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双子からの手紙

今回も短いですが連載になります。よろしくお願いします。


 その森の中には、決して枯れないと神が保証した泉がある。


泉のほとりには、その神を祀った小さいが荘厳な雰囲気の神殿があり、そのすぐ近くに二階建の館があった。


その館は、商人であり、この森を中心とした『商国』と呼ばれる商会を作ったハイエルフのギードが家族と共に住んでいる。




 館の一階は家族用の区域とは別に、応接用の部屋や会議室、従業員用の仕事部屋があり、二階は客用の寝室や娯楽室がある。


当主であるギードの部屋は地下にあり、趣味である大きな風呂場や、魔道具や調薬の試作ための部屋があった。


「おとーしゃま、ご本読んでくだしゃい」


夜も更けた静かな時間に、ギードの娘であるナティリアが地下室にやって来た。


「ああ、いいよ」


やりかけの仕事を机の脇に置き、ギードは小さな娘に手を差し出す。


 娘は膝にぽんっと飛んで来る。この子は精霊族のため、自在に姿を消したり、ふわふわと飛んでいたりする。


本来ならちゃんと歩いておいでと叱るところだが、今は躾け役の執事がいないので甘やかす。


膝に乗せた黒い髪の幼子に、


「眠れないの?」


と聞くと、その頭が小さく上下した。


「おにーちゃまとおねーちゃまがいないとつまらないでしゅ」


仲の良い三人兄妹である。


末っ子であるナティを兄姉である双子のユイリとミキリアはとてもかわいがっていた。





 この父親は子供に対して子供用の本を読み聞かせるといういことがない。そんな本が読みたければ自分で読めということらしい。


そして、せがまれれば自分が読みたい本を読む。


理解出来ない内容を、子供たちは眠るまでただ聞いているだけだ。


それでもギードの子供たちはこの状態が普通なので特に文句は出ない。


 ギードが膝に乗せた末っ子に古代遺跡の考察の書類を読んでいると、薄い寝間着姿の妻が階段を下りて来た。


ちらりと覗く白い肌にギードがどきどきしていると、ナティがその顔を見上げて溜め息を吐く。


今日はもう終わりのようだ。




「ナティ、ここにいたの」


「あい、おかーしゃま。ご本読んでもらってましゅ」


また小難しい本を読んでいるのね、とギードに胡乱うろんな視線を向けた後、妻は寝台に潜り込んだ。


「ナティも一緒に寝るかい?」「うんっ」


部屋の隅から悔しそうなナティの眷属の気配がするが、あれは放っておこう。


 そうして三人は一つの広い寝台に並ぶ。


小さな娘をその腕に抱いたまま寝ころぶギードの背中に、タミリアがそっと身を寄せて来た。


もうしばらくすれば眷属がナティを部屋へ連れ帰り、ギードはタミリアの抱き枕となる。




 そんな日々がひと月ほど流れた。


ギードが自宅の台所で朝食を用意していると、双子の側にいるはずの最上位精霊の分身体であるリリンが現れた。


「お手紙をお預りして来ました」


そういえば、義父母が双子に手紙を書かせるという話をしていたような気がする。


「まあ、任せたんだからこっちからは何も言えないが」


あまり子供たちの負担にならなければいいなと思う。




「読んで読んでー」


リリンから手紙を受け取ったナティが、振りまわしながらタミリアに駆け寄る。


双子はかわいい妹にも読めるように書いたらしい。


パンケーキの朝食が終わると、タミリアは手紙を読み始めた。



『親愛なるタミちゃんとかわいいナティへ』



ふたりがにこにこしながら、やさしい淡い緑色の紙に書かれている手紙を読む。


『ユイも私も元気です』


「あ、これミキが書いたのね」


「ナティもげんきー!」


手紙に返事をする末っ子の頭を撫でながらタミリアは続きを読む。




『王都は広いです。人がいっぱいです』


だろうな、とギードは食後の後片付けをしながら聞いている。


『お祖父さまに毎日鍛えてもらってます』


あらっとタミリアが首を傾げる。


「お父さまが子供の相手なんて。あまり子供はお好きじゃなかったと思ったけど」


赤子ならともかく、口が達者になる年頃の子供の相手は疲れると言っていた。


「脳筋だから、かな」


ギードの冗談にタミリアがぎろりと睨む。




「そういえば、私も子供の頃、鍛えていただいた覚えがあるわ」


でも途中で母親が「女の子なのに」と口を挟み、父親に剣術の相手はしてもらえなくなった。


「お兄さまはあまり剣術がお好きではなかったのよ」


タミリアの兄は子供の頃から商売の方に興味が有り、身体を鍛えることはあまりしなかったという。


だから興味を示していたタミリアの相手をしてくれていたそうだ。


ギードは、義父はきっと男子である兄の方を鍛えたかったのだろうと思う。


しかしそれは叶わず、その子供である甥っ子も運動は得意そうではなかった。


 ミキリアは今、祖父に鍛えられている。


きっとふたりともうれしそうな顔をしているに違いない。


その姿を見れば孫に甘い祖母は多少は目をつぶってくれるのではないだろうか。


何せ、脳筋である自分の娘にそっくりな孫なのだから。




 ギードはそんな事を考えながら、自分宛てに届けられた分厚い手紙をそっと影の中にしまう。


(後でゆっくり読むからね)


手紙というよりは紙束になっている双子からの報告書を。



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