After Story-2-:10月31日
最終話ですが、作者は全身のかゆみと戦いながら書いたので支離滅裂になってるかもしれません。
なんか変だったらご指摘ください……。
10月31日、ハロウィン当日。最寄駅前のフェンスを背に、俺はつっ立って居た。海が見えるからと言っても、大きな駅ではない。このあたりは海が見えるのが当たり前なものだし、観光に人が来るといっても、それは夏だけで、この近くには大きなショッピングモールがあるぐらいだった。
今が9時50分、綾は約束のきっかり5分前に来るのが日常だった。ボーッとしながら空を見て、携帯を見て、今日は少し寒いなと思いながら、残りの5分を待っていた。
「――公平くん」
9時55分、やはり5分前に彼女は現れた。俺は視線を彼女に合わせる。黒いインナーの上からオレンジのロングニットカーディガンを着ており、大胆に太ももを晒した赤いミニスカートを履いていた。靴は茶色のブーツで、秋の色に染まっている。ハロウィンだから気合い入れてるのか。
俺なんてパーカーにジーパンなのに。いや、だからこそ彼女は俺に侮蔑を込めた視線を向けていた。
「……ハロウィンに女の子を遊びに誘って、自分だけ普段着なんて、どういう神経してるのかしら?」
「俺、ハロウィンとか気にしないから。日本の祭りじゃねぇし」
「貴方は多文化主義を生き残ることはできないのね……。ここで儚く散るがいいわ」
「なにそのバトル漫画の戦闘開始5秒前みたいなセリフ」
「…………」
「…………」
お互いに無言になる。不毛な言い争いはやめるとしよう。
「それで、私をどこに連れてってくれるのかしら? まさか、いつもみたいにその辺を歩いてお喋りしよう、なんて言うんじゃないでしょうね?」
「そう言いたかったけど、神楽が煩いから考えてきた。とりあえず電車移動な」
「……わかったわ。考えてきてくれてるなんて、少し嬉しいわ。ありがとう」
「んなことで礼言われてもな……」
誘ったのは俺なんだから当然のことなのに、綾は和やかに笑っていた。そんな事で嬉しいって、こっちが照れくさくなる。
「ほら、行こうぜ」
「ええ」
俺達はicカードで改札を通り、電車に乗って少しな大きな駅へ。そこで特急に乗り換え、県を跨いだ場所に向かっていた。海沿いから離れ、陸地に向かっていく。
「……随分と遠くに行くのね」
「たまにはいいだろ」
「ええ、どんな所に連れて行かれるのか楽しみだわ」
期待する綾はずっと上機嫌で、乗車中は彼女の思慮深い発言をポツポツと聞くのだった。期待を裏切れない、とはいっても、俺に出来ることなんて大したものじゃないから。
元の駅と比べると建物の並ぶ駅で降り、俺達は目的地に向かった。初めは大きな建物が多く建っていたが、徐々に事前豊かな街並みに変わって行く。
その中で、もっとも自然の多い場所に入って行った。ナントカ庭園と呼ばれるそこは紅葉が落ちて行く綺麗な道で、木々の間には花が咲いていた。
「……。ここが、目的の場所かしら?」
いつもの冷たい声で綾から訊かれる。俺は回答と共に、この場所を選んだ訳を話した。
「そう、ここが目的地だ。お前も俺も、カラオケとかボーリングとか、そういう遊びを楽しめる柄じゃない。なら――美しい景色でも見ながら歩こうと思った。いつもと同じかもしれないけど、俺達には、これぐらいしかない」
「…………」
「図書館でも良かったんだけどな。ハロウィンに本を読むだけってのは悪いと思ったし、集まる意味もない。だから、まぁ、こんなところまで来たわけで……」
「…………」
綾は黙ったままで、無反応な彼女に俺は言葉に元気が無くなっていった。
「……嫌だったか?」
「……。そう見えるかしら?」
「言われないとわからん」
「じゃあ言わせてもらうけど――嬉しいわ。貴方が私の事を理解していて、そして私を喜ばせる方法を考えてここまで来てくれたことが、ね……」
不意に彼女は俺の手を取り、勝手に歩き出した。俺は引っ張られるながらも彼女の隣に並び、その顔を見る。
笑顔だった。美しく品のある顔がほのかに笑っている。落ちゆく紅葉を背景にしたその姿は、とても美しかった。
「紅葉の花言葉はね、2つあるの。遠慮と大切な思い出。貴方がこんなに紅葉の多い所に連れて来てくれたのだから、今日を思い出の日にしてくれるんでしょう?」
「そんなこと言われても、これ以上何もねぇよ」
「ええ、そうでしょうね。だから、お話で思い出を築きましょう」
ゆっくりと園内を歩きながら、優しく話す綾。ちらほらと園内を歩く老人やカップル、ジョギングする人が見える。俺達は手を繋いだままで、きっとカップルの1組に見えるのかもしれない。
――思い出を作るって、そう話した時点から作り始めてたんだな。
綾がその気なら、俺も踏み込んだ話をするとしよう。
「……なぁ。迷惑になるかもしれない話、してもいいか?」
「なんでも話すといいわ。今日は話すために来てるんだから」
落ち葉を踏みながら綾と話す。そのために来たんだし、今更隠し事をする関係でもないだろう。
俺は単刀直入に言いたい事を言った。
「神楽がさ、俺と綾をくっつけようとして煩いんだよ。俺達が付き合うとか、将来結婚するとか、そこに幸せはあるのか考えると、少し疑問に思っちまうんだ。でも、俺もお前も、他に付き合えそうな奴は居ない。大学生にでもなればまた別だけどさ……なんつーか……」
俺が言い淀むと、すかさず間を埋めて綾が口を開く。
「出すぎた考えをするのね、公平くん。でも、確かに私みたいな性格だと、今居る貴方を大切にしなくちゃならないし、大学生になって友達が増えるかもわからない。だから、将来結婚できる可能性のある相手を捕まえとくっていうのは重要だわ」
そこで綾は一歩前に躍り出て、俺の手を離した。くるりと一回転し、言葉を続ける。
「でもね、そんな理性的な考えだけじゃ、結婚はできない。人間には心がある。その心の日を燃やし、熱くなるぐらいその人を好きじゃないと――付き合うなんて、そもそも無理なのよ」
「…………」
言われてみると、俺の話した内容は物事を冷静な視線で捉えたもので、感情的な要素が少ない。楽しい人生を歩めるかどうかという効率を考えた時点で、相手を思いやる気持ちとかがなかった。
「――貴方はどう? 私の事をどう思ってるの?」
目を見て問われる。真摯な瞳だった、嘘は許されないだろう。俺が綾をどう思ってるか、自分の感情に従って考える。
綾はいつだって俺を助けてくれたし、楽しくはないけれど、ためになる話をしてくれた。与太話をすると蔑視され、真面目に話すと結構笑うこともあって、その笑顔が綺麗だった。
「……お前は綺麗だし、話してて悪い気はしない。だから、一緒に居たいと思う」
「……。それは、告白?」
「そこまで強い想いじゃないんだ。いつの間にか、一緒にいるのが当たり前だったし……このままでも良いって思う。恋人になったところで、俺達は何かが変わるのか?」
「変わるわ」
綾は即答して、両手を広げた。一歩前に踏み出して、俺の体を優しく抱きしめてくる。長く一緒に居るが、こんな事は初めてだった。
「恋人になれば、こんな事だってできる……。どう? 悪い気はするかしら?」
「……いや」
そんな事はなかった。いつもクールでお堅い性格だからこうして触れ合う事はしなかったけれど――柔らかい体だった。体重を掛けられ、少し後ろに仰け反る。
いつも見てきた人間なのに、抱きつかれると、超人みたいな彼女も人間なんだなって思ってしまう。女性らしい丸みのある柔らかい体。異性相手だからってドキドキする事はない。それは彼女が知的な人物故だろう。
欲情する事はなくても、どこか嬉しい気持ちになる。綾がここまで開放的にぬる人物は俺ぐらいだろう。認められてる――それがなんとなく嬉しい。
「……あんまり、実感湧かないな。ずっと隣を歩いてるだけだと思ってた女が、こうして抱きついてるの」
「そうね……けど、もし恋人になれたなら、これが日常になるかもしれない」
「…………」
抱きつくのが日常的になる。はたまたそれ以上の事も――。
なんだかそれって、幸せな事のようで――。
綾の言った感情的とはこの事なのだろう。俺は綾を抱きしめ返した。
「恋人になるのも、悪くないだろうな」
「ええ、そうでしょう?」
「……そしたら、お前は俺をどう思ってるんだよ?」
「…………」
俺が尋ねると、俺のおでこに彼女のおでこをコツンとぶつけられる。彼女は不敵に笑いながら、優しい声調で呟いた。
「……バカね。好きでもない男に、こんな事するはずないでしょう?」
儚く笑いながら告げられる言葉。予測していた事だけれど、俺に対する想いは熱いものだったようだ。
嫌な気はしないし、そんなことを言われたら断れないだろう――。
10月31日、紅葉に囲まれながら、俺達の関係は1つ上にシフトした。
言葉は必要ない、俺達はそれほどまでに深く信じ合っていたから。
大切な思い出となったこの日、秋の風が優しく吹いていた――。




