60 春のおとずれ
森のおうち……
私は、レイスとは別でブリドニクに帰って来た。
レイスがアメリアさんのことをちゃんとお世話できるか、ちょっと心配だったけど、いっぱいお話ができるかな? と思って……
ブリドニクの西の門を出て森のおうちを目指してゆっくり歩く。
もうすっかりと冬の季節になってしまっていた。森の木も葉を落としていて、歩くたびにカサカサと音がする。
一人でずっと旅をしたのも初めてかもしれない。今までは必ず側に誰かいてくれた。
一人だったけど、ちっとも寂しくなかった。私にはたくさんの友だちや仲間が増えたから!
薬草畑は大丈夫だろうか?
ずっと留守にしたから、ダメになってしまったかもしれない。
お世話をしていた薬草が全部枯れてしまったんだと思うと、ちょっと悲しい。
果たして…… そこにはすっかりと薬草が刈り取られていて、ちゃんと手入れがされていた畑があった!
あのとき、ちゃんと聞こえていたんだ! 誰がお世話してくれたんだろう? 後でオルト兄ぃにおしえてもらおう!
薬草畑の横をとおって家の前まで来る。
私のおうち! 今、本当にそう思う。 帰って来る場所があるってすごく安心する。
そっと家の扉を開けた。その瞬間、コーヒーのいい香りがしてきた!
「おかえり! マルルカ」
「ただいま! オルト兄ぃ!!」
オルト兄ぃが、笑顔で迎えてくれた。
オルト兄ぃの姿を見ると、心がぽかぽかしてくる。
自分の帰りを待っててくれる人がいるのが、こんなにうれしいなんて!
アル兄様は……いなかった。ちょっと寂しい。
頭ポンポンをしてもらいたかった…… なんて恥ずかしくて言えない。
それからしばらくは、刈り取られた薬草の下準備をしたり、薬を作ったりして、オルト兄ぃと穏やかな毎日を過ごしていた。時々、街の人たちが薬やお茶なんかを買いに来る。
「おや? マルルカちゃん、帰ってたんだね?」 って言われたけど、いったい誰が留守をしてくれていたんだろう? やっぱり、ちょっと不思議…… オルト兄ぃでもなさそう。
街の人に留守の間、誰がいたのか聞くのもおかしいよねって思ったけど。
いろんなことがあったのが嘘のように静かな暮らしだった。
春の足音が近づく頃には……
クランさんはタミネアに帰っていった。アメリアさんは…… シェルドンさんと暮らしていた! エリザさんの喪が明ける頃に、シェルドンさんとアメリアさんが結婚をするという。
すごくびっくりしたけれど、シェルドンさんは前とだいぶ変わったのだという。街の人にすごく優しくなったってって言うけど、私は、あの嫌なシェルドンさんしか知らない。
本当なの……?
それに、メイちゃんは…… シェルドンさんのところの養子になるっていう。シェルドンさん、アメリアさん、メイちゃんは一緒にくらしているみたい。メイちゃん大丈夫かな?
オルト兄ぃから外出の許可をもらった。それから数日して、暖かなお天気のいい日を選んでシェルドンさんのお屋敷にと行くことにした。
「マルルカちゃん 会いたかったぁ!」
「マルルカさん、お久しぶり!」
シェルドンさんのお屋敷に行くと、メイちゃんとアメリアさんが迎えてくれた。なんか、メイちゃんお屋敷のお嬢さん……みたい。シェルドンさんは留守にしていた。
「メイちゃん、シェルドンさんとこの子になったの?」
「うん…… 最初はね、アルさんにここに連れてこられた時には、すごくびっくりして嫌だったの。おかあさんに意地悪した人のところなんかに!って」
メイちゃんがぽつぽつと話始めると、アメリアさんは静かに見守るようにしてメイちゃんの隣りでそっと手を握っていた。
「はじめは口を聞くのも目にするのも嫌だった。シェルドンさんもどこか苦々しい顔をしていたから、あたしのこと好きじゃないって思った。でも、ここで、この街であたしのことを守ってくれていたの。アルさんに頼まれたからかもしれないけど、それでもずっと守ってくれた。
偽物メイちゃんが現れたときには王都まで確認しに行くって……。
そりゃぁ、シェルドンさんのことだから、絶対何かを企んでるって思ったけど……
王都から帰って来てからも、前とおんなじ。『好きなだけここにいたらいい』って、言ったっきり、ほとんど話はしなかった。
それにここにいる人たちはみんなよくしてくれて…… だからあたしもお手伝いをするようになった。そしたらみんなもっと優しくなって、居心地がよくなっちゃった」
メイちゃんが照れくさそうに、クスって笑った。
「にいさんがアメリアさんを連れてきたときには本当にびっくりした! すごくうれしかった。それはシェルドンさんも同じだったみたいで、シェルドンさんったら、アメリアさんのことをすごく大事にしているの、あたしでもわかったよ。
おかあさんに意地悪してたのは、大好きな女の子にわざとイジワルする男の子と一緒だったのかなぁ?って思うようになった。
アメリアさんは、おかあさんにとってもよく似ているけど、全然違うの! ほっとけないっていうか、ちゃんとそばで見てあげなくっちゃって、思えちゃって……
にいさんは、私を迎えに来たのだけど、王都に帰るっていうとき、シェルドンさんったら、アメリアさんにプロポーズしたのよ!」
メイちゃんは、本当に楽しそうにずっといろいろと聞かせてくれた。落ち着いた優しい表情は、メイちゃんが少し大人になったんだなぁって思える。
それはすごく自然で、無理をして背伸びをしているわけでもない。身の回りで起きたいろんなことを丸ごと受け止められたんだ……きっと。
メイちゃんの姿にスーおばさん――おかあさんがダブって見えた。
「あたしね、かあさんのお店を引き継ごうと思うの! シェルドンさんもそれがいいって言ってくれた。それで、大人になるまでもっといっぱい勉強しろって言ってくれて……
ここでおせわになることになっちゃった」
メイちゃんは大人に近づいていた。そしてしたたかさも身に着けようとしてた。
(これでいい) 私は、そう思った。
私がこの世界――ノージスにやってきて、1年が経とうとしていた。
【第3章 とまどいの一歩】 完
ここまでお読みいただきありがとうございます。
第4章の構成とこれまでの手直しで、少しお時間をいただきます。
いよいよ…… マルルカは ハリーとデレク、メザクに向き合うことになるかと……




