54 出会い
翌日、早朝、ラケム一行を乗せた馬車はクローネ王宮に到着した。
みんなアメリアさんのことを気にかけていたけど、アメリアさんが一番元気で、馬車の中でずっとはしゃいでいた。
「クローネの国に入ったのね? ねえさんの子どもに会えるのね?
風がタミネアと違うわー」
急がなくても大丈夫というラケムさんの言葉をよそに、「早く、早く」とせっつくアメリアさん。少しは先を急ぎたい旅だったから、アメリアさんが大丈夫なら……ということで、馬を替えて夜通し走って来た。馬車の中は4人で休むには少しきつかったけど、時々体を伸ばしながら、早馬さながらに駆けてきたのだった。
「マルルカー、おかえりぃー!!」
私がラケムさんの後に続いて馬車を下りると、レイスが駆け寄って来た。
「レイス! ただいまぁー 変わったことはなかった? 元気だった?」
レイスの元気そうな顔を見たらなんだかとっても安心した。
この王宮にジャイロに連れてこられてからは、私にとってレイスはやっぱり大事な友だちで一番こころを許せる人なんだ! って思う。
私の後に、クランさん、そしてアメリアさんがクランさんに支えられて降りてきた。
「かあさん!? …… あっ! 違う…… えっと……巫女様・・・・・・」
降りてきたアメリアさんを見ると、レイスは私のことも忘れてしまったかのように、口をぽかんとあけていた。
「えっ? もしかしたら…… レイス…君? 姉さんの子どものレイス君なの?」
レイスの声にアメリアさんが驚いたように、声のするほうに顔を向けた。
「はい、巫女様――アメリア様ですよね? はじめまして…… あの、レイスです」
「レイス君、私を知ってるの? 会いたかった、あなたにずっと会いたかった!
そちらに行ってもいいかしら?」
レイスがちょっと照れくさそうにあいさつすると、アメリアさんはレイスの声のするほうへと手を伸ばした。
「アメリアさん、目が見えないのよ」
私が小声でレイスに言うと、レイスはちょっとびっくりしていたけど、白い布で目隠しをしているアメリアさんのほうに近づいた。そして少し戸惑った様子でアメリアさんの手をそっと握った。
「あぁ、レイス君なのね? 本当にレイス君…… あなたを触ってもいい?」
レイスはこくんとうなずく。…… アメリアさん見えないよって、さっき言ったのにって思ったけど、もう一度それを口にするのも憚られて、アメリアさんの手をレイスの顔にもっていく。
「私より背が高いのね。ウフフ…… 小さいときのあなたしか視たことなかったから不思議な感じ。髪の毛はふわふわしてる……」
アメリアさんは本当にうれしそうにしてレイスの顔を触っていた。
「あの…… おれを視てたんですか?」
「小さいときにね…… 姉さんがときどき視せてくれたの。あなたとメイちゃん、そしておとうさんのデイビッドさんを……
私、とっても嬉しかったの。あなたたちが私たちの、ううん、ねえさんの家族になってくれて…… ずっと会いたかった。
わがままを言ってここまで連れてきてもらってしまった。
いえ…… タミネア王国を巻き込んでしまったのも私のわがままだわね……
みんなに迷惑をかけてしまった」
アメリアさんは、そう言ってうつむくとレイスからも手を離して黙り込んでしまった。
「アメリアさん、レイスは今はずっと王宮にいるから、後でたくさん話をしたらいいですよ。まずは少し体を休めましょう」
ラケムさんは頃合いを見計らったようにして、アメリアさんを王宮の中へと案内していった。
「あぁ、ごめんなさい! 私ったらいつも自分のことばかり……
本当にごめんなさい」
しょんぼりしているアメリアさんをラケムさんもクランさんもやさしく見守っている。
ラケムさんがクランさんとアメリアさんを王宮の中へと案内すると、それと代わるようにして側仕えの人が、2人を奥のほうへと案内していった。
「マルルカ、おかえり! 俺、出番なかったんだけど……
まぁ、少し休めや…… 後で話を聞かせてくれ」
ジャイロの存在感が今までなかったのがすごく不思議だったけど、後ろから顔を出してきた。
レイスとジャイロの顔を見ると、やっと、帰って来たんだぁって実感した。知り合ってそんなに長くないのに、なんだかずっと前から一緒にいたみたいで不思議! でもなんだか二人の顔を見ているととっても安心する。
それから、私は部屋に案内されるとそのまま起こされるまで、少しの時間だったけどぐっすりと眠った。
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いつもの会議の間には、いつものメンバー……じゃなかった。
ザクテル様とクリフト様、それにリーシャさんがいない。
ラケムさんが王様にセフィス真教の大神官様――クランさんを紹介する。アメリアさんにはゆっくりと休んでもらうことにしたらしい。
ラケムさんはタミネアであったことを王様に報告すると、ジャイロがセフィス教や聖女のことを教えてくれた。
まさか、メイちゃんがにせものだったとは思いもしなかった。
「ザクテルには王都の安全を、クリフトには教会の動向、リーシャには捕らえたタミネア兵の聞き取りをそれぞれしてもらっている。
それよりも、まず私は、大神官様に感謝しなければならない。ラケムを通しておしゃっていただいた言葉、肝に銘じております。そしてこうしてあなた様にお会いできたこと――すべては、大神官様のお言葉の導きです」
「クローネ王よ、私は特別なことを申し上げたつもりはございません。いつもみなに言っていること。『自身の内なる神の声を聞け』 セフィス真教の教えでございます」
クローネ王が感慨深げに大神官様の手を取り、お礼の言葉を言っている。私は、すごい人たちの中にいるんじゃないかって思いながらレイスを見る。レイスはなんだかこの偉い人たちの中にいることに慣れっこになっているみたいで、ニコニコと嬉しそうに王様と大神官様の二人を見ていた。
ジャイロが少し遅れてやってきた。
「教会前の広場に人がまた、集まり始めてる。みんな回復した教皇を見たがってる様子だ。
ありゃぁ、教会が聖女と教皇を出さないと、騒ぎ始めるかもな……」
「うむ……
マルルカ、帰って早々で悪いが、ジャイロとレイスと一緒に広場へ行ってくれるか?
私がお願いできる立場ではないが、どうか広場の一件を鎮めてほしい。
後始末は、私が責任を取る」
「クローネ王、私も同行させてください」
大神官様が何かを決心したかのような目で王様を見た。
「いや、それでは…… うむ……わかった。大神官様、ご協力をお願いしたい」
クローネ王も静かにうなずいた。




