様には課題をこなすようにとのことでございました」

 

 アルさんと顔を合わせることがないってわかって 本当にホッとした。

 どんなふうにして会ったらいいのか、会うのが本当に怖かった。

 また、おかしくなっちゃうかもしれない。


 でも、課題ってなんだろう?? 髪の毛と瞳を茶色に変えることかなぁ?


 って思ってると、メイドさんと一緒に並んでいた、黒い服を着た執事のような人が1歩前に出て、あたしに話しかけてきた。


「失礼いたします。私、オルトと申します。お嬢様には、話し方や立ち居振る舞い、一般教養を教えて差し上げるようにと主様より仰せつかっております。しばらくの間、私が教育係としてお相手させていただきます」


 えっ! そんなことアルさんなんにも言ってなかった。

 森のおうちに帰れないの? ここで、魔王城で暮らせっていうこと??


 

「・・・オルトさん・・・ マルルカです・・・ よろしくお願いします」


 あたしはなんとかそう言うと、ペコリと頭を下げた。


「お嬢様、オルトとお呼びください。『さん』は不要でございます。それから私に頭を下げる必要もございません。

 もっとも、おじぎのマナーもなっておりませんし、話し方が幼すぎます。

 まずは、ご朝食を召し上がってからにいたしましょう」


 オルトさん、いやオルトはそう言うと、1歩下がって、またメイドさんと一緒に壁に並んだ。


 

 1人で食べるごはんは初めてだ。

 それもずっと見られてるだなんて、いくら上等な朝ごはんだって喉を通らない。



 さっきのオルトさ、いやオルトなんか、すごぉく怖い目で見てる。

 フォーク1本あれば食べられるのに、なんで朝からナイフ出てくるのかなー? 


 これ、全部ナイフで切るの?? 

 オムレツを切ってフォークで口に運び、オルトを見る・・・・・・うなづいてる。

 パンも切ってフォークで刺して・・・・・・あっ 眉間にしわを寄せちゃった。


 すごく疲れた朝ごはんだった。 きっとおいしかったんだろうけど、ぜんぜんわからなかった。


「先ほどの朝のお食事では何も申し上げませんでしたが、次回からは厳しくいきます」 

 オルトの目がキラリと光ったのをあたしはちゃんと見た。





 それからは、朝から夕方までオルトはずっとあたしの後ろにびったり張り付き、動くたび話すたびにお小言が飛んできた。


「『あたし』ではございません。『わたくし』です。語尾を伸ばしてはなりません。・・・・・・」


「お嬢様、背筋は常に伸ばして、お顔をお皿に近づけて召し上がってはいけません。お口にお料理を運ぶのです。お使いになる指は親指、人差し指、中指の3本が基本です。お使いにならない指は、優雅に添えるのです。カップは指をかける物ではございません。・・・・・」


「べたべた歩いてはなりません。つま先から優雅に・・・顔は前を見て! 背筋!・・・」

「指先の意識を忘れておいでです・・・・・・」


 体中、あちこちガチガチだ。全身ツッてる・・・・・・




 お風呂の時間だけが至福の時間だった。最初は体を洗ってもらうのは恥ずかしくっていやだなって思ったけど、何かするたびにこんなに気を使ってたら、何にもしない時間が欲しくなる。


 世間でいうお貴族様が自分のことは何にもしないっていう話は、きっと嘘じゃないと思う。

 って、なんであたしこんなことしてるの?


 ごはんだって、満足に思う存分に食べさせてくれない!

 ずっとメイドさんとオルトがいて、あたしが食べてるのを見てる。

 ひとりでごはんを食べたっておいしくないから、一緒に食べようっていったら、すごい顔された。


 1日に何度も着替えをする。

 少ない日だって、湯あみして夕ご飯の前に必ず着替え! それから、お部屋にもどり寝間着に着替える。


 「きれいな動きを覚えるにはダンスがいいでしょう」と、ダンスのレッスンも始まった。


「ダンスは美しさ! 体の軸を体で覚えてください。

 足運びが違います。トゥとヒールを間違っています。  

 ホールドがくずれています。肩があがっている! 肘!

 取っ組み合いのけんかをするおつもりですか? 男性のリードを感じるのです。察知して

 微笑みを忘れないで・・・・・・ 」


 もう、動けなくなる。動くたびにオルトに注意される。

 1日中動くたびにこんなに意識していたら、笑顔になれるわけもない。

 


 夕食が済んでからが、あたしの時間。

 アルさんに言われた通り、髪と瞳を茶色にする練習をしてみる。魔力がザワザワする感じは覚えてるけど、どうしたらできるんだろう? 循環させる魔力が茶色になるイメージをしてみる。流れを変えるのかなぁ? どうやって・・・・・・・?




 少しマナーを覚えてきたら、座学・お勉強が始まった。


「もちろん歴史はある程度はご存じですよね?」

 そんなの知ってるわけないじゃないですか。


「ご自分より上位の方には、こちらから話しかけてはなりません。

親しくないうちは、お名前をお呼びしてはなりません。爵位や職位のある方には爵位名や職位名で、お呼びするのが常識です。位名と家名は異なる場合もあります。

初めは、この城が接してる国ソランの上位の方々の序列、名前は覚えるように・・・・・・」


 位名、家名なんて、一般庶民にあるわけないじゃない!

 見たことも会ったこともない人たちの名前を憶えて、あたしはどーするの??


 そんなことを言ったら「常識です」って返された。


 魔王と戦ったよりへとへとになる毎日だった。


 


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