都市インバスの太陽..
教会へ帰ってきた。二人を別々の部屋で横にし、疲労に効くと言う薬をいただき薄めて飲み込ませる。夜になっても光は小さくなったもののまだ照らし続け、悪霊とスペクターが現れても影のある場所から動かさせず、恐怖を覚えさせていた。彼らには恐ろしいらしい、あの光が。
「………ん」
「起きたか? いや……寝言かぁ」
「トキヤ……むなぁむなぁ………もう仕方ないなぁ。いっぱい飲んであげる」
「呑気だなぁ~」
頭を撫でる。本当に寝てる姿は可愛らしい娘のように幼い。
「トキヤのせいえ………むぐぅ!?」
「おい!! 起きろ!! 変な夢見るな!!」
今さっきの穏やかな空気がなくなる。なんちゅう夢をみてるんだ。
「むぐぅ!? んん!! ぷは!!……………あれ?」
「くっそ、かわいいと思ったのに………」
「…………あれ? あれ? せい? えきは?」
スパーン!!
「痛い!? ん?……………あっ!! トキヤ!!」
「やっと起きたか……」
自分はため息を吐く。本当に調子が狂う。女になって大概の事に動じないのはすごいと思うが、その結果で俺の穏やかな気持ちが吹っ飛んだ。
「ネフィア、寝言はかわいいので頼む。本当に周りの目があるんだぞ。特に今回は」
「痛い……叩き起こされた。私が何をしたんだよ~」
「ごめんな……しかしな……まぁ……うん」
説明する気もおきない。
「うぅ………頭がヒリヒリするぅ………」
「ネフィア、火傷は大丈夫なんだな?」
倒れているネフィアは皮膚が焦げていた。今は全くそんな事はない。ツルツルだ。
「それよりも今は頭が痛い……叩きすぎだよ……」
さすがは亞人。人間より生命力が高い。回復魔法と薬を用意すればすぐに軽傷は治る。
「ごめんな」
一応頭をさする。ニコニコと頭を自分に委ねるネフィアに平穏が訪れたことを知る。
「うん。でっ……ここは教会?」
「ああ、そうだ。強敵だったぞ、一瞬で夢の世界に導き深淵に落とし込む奴だった」
「…………ふーん。あっ!?」
ネフィアが立ち上がろうとする。それを慌てて肩を掴み静止させた。
「ネフィア!? どうした!?」
「ヨウコは!? ヨウコは大丈夫なの!!」
「あ、ああ。大丈夫だぞ。隣の部屋だ」
「そっか…………良かった」
「何があった?」
「それは………」
壁での出来事を聞く。内容は予想通りの仲間割れだった。そして最初から、ネフィアを連絡係として用意させられた事。ネフィアの能力を知り、エリックが苦戦するようならエリックもろとも崩壊させる。ただ誤算は放火砲を炎の魔法に近い物だったと言うこと、それをネフィアが知っていたことだった。
「声が聞こえたんだ~」
「ん?」
「『絶対、認めません。そんな結末を』て」
たまにネフィアは変なことを言う。まぁそういう変なことは戦場では普通にあることなので気にしない。それを含めて指輪を渡したのだ。変人なのは覚悟の上。
「そうか、女神によろしく」
「うん!!」
満面の笑み。疑わない。神の存在を。
「終わったね………よかった。何もなくて」
そういえば、怪我はしていない。精神も蝕まれてない。エリックは笑っていたが………今思えば、無理をして笑っている気もする。
「無傷だな珍しく」
「珍しく、私の方が傷だらけ」
「……護れなくてごめんな」
「……うん、護って貰えなきゃいけない弱さでごめん」
「そこは、気にするな」
「なら、気にしない」
「………ふっ」
「………クスッ」
少し静かに笑い会う。
「トキヤ、今何時?」
「零時を過ぎた辺りだろう。お前も起きたことだし、行ってくる」
「どこへ?」
「戦争は始まりや途中が大事じゃない。一番大事なのは終わりだよネフィア」
「?」
「理解しなくていい。そういうのは出来る奴がやればいい。安静にな」
「………トキヤ、待って」
「ん?」
ネフィアが立ち上がり。勢いよく飛び。俺はそれを抱き締める。注意を促そうと思っていても抱き締め瞬間には口は塞がってしまっていた。
すぐさま、彼女は離れて手を後ろで結び上目使いで笑みを溢す。
「早く、帰ってきてね」
「ああ、わかった」
俺は、扉を開け。部屋を出た瞬間に唇に触れうずくまる。
「くっそ、いきなり不意打ち過ぎる」
軽い、挨拶のようなキスだったが。心臓が痛くなるほどに驚いたのだった。
*
私はヨウコの隣で彼女の寝顔を眺める。頬の打撲傷以外は目立った外傷はなく。ネフィア嬢の技量が伺い知れた。どうやって気絶まで持って行ったのかわからないが。全て、彼女のお陰で今こうして生きていられる。
「………んん」
「ヨウコ」
「ん………あれ? ここ………地獄かのぉ?」
「残念、地獄へは落ちてません」
「天国じゃと?」
「それも違います。私たちは生かされました。この世界に」
「………なぁんだ。天国なのね」
「いや、違いますよ。難しく言いましたね。死んでません。現世です」
回りくどく言い過ぎたようです。
「ふふ、わからないのじゃな………お主がいるだけで天国じゃ………一緒に居れるのじゃな………」
「……………本当に申し訳なかったです」
「何で謝るのじゃ?」
「貴女の好意を使い。復讐を成そうとした。親友であるネフィア嬢と仲違いさせ、辛い選択を迫らせました」
「……………後悔はないのじゃ。どうしたのじゃ? 仮面は? それより………なぜ泣いているのじゃ?」
自分は唇と拳を握りしめた。終わってみれば情けない。やっと彼女を見ることが出来、そして自分のやったことがあまりに愚かだった事を知る。復讐は成したが………自信がついた訳じゃない。結局、過去は過去なんだ。
「エリック………ん」
ヨウコが体を起こし、泣いている自分の頭を抱き締める。
「エリック、良かったのじゃ………これで心置きなく幸せになれるじゃろ………」
「ぅ………ええ、なれます。今がそうです」
「お主は頑張ったのじゃ。逃げなかったのじゃ………怖くても。男らしい私の自慢の王子さまじゃぞ」
あたたかい。本当にあたたかい。これを捨てようとしていたなんて……そうか……多くの女性は暖かいのでしょう。
「自分は自分を隠し。劣等種であり。自信なんてこれっぽっちも持てません」
「持っておらぬの………じゃが。それがエリックじゃろ」
「はい、ヨウコ。これまでこれたのは貴女のお陰です。これからは………今まであった償いをしたい」
「エリック、女はの不憫な生き物じゃ。劇場のヒロインたちと一緒での…………好きな人のためにやることは過ぎれば苦ではないのじゃよ。お主がやる事はの」
ヨウコが自分の顔を上げさせ首を傾げて笑いかける。そして、一つ目を閉じ。唇を重ねる。深く甘く。劇場のヒロインの誰よりも想いを乗せた行為。
「仮面の取ったお主の顔は本当に大好き」
自分は、彼女に惚れる事が出来るようだ。体が熱い。劇場の観客より、心臓の音がうるさい。
「…………ネフィアに謝りたいの。そして………お礼を言いたいの。怒ってるじゃろうなぁ」
「私から先に頭を下げます。ヨウコはお休みください」
「ん………わかったのじゃ。はぁ………幸せじゃ。ありがとう、女神様」
ヨウコは横になり、笑いながら寝息を立てる。自分は立ち上がり。部屋を後にした。
*
「ご主人様」
「様子はどうだった? インフェ」
「姫様と騎士さまは長い付き合いの恋人同士な所から。付き合いたての恋人のような抱擁とキスでした。その後も騎士さまは恥ずかしさでこっそりドキドキしてました!!」
「インフェ? インフェ?」
「もう二方は復讐者と片想いのような関係が終わり、本当に愛し合える。ヒロインと王子さまの関係に変わって、深い愛を王子さまは受け取った所です!!」
「い、インフェ!! 私はね様子を見に行けと言ったのであって。覗き見する事は言ってない!!」
「ご主人様、たまたまです」
「たまたまにしてはタイミングが………」
「不可抗力です。ご主人様」
「………インフェ。この事は内緒にしましょう」
「はい。胸の宝箱に閉まっておきます」
「まぁ元気なら良いでしょう。では、処置を検討するために話し合いを設けたいですね」
「はい。伝えに行きます。怪人と騎士さまをお呼びしますね」
「ああ、明るいが深夜にすまないと言っておいてくれ」
「はい」
ガチャ
「残念だがもう来てる」
「いいご趣味ですね。覗きとは………」
「………申し訳ございません。私の憑き人の不祥事です」
「そうだな。不祥事、罰として眠れなくなった相手をしてもらおう」
「それはそれは、トキヤ殿も眠れなかったのですね。私も付き合っていただきましょうか?」
「ふぅ、インフェ。秘蔵の物とグラスを」
「はい、ご主人様………すいませんでした」
「いいや、いい。その幼女の姿だ………他人の恋路を見たくなるのも仕方がない。君のご主人様が代わりに謝ってくれてるさ」
「ええ、そうですね」
「………はい、ではすぐにお持ちします」
ガチャン!!
「帰ってくるのは5分10分。トキヤ殿ちょうどいいです。聞きたいことがあります」
「それはいい!! 私めも少しだけ、トキヤ殿の話を聞きたいと思っておりました」
「インフェ聞かれたら嫌ですので。すぐに質問を………」
「ああ、いいぞ。二人とも」
「………姫様は一体何者ですか?」
「私も同意です。姫様は一体何者でしょうか?」
「…………難しいな。何故何者かを気にする? 俺は気にしないが?」
「私は姫様の魔法を見たときに軽い状況説明で思ったのです。『この人はいったい何をしてるんだ?』と」
「私は怪人として出会ってから今までに彼女と同じ婬魔を沢山見てきましたが……彼女は違う。悪魔とも違う。そう、全く同じようで違うのです。『婬魔』なのが疑わしいです」
「………要はあいつは『魔王である』じゃ~納得しないのか?」
「私は納得します」
「………私めは納得せず。疑問を持ち続けます。考て見てください。全て、上手く行きすぎではないでしょうか? ここにいる誰もが五体満足です」
シーン
「…………」
「確かに…………」
「ですから、こう思うのです。誰かが手引きをしている。もしくは『援護している』と。そして、それを姫様は『女神』と仰っていると」
「あいつが喋っているのは幼少期の孤独を埋めるために作ったもう一人の人格なんじゃないかと思っていたのだが?」
「トキヤ殿………自分の姫をそのように思っていたのですか? 狂人か何かと」
「ああ、変なこと言ってかわいいなってな」
「なんとも……………」
「私はそれは違い。『居る』と思ってしまうのです。現に奇跡でしょう? 放火砲を無力化し闇を払い。勝利に導いたことは」
「…………はぁ。二人とも難しく考えるなぁ~。あいつはネフィア・ネロリリス。魔王であり……婬魔、悪魔のハーフの元男だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうですか。もしやっと思いましてね。彼女が………め……」
ガチャン
「持ってきました!!」
「ああ、インフォありがとう。すごく早かったね」
「はい。お客をお待たせさせておりますから。おつぎします」
「…………では、皆さん」
「ああ」
「ええ」
「今日の勝利に乾杯」
        
 




