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死鏡

作者: 北田くま

「死鏡って知ってる?」


 恋人である彼女が急にそんなことを口走った。


「は?」


「その鏡見ると必ず死ぬんだって。ばかみたいでしょ?」


そんな馬鹿な話があるわけがない。僕は笑った。


「でもね、本当にあるんだって。死鏡っていうのは死んだ人の霊が乗り移っちゃった鏡のことなんだって」


「じゃあ、自分が持ってる鏡が急に死鏡になってしまう可能性もあるわけか?」


「そう。死鏡にはその人の霊が映るんだって。もし死鏡に会っても霊と目をあわせちゃダメ。命を奪われちゃうから」


面白いでしょ、と彼女は目を輝かせた。


単なる噂話。なんとも馬鹿らしいと思った。


 僕はその数ヶ月後、彼女に別れを告げる。別にオカルト好きな趣味が嫌になったわけじゃない。


ただ僕も若さ有り余る男の一人として、一人の女ではもの足りなくなったのだ。


 新しい恋人を作ると彼女は嫉妬に狂いヒステリーを起こしたので、邪魔になった。


ただそれだけだ。


 別れを告げたその翌日、彼女は自殺した。


 彼女の死から一年がたった。


僕は新しい恋人と幸せな日々を送っている。


 ちょうど彼女の一周忌の日だ。


「死鏡って知ってる?」


新しい恋人がそんなことを口走った。


「は?」


「その鏡を見たひとは必ず死ぬんだって。ばかみたいでしょ」


僕は一瞬、背筋がゾクッとする。


「馬鹿らしい。そんな話あるわけないよ」


「でもね、本当にあるのよ。死鏡はね、未練があって死んだ人の霊がとりつくんだって。死んだ日から一年たったら、死鏡になって恨みのある人間を迎えに来るの」


果たして本当だろうか。嘘だと自分に言い聞かせながらも、何故か悪寒がした。


仮にその話が本当ならば、彼女は確実に僕を迎えにくるだろう。死への恐怖に震えながら、僕は家に帰った。


 鏡を見てはいけないと思った。部屋にある全ての鏡を封印する。


とりあえず、これで鏡を見ることはなくなった。


まだ安心は出来ないだろうが、ひとまずは……


 気持ちを落ち着かせるために入浴しようと風呂を焚いた。


浴槽に湯をため、入ろうとした時だ。


浴槽の水面には自分の影がハッキリと反射しその横には彼女が映っていた。


そして彼女は、笑った。

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