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魔国首都イヴァリース..


 旅は順調だった。パーティメンバーの吸血鬼と精霊のコンビ。風の魔法使いトキヤと炎の魔法使いの私のコンビは沼地の魔物を退け、深き不浄の森を進み抜ける。


 大きくなった精霊は天使のような姿であり吸血鬼とは異質の世界観があった。魔物を切り払う天使は如何にも聖なる者だった。


「綺麗~」


「ありがとうございます。姫様」


「ええ、インフェは美しい」


 何故、彼が強者で教会を纏められたかを私は知る。吸血鬼としての強さよりも彼女と言う存在が一つ二つ、吸血鬼の中で飛び抜けた強さを持っていたのだ。絶対に防御が出来ない霊体の刃は恐ろしい。


「んっしょ」


 インフェの体が輝き。小さな幼女へと姿を変える。


「時間切れです」


「さっくり倒せたので沢山愛でることが出来ました。魔物に感謝です」


 蜘蛛魔物の死体を退かせて馬車を進める。少しづつ森が明るくなっていった。出口は近く花の香りが強くなる。


「そろそろ、不浄地も終わりだな」


「そうですね。花の香りはいつも通り」


 森の出口。そして現れる情景に嘆息。トキヤが喋りだす。懐かしそうに、私は彼を見る。彼と出会った土地。


「魔王の土地イヴァリース。不浄地の中の楽園」


「ははは!! インフェ!! 凄いですねこれは!! 聞いていたよりも絵よりも!! なによりも!! 昔に謁見許されてませんからねぇ、初めてですよ」


「ご主人様………インフェも驚きで声が出ません」


「私は帰ってきたんだね」

 

 目の前に広がるは花の楽園。彩り豊かな花の草原。そう、イヴァリースは北の不浄地の中で唯一無二の場所。畑も、小川も、全て清らかな場所なのだ。何故かは知らない。


「俺は帝国で魔国の首都は醜いと聞いていたから、最初は驚いたよ。汚れた地の聖地に………聖地だからこそ。上の者しか住めないのだろうが、この花園は何処にもない」


 ゆっくりと馬車は道を進む。花の匂いに包まれた荷台から聖霊は飛び出し花の上を舞う。


「インフェああ、なんとも綺麗な光景でしょうか」


 少し荷台でうっとりしている吸血鬼がいるが、気にしない。


「荷台のあいつ。お前みたいだな」


「あんなんじゃない!!」


「本当?」


「………す、少しは」


 目線をそらす。心当たりがある。


「まぁ、にしても魔物は居ないな」


「居ないからこそ、聖地。ワイバーンはいるけどね」


「ワイバーン繁殖地」


「そうそう」


 夏ごろなら、多くのワイバーンを見れると聞く。


「にしても穏やかだな」


「穏やかだね」


「おっ!! 見えた!! 小さい城が」


「本当だね!! 懐かしい!!」


「懐かしいなぁ~最初は性格がなぁ」


「うっ!」


 胸を押さえる。昔の自分を思い出し、なんとも恥ずかしい思いになる。


「かわいかったなぁ」


「んん!?」


「ツンツンしながら、頼って来るとこ……もごぉ!!」


「黙って!! お願い!! 忘れて!!」


「……」


「うぅ。昔は子供だったの」


 トキヤはすぐに昔を掘り返す。恥ずかしい思い出を仄めかしいじめるのだ。


「はぁ、まぁ~思い出だしなぁ。今も子供だろ」


「………」


「お二方、聞きたいのですが………どうやって門を潜るのです?」


「それは、簡単ですよねトキヤ」


「簡単だな。馬車は置いていくよ」


「ほう。では、お手並みを拝見しましょう」


 ゆっくりと私たちは壁へ歩を進めるのだった。





 数時間後、私たちは門とは離れた場所の壁の下に馬車を置き見上げる。陽の穏やかな日射しが私たちを照らし。吸血鬼を弱体化させた。苦しそうである。


「よし、こっからにするか?」


「壁への潜入って初めてだね」


「今まで普通に門がくぐれたからな」


「久しぶり? 戦時中?」


「お前に会いに来るぶりだな」


 トキヤが魔法で足場を作る。魔方陣が階段状に重ねられ、トキヤはそれを登った後。用意していた紐を垂らす。


 次に必要な物を括って、トキヤが持ち上げる。それを数回行った。ドレイクは重すぎたために手綱を外して放牧する。最後は自分の腰に紐を括って引っ張りあげて貰い。吸血鬼は蝙蝠に変化し登った。登った瞬間貧血で倒れ休んでいるらしい。最後に私が引っ張られる。


「おっも」


「私は重くない。鎧が重い」


「いや、鎧を加味してたより……重いなって……やっぱり」


「上がったら殴るよ?」


 女性になって、怒る事柄が変わった気がする。紐で引っ張られ壁の上に到着した。そして、今度は反対に荷物を下ろし同じように私を下ろす。


 すんなり、壁を越えた私たち。荷物から身隠しのローブを着た後に宿屋を探すのだった。





 何処とも変わらない造りの城下町は賑わっている。人間や他種族の騎士が牽制しながらも観光を行い。衛兵が目を光らせていた。


 彼等は主人の護衛でここまでついてきた者たちだろう。敵同士もいるだろうが、ここで事件を起こす気はないらしい。


 待ち合わせばトキヤと探している途中。知った声に出会う。


「こんにちは、トキヤとネフィアさん。僕です。ランスロットです。大分、遅かったですね」


 一人の騎士が自分達を見つけて声をかけてくれる。彼はトキヤの珍しい友人の一人。帝国の皇子ランスロットだ。物語の美成年の王子が出てきたかのような人で、トキヤとは違った男らしいイケメンだ。


 トキヤの次に顔はいい。声もすごく耳元で囁いたらコロッと逝くだろう。友人のアラクネ女の子はそうだ。コロッと惚れた。惚れてしまった。魔物をあっさりやめるほど。


「ごめんなさい。オペラハウスで女優の真似事して、インバスでデーモン倒してたんです」


「仕事でな」


「君は本当に依頼をよく頼まれるね」


「お前もだろ?」


「僕は奥さんと新婚旅行を楽しんでたさ。四天王のアラクネが泊まる場所に泊まっているよ」


「ランスロットくん!! 奥さんは?」


「部屋で待っているよ。では行こう。案内するよ」


「待て。ネフィアを頼む。俺は新しい知り合いを連れてくる。ネフィアは部屋を用意しておいてくれ」


「はーい」


「トキヤ? 新しい知り合い?」


「後で紹介する。まぁ~元依頼主さ」


「わかった」


 私はランスロットについていき。表通りから離れた宿屋へ向かった。そこで部屋をとり、その場所にトキヤが彼等を連れてお迎えする。部屋は大型の亞人用に広かった。





 私は衛兵がばか騒ぎする酒場で今日もダークエルフ族長と飲む。最近しょちゅう一緒に飲む。


「そろそろ、妹を引き取って欲しい。人質いらないぞ」


「家事は出来ているだろ?」


「家事は確かに楽できているけどな。人質としていつも居るのは………ちょっとなぁ」


「仕事させればいい。衛兵の管理でもさせとけばいいだろう」


「……………出来るか?」


「元々、管理職は得意だ」


 妹としてコキつかって来た。


「わかった。考えとく。そう言えば外壁に乗り捨てられた馬車と、ドレイクが放牧されていた。馬車を調べた結果、馬車のマークに都市インバス、教会と言う組織の印がある。紐の擦った後も確認され。潜入した痕跡が残っている」


「……でっ? 何が言いたい?」


 バルバトスの顔を覗き込む。冷や汗をかいているのがわかる。


「表から入れず、都市インバス教会にツテがある人。あの高い壁を簡単に潜入を行う事が出来る人物…………予想だが、姫様じゃないか?」


「そろそろ来てもいい頃だしそうかもしれないな」


「………叫んで店を出ていくかと思った」


「安心しろ、飲み終わったら探しに行く」


「行くのか」


 一気に飲み干し、銀貨を置いて立ち上がる。


「酒場を廻り。情報を集めればすぐに会えるさ。『目立つ』。どこにいようと」


「後で教えてくれよ」


「お前も来い」


「えぇ………」


 渋々といった感じで立ち上がった。


「仕方ない。付き合おう」


「では、会いに行こう。夜は情報が集まりやすい」





 次の日、集めた情報の元。アラクネの種族がトロールや大型者たちが泊まれる数少ない宿屋に居ると部下から情報を貰った。そして、そこへ向かう。


「四天王ではなく。冒険者らしいアラクネが人間と一緒に長い間、滞在しているらしい」


「アラクネか。四天王以外は初めてだな」


「ああ、四天王以外に話ができる者がいるとは思わないからな。しかし、何故か匂うアラクネだった」


「商業都市から来ただったか……」


「時期が重なる。滞在された時期が……かの人と」


「知り合いかもしれない」


トントン


 宿屋の大きな廊下から大きな扉を叩く。アラクネの滞在者がいる部屋を教えてもらい。戸を叩いた。


「はーい」


 優しそうな女性の声が聞こえる。四天王アラクネ以外では初めての相手。何が起こるかわからないがあまりの毒気のない声で首を傾げた。


ギィィィ


「えーと、どちら様でしょうか?」


 対応する女性は四肢胴体が蜘蛛であるが上半身は

人間に近く、紫のドレスを着込んでいる。四天王とは違い。お上品な立ち振る舞いであり知性を感じさせる。


「エルフ族長クレデンデ」


「ダークエルフ族長バルバトス」


「あら!? ネフィア姉に会いに来たのですか?」


「「!?」」


「ふふ、図星ですね。では、聞きます。敵か否、ここで私に食われるか、夫に斬られるかを選べ」


 雰囲気が一変、重々しく張りつめた。よく知っているアラクネを思い出す。そう、アラクネという種族は私たちを喰らう魔物だ。しかし、戦う必要は無いようだ。


「誤解を、姫様に会いに来たのです」


「ええ、姫様に謁見を」


「…………トキヤさん!! ちょっとお願いします!!」


 知った名前を呼ぶアラクネ。知った人物が顔を出し。お辞儀する。


「トキヤさん? 知り合いですか?」


「ああ、知り合い。ネフィアに会いに来たんだろ? 通していいぞ」


「数々の御無礼。すいませんでした」


 アラクネがおじきする。四天王のアラクネに爪のあかでも飲ませてやりたい行為だ。まぁもう絶命していると広まってはいるが。そう、姫様が断罪した。


「では、こちらへ。ネフィア姉さんにお客さん!!」


 アラクネが振り向き声をあげて呼ぶ。そして、奥から現れる白のドレスを着込んだ姫様が表れ、手を振ってくださる。なんと美しい姿か。


「姫様、お久しゅうございます」


「こんにちは。姫様…………こんなに早く会えるとは」


「お久しぶり。グレデンデさん、バルバトスさん。遊びに来たのですか?」


「いえ。姫様がいらっしゃると思い。謁見をするために探しておりました。アラクネを従えていらっしゃるとは流石姫様でございます」


「従える…………といいますか。友人ですね」


「失礼しました」


 なんと、アラクネを友人として迎える器量。感服します。


「んん、なんか……むず痒いです。なんか……敬われてて」


「まぁまだ魔王だしなぁ」


「もう、魔王辞めるし。気を緩めて欲しいね~。譲位はすぐに行う予定です」


「だってよ。グレデンデ……」


「わかりました。では、私たちも場所の確認は出来たのでまた今度はお酒でも持参します」


「うん、待ってる。魔王城での宴会もまだまだ先だしね」


「10日後ですが、参加されると?」


「いいえ、忍び込み。皆の前で宣言すればそれで終わりです」


「それでしたら、少し考えさせてください。バルバトス、2日後でどうだ?」


「ええ、仕事空けときます」


「それでは失礼します!!」


「はい、また…………バルバトス」


「はい!! 姫様!!」


「得物、変わった?」


「ええ、今度は掴まれませんよ姫様」


 俺たちは立ち上がり、その場を後にした。





 寝室のテーブルで椅子に座りながらランスロットが本を読んでいる。本を閉じ、椅子から立ち上がりアラクネの元へ。私たちはそれを見ながら首を傾げる。


「うーむ。私の場所はすぐバレてるね」


「ランスの奥さんが隠れ蓑としてはいいけど、知り合いと疑われたら見つかるからな、目立つし」


コンコン


「リディア、また誰か来たみたいだね」


「誰でしょう?」


「気を付けて出るように」


「はい」


 リディアと言う姫が扉を開ける。


ガチャ


「こんにちは綺麗な蜘蛛姫さん、ネフィアさんいるかしら?」


「えっと、どちら様でしょうか?」


「ふふ、エルミア」


「!?」


 私は、椅子から立ち上がって部屋の入口に駆け足で向かう。そこに立っていたのは肩に紋章が大きく描かれた女性用の甲冑に身を包んだエルフ。ハイエルフの気品のある女性が立っていた。懐かしさと、驚きで私は口を押さえていた。


「久しぶり、ネフィア。覚えてるでしょ? エルミアよ」


「えっと!! エルミアお姉さん!? なんでここに!?」


「……………ん? エルミアお姉さん?」


「あっ……えっとお嬢様?」


「ええと。まぁその立ち話もあれなので部屋にどうぞ」


 リディアが案内する。ほしい飲み物を聞き、部屋の奥へと進んだ。アラクネは何処で覚えたか、紅茶を丁寧に淹れる。トキヤは少し眉を動かしたぐらいで驚きは浅かった。エルミア姉さんは皆に軽く挨拶を済ませる。


「ありがとう」


「リディア、隣の部屋へ行こう」


「はい。私たちは別の部屋で待機しております」


「ええ、僕たちはお邪魔ですね」


「あら、ごめんなさい。気を効かせて」


 二人が隣の部屋へ。何かを感じたのかそそくさと部屋を空ける。


「彼、帝国の皇子ランスロットね。新しい魔王が呼ばれて帝国の代表者で来たのね」


「いえ、彼はただの旅行者ですねエルミア嬢。アラクネのリディアと結ばれ、帝国に帰れなくなりましたので」


「あら」


 トキヤの説明に驚きはするが、納得もしている様子だった。雰囲気から仲の良さがわかるらしい。私はお尻を擦りながら思い出を思い出す。よく叩かれた事を。


「えっと、エルミア姉さん。何故、こんなところへ?」


「マクシミリアンの家に招待状が届いたの………でっ新しい魔王の様子見にね。後は情報屋で『貴女に会える』て思ってここまで来たの」


「わ、私に? お尻、叩きに?」


「違うわ。………トキヤさん」


 エルミアがトキヤに困った顔をする。何か説明を『欲しい』と目で訴えており、私は少し狼狽えた。


「ああ、エルミア。昔とちょっと違うんだ」


「そ、そう。ちょっとこう………変わりすぎて。あなたネフィア? あの? ネフィア?」


 私はちょっとバツが悪い表情をする。


「ええっと。あ、あのときはお世話になりました。色々、女性のあり方とか、戦い方とかの基礎をありがとうございます。えっと昔の自分はその」


「シャキッとしなさい!! 言いたいことはハッキリ言う!!」


「は、はい!! えっと!! 女になりました!!」


「!?」


 エルミアお姉さまは再度トキヤをみる。


「エルミア嬢。俺を見つめられても。驚いてるんだろうけど色々あったんだよ」


「そ、そうなの。女にね………ふぅ……ん!!」


フワッ!!


「えっ!?………!!!」


 エルミアが立ち、私に近付く。そして勢いよく私のドレスのスカートを捲る。慌てて股を両手で押さえ睨みつける。


「エルミアお姉!!」


「………うんうん!!」


ギュウウ!!


「ほ、ほえぇ?」


 エルミアが私に抱き付く。いきなりの行動の連続で怒りも全てわけが分からなくなる。


「ふふ、あれから風の噂を聞いてた。色々あったのよね。うん頑張った。頑張った。いい女の子になったね。捲られて恥ずかしがるのは確かよ」


「エルミアお姉………うん。頑張ったよ」


 鎧なのにスゴく胸が暖かい。


「うんうん、可愛い可愛い」


「う、ふしゅ………」


「本当に乙女になっちゃって………トキヤ殿」


「は、はい」


「絶対、泣かせるなよ。私が許さない」


「残念ですが泣き虫なんですよこいつ」


「そ、そんなことないよ!!」


「綺麗な涙、流せるんですよねぇ………本当に俺と違って」


「そうなのね。この指輪はあなたが?」


 エルミアが離れ。私の手を取り、綺麗に紅く輝く宝石を見つめる。


「ええ、エルミア嬢の言う通りです」


「ふふ。ネフィア、しっかりね」


「も、もちろん!! 教えて貰ったこと本当に役立ってます。お尻叩かれたのはいい思い出です」


「あー本当にいい子になっちゃって。頬、ふにふにね。若いっていいわぁ~おやつ食べるかい?」


 また抱き締められ頬を触られる。おやつは持ってきた小袋にクッキーが入っているらしい。おばあちゃんぽい。


「エルミア嬢。ええっと再会の抱擁中すみませんが用事とは?」


「ただ、会いに来た。そしたらこんなに可愛くなって。本当にそれだけ」


「んぎゅう~」


「そうですか」


「エルミアお姉。そろそろ鎧が痛い」


「ごめんね………そだ!! 私もこの宿に泊まろう」


「えっ?」


「独り身はな……寂しいからね」


 そう言って、離れた彼女は身支度しに借りている宿に戻るのだった。






















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