ことわりつむぎ
私が生まれたとき、「この子はことわりつむぎの素質がある」と言われたそうだ。
いまいち自覚がないまま高校生になっちゃった。
けれど、今日、古典の時間に口語をすらすら読んでいたら、居眠りしていた生徒がうわっ!と叫んで飛び起きた。
「なんだなんだ?」
その生徒が言うには、古典の物語の世界観がリアルに目前に迫ってきたんだそうで、みんな、なんのこっちゃ?と首をひねっていた。
あー、次、外で体育だーかったるい。
「風よ吹け!雨よ降れ!」
なんの気なしに唱えると空が途端にかき曇った。
ぽつ、ぽつ、ザアー。
「今日の体育、体育館で男子と合同だって」
え?ほんと?嬉しい。大好きな高橋くんが間近で見れる。
「ちょっと待て。外山莉子」
誰かが私を呼び止めた。
「あんたの言魂が世界を変える」
「?なんのこっちゃ」
「理不尽な予言をなかったことにして、世紀末を乗り越え、幾多の困難をくぐり抜けてはるか未来を目指せ!」
はいはい。わかったからさよなら。私、忙しいの。
無視してすたすた歩み去る。なんか、あの手の人、多いんだ。
その後の人生で大恐慌をなかったことにしたり、パンデミックを収束させたりいろいろあるんだけど、今の私は、「高橋くん(はあと)」で胸がいっぱいだった。