プロローグ
「マルルカ、 奴を一瞬でいいから止めてくれ! できるか?」
ハリーは、対峙している魔王を真正面から睨みつけて、一瞬も目を離すことなく、後衛のあたしにで聞いてきた。
ハリーの声には怒気と疲労が入り混じっている。
(もう魔力がない。チェーン(鎖)なら発動できるけど、後ろからじゃ弾かれる……
近くで発動するしかない。これで決めなくちゃ!)
「わかった・・・・・・ あたしが前に飛び出したら、それが合図!」
あたしがハリーの背中に向かって答える。
「よし! デレク、これで決めるぞぉー 」
ハリーは自分の右側で隙なく剣を構えているデレクに向かって、声をかけた。
「おぉよぉ~ ハリー! まだいけるぜぇぇ!」
ハリーの呼びかけに、デレクは魔王にも聞こえるくらいに大きい声で応えてみせた。
ハリーとデレクは最後の勝負に出るつもりなんだ! ってわかった。
(これで決めよう! 魔王に吹っ飛ばされたって、ぜったいに魔王の動きを止めて見せる!)
両手で握っている杖をもう一度握りなおして、最後の覚悟を決めた。
魔王城王の間で、剣神と呼ばれるハリー、剣王デレク、そして賢者マルルカの3人が最後の戦いを繰り広げていた。
どす黒い2本の大きな角と暗く濁った光をもつ赤い瞳の魔王は、天井に届くほど大きく、その威圧感は今まで戦ってきた魔物や魔人たちとは比べものにならない。真正面で対峙していると足がすくみそうになる。
ハリーとデレクと一緒に魔王を討つため、あたしが師匠メザク様の元を離れたのは1年前。2人がメザク様に魔王討伐の同行を依頼してきたのが始まりだった。
そのときから2人とも「当代至高の強さ」、「ハリーとデレクに勝るものは互いのみ」と言われていたが、さらなる高みを目指すために、2人で魔王を討つ! と決めたのだという。
魔王は数十年おきに魔王城に現れる。
魔王が現れると、世界中の魔物の数が増えて数段強くなり、あちこちで魔物による被害が増えてしまう。そのまま時がたってしまうと、場所によっては魔物のスタンピードが発生し、街ごと破壊されてしまい、最悪、国が滅んでしまうのだという。
だから魔王が現れたら、絶対倒さなければならない!
通常は、魔法と武闘力の精鋭揃いの部隊を編成して魔王討伐に向かう。討伐を指示した国からは討伐のための準備費用が賄われ、魔王を倒せば莫大な報奨金が出る。
しかし、2人は、「討伐隊を編成すれば、一番討伐成果を出せるはずの自分たちの取り分が極端に少なくなるのは割に合わない」と考えた。
そこで、当代一の賢者と言われるメザク様がを訪ねた。もし、メザク様が自分たちの後方支援をしてくれたら、3人で討伐できると言ってきたのだ。
メザク様は、はじめは「めんどくさい」と言って討伐同行を断ったけど、それでも引かない2人に根負けして、「弟子のマルルカを連れていけ」と言った。
ハリーとデレクは、あたしを初めて見たとき、口も聞けない様子だった。2人の前に連れてこられたあたしは、6歳児くらいの子どもにしか見えず、髪の毛すら満足に生えていない。そのうえ、体中にぶつぶつとあばたができていて、醜い魔物のようだったから。
「見た目はこうだが、こいつは魔力の化け物だ。
これでも13歳。後2年もしたら成人するぞ。こいつが足手まといだと思ったら、そこらへんに捨てるかしてくれたらいいさ。別にわしに金はいらん」
メザク様が、まるで不用品を押し付けるかのようにして、2人の前にあたしを押し出すと、その後は、まるっきり興味を失くしたようで、そそくさと奥の部屋へと入ったっきり姿を現さなかった。
それから約1年。ハリーとデレクと一緒に、増えてきて人に害をなす魔物たちを倒しながら、やっとここまできた。
荘厳な雰囲気の広い王の謁見の間には、あたしたち3人と魔王しかいない。
謁見の間には、窓もなく外の様子を知る由もない。
この部屋の扉を開けてから、戦いの始まりをハリーが叫んでからも、魔王は一言も発することなく、ニタニタするだけで、ただ3人の前に立ちはだかっていた。
魔王というだけに、攻撃魔法の威力が半端ない。魔王から繰り出される攻撃魔法を相殺するように、マルルカも魔法をずっと発動し続けていた。もちろん、ハリーとデレクの支援も欠かせないし、隙を見ては攻撃魔法を繰り出す。魔力タンクと言われるマルルカでさえ、さすがに魔力が目に見えて減っているのがわかる。
魔王と向き合い、激しい戦いをいつからしていたのか、どれくらいの時間が過ぎたのか、3人とも既に意識することすらできなかった。
目の前にいる禍々しい魔気を放ちまとっている魔王を、ただ自分たちが倒せることだけを信じて・・・・・・
延々と死闘を繰り広げてきた。
ハリーもデレクもとうに限界を超えている。並外れた魔力量を持つ賢者マルルカも、すでに魔力が尽きかけていた。
魔王も魔力が減ってきているのか魔力を温存しているようだ。攻撃魔法を使わずに、物理攻撃になってきた。これが本当に最後のチャンスかもしれない。
(あたしが魔法を使えるのはこれが最後・・・・・・)
「今だ! いけぇぇぇぇぇー!!!!!!」
ハリーの叫びとともに、後衛のマルルカが魔王に向かって飛び出した。
最後の魔法を行使する。
「ライト・チェーン 【拘束】!」
マルルカの杖から線上の光の鎖が魔王に伸びていき、その体をとらえて縛り上げる。
(やった・・・・・・)
同時に、ハリーとデレクが魔王に向かって左右から切り込むために飛び込んでいく。
「とどめだぁー ルクスクロス!!!」
ハリーとデレクの2人の聖剣の軌跡が光の十字架を作り、一瞬動きをライト・チェーンで拘束され解除される直前、魔王に見事に切り込み、その首を切り落とした。
「ウオォォォォ!!!」
魔王の最初で最後の絶叫を最後に、その体は霧散していった。
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「ライト・チェーン 【拘束】!」
魔法を発動させると同時に、あたしはその場に倒れた。
【拘束】が失敗したら、ハリーとデレクが倒しきれなかったら、あたしたちは死ぬ。
これが今の精いっぱいの魔法だった。
わずかに残っていた最後の魔力を発動した魔法だったから、立っていることすらできなかった。辛うじて意識を保っていることができた状態だった。
魔王の絶叫が聞こえ、この空間に漂っていた禍々しい魔気は消えていた。
(やっつけた・・・・・・終わった・・・・・・)
ずっと張りつめていた気持ちが緩み、安心感で心がいっぱいになったまま、あたしは意識を無くした。
仕事の合間に書き進めていくので不定期更新ですが、完結目標にがんばります!
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