1:変わらない日常から
1:変わらない日常から
「高校2年生の夏休みはとても重要だ」
ああそうですか。
「この夏休みで人生が変わると言っても過言ではない」
そんな大袈裟な。
「えー、今から進路希望のプリントを配ります。皆さんはこれを夏休み明けに持ってきてください」
と、前から回ってきたプリント。そこには、第1志望大学・学科・何故選んだのかなど事細かく進路に関するものが書いてあった。
「はあ……」
ため息をつきながらプリントをバックの中にしまう。ふとクラスを見渡してみると今書いてる人もいる。
…どうしてそんなにすぐ書けるんだろう。きっと夢があって、なりたい自分が居るからなんだろうな。
私には夢も無ければ行きたい大学も無い。希望もない。ただ同じ退屈でつまらない毎日を繰り返しているだけ。
「では有意義な夏休みを過ごしてください。」
やっと先生の話が終わった。聞いているフリをするのは眠くなってくるものだ。
─キーンコーンカーンコーン──
「起立、さようならー」
「さようならー」
日直の挨拶が終わると同時に一気に教室が賑やかになる。そりゃそうだ。明日から夏休みなんだもの。私にとっての暇で暇でしかたのない夏休みが。
「春奈〜!」
「うん?なに〜?」
「春奈ごめん!私今日、生徒会の仕事入っててさ…一緒に帰れない…!ほんとにごめん…」
「…全然大丈夫だよ!しかもそれ謝ることじゃないよ!生徒会頑張ってね!」
「ありがとう〜!!」
と、親友の綾乃は足早に教室を去っていった。羽田綾乃は私と同じ中学でその時からずっと仲が良い。中学の時も生徒会に入っていてすごくリーダーシップのある自慢の親友だ。
…さて1人で帰るとするか…。
靴を履き学校をあとにする。
この町はとても田舎だ。ド田舎だ。ゲーセンターもなければファストフード店もない。あるのはコンビニと本屋ぐらいだ。あぁ、あと自動販売機も。道路は砂利で周り永遠に田んぼ。服などを買う店ももちろん無いから電車で40分ぐらいかけて行く。
…高校生ってもっと楽しいものじゃなかったっけ?あーもう東京の人はいいよなあ。そこら辺にゲーセンとか美味しいもの食べられるお店が沢山あって…。
まあ、こんなド田舎に人が好んで住むわけでもなくて。この町は小・中が同じ校舎になっている。高校は別になっているけど同じようなもの。この町の中学生ほとんどは他の市や町の高校には行かない。だからみんな受験勉強というものを本気ではしない。中学3年生の偏差値が高校1年生の偏差値になるようなもの。だから勉強しなくてもこの町の高校にはすんなり入れる。…それにしても暑い。物凄く暑い。今は8月半ば。元気な太陽の光が容赦なく私を照りつけてくる。
「あそこのコンビニ入るかあ」
あのコンビニはこの町の唯一無二の存在だ。
そこでアイスを買って食べながら帰ろう。そんなことを毎日繰り返している。
そう、これが私の変わらない日常。
いつもどうり帰ってアイス食べて家でごろごろする。ずっと変わらないって思ってた。
─ビュッ──
突然の強風。
風が吹いたのと同じ方向に目を向けたのはほんの偶然だった。
目を向けた先には見知らぬ男の子が私を見据えて立っていた。