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白い魔術師への手紙


 ギードは座り込んで、フウレンと目線を合わせる。


「誰かに言われたの?」


フウレンの魔力が他の子供より少ないということはない。


彼は人族で最強の魔術師と、妖精族であるエルフの女性との間に生まれた。魔力量なら間違いなく普通の人族よりは多い。


それなのに、そんな話を誰から聞いたというのか。


「えっと、あの、僕には父上ほどの魔力はないそうで」




 きっかけはフウレンが大切にしていた母親の子守唄が記憶されていた魔道具の紛失だったそうだ。


「父上は探してくれませんでした」


忙しくて相手にしてもらえなかった。


ハクレイの館には今、闘技場建設のために様々な魔術師とエルフが出入りしている。


自分で探そうといろいろ人に尋ねるうちに、そんな話を聞かされたらしい。


 父親であるハクレイは魔術師としての高い実力と長身、長髪、理知的な顔を持つ。さらに、あの口調。


彼を上辺うわべしか知らない者の中には気にさわる者もいただろう。


素直そうな子供に嫌みの一つでも言って憂さ晴らししたかったのかも知れない。


(弟子の、女性の方かもな)


ギードは以前会った時、彼女がハクレイに好意以上のものを寄せていることを感じた。


嫉妬と羨望。好意と反意。人族の感情は複雑だ。案外、魔道具の紛失も彼女絡みかも知れない。


もしかしたらハクレイが探さなかったのは、既にどこにあるのか知っていたからではないだろうか。




 それでも子供にする話ではないだろう。


ギードは溜め息を吐く。


「それは当り前だよ。君の父上は人族でも突出した魔力の持ち主なんだから」


本来ならフウレンの魔力は父親以上になるはずだった。


しかしその大きな魔力のため、妊娠中からエルフの母親の身体に負担がかかってしまった。


そのままでは母体が危険なため、負担がかからない程度にギードとハクレイで赤子の魔力を調整したのである。


フウレンのみならず、そのことを知る者はほとんどいない。


「君の容姿は父上に似ているけれど、魔力は亡くなった母上にそっくりだよ」


ギードはにこりと微笑み、彼に風呂へ入るように勧めた。


母親と同じエルフであるギードの言葉に、フウレンは少し安心したように笑って頷いた。




「ナティも入るーーー」


そこへ末っ子が乱入して来た。湯気で目の前がよく見えず、思いっきり石の浴槽にぶつかって転んだ。


「あーんっ、いったあああい」


眷属のロキッドが飛んで来た。


「ああ、だから言ったのに。危ないですよって」


「だってー」


大きなこぶが出来ている。ロキッドがすぐに魔法を使って治していた。


後ろでげらげらとタミリアが笑っている。


「精霊なのにたんこぶー」


悪いと思いつつギードとフウレンも笑ってしまった。


この末っ子は本当に精霊なのかと疑うほど人族に近くなってきている。


眷属であるロキッドがナティの人化を褒められたと察して、にんまりしているのがちょっとしゃくだ。




 しかし、浴槽は傷ひとつない。


それに気づいたギードが石の肌を撫でながら何かを考え込む。


(精霊は魔力の塊だ。その魔力に触れて、全く無傷?)


普通は欠けたり、歪んだりする。


「タミちゃん、ちょっと」


フウレンを待たせたまま、ギードはタミリアを呼び、剣で石を切ってみて欲しいと頼む。


「いいの?。これ、ギドちゃんのお気に入りのお風呂でしょ?」


「うん、大丈夫。たぶん」


意味が分からないまま、タミリアは普通の剣を取り出す。




 結果は、無傷。剣の方が折れた。


(物理的にも魔力的にも強い石だと?)


ミスリル剣に万が一傷がつかないよう魔法を纏わせ、その魔法で切ってみたりもしたが、やはり無傷。


 ギードは今までこの石の浴槽が見かけより軽いため、何となくもろいと思い込んでいた。


しかし、こんなにも強いモノだったとは。


「く、くくっ、あは、あはは」


思わず笑いがこみあげた。


「ギドちゃん?」


タミリアや子供たちの視線に気づいて、咳払いをする。


「あー、こほん。いやー、すごいね、これは」

 

ギードはすぐに動き出す。




 石の浴槽をくれた細工師の獣人の工房を訪ね、あの石の出処を聞く。


「はあ、あの石はその辺に転がってたやつで」


荒れ地の周辺には邪魔になるくらい大きな石が多く、それを削っては持ち帰って来ていたらしい。


「大きくても軽いですからねえ。特に崖の近くのやつが丈夫でさあ」


ドラゴンの領域に近付くほどよい材質になるそうだ。


長い年月、ドラゴンの魔力やその重い身体に耐えてきた土地。だから魔法にも、物理的にも強い材質の石が採れるようになったのだろう。




「でも、魔法でも切断出来ないものをどうやって?」


「エルフの旦那。わしらは職人ですから」


石の声を聞く彼らの腕はまさに神技だった。いや、獣人の勘と身体能力のみょうかも知れない。  


「じっと見てると分かるんですわ。どこを削ればいいかって」


「なるほど。じゃ、あの崖を削れば石材が取り放題か」


ハイエルフの商会長はにやりと黒い笑みを浮かべる。




 翌日、帰ると言い出したフウレンを始まりの町へ移転魔法で送って行った。


ハクレイとはお互いに忙しい身なので、詳しい話は後日にすることにした。


「父上によろしくね」「はいっ」


詳しい内容を書いた手紙を持たせ、家に入る銀髪の少年を見送る。


母親似だと言われたことがうれしかったようで、あれから明るい顔になっていた。

 

 その日の夜中に、手紙を見たハクレイが飛び込んで来るのは予想済み。


そして、機嫌を損ねたタミリアに殴り飛ばされていた。


(最近、自分は飛ばされてないのになー)


と、ギードがうらやましく見ていたのは内緒である。




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