53 聖女様のお披露目(3)
「教皇様! 大丈夫ですか?」
「今すぐ、お運びいたしますので、お気を確かに!」
「早く、担架を持ってくるんだー」
教会の前では、白いローブを鮮血に染め、苦痛に満ちた表情の教皇が横たわっていた。それを囲むように司祭・神父、そしてわずかに残った教会騎士が警護をしている。
教会騎士のほとんども負傷していて、教会の中にいる者たちが怪我をした者たちの手当てをしようと動き回っている。奥の慌ただしい様子も外の広場にまで伝わって来た。
担架を持ってきた教会の者が、最初に教皇を乗せて奥へと運んでいく。
「聖女様! 今こそ、奇跡の力をー!!」
「おぉー!! そうだ! 聖女様がいらっしゃるではないか!」
「聖女様、教皇様をお助けください!」
「怪我をしている人たちを治してください!」
広場の人びとは口々に奇跡の力を期待し、いつしかクローネ兵に守られて教会の隅にいた聖女に、一様に熱い視線を送る。
「聖女様、奇跡の力を!」「メイ様、セフィス様に祈りを!」
いつしか、その声が広場全体に広がり、人びとは声を揃えて大きく叫んでいた。
聖女はうつむいたままで、その表情は広場からは見えない。
教皇のそばにいた司祭たちは教皇が中に運ばれていくのを確認すると、そのうちのひとりが前に出てきた。集まっている人たちを見渡してから、両手を上げて鎮まるように合図をする。それを見た人々は声を上げるのをやめて、司祭の言葉を固唾をのんで待った。
「セフィス様の名に集いし者たちよ……
あなたがたの教皇様を想う気持ちは伝わった。
残念ながら、聖女様の奇跡の力は1日に3度しか使えないのだ。奇跡の力を使いたくとも使うことができず、聖女様ご自身が一番歯がゆい思いをされていらっしゃる。
どうか、聖女様のために皆の祈りを届けてほしい」
「とんだ茶番だな……」
ジャイロは独り言のようにつぶやく。
「司祭様、ぜひ、明日、聖女様の御業を皆の前で、もう一度見せていただきたい!
教皇様の負われた傷をぜひ治して差し上げるところを!!」
今度は広場全体に聞こえるように大声で叫んだ。
「そうだ! ぜひ、もう一度、御業を……神の奇跡を!」
「うちの娘の病気もなおしてほしい!」
「俺のかあさんも連れてきているんだ!」
再び、広場は、火が付いたように騒然とした雰囲気となった。
「聖女様の御業は見世物ではない!」 司祭が叫ぶ。
「ならば、元気になられた教皇様が、明日姿を見せてくれたらいい。
なぁ、みんな!
教皇様のお元気な姿を見ることができれば、きっと俺たちにもセフィス様の愛がきっと届く!」
ジャイロは広場にいる人たちを煽る。
広場のあちこちから、ジャイロの言葉に賛同する声が大きく上がっていく。
「聖女様の御業も、我らが教皇様も、見世物ではない!
それに、今日のような襲撃がまた行われないとも限らない。教会騎士の多くが負傷している今、聖女様と教皇様の御身をお守りする術もないのだ。
セフィス様の下に集いし者たちよ、わかってほしい。
我らも一人でも多くの者を癒してやりたいのだ…… だが聖女様の御身を守る術がない」
司祭は教会の隅にいる聖女を見ながら、広場に集まっている人たちに、悲し気に呼びかけた。
その司祭の横に、ひとりの男がクローネ兵に守られてやってきた。
「ならば、その安全は、このクローネ王国の兵が守って差し上げよう。
王国の民が一人でも多く幸せになれるのならば、国としても喜ばしいこと。
ここに集まる民たちもそれを望んでいるのだ。
国が手を貸さない理由はない」
ぎょっとして見る司祭に男は言葉を続ける。
「申し遅れたが、私は クローネ王国宰相クリフトと申す者。
教会の安全は、しばらくはクローネの兵が守るがゆえ、安心するがよい。
聖女様もすっかり怯えてしまわれた様子。早く休ませてはいかがか?」
クリフトがそう言うと、聖女を守っていたクローネ兵がそっと教会奥へといざなった。クリフトはそれを見届けると、集まっている民衆に向かって叫んだ。
「セフィス教会が聖女メイ殿が披露してくれた奇跡の力は、明日もきっと行われるだろう。
教会騎士に代わって王国の兵士がこの教会にいる者たちを守る。
皆も安心して、今日は帰りなさい。
宿のない者も多くいると聞いた。広場横の公園に天幕を張った故、そこで体を休めるがよい。
また、パンとスープを提供しよう。クローネ王の配慮である!」
クリフトの言葉に広場に集まった人たちは、「ありがたい!」「屋根のあるところで休めるとは! 夜はさすがに冷える」「王様ありがとうございます」と、口々に言いながら解散していった。
「教会騎士も動ける者はほとんどいないであろう。負傷した者は早く手当をしてあげなさい。襲撃した者たちはすべてこちらで抑えてある。安心なさい。すべてタミネアの者であった」
「宰相クリフト様、ご配慮感謝いたします。
まさか、このようなことになろうとは……」
司祭は、宰相クリフトにひざまずいて深く頭を下げた。
「礼には及ばぬよ。教会の者たちもクローネ王国の民であることには変わらぬのだから。
王国が守るのが筋……
それよりも、明日、元気な教皇様のお姿が拝見できれば、民も勇気づけられるであろう。
そして、聖女の奇跡の力とやらで1人でも多く苦しんでいる民を助けていただきたいものだ」
「はい、ですが…… 教皇様や聖女様は見世物ではございません」
「今さら何を言う。
そなたらは、教会裁判と称して国のあちこちで、神とやらの断罪を見世物にしてきているではないか。
これまで人のいのちを見世物にしてきたそなたらがやってきたことだ。
これだけ多くの民が王都に集まって来たのだ。今さら、しないとは言えまい?
民も黙っていないだろうよ」
司祭は苦渋に満ちた表情をしていたが、クリフトはそれを見ることなく、司祭の言葉を待つこともなく、その場を後にした。




