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その十四 魔法使いの医者

マヤの神話と伝説


魔法使いの医者


 スキアは幾つかのマヤの部落ではまじないをする呪術医と言われています。

彼はふつうの魔法使いであるばかりか、蛇を使う魔法使いとしての役割をも果たしておりました。

沢山の植物の医学的な特性を熟知し、バルバ・アマリージャ(体長1.5メートルにもなる大型の蝮で、噛まれると、その死亡率は高いと言われている猛毒を持った毒蛇です)とか、他の毒のある害獣の致命的な噛み傷に対する解毒剤も調製しておりました。

 その知識によって、スキアは家庭を持ちたいと願う人に対しては婚姻の許可を与えるという権限を持っていました。

 求婚者は娘の父親のところには行かず、伴侶を持ちたいという願いを伝えるために、スキアの居るところに行きました。

 スキアは婚姻をまとめ、若い娘を夫となる若者の家に連れて行き、彼の監視の下で半年暮らさせ、未来の夫の母親の教育を受け、それぞれの家庭が持つ流儀に馴染ませ、無知故にうまく行かないということが起こらないように、それぞれの家庭の習慣、慣習を学ばせました。

 スキアは偉大な魔法の力を身につけておりました。

 与えた薬が効き目がそれほどでもなかった時には、身につけている魔法によって効き目を強めることが出来ました。

 慎ましいマヤの人々はこの魔法医を信じ、尊敬しました。

 スキアはテューナと呼ばれる木の樹皮から作られた一枚布で出来た服を着て、偉大な威厳を持って堂々と歩いておりました。

その服は頑丈で丈夫な布で作られておりました。

腰には山や川の石を数珠のようにして、またいろいろな野草とか草の根も数珠のようにしてぶらさげておりました。

ベルトとしてはマハオの紐を使っておりました。

スキアは蠍のような毒のある動物を催眠状態にする大変鋭い眼の力を持っておりました。

スキアはこの危険な動物を一目で釘付けにして、眠らせるかのように即座に動けなくしてしまうのです。

そして、針のところを持って、服を飾る装飾品としてそれを胸に飾るのでした。

「眠れる鳥だよ」と彼は恐る恐る見詰める人々に言うのでありました。

蛇に対しても同じことをしました。

催眠術で蛇を眠らせて、草叢に投げ捨てて逃がしてやろうと決めるまで、首にぐるぐると巻いていたりもしていたのです。

ホンデュラス北東の、レンピラの港の近くの部落にマヤの一人のスキアの力と魔術を証明する一つの人間業とは思われない伝承が伝えられています。

その伝説は次のようなものです。

何百年も前のこと、若者の一団が川縁を、石を投げながらガヤガヤと歩いておりました。

道端の茂みを棒で叩きながら、大声で喋りながら歩いていました。

突然、一人の若者がぞっとするような悲鳴を上げて叫びました。

「蛇だ、バルバ・アマリージャが俺を噛んだ!」

彼の仲間が急いで彼をスキアのところに連れて行きました。

スキアは噛まれた傷口を焼灼し、緊急時用として準備し、常時携行している解毒薬を塗りました。

しかし、その蛇が彼に注入した毒はその若者を殺すに十分な量でありました。

そのスキアは蛇の襲撃を激怒しました。

祭儀の装飾を施した服に着替え、その川のところまで行きました。

丁度、その若者が蛇に噛まれた所に行きました。

沢山の人がこれから起こることを見物するために心配そうな顔をしながらも、彼の後をついて行きました。

森の近くの小さな空き地に着いたところで、そのスキアは立ち止まり、このように叫びながら、密林に向かって両手を差し伸べました。

「蛇どもよ、森と沼地に棲む蝮どもよ、ここに来い、若者を殺そうとした蛇に、そのような気にならぬよう、罰を加えなければならない。わしはその罪ある蛇を出頭させるよう、お前たち蛇に頼むこととする」

そのような奇妙な言葉を繰り返すにつれて、スキアの声は甲高く鋭くなっていきました。

そして、その声は蛇の這う動きを模するかのようにヒューヒューという音にまで変わっていきました。

不意に、想像もしないことが起こりました。

何百という蛇が現われ、その蛇の中で、一匹のバルバ・アマリージャだけが区別された形で、スキアに居るところまでゆっくりと来て、スキアの一メートル前で止まり、とぐろを巻いて頭を身体の中に隠しました。

群集は全て、恐怖におびえながら、口もきかずにこの光景を見ておりましたが、実は未だ驚嘆すべきことがあったのです。

スキアはとぐろを巻いたままのその蛇を見ました。

右手を挙げて、その蛇を指し示し、重々しい声でこう叫んだのです。

「もしかして、お前がその蛇か。罰として、お前をカニョン島へ流刑とする。というのは、お前は人々にとって大変危険な存在であるからじゃ」

その後で、スキアは蛇に近づき、両手で持ち上げて、首飾りのように、頭と尻尾を結わえ、分厚くネトネトするリボンのように結んでバランスを取りながら首に掛けました。

このようにして、彼は川の岸辺に歩み寄り、小さな舟に乗って、カニョン島に向かって力強く漕ぎ出して行ったのです。

その蝮を捨てて、戻って来た彼は液体の入っている小さな小瓶を示しながら、このように言った。

これはあのバルバ・アマリージャから抜き取った毒だ。この毒から、噛まれた者に与える解毒薬を作ることとする」

それから、彼を見守っている人々にこう告げた。

「あの悪い蛇はもう戻っては来ない。従って、マヤの若者はなんぴとたりといえども害を受けることはもうないのじゃ」

この伝説のおかげで、マヤの人々は密林に隠れている全てのあの蛇のような動物の害をかき消すために必要とされる解毒剤をその当時既に持っていたと研究者は確信しているのです。



- 完 -


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