表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/732

多くの縁..


ドン!! ドン!!


 朝、大きな火薬と魔法が破裂する音が寝室に響いた。一糸纏わぬ姿で起き、目を擦る。一人用のベットで背を伸ばし周りを見渡すと愛しい人は居らず寂しく感じる。トキヤは別の部屋で寝ており、まだ起きてないらしい。魔法で音を拾うと寝息が聞こえる。


「大きな音で起きないのですねぇ」


 ベットからおり、下着をつける。いつもの体のチェックよりも外の歓声が気になるからだ。来たのだろう、きっとオペラハウスのパレードが。


「………一度見ていますから」


 気になりはする。しかし、2度目の感動は浅いだろう。


「起こすべき? それとも寝るべき?」


 せっかく下着は着けたがもう一回脱いで寝るべきかもしれない。潜り込めば怒られるのは起きた私が怒られる。寝る今の私には問題ない。怒られるのは先伸ばしである。


 下着でも着て寝れば怒られないのだろうけど寝辛いので嫌である。ここの宿の布団の絹の心地がいいのだ。洗剤のいい匂いもする。


「うーん、どうしよ?」


 トキヤを襲うのは難しい。彼の対婬能力はスゴい。誘惑出来ないのである。過去の占いに誘惑されているため、全て弾くのだ。それはまるで呪いだ。


 それと私の事はかわいい大事な女の子と思っていてくれるため大事に大事に愛でられている。もっと無茶苦茶してもいいと思うのだが夢でも頭をヨシヨシしている。


 会ったときの方が性欲は大きかった筈なのに………家族と言う枠になると変わって、愛でるような触れあいに変わっていった。それに不満は一応、無い。


 何故なら誘惑出来ずとも一緒に寝ることは出来る。ソロリと私は隣の部屋に音を消し忍び込んだ。部屋の中はベットに執務机があり、着替えも壁にかけてある。鎧を鎧置きにしっかり飾っていた。

 

 トキヤは軽装で寝ることが好きだ。生肌で擦れるのを嫌う。逆に私は好む。


「本当、なんでこう違う事。私しか彼の事を知らないことがあると………………愛おしいのでしょうね」


 部屋は魔法陣のおかけで静かで、愛おしい寝息が耳を撫でる。微かな音、だけど特別。


 誰もいない。私にしか聞こえない音。彼は安心して寝ることは少ない。今だって剣を立て掛けてある。いつだって剣を持てるように。


「油断してるぞ、勇者」


 昔は持てなかった大剣をゆっくりずらし遠くへ置いておく。いきなり斬りかかられるかもしれないのだ。危険ではある。


「………すぅ」


 トキヤは起きない。昔は仮眠が多く、いつだって戦えるほど気を張っていたのだが今はその影もない。私だけに許している寝顔。きっと私だけ、反応しない。そそくさと一人用のベットに潜り込む。


「ん………ああ、暖かい」


 肌にトキヤの暖かさが沁みる。たくましい腕に頭を乗せる。これでも起きない彼。


「やっぱり、油断してる」


 声も聞こえないのか、ぐっすり眠る。


「むにゃ………ああ、んぐ………へ~」


「変な寝言」


グルン!! ダキッ!!


「!?」


 トキヤが体を横に向け私を抱き締める。いきなりの事に体が硬直した。お、起こしたかも。


「ん…………ぐぅ」


「お、おきて………ふぅ!?」


ムニュゥ!!


 体に電撃が走ったかのような気持ちよさが胸からする。トキヤの大きな手が私の胸を揉んでいた。


「ヤバイです!! 気持ちいいです!?」


 右手だけで揉まれ、感じてしまう。2度寝どころじゃない。


「どうしよ!? どうしよ!? このままでは………婬魔になる!! あっ。別にいいのか。おやすみ」


 私はあっさり諦めた。





 良く寝た。最近深い眠りが俺をダメにする。もっと緊張した方がいいが何故か良く寝てしまう。


ムニュゥ!!


 何故か手に柔らかい感触と少し固い感触があるつまんでしまう。


「んんん?」


 目の前に、綺麗な髪の女がいる。もちろん心当たりは万とある。


「ネフィア?」


 愛しい名前を呼ぶ。


「ん!?………あふ………おひゃよう………トキヤ」


「何故!? お前がここに!?………あっこれお前の胸か」


ギュウウウウウ!!


「ああああ!! 痛い!! やめて!! 変な形になっちゃう!!………でもトキヤなら我慢し………いたたたたた!!」


「なんでここに?」


「はぁはぁ………2度寝しようと」


「敵情のど真ん中で?」


「私の侵入を許してるのにそんなこと言うの?」


「…………」


「…………」


「寝るか」


「うん!! ここたま、ここたま~トキヤって昔から本当に優しいね~へへ、気持ちいいなぁ」


 別に、急ぐことでもない。自分は彼女を抱き締めて眠りにつく。


 女の子の体は柔らかく。いい匂いがするもんだ。





「素晴らしいパレードだな」


 俺はテラスから眼下を覗く。


「ええ、これもトレイン様の力です」


「ふん………力か。全員、魔国を見に来ただけだろう。それでいい。奴等の場所はわかったか?」


「はい。居場所はわかりました。エルフ族長が見つけたようです」


「仕事はする。奴はな……ただ最近、魔王にゾッコンらしいのも変な話だ」


「はい。どうしましょうか?」


「刺客を送っても無駄だ。泳がしておけ………結局誰もついては来ないだろう。エルフ族長がなにしようとな」


「いかにも、利益がないですからね……彼についても」


 テラスから部屋に戻る。ベットに首輪と手枷で縛られた女を眺めた。綺麗な金色の髪、整った顔立ちで目に涙を浮かべて泣いている。姿、形を似せた影武者。婬魔を買い、似せるまで変化をさせた。非常に憎らしい相手の姿だが人に近い綺麗な肌などを見るとさすが婬魔と思うのだ。


「うぐぅ………ぐすん………」


 まだ、小さい子を買った。しかし、体は大人顔負けの素晴らしい肢体。もちろん、楽しんだ。


 だから泣く。股の痛みに。赤く腫れ、血と白い何かがベタついている。


「お楽しみでしたね。洗っときます」


「ああ、憎き女を象ったのを犯すの憂さ晴らしにいい…………」


 終わってしまえば偽物。売り飛ばすつもりだ。


「ひぐぅ……………ううぅ」


 娘の泣き声が自分がデーモンであることを思い出させるのだった。





 夢、誰の夢だろう。


 トキヤと、ランスロット………と誰だろう。


 何処かのテント前で焚き火をしている3人。一人の表情は読み取れない。ただ、格好は兵士だ。


 トキヤとランスロットの姿は黒騎士と白騎士。それだけでわかることは過去の光景の夢である。


「英雄ってどうやったらなれるのですか?」


「英雄?」


「英雄ですか?」


「二人は英雄っと名高いです。トキヤ殿は魔物っと言われ、敵に畏怖を与える存在。ランスロット殿は皇子として、トキヤ殿と一緒に前線で指揮を取り多くの成果をあげています」


 トキヤがつまらなそうに言い放つ。


「英雄な。どうでもいい」


「トキヤ、せっかく訪ねてきたのに」


「………じゃぁランス任せた」


「はぁ………君、彼はいつもああだから気にしないで」


「は、はい」


「英雄………だったかな」


「はい!! 俺!! いつかなってみたいんです!!」


「そうなんだ。でも僕たちは英雄じゃないね」


「そんなことはないです!! 名前は皆知ってます!! だから教えてください!!」


「多くの奴を屠ればいい」


「極論だ。彼の言葉は聞いてはいけないよ………教えてあげるほど僕たちも出来た人間じゃないから難しいね」


「全くだ。英雄なんてなろうとしてなれるものじゃない。それに………なんでもない。なりたいなら努力だな」


「努力ですか?」


「努力だな。だが英雄になるのは一握りだ。戦争で1000人殺せばたちまち英雄。結局、結果しか見てない民衆がつける評価さ」


「わかりました!! ありがとうございました!!」


 夢が明ける。





ドンドンドン!!


「起きるのじゃ!! いつまで寝てるのじゃ!! ぬしら!! 客人を待たせ過ぎじゃ!!」


「!?」


「んあ………ああ。誰か来たのか」


「………声聞くとヨウコ? 私が行くね?」


「その姿で?」


「あぅ……きゃ……きゃぁ」


 布団を寄せあげて体を隠す。変な夢を見たがそれどころじゃない。恥ずかしい所を見せる所だった。


「今さらだけどな。もっと羞恥を持てよネフィア。おーい待ってくれヨウコ嬢。ネフィアが服を着てない」


「えっ……あっ………ご、ごめんなさい」


「ヨウコさん。だから私は待とうと言ったではないですか?」


「だって、うちら………ごめんなのじゃ」


「まぁ待ってくれな。ネフィア、はよ着替えな」


「わかった。隣の部屋にいるね!!」


 慌てて、隣の部屋に飛び込み着替えを探す。下着をささっと付け。ワンピースと言う上下一緒の服を着た。鎧に関しては着る気はない。出歩くことはないからだ。髪を串で整え、紅や化粧は肌が痛むので止め。玄関前の部屋に戻る。テーブルに二人の知り合いが口論し、私服のトキヤは静観。止めにさえ入らない。


「遅かったな」


「髪、整えてたの」


「そっか………どうしよ」


「エリックはいつもそうなのじゃ!! この前、黙ってたのじゃが!! 夜は何処へ行ってたのじゃ‼」


「あれは打ち合わせに会いに行っておりました」


「嘘つくのはやめるのじゃ!! 体にキスマークついてたのじゃ!!」


「あれはヨウコさんがつけたものと何度言ったら………」


「場所が違うわ!!」


 うわぁ~初めて夫婦喧嘩を見た。


「二人とも、お待たせ」


「ネフィア!! 聞いてくれなのじゃ‼ こやつな!! 他の女と寝たんじゃこの前!!」


「寝ておりません」


「…………匂い、他の女とエリックの匂いがしっかりしたのじゃ」


「はぁ、あれは向こうから抱きついて来たのですよ………寝る気はなかったです」


「まぁまぁ。ああ言ってるんだし。器を大きく持って」


「お主はいいよのぉ………女癖悪い夫じゃなくて」


「まぁ、そうですね。でも、許すぐらいはします。最後に戻ってくるならね。それにそれを知って独り占めしようとするのですから許す事も必要では?」


「……………浮気許すのか」


 トキヤが私の意見に意外そうな顔をする。自信があるだけである。


「さぁ、テーブルに座れ。お茶菓子でも用意するから。ネフィアが」


「トキヤさん………怠惰になって……」


「言われて気が付いた………本当に怠惰になったな……」


「ふふ、もう。私がいないとダメなんですから」


 これこそ、依存させる手法である。


「楽だからなぁ…………」


「では、言葉に甘えて」


「むぅ、仕方ないのじゃ。今回だけじゃぞ」


 二人ともまだまだ付き合いが浅いらしい。席につき、紅茶とクッキーを用意する。クッキーは材料を買い作った物。調理器具さえあれば火は起こせるので簡単に作れる。暇潰しにささっと作った。


「いい匂いじゃ……いただく……んぐ!?」


 ブスッとしていたヨウコも口にいれた瞬間口を押さえながら、美味しさに驚き。機嫌が治った。


 クッキー自体は高値で売っている。理由は材料が高いからだ。砂糖が特に。


「うまいのじゃ!! はやり………高級菓子はいいのじゃ」


「良かった!! 昨日、焼いたんです。器具を借りて」


「!?」


「暇だったので、材料を買ってきて焼いたんです」


「そ、そうじゃったのか。お主がこれを………」


 一枚、掲げる。綺麗な小麦色のクッキー。調理法はトキヤから教わった。


 女性を口説くのに使う道具らしい。残念、トキヤが用意する前に口説かれちゃったね。


「美味しいですね。流石、姫様っと言ったところでしょうか? 女優でありながら多芸に富む。素晴らしいですね」


「毎回言ってますがそんな誉めても何も出ませんよ? あと女優ではないです」


「そち、ち~と女の目線からじゃが。軽く引くの…………出来すぎじゃ」


「元男ですから、誰よりの女性らしくなる努力は怠っておりません。私は理想通りです」


「…………ワシもちと、頑張るかのぉ」


 クッキーをハムハムしながら、ヨウコ嬢が落ち込む。何故だろう。美味しくないのかな。


「でっ? 二人はパレードいいのか?」


「ええ、あれは激しく演じたい方の集まりですから。それよりも姫様に会いに来るべきでしょう?」


「わぁ嬉しい!!」


「…………ハム、美味しい。美味しい」


トントン!!


「はーい」


ガチャ!!


「ネフィアちゃん。こんにちは」


「エルミアお嬢さま!! こんにちは!!」


 二人で熱い抱擁。エルミアお嬢は儀礼用の青い騎士服で現れる。短いタントなスカートに割れ目があり健康的な太ももが見える。足はニーソックスを履き、非常に格好よく美しい姿だった。


 そういえばヨウコ嬢も同じように足を強調したスカートを履いている。最近のトレンドでは無く。足に絶対の自信があっての服装だろう。男を誘う姿であり、彼女たちはそれを好んで着る。私は知っている。私はそれを認識出来ているが彼女たちは本能がそうさせるのだ。


「ん?」


 私は脇に鞄が置かれているのを見る。抱擁後、それに指を差す。言葉で言わず、首を傾げて「それはなに」を動作だけで伝えた。


「ドレス。エルフ族長からよ。純白のドレス」


「わぁ!! 見たい!!」


「でしょ!! 私も見たいから来たの!! 純白のドレスなんて着れないからね。トキヤ殿と何かあったかも思ってましたが大丈夫ね」


「それよりも見ましょう‼」


「そうね!! エルフ族のドレスって有名なのよ‼」


 キャキャと二人で部屋に入った。


「あら、私以外にお客さんね。始めまして。エルミア・マクシミリアンです」


 深々と、騎士の礼を行う。流石、元団長でピンっと背筋が伸びハキハキしている。


「あっ!? えっと!!」


「ヨウコ、落ち着いて。いつもの状態でいいんだから」


「………ヨウコ・タマモ・クリストです。都市オペラハウスの女優です。種族は獣人で狐です」


 エリックが立ち上がり、膝をつきながらエルミアの手を取る。


「エリック・クリストです。同じく都市オペラハウス男優であり、オペラ座の怪人として活躍させて貰っております。エルミア・マクシミリアンさま。なんと美しいお姿でしょうか、そんな綺麗なあなたにこれを」


 何処から出したかわからないが一輪のバラを手に持つ。


「あら、ありがとう? いいのかしら?」


「よくないのじゃ!! 何!! 余の目の前で口説いてるのじゃ!!」


「口説いてる訳ではありません。あまりの美しさに驚き、膝をつかせたのです。姫様と同じ、女性でありながら剣を持つ勇敢な女性は神々しく高貴で素晴らしい」


「ふふ、ありがとう。お婆ちゃんを誉めてくれて」


 私はお婆ちゃんが嬉しそうにしてるのに和やかな気持ちになる。エリックはヨウコに蹴られながら立ち上がり、ヨウコ嬢に謝った。


 ヨウコ嬢も大変な人を好きになった物だとつくづく思う。でも、怒りながらも笑みを溢すのは好きだからだろう。あえて嫉妬をさせているのではないだろうか。


「エルミアお嬢様。見てもいい?」


「ええ、見ましょう‼」


 鞄からドレスを出し、テーブルに置く。


「うわぁ綺麗~でもこれ…………私の鎧に似てる」


「けっこう露出があるのじゃ」


「ああ、お婆ちゃんには無理ね。露出が……」


 胸空きのドレス、腰には紫のバラの飾り。白いフリルにゆったりした衣装。主役が着るような衣装で少しエルミアお嬢様のお付きでは「ハデかな」と思う。鞄には白いハイヒールが入っていた。

 

「うーん? ハデかな?」


「大丈夫よ。私は気にしません………エルフは白がお好きですね」


「ですですね」


「いいわね、私は似合わないわ………きっと」


「着てみます?」


「………着てみます」


 ヨウコ嬢もやはり女の子。綺麗な衣装は好きらしい。


「私たちはどうしましょうか?」


「着替えは見ちゃダメだろ?………ん? 裸で寝てたなネフィア。いまさらか」


「そうですね。今更、女性の裸一つで騒ぐ事でもないですが。演技はしなくてはいけません」


ドンドン!!


「ん、丁度誰か来たようだな」


「あっ、ヨウコ。隣のへやで着替えてね‼ 私はちょっとお客さんの相手をしてくる」


「う、うん………はぁ。本当に綺麗な衣装」


 私は大きな扉を開ける。立っていたのは蜘蛛の女性。リディアとランスロットだ。遊びに来たらしい。


「ネフィア姉、遊びに来たよ」


「ネフィアさん。こんにちは」


「こんにちは~今、新しいお客さん来てるんだよ」


 何故か続々と人が集まってくる。


「エルミアさん、こんにちは」


「エルミアお姉さま。こんにちは」


「こんにちは」


「ん、彼は…………」


「ああ、初めてか。ランス!! ちょっと来い!!」


「ああ、初めてですね。僕はランスロット。元帝国の騎士です」


「これは!! これは!! 帝国の騎士様ですか!! てっきり何処かの王子さまかと思いました。私は、エリック………都市オペラハウスの男優でございます」


「パレードの主催者じゃないか!? トキヤ、何故そんな人がここへ!?」


「お前が言うな。帝国の皇子。まぁ~色々あって知り合いなんだ。嫁同士が仲が良くてな」


「そうなんですか。君は友達を作らないからやはりネフィアさんの関係だったね」


「少しバカにしてない?」


「バカにされてる事が分かればバカじゃないですね」


「おう、表でろランス。ちょっとお灸を据えてやる」


 少し、賑やかになってきた。クッキーを多めに焼いていたので大丈夫だ。


「それにしても、リディアと言いましたか?」


「あっ、私ですか? はい、リディアと言います。パレードはすごく見てて楽しかったです‼」


「これはこれは!! あなたのような綺麗な方に喜んでいただき光栄です。それにしても、あなた様はどういった種族で?」


「アラクネです。蜘蛛の魔物ですね」


「魔物ですか!? なんと美しいお姿のため種族がわかりかねました。魔物とはまた美しい物なのでしょうね。世の中の魔物、人を惑わすほどに」


「ええっと………すっごい褒められてる!?」


 アラクネがきゅっと縮こまりながら感謝を口にする。巨体に似合わぬ恥ずかしいそうな仕草は魔物とは言えず。ただの女の子と言える。愛だけでここまでかわいい仕草が出来るようになるのだ。さすが愛。


「ああ、すまない。エリックさん。彼女は僕の奥さんなんです。口説くのは少しお控えください」


「これはこれは、知っておりました。指に綺麗な贈り物がございます。素晴らしい姫様と結ばれたのですね」


「うっ………まぁ。はい。キザい。これが劇場の人なんですね」


「何!! し・て・る・の・じゃ!!」


ゲシッ!!


 隣に部屋からドレスのスカートをつかんで走ってくる狐耳の女性がハイヒールで蹴り上げた。


「ぐほ!?」


「目を離せば……すぐこれじゃ………はぁはぁ。初めまして。こいつの嫁。ヨウコじゃ。すまんかった」


「あっいえ………」


「私も褒められて悪い気はしませんでしたし………大丈夫です」


「ごめんなさいねぇ~ちょっと反省せんかい」


「…………男優ですから」


「開き直るんじゃない!!」


「ふふ、騒がしいね。ネフィアちゃん」


「ですねぇ~似合ってるよ~ヨウコ」


 ヨウコが着たドレスは、胸の谷間が強調されコルセットを締めるために余計に強調される。男を誘う白い花。ヨウコの耳が垂れ、凄くかわいい。照れている。


「そ、そうかの?………でも、ええのぉ~これ。ちと、胸が窮屈じゃ。あとちょっとで溢れるのじゃ」


 胸の布がキツキツに張っている。これは、本当にギリギリなのだろう。ちょっと触れたらダメそうだ。尻尾は出ていない。スカートの中にはギッシリ詰まっているのだろう。


「ヨウコ、きれいですよ。ヨウコは肌が白く、髪も狐色なので似合うのでしょう。ティアラは狐耳があるので要りません。ええ、恥ずかしくて垂れているのは可愛いですよ」


「………ありがとう。なのじゃ。買うのじゃ」


「ヨウコちゃん。私から譲って欲しいと言っておきます」


「エルミア姉!! ありがとうなのじゃ!!………ふふふーん!! あの服もいいのじゃがやはりエルフ族の衣装じゃの!! なかなか高くてのぉ」


 今まで赤、紫、黒など。黒い姫様役ばかりだったから。反動できっと凄く着てみたかったのだろ。この前、着ていた服も白だったが。ここまで装飾やバラの飾りや全体のバランスがいい服では無かった。私たちはドレスでひととおり、楽しんだあとにまた部屋に着替えに戻る。


ドンドン


「はいはいーい」


「今日はお客さん。多いわね」


 また、お客さんだ。エルミアが笑いながらクッキーを食べる。


ガチャ


「こんにちは姫様」


「こんにちはネフィアお姫様」


 今度は教会の盟主とその盟主にくっつく聖霊が遊びに来たのだった。本当に多い。




 俺はランスと二人で酒場に出向く。酒場の文化は帝国と変わらない。そう、何処へ行っても人間の文化が根付いている。だから、楽に飲めるし楽しめる。人間の冒険者が多い理由はどこでも食べ物が似ている事に起因するだろう。


 エリックや、吸血鬼セレファを誘ったが仕事があるらしく断られた。エリックはパレードの主催者であるし、セレファは部隊を用意してエルフ族長から土地を買った後、こちらに新しい教会と言う兵隊の駐屯地を作るそうだ。


「二人で飲むのは久しいなぁ」


「そうだね。二人の話を聞きたかったのだけど。仕方がないね」


「ああ、俺らは暇人さ」


 二人はこれから率いていくものがある。昼間に仕事を抜けて遊びに来てくれただけでも感謝しなくてはいけない。ネフィアが嬉しそうだった。今まで、誰にも関わって来なかったのだから。存分に関わって欲しい。


「にしても、あいつ。『飲みに行く』て言ったら。なんか過去に英雄について聞かれたな」


「『英雄になるには?』ですね。変な質問ですね」 


「………誰だったか? 聞いてきた奴が居たような~」


「君は興味が無さそうにしていたから記憶に残ってないんだよ。僕は覚えてる。『凄く憧れている』と聞き、僕たちは助言をしたんだよ。名前は思い出せないですね」


「思い出した………兵士に居たな。若い」


 確か名前は知らないが俺らのテントに現れては話を聞いていた。今になって思い出すのは言われないと思い出せない程。どうでもいいの事だった。


 しかし、ネフィアの予知夢は恐ろしいほど正確だ。「夢でも見た」と言っていたから何かあるかもしれない。何かを予見しているのかも。


「気をつけるに越した事はないか………」


「いったい何でしょうね? 英雄とは」


「黒騎士は英雄」


「極論ですね」


 極論でも。俺が英雄言えば英雄なのだ。


「まぁでも、帝国のお偉いさんが来てるなんてなぁ」


「黒騎士団長もおりました。妹も」


「いたのか?」


「会いに行きました。黒騎士団長は不在でしたが。妹君はトキヤのことを気にされてたね」


「気をつけよう。俺がいる情報も買っているのだろうしな。黒騎士団長は騒ぎを起こさないが。あいつは違う」


「倒そうとしたのは覚えてるよ」


 過去に一度暗殺未遂があった。依頼者は妹らしい。今のネフィアなら、全く大丈夫だろう。


「父の血を色濃く継いでますね」


ぞわっ


「「!?」」


 俺たちは剣を掴み周りを見渡す。ヒシヒシと伝わる殺意に目を張り巡らす。敵視だ。


「感じたな」


「感じましたね」


「いないな」


「………いえ。います。見ていますね」


「…………今日は帰らずに部屋を借りよう」


「そうですね」


 何かわからないが、敵が見えない。俺たちは酒場の店主に鍵を借り。部屋に入った。剣を立て掛けて仮眠を取る。ネフィアには店主に「敵を迎え撃つため籠城する」旨の伝言を頼んだ。


 来るなら、いつ頃来るのだろうか。ゆっくりと時間だけが過ぎるのだった。見えない敵こそ本当に注意すべきである。












 



 









 





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ