転移、そして適応
高3の秋、ちょうど推薦選考会議を開かれる前日の下校中。
私は推薦を申し込んでいたから、すごく上の空で自転車をこいでいた。
だからだろう、なんか周りが明るいな~と思っていたその光が、だんだんと意思を持つように強く明るくなっている事に、眩しくて目が開けられなくなるまで気が付かなかった。
そうして目を開けたら、全く知らない場所で、全く知らない人々に囲まれ視線を向けられていた。
(異世界転生……いや、この場合は転移っていうんだったっけ?)
そんなことを考えるほどに現実だとおもえなかった。
周りには数人の制服を着た学生。
私と同じ場所にいたはずの彼らも、同じように転移してきたのだろう。
ぼーっとそんなことを考えている私を置いてけぼりにするように、物事は津波のように怒濤の勢いで進んだ。
《ステータス》を鑑定され、そこで三人がどこかへと連れていかれた。
次に《スキル》を鑑定され、さらに二人が連れていかれた。
そうして残ったのは、私を含めて三人だった。
それなりに良さそうな部屋を与えられ、特にすることもなく数日がたった。
その内に、連れていかれたあの五人は魔王に対抗するために呼び出された事、召喚魔法は範囲内に入っていれば飛ばされてきてしまう事などを知った。
つまり、私と他二人は、完全に巻き込まれただけ。
勇者(予定)ご一行に。
(まあ、特にすることもなく文字通り『生かされている』だけみたいな感じだからな……まあ、図書館とかに自由に出入りできるのは救いかな。)
町には出してくれないが。
さて、私がこの図書館に入り浸っている間、他二人は何とか勇者一行(笑)についていけるように、頼み込んで何とか《ジョブ》と呼ばれる職に就いていたらしい。
一人は《騎士》、もう一人は《弓兵》。
勇者一行(笑)は確か《勇者》、《修道士》、《占星術士》、《戦士》、《槍兵》の五人が転移者、そこへ《魔術師》、《呪術士》。
被らないようにしたのだろうか……なんか、大所帯過ぎないだろうか。
良く考えてみてほしい、5人+2人+2人は?
答えは9人。多。
それはそうと、他二人は努力して勇者一行(笑)についていったのになんだコイツは……、という目で見られていた私は、ついに森の中へ捨てられてしまったのである。
……まあ正直、噂でおもいっきり聞いてたからいつ捨てられるのか知ってた。
だから時空間魔法で空き部屋にあった使ってなさそうなベッドとか机とかをコッソリ少しずつ拝借させてもらっていたのだ。
時空間魔法はなんとなくアイテムボックスとか異世界だからあるかなーくらいのノリでできた。
ちなみにアイテムボックスとは別物で←
時空間魔法は自分の作った空間に物をいれたりできる魔法。
アイテムボックスは物が入れられる道具などに付与されるスキル。
ともかく数日の間の睡眠はそこですることにした。
果物の生る木も多くて食事も不自由がなかった。
で、森をさ迷ってたら見つけた、それなりに大きめの古屋を勝手に使わせてもらうことにした。
そうこうしながら(出来もしない)料理にチャレンジしたり、(そこそこ出来ると後に分かった)裁縫をしてみたり、(センスはそれなりにある)日曜大工的な事をしている内に、気が付けば《錬金術師》を獲得していた。
生活で魔法も使っていたからか、《魔術師》も獲得。
半年後、森を抜けて町に行った時に街角で見た人形劇を見て、(人形を魔法で動かして家事手伝ってもらえたら最高じゃん)と思って作ってたらなんか成功(?)して《人形使い(パペッター)》と《死霊術士》を獲得。
……もう何がなんだか。
そして一年後に、《魔女》を獲得した。
それと共に、新たなスキル《不老》もなぜか獲得した。
どうやら《魔女》になると、その時点で《不老》……つまりそこから年を取らなくなるらしい。
それを知ったのは《魔女》になって初めての《魔女集会》。
《魔女集会》にはもちろんだが《魔女》のみが招待される。
場所はそこそこ遠かったが、皆の持ち寄ったお土産のお菓子やケーキやお茶がとても美味しかったし、面白い話もたくさん聞けた。
何より魔女友達が出来たのが嬉しい。
ルンルン気分で帰途についてしばらくすると、夜だというのに明るく光る場所が見えた。
帰途からは外れてしまうが、どうせならなんなのか知りたい。
そちらへ進路を変えてしばらく飛ぶと、それはとても大きな街……というか、中心辺りに大きくて立派なお城が見えるので、城下町か。それが見えた。
(ふおぉ……すごい、こんなに大きい街があるんだ……全然知らなかった。)
私は自分の家のある森と、その森を抜けた小さな町しか知らなかった。
(そこそこ遠いけど、今度は明るい時間にでも着てみようかな。)
考えながら、城下町の人の気の無さそうな裏道に降り立つ。
外套のフードを深くかぶり、裏道から大通りのほうへ歩く。
(す、す、すごい、夜なのにこんなに活気があるなんて……!)
石畳の道の両側には隙間なく店が並び、出店もかなりの数がいる。
まるで夏祭りのように賑わう夜の城下町に、思わずワクワクしてきた。
(本屋とか無いかな……あっ、あのサンドイッチ美味しそう……。)
『あの、サンドイッチを一つ……』
「あいよっ!3フランだよ!」
『……これで。』
「ちょうど!まいどありー!」
思わずサンドイッチを買ってしまった が、良く考えたら先ほどまで魔女集会でお菓子やらケーキやら食べてたのでお腹はすいてない。
……というか、そもそも《魔女》になった時点で食べなくても生きていけるのだ。
それなのに思わず……。
(まあいいや、空間にでも入れとこう。それよりも本屋とか無いのかな?)
やっとの事で見つけたのは、古本屋。
まあ、新しい本より古本屋の方が安いだろうし、何より面白い本が見つかるかもしれない。
店内は静かめで、店主はカウンターにこそ居るものの、横を向いてなにやら新聞を読んでいるようだ。
(うんうん、雰囲気があって素敵。変にうるさいよりよっぽどいい。)
早速本棚を眺めてみる。
(えーっと…………!!あれって魔術に関する本!あっちも!……あー、下巻だけかぁ……上巻とか無いかな……って待って待って!錬金術の本!ちょっと古めなのがまたいい!上巻と……あっ中巻!……下巻は……あっ、こっちの棚に!)
『……これ下さい。』
「ん?……ああ。5冊なら20フランだ。」
『……これで。』
「はいちょうど。」
ぶっきらぼうでちらっとしか本へ目をくれなかった。
まあ、魔術の本とかばっかだし、まじまじと見られるよりはいいんだけどね。
5冊の本を抱えて、店をでる。
人の気のない裏道に入り、5冊の本を空間にドサドサ入れる。
(……あ、このまま空間を繋いで帰っちゃおうか)
その時、くいっと後ろから外套を引っ張られた。
振り向くと、そこには痩せた子供が立っていた。
ボロボロの服を着て、髪も汚れてボサボサの痩せ細った子供。
(口減らしに捨てられたってとこかな……この様子だと。この大きな街なら捨て子でも頑張れば盗んだりして何とかなるだろって事かね。)
『……何か、用?』
「……そ、ら……とんで、た。」
『!』
(空を飛んでるところを見られてた?……ってことは、ずっとついてきてたってこと?……え、なんで??なんでわざわざ??)
「ま、まじょ、さま、たすけて、たすけて、おねが、いしま、す。」
つっかえつっかえそう言う子供は、うまく言葉が喋れないのだろうか。
しかし、魔女だと分かってるのに「助けて」とは何事か。
『……確かに魔女だけど、何故?魔女に助けを求めるなんて君はお馬鹿だな。言葉もうまく喋れないようだし、当然か。』
「お、ねがい……しま、す。」
そういえば、人間を飼うのがちょっと前から流行ってるって聞いたな、魔女集会で。
……私も新米だけど、やってみるか。
『……魔法の実験台で体をバラバラにされるかもしれないし、薬の実験でものすごく苦しんで死ぬかもしない。魔女に助けてなんて言ってるけど、たとえ今日は助けてもらえても、明日には魔女の手で殺されるかもしれないよ?魔女ってのは気まぐれだし、それでもいいんならまぁ……いいけど。』
「!い、いの?たすけ、もらえ、る?」
『……本当に馬鹿だな。助けじゃないよ、君は今日から魔女の実験台になるんだから。』
空間を通って家の前まで来る。
『……本当に、ついてきたな。』
「ま、まじょ、さま、やさ、しい。」
『……君、まず臭いから体を洗わんと。』
とりあえず洗浄魔法で髪も体も綺麗にする。
「!え……」
『洗浄魔法。……体を綺麗にする魔法。あの臭くて汚ないまんま家になんていれるわけ無いでしょ。』
「ま、まほー!」
『……てか君、金髪だったんだな。貴族の混血か?』
「き?」
『……文字は読め……ないよな。言葉も話せんようだし……。つか、服、どうしよう。』
ぐぅーーーーーーーーー……
『……あー、お腹すいたのか。』
「……う、うん、おなか、す、いた。」
『じゃあ……これ、サンドイッチ。買ったは良いけどお腹すいてないし、君が食べな。』
「い、の?あり、がと、ございま、す」
『ハイハイ。……服……小さめのあったかな……。』
結果として、白い肩無しワンピースタイプのネグリジェ(持ってきたやつに混じってた)の裾を少し切ってから丈をまつり、切り取った裾を更に2つに切って肩紐として縫い付けた物をしばらくは着せることにした。
『これ着な。』
「は、はい、わかりま、した。」
『……うん、しばらくはそれかな、君の服。』
「あ、あり、がと、ございま、す。」
『ありがと「う」ね。』
「あり、がと、う、ございま、す?」
『そう。じゃあ今日はもう寝な。』
「ねる?」
『……あー、このソファで寝な。毛布はこれ。』
「う、ん。」
『で、目をつぶって…………うわもう寝た。』
まあ無理もないか、捨てられてから寝たり出来てないだろうし。
『……さて、本でも読むか。』
まずは錬金術の本から。
黙々と読み進める。
知らない錬金術もあってとても楽しい。
あとでやってみようかな……
「ま、まじょ、さま。」
『……ん?あれ、もう起きたの。』
「あ、さで、す。」
『…………まじ?まじだわ……。朝ごはん無いや、ちょっと外行こうか。』
(そういえばこの子、あまりにもつっかえつっかえ過ぎるな。
おどおどしてる訳じゃないし……)
モグモグと森で採ったリンゴを食べる子供を見る。
ふと、その様子に引っ掛かった。
(飲み込むとき……なんか飲み込みずらそにしてるけど、ちゃんと噛んでるよね?)
すると、子供は突然むせて飲み込み途中のリンゴを吐き出した。
『……ちゃんと噛んでるよな、じゃあ何故……!おい、君、ちょっと喉見せてみろ。』
バッと子供の喉を見ると、やはりというか、変な凹凸があった。
『……喉の変形か。なるほど、道理で発音がうまくいかないのか。』
それから一ヶ月後。
『よし、これを飲んでみろ。多少痛いだろうが、喉の変形が治るはずだ。』
「の、む?」
『ああ。喋るのがうまくなるぞ。多少痛いだろうがな。』
「い、たい?」
『……やはり痛いのは嫌か……』
「へ、き。」
被せぎみに平気だと答えた子供は、薬をゴクリと飲み込む。
「?!ゲホッ!ゲホゲホッ!!」
むせ出して苦しそうに喉を押さえて床にうずくまった。
「ハッ……ハアッ……ハアッ、ッ……」
『大丈夫か?』
「だっ……ゲホッ……だいじょぶ、です…………!!」
『!治った!君、何か喋ってみろ。』
「あ、ありがとうございます、魔女さま!のど、のどがずっといたかったのに、いたくなくなりました!」
『……そうだったのか?薬のじゃなく?』
「はい、魔女さまにたすけていただくまえからずっとのどがいたくて……うまくしゃべれず、おとうさまにもおかあさまにもあきれられてしまって……あげくたべるのもヘタだったのでおおきくもなれず、やくたたずだとすてられてしまいまして!ほんとうにありがとうございます魔女さま!!」
『……君、結構グイグイくるな……そんなんじゃなかっただろ……』
「いままではのどのいたみでしゃべろうにもできず……魔女さまのおかげです!」
『そ、そうか……』
「これからは魔女さまとたくさんしゃべることができますね!うれしいです!!」
数年後。
「魔女様、薬を売ってきました!これ、市長から魔女様にお礼だそうです!!」
『ただいまは?』
「ただいまです!」
『はいお帰り。……ん?これは珍しい……』
「卵のようですけど……大きいですよね。」
『これはドラゴンのタマゴだよ。』
「ど、ドラゴン?!」
『売ればかなりの値の筈なのに……これは受け取れないよ、返しておいで。』
「え?で、でも……」
『売って町のために使うように言っといで。こんなに高価なものは受け取れない。』
「でもあの、この辺では大金で買い取ってくれるような所は無いから、ぜひ魔女様にって言ってたんですけど……。」
……………。
……………………。
『確かに。そういえばそうだな。』
「はい、なので魔女様に有効利用してもらった方が良いって言ってました。」