52 聖女様のお披露目(2)
「こりゃぁ、本物のメイよりずっと聖女に見えるな…… いい役者を連れてきたもんだ」
レイスとジャイロから少し離れたところから見ていたシェルドンはひとりつぶやく。
「セフィスの名に集いし子らよ。
聖女様――メイ様の奇跡の力を特別にお見せしようぞ。
強く祈りを捧げる者、セフィス様を信じる者には、必ず神の奇跡が届けられる!」
教皇がそう言うと、教会の前に、司祭たちに連れられて、3人――寝たきりのようで歩けない者、目の見えない様子の者、片足を引きずりながら歩いてくる者――が現れた。
「ジャイロ! あの人たち、3人とも濁って視える!! あれ、みんなうそだよ!
聖女様の奇跡の力を視る必要もないよ!」
レイスが小声でジャイロに伝えた。
「そうなのか? …… まぁ、教会の茶番を余興として見てみようぜ。
レイス、聖女に神の力があるかはちゃんと視ろよ!
タミネアの者も、この間は動かないだろうよ。奇跡を目にすることができるんだからな」
ジャイロは視線を教会の前に向けたままレイスのほうを振り向かずに話す。レイスも教会の前で行われるであろう奇跡を視ることに専念することにした。
(メイのにせものなんか、許さない!)
メイと呼ばれた聖女は、教皇の前に来るとひざまずき祈りを捧げた。それから集まって来た人たちに向かって静かに祈りを捧げる。
それを見ている人たちは「聖女様ぁー メイ様ぁー」と口々に声を出すと、大きなざわめきとなる。
「みな、静粛に! 聖女様の祈りを静かにその身に受けるがよい!
セフィス様からの祝福である!!」
最初に出てきた司祭が高々に声を上げ叫ぶ。
レイスは、聖女の動きを一瞬も見落とすことがないようにじっと聖女だけを見ていた。
聖女は、最初の寝たきりの男の前に来ると、両手で金色の錫杖を高く上げた。陽の光を受けた錫杖が一層輝く。それから男の前にひざまずき静かに錫杖を持って祈りを捧げた。
しばらくして・・・・・・
「おぉー 力が…… 足に力が戻ってくる! セフィス様ぁー!!」
横たわっていた男はそう言うと、つらそうに体を起こし、ゆっくりと両足を曲げていく。そばにいる神父に手を貸してくれるように頼んでいるようで、神父が男に近づくと男の体を支えるようにして立たせた。
「セフィス様! 私にもう一度…… 力をぉー!!」
男が叫ぶと、一歩、そしてまた一歩と支えてもらいながら歩き始めた。それから神父の支えを断ると、自分の足で立って見せた。
広場に集まった人々を見渡すようにしてから、今度は自分の足で、歩みを進めて見せたのだった。
おぉぉおおー!!
「奇跡が起きた!」 「セフィス様ぁー!」「聖女様! メイ様ぁー」
今、目の前で起きた奇跡に、広場は大きなどよめきの中にあった。
「ぜんぜん、視えない…… 魔力は全然視えない。
あれは、やっぱりうそっぱちだよ!!」
レイスがぼそっとつぶやく。
その次は、目がまったく見えていない様子の女性だった。用意された椅子にうつむいたまま座っている女性の前に聖女はゆっくりと歩んでいく。
聖女は最初の時と同じように祈りを捧げると、女性の顔にそっと手をあてて顔を上げるようにうながした。顔を上げた女性は目を開けているものの、その視線は定まらず虚ろな表情をしていた。聖女が女性の目の上に手をかざす。
「あぁー 光が! 金色の光が……見える!
…… …… 聖女様! あなたが聖女様なのですね?
見える! 見えるわ!! 最初に見たのが聖女様とは、私はなんと幸せなのでしょう!」
女性はそういうと聖女様をじっと見つめた。それから立ち上がると広場を見渡すようにあちこちに視線を移していく。
「セフィス様 私に美しい世界をみせていただいたこと感謝いたします」
広場の人びとは息を飲むように静かで声を出す者は誰もおらず、目の前で繰り広げられた奇跡に見入っていた。
最後は左足に大きい傷を負った男性だった。用意された椅子に座っている。
「農作業をしているときにあやまって鎌で切ってしまったんだよ。それからは足が痛くて、まともに歩けやしない。聖女様、俺の足の傷もなおりますか? 痛みもなくなりますか?」
聖女が目の前に来ると、男は必死に訴えた。
ズボンを上げて見せた男の足には、遠くからでもわかる大きな赤い傷跡が残っていた。
聖女はこれまでと同じように祈ると、持っていた錫杖で男の傷跡をゆっくりと撫でていった。
男の傷跡は、撫でた先から、傷跡がきれいに消えていった。
「おぉお、なんてこったぁ! 傷が消えていく…… 痛みが消えていく!
セフィス様ぁー!!」
男はそう叫ぶと、ゆっくりと歩き、それから飛び跳ねて見せた。
「痛くない! 痛くないぞぉー 普通に歩ける!! 聖女様! 感謝いたします」
誰もが、今、目の前で繰り広げられた3つの奇跡に見入っていた。
聖女が静かに教会の中央まで進み出たその時、
「「曲者だぁー!」」
おぉおおーっ!!!!!
教会の左右後方から、教会騎士の叫び声と共に、激しく争う音が聞こえた。
教会の両側に控えて警備していた教会騎士たちも援護に向かう。
教会の後ろに気を取られているその隙に、今度は教会正面の階段を守っていた教会騎士たちが、タミネアの襲撃を受けた。
3方向から襲撃を受けていたその場には、クローネ兵も人びとの間を縫って駆けつけて、襲撃者を教会騎士と共に捕獲していく。それぞれの襲撃の規模は大きくなく、それぞれ20人ほどのタミネアの兵だった。
と、その瞬間、数人のタミネア兵が、教会の前方の階段を駆け上がっ入った。教皇と聖女を守る教会騎士は4、5名程度で、教会の中へ逃げる間もなく、タミネア兵の襲撃を受けた。
教会騎士とタミネア兵の力の差は大きく、あっという間に、教会騎士はタミネア兵に討ち取られていく。
ギャァア―ッ!
教皇がひとりのタミネア兵に切られた。
それに気を取られている間、別のタミネア兵が聖女を捕まえ抱えあげてその場を去ろうとしたとき、左右後方と前方からやってきたクローネ精鋭に完全に囲まれていた。
気づけば大教会と広場は、クローネ兵によって完全に囲まれていた。迅速なクローネ兵の動きは、広場に集まっていた人たちを混乱に陥らせることなく、彼らの身をしっかりと守っていた。人びとは一連の騒動をただ見せられていた観客となっていた。
「さてと……第2幕の幕開けだ」
ジャイロはニヤリと笑った。
100話めです! ここまで書き続けられるとは思っていませんでした。私的には感無量です……
読んでくださった方に感謝です。ありがとうございます。




