表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

白い魔術師の依頼


「闘技場を何とかしろ」


やっぱりその件だったか、とギードはハクレイから目を逸らす。


口は悪いが、この魔術師は王国でも最強と呼ばれる実力者である。


男性には珍しい長髪は銀色で、背中の半ばほどまである。白いローブは神経質そうな彼の象徴にもなっている。


「わざわざ来てやったんだ。何か案を出せ。出すまで帰らないぞ」


風の精霊であるリンに手紙を運んでもらったが、それを受け取ってすぐにハクレイはやって来た。


おそらくだが、すでに商国に来るつもりで準備していたんじゃないだろうか。


「まさか、フウレンくんまで連れて来るとは思っていませんでしたよ」


彼はひとり息子まで同行していた。かなり切羽詰まっていると感じる。




 ハクレイの息子であるフウレンは、双子とは一つほど歳下になる。


父親と似た銀色の髪を肩の上できれいに切り揃え、前髪は目を覆い隠すような位置で揃えられている。


「こ、こんばんは。お世話になります」


父親と違って丁寧に頭を下げる、わずか五歳の人族の少年。


ギードとハクレイが地下室で話しをしている間、タミリアとナティリアがその相手を任された。


今夜はすでに遅い時間なので、この館に泊まっていくことになっている。


執事であるロキッドが二階の客用の部屋を整えている間、一階の家族用の居間でお茶を出し、お菓子を食べている。




「あの、ユイリとミキリアはいないのですか?」


きょろきょろしながら、「まさか、もう寝たんですか」と聞いてくる。


 フウレンは双子とは仲の良い幼馴染だ。


双子はよく始まりの町の領主館に預けられており、その時近所に住んでいたフウレンもほぼ毎回一緒にいた。


商国にも、父親のハクレイと一緒に時々遊びに来ている。


「あー、あの子たちは今、王都なのよ」


タミリアが事情を説明すると、フウレンは目を見開いて驚いていた。


そして肩を落として、「そうですか」と残念そうに呟いた。




 人見知りのナティリアが、とことこ歩いてフウレンに近付く。


双子の兄姉がいない状態で彼に会うのは初めてである。


「ナティと遊んでくれる?」


この男の子と一緒に遊んだことを覚えていた末っ子は、双子の代わりにかまってくれると思ったようだ。


「は、はい。明日で良ければ」


黒髪の幼子がにこりと笑う。フウレンは、かわいらしい笑顔に真っ直ぐ見つめられて頬を染める。


「そうね、今日はもう遅いから。ナティ、明日一緒に遊びましょう」


ちょうど部屋の準備が終わったロキッドが、案内のために部屋に入って来た。




 明け方前、珍しくコンが寝室へギードを起こしに来た。


「申し訳ありません、ギードさま。フウレンさまがいなくなりました」


ギードは無言で寝床から何とか抜け出す。タミリアの抱き枕状態からの脱出は容易ではないのだ。


 昨夜、ギードとハクレイは遅くまで議論を続けていた。


結局結論は出ず、後日改善策を思いついたら連絡することになった。


客用の部屋に戻ったハクレイが息子のフウレンと何やら話をしていたそうだが、どうやらケンカになったらしい。


「親子ゲンカねえ」




 ギードの眷属たちは優秀だが、今の『商国』は百人を超える大所帯になっている。


そのすべてを管理するコンはいくら精霊とはいえ、すべてを把握出来ているわけではない。


いや、『商国』のことならば把握出来てはいるのだが、人族の客となると難しいのだろう。


「どうやら認識阻害の魔道具をお使いになっておられるようで」


最強の魔術師ハクレイの子である。その親が与えた魔道具なら、精霊でもかなわないかも知れない。


最上位精霊であるコンにもわからないなら、ギードが気配を見つけることは無理だ。


「わかった」


手早く着替えると館の外に出る。


ケンカならば側にいることも嫌だろうから、館の中にはいないと思った。




「森のぬしさま」


ギードは自分の眷属のひとり、ケット・シー族の元長老で、現在はこの『幻惑の森』の主を呼ぶ。


「さま付けは止めてくだされ。あるじはそちらですぞ」


笑いながら長老猫が姿を現す。


ひとしきりお互いに笑い合った後、ギードは要件を告げる。


「子供をひとり探して下さい。人族の男の子です」


「承知した」


長老猫がゆったりと目を閉じ森の違和感を探っている間、ギードはじっと森を見つめていた。




「こちらですじゃ」


まだ陽も昇らぬ暗い森を歩く。


だいぶ手入れされているとはいえ、子供がひとりで歩くには夜の森は危険過ぎる。


危ない魔獣はいないが、迷子になって歩きまわっていると小さな子供の体力ではもたない。


今のところ森には異常はないが、見つかるまでは安心出来なかった。




 森の外周は木の柵で囲まれている。


明確に魔力のある土地と枯れている土地との境界を表している。


この森の中には現在、泉を中心として神殿とギードの館があり、その周辺には孤児院や神殿を訪れる教会関係者用の施設などもある。


森の外には出ていないようだ。


町の方へ向かって行くと、森の道の脇には魔力を必要とする施設がいくつか並んでいる。 


多くは獣人たちの出産に関わる建物である。




 夜泣きの赤子の声がしていた。


昼夜関係無く世話をする母親たちを集めた施設に、ぼんやりと灯りが点いている。


「あそこですな」


灯りの漏れる窓の下に銀色の小さな塊がうずくまっていた。


ギードはほっと息を吐く。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ