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魔術師家の問題

 

「このまま運んでしまおう」


ギードは小さな身体を抱き上げた。窓から灯りと共に小さく子守唄が漏れていた。


(これを聞きに来たのかな)


夜が明ける前に館へと戻る。


 ハクレイの部屋に入ると、ぱっと明るくなった。 


「起きてたんだー」


「当たり前だろ」


ハクレイは息子を受け取り、そろりと寝台へ降ろす。


「なあ、ギード。頼みがある」


背中を向けているハクレイから小さく零れるような声が聞こえる。闘技場のことじゃなさそうだ。


「しばらくでいい、こいつをここで預かって欲しい」


帰ると言い出すまで置いてやってくれと、白い魔術師はひとり息子の頬を撫でた。




 パンケーキが焼き上がる頃、ロキッドにフウレンを呼びに行かせた。


父親がいなくなっているので驚いているはずだ。忙しいハクレイはすでに始まりの町へ帰ってしまっている。


 タミリアとナティも席に着き、揃ったところでギードはフウレンに話かける。


彼は俯いたまま食事に手をつけようとしていない。父親に置いて行かれたと思ったのかも知れない。


「昨夜、お父さんとケンカしたんだって?」


ギードの言葉にぴくっと身体が動く。


「ケンカ、だめなのー」


ナティがめっと声をかけると、顔を上げて少し困ったように微笑んだ。


「だって、父上が突然帰るって。僕はナティと遊ぶ約束があるのにー」


どうやら父親を待って起きていたこともあり、不機嫌な父親からすげなくされたことで反抗してしまったらしい。


普段はおとなしい子なので、ハクレイも驚いたのだろう。


うろたえて子供相手でも容赦なく毒を吐いたんじゃないかと予想する。




「フウレンくん、お父上にはしばらく君を預かると言ってある。好きなだけ遊んで行くといいよ」


えっと驚いた顔のフウレンに、ナティがうれしそうに話しかける。


「わー、いっぱい遊べるねー」


戸惑う銀髪の少年にタミリアも声をかける。


「それならナティと一緒に子供部屋で寝るといいわ」


双子とナティは同じ子供部屋で寝起きしていた。双子の寝台が空いているので、そこを使ってもらえばいい。


「あ、え、はぁ」


勝手に決めて行くギードたちに、フウレンはあきらめ顔になった。

 



 ロキッドがナティとフウレンを連れて外へ出て行った。


おそらく孤児院の方へ行ったのだろう。今日は町の子供たちが勉強にやってくる日である。


獣人の子供も孤児院の子供も同じ従業員なので、教育に関しては差はない。


フウレンは、ここ三年の間に双子に会うために何度か来ているので、不安はなさそうだ。


双子がいなくてもナティと一緒に混ざって遊べるだろう。




「何があったの?」


ギードが一階の仕事用の部屋に入ると、いつもなら町の見回りに出るタミリアがついて来た。


「あー、ハクレイさんのことか。何か忙しくて八つ当たりしちゃったらしくて」


最近、息子との間がぎくしゃくしているという。


「それだけ?」


全く脳筋の第六感は鋭い。ギードは苦笑いを浮かべる。




 ハクレイは妻を失って五年になる。


エルフだった彼女が、その命をかけて産みおとした愛し子。


夫は大切に、大切にひとり息子を育てている。


「こう、笑うとさ、目元がそっくりなんだよなあ」


ハクレイは息子に亡き妻の面影を見る。「エルフでも、女性でもないのにな」と寂しそうな笑顔で話す。


ギードは夜明け前、フウレンが眠る横でハクレイから話を聞いた。





「それでつい、目を逸らしてしまうんだってさ」


子供が笑顔を向けた父親に、辛そうに目を逸らされる。


「子供相手になんてことを」


タミリアも呆れている。


「それじゃフウレンくんが誤解してしまうじゃない」


まったくだとギードも頷く。


「とりあえずしばらく預かるよ。双子はいないけど、ナティが喜ぶだろうし」


タミリアもうんうんと頷いてくれた。




 夕方、外から戻ったフウレンとナティは興奮気味に報告してくる。


「楽しかったかい?」


「はいっ。赤ちゃんがいっぱいいました」


獣人たちは森に魔力が戻ったお陰で、元の多産に戻りつつある。とにかく次から次へと産まれているのだ。


ギードは、魔力が十分にある森の中に、妊娠した従業員の女性が住める施設を作った。


森でフウレンを見つけた場所は、産まれてすぐの赤子と母親が住んでいる施設だ。


今日はそこへ子供たち皆でお手伝いに行ったらしい。


「子供は宝だからな」


ギードがそういうと、商会の経営に携わっている眷属のコンがちらりと横目で見る。


「子供も従業員だから、ではないので?」


「そうともいう」


子供も従業員も宝だよー、とギードは少し黒い笑みを浮かべていた。




「ほら、食事の前に身体を洗っておいで」


大きい方の風呂は、子供だけでは危ないということで、一階に設置してある石の風呂場へ連れて行く。


大人一人が座って手足が伸ばせる、程良い大きさの風呂である。


「父上もここのお風呂が好きだと言ってました」


一緒に入った時、とても楽しかったのだという。


ギードは風呂に魔法でお湯を入れながら、フウレンの話を聞く。


「でも、最近、父上は何だか僕が嫌いみたいで」


(あー、ほら、誤解してるじゃないかー。バカ魔術師め)


「やっぱり僕に魔力がないからー」


フウレンは自分が魔術師として優秀な子供ではないから、嫌われていると思っているようだった。


ギードはその言葉に違和感を感じる。





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