百合な私の百合な話
2つともきっかけは些細な事だった。興奮した事と一目惚れだ。まあ私はガサツな女だしその辺は客観的に見れば違和感がないのかもしれない。
「男ってこういうの好きだよなぁ、レズなんか見てどうすんだよ。」
「いやいや、女だって男と男が絡んでるの好きだろ。俺は好きじゃないけど」
幼馴染の橘健斗の部屋で女と女が絡む漫画を見つけた。それをパラパラとめくりあるページで手が止まった。そのページはお互い身体を重ねあっているシーンだった。
「男ってこれで興奮すんのかよ」
興奮したのは私の方だった。
それ以来私は男より女の方に興味を持ってしまった。説明しなくてもわかると思うが私は女だ。女が女に興味を持っていいのだろうかと考えもしたがどうにも百合とジャンル分けされる漫画に興奮を覚える。別に誰かに迷惑かけてる訳でもないしいいかと考えをやめた。その時は深く考えなかった。
私、府中美浜という女はそんな人間だ。
そしてある時私が放課後、帰るため廊下を歩いていた。結構薄暗くて場所によっては外から入る薄い明かりが頼りな所もある。そんな時前から誰かが来ていることに気づいた。身長は低めで恐らく女子だろう。向こうも私に気づいたみたいでお互い歩きながら避けようとし、右に避けた。しかし向こうも私から見て右に避けた。だから今度は左に避けた、すると向こうも私から見て左に避けた。そんな事を1〜2回繰り返して結果私がギリギリで立ち止まった。しかし向こうは勢いがあったのか止まれず、わわわと言いながらそのまま私に突っ込んできた。多分私も止まらなければ身長的に向こうが仰向けに倒れていただろう。しかし私は立ち止まったため向こうの勢いを受け止める形になり私が後ろに倒れた。向こうも私に向かって倒れ込んだ。こっちが押し倒して怪我させるよりマシかと思ったその時にキスをされた。正確には向こうの口が私の下唇に当たった。だからキスというには・・・違うのだろうか。髪からはシャンプーの香りが私の鼻腔をくすぐる。それに軽い。
向こうはそんなことより私の心配をしてきた。
「ご、ごめんなさい!お怪我はありませんか!?」
「あ、ああ」
上体を起こすとそこにはミディアムヘアーの女子がいた。窓からさす薄い光の演出もあったのか私は一目惚れをした。いや、キスをされたからか?そもそも私がレズだからなのか。しばらく目が離せなかった。
「えっと、つまり美浜は百合属性があるのか」
「な、なんだよその百合属性って」
「レズなのかって事」
「・・・わかんねぇ」
どうもあれからあの女子の事が頭から離れない。学校にいるとキョロキョロと見回してしまう。名前は巳城奈々乃子。1年生らしい。小柄で可愛い。ああ、抱きしめたい。よしよしして喜ばせたい。
「美浜、本当に・・・百合なのか?」
いつになく健斗が真面目な顔をしている。普段はノリが良くて6〜7割笑ってる顔のやつなのに。それくらい真剣に私の話を聞いてくれているという事だろう。でも私は・・・よく分からなかった。
「だからわかんねぇ・・・ただその女子が好きなんだ」
「そうか・・・」
健斗が明らかに落ち込んでいる。やはり友達に変な性癖を持ってるやつがいるなんて嫌だよな・・・。やっぱり変なのか・・・女が女を好きって事。でもそれならなおさらはっきり変だと言って欲しい。お互いスッキリしないと思う。それにこいつとは性別を超えた親友でいたい。
「はっきり言ってくれ。私がレズなのがそんなに変なのか?」
健斗は少し黙って寂しそうに言った。
「いや・・・変じゃない。俺が保証する。だから気にすんな、俺はお前が百合でも・・・友達だ」
私はその言葉を聞いて正直安心した。
「あはは・・・よかった」
私の手は少し震えていた。信じていても怖いものは怖い。友達がいなくなる事と自分が異常だと思い知る事が。自分でもわかるくらい涙目になっていた。
「美浜・・・」
健斗は悔しそうに私を見ていた。恐らく何もできない自分に苛立ちを感じているのかもしれない。健斗に相談して本当によかった。こいつは本当に親身になってくれる。だから私も健斗が迷ったりした時は親身になって支えてやりたい。そう思えた。
さて、好きなものは好きだから仕方ない。だから巳城にアタックをしたいと思う。でもどうすればいいのかわからない。スカートをめくるとか?好きな女の子のスカートをめくるのを男子はしたがるがそれは遠回しに俺のもんだという意思表示ではないだろうか。でも仮に私の事が好きだというやつがいて私のスカートをめくったら恐らくぶん殴っているかもしれない。いや、回し蹴りだろうか。ヘッドロックもありえるな。だからスカートめくるのはよろしくない。うん、ダメだ。嫌われる。やめよう。
でも巳城はどうなんだろう。女からの告白・・・。気持ち悪く思うだろうか。ああ、それを考えると不安になってくる。サバサバしてる私らしくないのはわかってるけど・・・ああもう。
「あの・・・」
と声が聞こえた。聞き覚えがあるぞと思い声の方をいるとそこに巳城がいた。申し訳なさそうに上目遣いに見てくる。身長的に仕方ない事だが。両手で胸のあたりに紙袋を持っていてそれでガードしているようにも見える。私がいきなり攻撃してくる奴に見えるのか。いや流石にそれはないか、多分性格的なものだろう;
「み、巳城・・・だったよな。どうした?」
「この間はごめんなさい。・・・お怪我はありませんか?」
やべ良い子じゃん。よしよししてあげたい。でも我慢だ。
「ああ・・・大丈夫だよちゃんと怪我はないって言っただろ?」
「これ・・・お口に合うかわかりませんが・・・」
ずいっと私に紙袋を突き出してきた。中を見ると透明な袋に包まれクッキーが入っていた。丁寧にリボンもしてある。可愛らしいくて食べずに飾るのもアリでは思ったりした。
「これ・・・くれるのか?」
「はい」
「わざわざ良いのに、でもありがたく貰っておくよ。これもしかして手作りだったりする?」
手作りだったら可愛い。
「はい、たまにですけどお菓子を作ったりするんです」
可愛い。
「あ、少し・・・話さないか?一緒に食べようぜ」
「は、はい」
というわけで中庭でクッキーを食べながら2人で話をした。最初は私が年上ということもあってか巳城は緊張していたが少しほぐれてきたようだ。こちらばかりの質問が向こうからも徐々に質問が来るようになった。巳城は府中先輩と私を呼ぶ。出来れば仲良くなりたいしここは名前で呼び合うのとか良いんじゃないだろうか。てか名前で呼ばれたいし呼びたい。
「あ、私の事は美浜でいいよ。私も奈々乃子って呼ぶから」
「あ・・・じゃあ美浜さんで」
うん、名前で呼び合うのはすごくいい。とてもいい。それに嫌な顔せずに受け入れてくれて素直に嬉しい。
「奈々乃子ってさ、趣味とかあるのか?私は・・・特にない」
「そうですね・・・映画を見たり音楽を聴いたり・・・」
「へえ、恋愛映画とか見るのか?」
「そうですね、恋愛映画はよく見ます。最近の映画は恋愛が多いのもありますが。映画のような恋に憧れちゃいます」
私だと映画より健斗の家にある漫画を見るけどそれは言わなくてもいいか。漫画と映画じゃ違いすぎる。
「恋にかぁ・・・奈々乃子はどんな恋がしたいんだ・・・?」
さりげなく何か聞けないかなと思い質問をした。好みのタイプとかそう言うの言わないかな。
「お互いが好きでたまらなくてたまに喧嘩もするけど仲直り、そんな恋がしたいです・・・ってこれだと普通の恋愛ですよね」
確かに普通の恋愛かもしれない、しかしクラスの奴らは付き合ってもすぐに別れたり別れたばかりですぐ違うやつと付き合っていたりする。私は人の恋愛に関して興味はないし意見を言うつもりもないが疲れないのだろうかと思う。恋愛をしたことのない私が言うのもおかしな話だが。もしかしたら何かメリットがあるのかもしれない。例えば色んな人間性を見ることができるとか本当に合うパートナーを探しているからこそとか、はたまた色んな人と出来るとか。だから短いスパンで恋人を乗り換えているのか・・・?そう言うのが主流なのか。・・・まあ結局私には何も言う資格はないのだろう。多分レズだし。
「普通だけどそれが一番恋愛として幸せなのかもしれないな」
「一言に恋愛と言っても色々あるんですよ、遠距離恋愛とか身体だけの恋愛、心だけが通い合っている恋愛」
「よくわかんねぇけど・・・色々かぁ・・・」
確かに今の私には頷ける。なんたって・・・女が女に恋をする恋愛をしているからだ。恋愛は色々あって良いと思う。でもそれが自分の場合だったら正直その考えを貫き通せるか不安になる。健斗が背中を押してくれて勇気が出た。とても心強い。でもやっぱり奈々乃子にとって私の好意は迷惑になってしまうんだろうか。もし奈々乃子がレズならどうなっていただろうか。私のこの恋は成就されているだろうか。私は堂々と奈々乃子を好きで入られただろうか。・・・でもどうあろうと奈々乃子を好きなのは変わらないんだな。奈々乃子がレズじゃなくてもレズでも。きっと。
「あ、もうこんな時間か」
昼休みがあっという間に過ぎてしまった。感覚的には5分くらいしか喋っていないような。でも奈々乃子と一緒にいたせいだろう。またこんな時間を過ごしたい。もっと奈々乃子を知りたい。奈々乃子の名前を呼びたい。奈々乃子、奈々乃子。
「じゃあ美浜さん、またお話ししましょうね」
そういって奈々乃子は小走りで恐らく自分の教室に向かった。ああ、小走りしてる奈々乃子が可愛い・・・。
「あ・・・」
話に夢中で持ってきた弁当を食べてなかった。
「・・・好き過ぎだろ私・・・」
遅弁するかと考えながら腰をあげ教室へ向かった。
「うぅ・・・美浜さんとおしゃべりし過ぎてお弁当食べるの忘れてた・・・」
奈々乃子も同じだった。