57 女神祭
「傷が消える!」「怪我が治っていく!」
教会中央で横たわっていた教会騎士をはじめ、怪我を負っていた者はみな、傷が消えていった。
「息が苦しくないわ!」「痛みがなくなった……」
みな一様に表情が和らいで、互いに抱き合って泣きあっている人もいた。笑顔がいっぱい見える。
みんなの喜ぶ顔を見ていると、私までうれしくなってくる。
そして…… 無表情の男の子のそばで泣いている両親に声をかけることにした。
「この子のこころの傷は、残念ながら、私では癒して差し上げることはできません。
どうか、この子の妹思いの、やさしいこころを大切に育んであげてください。
妹さんは、あなたがたのこころの中にいることを忘れないで!」
「神様はあなたがたの心の中にいらっしゃいます。
この子の今の神様はきっと妹さんなのかもしれませんね。
あなた方の中の神様の声に耳を傾けなさい」
大神官様も両親に優しく声をかけてくれた。
「あぁ、大神官様…… お優しいお言葉ありがとうございます。
メイは……私たちの娘は……」
「メイちゃんと言うのね…… 私の知っているメイちゃんは、明るくて優しい子なの。
大丈夫! メイちゃんはずっとあなたたちを見守っていますよ」
「ゥゥウ…… メ……イ…… メイちゃんがぁー!!」
無表情だった男の子が顔をゆがませると、ゆっくりと音を出し、それが声になった。それから思い出したかのように、大泣きした。
両親は泣き叫ぶ男の子を見ると顔をくしゃくしゃにして、力いっぱい抱きしめた。
「あぁー 御使い様、大神官様!! 奇跡を――この子の声を戻してくださってありがとうございます!!」
「これが……奇跡の力……」
司祭は力なくつぶやき、その場に座り込んでしまった。
「あなたがたの教皇には、この罪を背負ってもらいます。
教皇の傷は決して神の力では癒されていないでしょう。
あなたがたがセフィス様の名を語り犯した罪を償いなさい!」
私は、そう言うと、そのまま空にゆっくりと上がり、認識阻害を自分にかけると、いつものマルルカに戻ってレイスとジャイロのところに戻った。
「マルルカ、ありがとな!」
「マルルカ、すごいよ! 前よりもずっときれいな魔法だった!」
ジャイロは私をぎゅっと抱きしめると頭をぐしゃぐしゃしてしてくれる。アル兄様の頭ポンポンを思い出して、あれから全部始まったんだなぁって思ったら、アル兄様に無性に会いたくなってしまった。
アル兄様に助けられて、オルト兄ぃがそばにいてくれた。
初めてのお友だちって言ってくれた――メイちゃん!
そしてなんだかとっても気楽な気分にさせてくれるレイスとジャイロ……
それから・・・・・・
ノージスであったいろんなことをずっと思い返す。
「余は、この国の王、モダニウス・クローネである。
此度のセフィス教が我が国で起こした一連のできごとは、必ずや余が責任をもってセフィス教に問いただそう!
皆の信じるセフィス様がセフィス教であれセフィス真教であれ、皆の信心を決して咎めることはせず、各々の信心を尊重しよう!
だが、セフィス教が我が国の民を騙し、苦しめたことは決して許さない。
皆が心安らかに豊かに暮らせるよう、余はこれ以上にこの国の民のためにつくそう!
それから、もう一つ……
今日、多くの民を救ってくださった御使い様の奇跡の御業に感謝を表し、この日を『女神様降臨の日』とする。
みな、この良き日をこれからも『女神祭』として共に祝おうではないか!
クローネ王国に幸大たらんことを!!」
気が付けば、いつの間にか王様がラケムさんを伴って教会の前に立って、広場に集まった人たちに呼びかけていた。
広場にいた人たちは、一様に驚き、そして静かに王様の声を聞いていた。王様の言葉が終わると、一斉に、「王様、万歳!」「クローネ王国万歳!」歓声を上げ、広場に集まった人たちの喜びが一層大きくなった。
公園の天幕には、昨日と同じくパンとスープ、それにいくつかの料理やワインも準備されていた。
その日、怪我が治った人たちや苦痛が和らいだ人たち、それに大勢の人たちの心からの笑顔があふれていた。
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クローネ王国は、大きな改革に挑むことになった。
セフィス教教皇をはじめとする高職位の司祭は、国中で行われていた教会裁判の施行にかかわっていた。
悪魔にかかわったり魔女と断罪された者たちの名とその裁判の記録は残ってはいたが、詳細を記すものはほとんどなく、当然のことながら、その根拠となる記述もなかった。よって、これらの教会裁判のほとんどは偽証によるもので、正当な裁判といえるものではなく、ただ教会の蓄財のための利用と判断された。これらに大きく加担した貴族らも懲罰の対象となった。
にせものの聖女メイについては、ナザールの教会神父が隣の街ブリドニクばかりが話題になることを妬ましく思っていて、孤児の中から見眼麗しい少女をみつけたことで聖女メイとしてでっち上げることを教会に提案した。聖女の奇跡が起きた街として、ナザールの街の名を高めたかったのだ。そして教会がそれを了承して起きたことだった。
セフィス教教皇と高職位司祭と審問官、ナザールの教会神父は断罪され、命で償うこととなった。また、それに加担した貴族たちも一掃された。
セフィス教教会騎士たちは、クローネ王国兵部隊に吸収されることとなった。
これにより、セフィス教は事実上崩壊した。罪に問われることのなかった司祭や神父は、セフィス教に残り建て直したいという者もれいば、セフィス真教大神官についていきたいと言う者もいた。
「困りましたねぇ…… セフィス真教はセフィス教ほど潤沢な資金があるわけではなく、自給自足ですからねぇ…… それにタミネアは豊かな土地ではありませんから、それほど多くの司祭や神父たちを賄えないのですよ。
みなさんでよく話し合われてはいかがですか?」
大神官は、自分についていきたいと言う司祭たちに困り顔で話した。
無名な神父、低職位の司祭たちは、国中の教会の神父を集めて、話し合いの場を設けることにした。その中にはブリドニクの神父もいたのだった。
【第3章】は、もう少しで終わります。ここまでお付き合いしてくださった方、本当にありがとうございます。もう少し丁寧に一話一話書きたいと思うところがたくさんあるのですが、まずは完結を目指そう! と思っているところです。拙い文章なので、手入れをするところはたくさんありw
【第4章】からは、いよいよ、あの、ハリーとデレク、メザクと対峙するはずです。(たぶん)
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