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交渉の始まり


 数日後、ギードは王宮にいた。


ハクレイとシャルネにも来てもらっている。


「闘技場の修復の件かな」


国王陛下はシャルネが今日は孫を連れて来ていないので残念そうだ。


ダークエルフの孫もたいそうかわいがっている。婿は気に入らないそうだが。


「ええ、良い資材が見つかりましたのでご報告に」


ギードから黒い笑みが漏れる。




 ギードが愛用していた浴槽の材料である石は、商国とドラゴンの領域との境である、あの崖から取れた物だった。


「ドラゴンさまの領域で、ドラゴンさまの魔力に晒され続けた石です」


間違いなくドラゴンが多少暴れても崩壊することはないと思われる。


ハクレイも頷いている。どことなくほっとした顔をしていた。


彼にはすでに手紙で伝えてあり、報酬にはフウレンが使っていた認識阻害の魔道具をお願いした。


精霊であるコンたちまで欺く威力があるのに、身に付けている事さえ分からなかった。


双子のために是非と言ったら、「極秘だぞ」と言いつつもしぶしぶ製作を約束してくれた。




「商国からこれを切り出して、闘技場用の石材としてお売りします」


「うむ、で対価はどうするのだ」


話が早い。さすが、やれば出来る国王陛下である。


「その前にお願いがございます」


「なんだ、言ってみよ」


この場には文官の他に、王太子夫婦も揃っている。


後で国王が話をひっくり返さないよう、証人となってもらいたいと話をしておく。


国王は憮然とした表情になったが、この方はお茶目なところがあるので、話があさっての方向に行きかねないのである。


「まず、闘技場の近くに、魔術師やエルフなど、魔法で作業する者の宿舎が必要です」


力仕事の作業員の宿舎はあるのに、魔法関係者の宿舎がないのだ。


いくらハクレイが責任者といっても、自宅に自由に出入りさせてはいけない。


彼の家は高級住宅街にあり、領主館にも近いのだ。


身元の確かな者ばかりだというが、大勢が出入りすればその中には一人や二人、怪しい者が混ざる。


「魔法柵で警備しているのに、それは無意味でしょう」


「なるほど」


皆が納得してくれたので、話を次に移す。




「お代は借金の返済に充てさせて下さい」


ギードは商国の建国に際し、思いがけずケット・シーの一族や、他国からの出稼ぎ労働者を雇うことになった。


多くの住宅や施設が必要になり、その資金を国王へ請求したが、文官たちに却下されてしまった。さすがに高額だったようだ。


なので王太子から借りている。


王太子には子供の件で恩を売ってある。話はすぐに快諾され、資金も十分に用意された。


「そんなの、返済なんていつでもいいのに」


王太子殿下はやさしい笑顔で答えてくれる。


「いえいえ、そんな訳にはいきませんよ」


借金は信用の証とは言うが、少額でも相手が王太子では気がひける。ギードは基本的に小心者なのだ。


ハクレイと文官にお願いして、正当な金額を提示してもらうように頼んでおく。




 一気にここまで話をした後、ギードは一旦お茶で喉を湿らせる。


「えっと、実は国王陛下に許可をいただきたいことがありまして」


まず、石材は闘技場完成の後は交易品として流通させたい。


丈夫な上に軽い石材である。見本を見ながら文官たちもうんうんと頷いている。


「そこで石切り場で働く者が必要になります」


と、当たり前のことを口にする。


「それがどうかしたのか?」


国王が先を促す。


「商国の建国時に大量の犯罪者を捕えましたよね?」


王国から軍が出て来て、旧連合国の首都の町を制圧した。


「あの時に囚われた犯罪者をお貸しいただけないかなと思いまして」


現在あの者たちは、第二王子のブラインが投獄し、監視している。つまり『王国』の管理下にあるのだ。


 


「今の商国には収容する施設もなければ、犯罪者を雇う場所もありませんが」


あれから三年、あの犯罪者たちは町の復興の労働に従事していた。それはそろそろ終わりに近づいているはずである。


その安い労働力を確保したい。


「石切り場が決まったら、そこを囚人を収容する施設にしますので、使っていただきたい」


施設を提供する代わりに、労働力を借りる。


「もちろん、給料は払います」


それでも安上がりであることは間違いない。黒い笑みが炸裂する。


勝手にやると後で必ず文句が出るので、国王の許可が欲しいのだ。


「それくらいならかまわぬ」


ギードは恭しく頭を下げる。


ここまでは予定通り。ギードにとって本当の交渉は、この後に控えている。




 王族との話し合いを終えたギードは、庭園の奥にある湖に来た。


 この王宮は王都の西の端にあり、湖はさらにその西に広がっている。


『ギドちゃん、あのね。朝焼けの王宮は、湖の水がきらきらしてとっても綺麗だったよ』


ユイリの手紙には、早朝の散歩で見つけた光輝くモノの正体が、王宮の湖らしいと書かれていた。


(一度ここに連れて来てやろうかなあ)


双子の喜ぶ顔が目に浮かんだ。


すぐ近くに来ていることを伝えたい気もするが、今日はその件で来たわけではない。


王族の隠れ家にもなっている、湖に浮かぶ神殿。王国を長年支え続けている神の棲む場所である。


「ギードさま、ようこそいらっしゃいました」


ギードの眷族のひとり、水の最上位精霊のルンが出迎える。


いろいろ事情があって、現在彼女はこの神殿に身を寄せていた。




「やあ、ルン。お願いがあるんだけど」


「はい、なんなりと」


彼女は、淡い青の髪をふわりと揺らし、女性らしい丸い顔に無邪気な笑みを浮かべる。精霊なのに、ルンはどこか子供っぽいところがある。


「これから『湖の神』と話しがしたい。そのために『泉の神』に協力してもらいたいんだ」


ギードは今から正装を着る。神をその身体に降ろすためだ。


「泉の神が勝手に逃げ出さないように、この身体をぎゅっと捉まえていて欲しいんだ。こう、ぎゅうううっと」


ギードがルンの身体に両手を回して抱きしめた。


「え、ええっ!」


ルンは真っ赤になって狼狽える。



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