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第八話:愛

 朝食の後に神楽と外へ出ると、今日も家の前には綾が立っていた。彼女は俺たちに気付くと、慣れた動作でスマートフォンを仕舞って声を掛けてくる。


「おはよう、海原さんに公平くん。昨日は楽しかったかしら?」

「楽しかったよね、公平?」

「…………」


 俺は何も言葉を返さず、綾に向かって歩き出す。彼女の前で足を止めて、俺は綾の肩を掴んだ。


「俺は……お前を信じてるからな……」


 それは昨日の事。塩を持つか持たないかという些細な話だが、俺にとっては命に関わる重要なこと。綾が言うなら、俺は綾の言葉を信じる。神楽の奴が、俺に危害を加えるつもりはないって事も信じよう。


 俺の小さな声を聞き取り、綾は肩を落として優しく笑う。


「ええ、私を信じてちょうだい。私が貴方に不利益をもたらす事、した事あった?」

「……。いや待て、それは何度かあるだろ」


 鞄の中にゴミを押し込まれたり、掃除当番変わったのに見返りが全くなかったり、貸した小説が返ってこなかったり……。


「あら、公平くんなんて隣にいるだけで私の不利益になるのに、心外だわ」

「そういう言葉の暴力が俺にとって一番の不利益だわ」

「まぁ、そんな――」


 だわだわ言い合ったせいか、またもや綾は言葉尻にだわを言い、俺もだわで終わらせて――俺達が話し合っていると、蚊帳の外だった神楽が俺の腕に抱きついてきた。


「うおっ!?」

「私も話に混ぜてよ〜。というか、早く学校行こうって〜」

「い、いや、神楽……お前……」


 腕に引っ付く神楽をはがそうとする。貧相だけど、胸とか当たってるし、綾の前でそんな事したら、俺はまた彼女にいろんな言葉で罵られる――。


「――楽しそうね」


 そう思ったのに、綾は優しく微笑むだけだった。次に罵倒の言葉が続きそうなものを、彼女は何も言わずに優しく俺らを見ている。

 おかしい……俺が女とイチャコラしていたら、お前は俺から女を引き剥がそうとする。綾にとって、俺はそういう存在だと思っていたが、違うんだろうか――?


「……ふふっ。好かれるわね、公平くん。見ていて微笑ましいわ」

「いやいや、何が微笑ましいんだよ。妖怪に抱きつかれてんだぞ? しかも、一応美少女だし……」

「妖怪として意識しといた方がいいわよ? その子を女として意識してたら、貴方は最低だから」

「それ言うなら神楽に姿変えてもらうよう言ってくれよ……」


 依然、俺の腕に抱きつく神楽は悪びれる様子もなくはにかんで笑っていた。コイツはコイツで、なんで俺に懐いてるのかわからない。よく笑うし可愛いし、役得だとは思うけど……。


「妖怪って人間殺すじゃん。俺、死ぬんでは……?」

「そういう事、本人の居る前で口にしない方がいいわよ?」

「そうだよこーへい! 私がこーへいの事、殺すわけないじゃん!」

「…………」


 何故こうも責められるのかわからなかった。四面楚歌のまま意見を口出ししても勝てないので、俺はスクールバッグを手に、神楽を引きずって歩く事にした。






 ************






 学校について、授業を聞いて、昼飯食べて、また授業を聞いて1日が終わる。

 なんて事のないサイクルだが、うるさい時間と比べたらとても退屈で、神楽や綾と話しているときは楽しい方なんだなと思った。


 西日が差し込む教室に、今日は俺と綾以外の人間が居る。神楽を中心にした集団で、世間話をしていたのだ。海に住む磯女が世間話なんてできるのか、なんて思っていたけど、グループの中心に居る彼女は、楽しそうに笑っていた。


「人間の友達を作る妖怪って……いいのか?」

「いいんじゃないかしら? 同じ地球に住む生命体が手を取り合い、想いを育む。それはそれは尊い事だわ」

「本当にそう思ってんの?」

「いいえ、割とどうでもいいわ」


 というわけで、綾からすればどうでもいいらしい。あのクラスメイト達が神楽にとって食われないか怖いところだが、綾にとってはそれもどうでもいいんだろう。彼女は基本的に、冷酷で冷徹な人間なのだから。


「――公平くん。貴方は、人間と動物が仲良くするのを良くないと思うのかしら?」


 綾が目を閉じ、突然動物というテーマを取り上げて話しかけてくる。しかし、それは今俺が聞いた内容を考えてのことだろう。人間と妖怪が仲良くなる事と、人間と動物が仲良くなる事、それはきっと変わらないから。


「――犬なんかは特にそうね。人間懐く。新聞を取ってくる犬もいるそうじゃない。それは餌というコミュニケーションツールを使って躾されたものだけど、それも一種の"仲が良い"状態としましょうか。利害関係があってのことだもの。人間の友達関係もそんなものでしょう?」


 目を閉じながら、ポツポツと語りかけてくる綾。集中して、考えながら話すときはいつもこうだった。

 利害関係の一致、それによって人間関係や人と動物の仲も成り立つ……それは理性で覆われた世界という事だろう。

 利害の一致じゃなくても、人は仲良くする事がある。

 猿はライオンに襲われてる仲間を助けない。

 でも、人間ならどうだろうか?

 もし友達が猛獣に襲われていたら、助ける人も居るんじゃないだろうか?


 俺が利害以外での友好関係について考えていると、綾は俺の唇に、右手の人差し指を置いた。


「――貴方と磯女の関係は、今貴方が考えていた通りのものよ。利害じゃない、損得じゃない。そこにはきっと――


 ――愛があるんじゃないかしら?――」



 深い言葉だった。損得なしに、愛があるからそばに居る。

 しかし、俺にはわからない。俺は、磯女と会うのは初めての筈だ。それなのに、何故ここまで俺に固執するのかがわからない。毎年とはいかないがあの海――磯貝浜はそこそこ死亡事故が起きている。海という場所は危険が付き物で、事故が起きるのは稀にあるのだ。

 俺以外にも被害者は居る。何故俺なんだ?

 俺と磯女に、なんの関係が――?


 否、何も関係がない筈だ。初見の相手だし、そもそも関係なんて持ってない。

 しかし、初めて会う人間に好意を寄せるなんてあり得ない。何か理由がある筈だが――


「考えてもわからんな……」


 結局、俺の頭ではわからないのだった。わかってる綾は教えてくれそうにないし、神楽に直接聞くしかないんだろうか。


 黙って悩んでる俺を見て、綾はフフッと笑う。


「これについては、貴方が気付く必要はない。貴方は普通に彼女と仲良くして、彼女が海に帰る時を待てば良いの」

「……? アイツ、海に帰るのか? 転校までしてきたのに?」

「ええ、帰るでしょうね。海の妖怪だもの。それに、人間と妖怪は生きれる時間が違う……。貴方が死んでも彼女は生きていくのよ」

「つまり、俺が死ぬまでアイツはこの街に居るのか?」

「それはわからないけれど、最低一週間は居るでしょうね。それが1年、2年になるかも知れないけれど、彼女が海に帰ったら――


 ――海原さんの秘密を教えてあげる――」


 綾は妖しい笑みを浮かべ、挑発的な態度でそう言った。

 むしろコイツの方が妖怪なんじゃないかとも思えるが、それを口にすると死ぬかもしれないのでやめておこう。


 日の沈みゆく放課後、俺たちは夜の暗がりが訪れる前に、2人で校舎を出るのだった。

もはや教えてもらうまでもないとは思いますが、主人公は気付いていないので……。

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