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傾国、国滅ぼしの九尾ヨウコ..


 壁の上のヨウコ嬢が冷たい目を私に向ける。落ちている私にはトキヤもいない。地面に叩きつけられてしまうだろう。


「…………フェニックス!!」


 背中に大きな炎の翼が生え、羽ばたく。落下速度が収まり、体勢を立て直しゆっくりと屋根の上に降り立った。羽ばたきを一回行うと炎翼が消える。飛ぶことは出来ずとも滑空は出来るらしい。そんなことよりも気になる事がある。私は壁を見上げた。


「ヨウコ嬢!! なんで!!」


「…………ごめん」


「謝る前に!! 理由を!!」


 私はヨウコ嬢の顔を見る。悲痛な顔で私を見つめていた。苦しい表情だ。


「ゴブリンの放火砲でこの都市を焼き払う。トキヤ殿には申し訳ない。じゃが、これも全て彼のために」


「えっ!?」


 一瞬呆ける。あまりにも唐突な話に頭が追い付かないからだ。


「ごめんなさい」


 ヨウコ嬢はそれだけを口にし真っ直ぐ私を見た。怒りが込み上げる。


「…………なんで!! なんでそんなことを!! ダメ!! 絶対に!! どれだけの無関係の人が居るのか分かってる!!」


「グランギョニル。私と彼は後生に最悪の厄災として名を残すのじゃ」


「つぅ!?」


 狂気の微笑をヨウコ嬢がする。まるで無理矢理演じているかのような姿に背筋が冷えた。


「させない!! そんなことを!!」


「知ってる!! だから…………狐火!!」


 壁の上から、膨大な量の火球が降り注ぐ。私は剣を抜き。火の壁を生み出して防御した。しかし、青い炎球は抜けてくる。


「!?」


「そうそう、お主も火の魔法得意でじゃろうが。我の火の方が熱いのじゃ」


 屋根の上で着弾した狐火が爆発し、屋根から吹き飛ばされる。勢いのまま違う屋根へ飛び移り、転がりながらも体勢を立て直して立ち、睨みつけた。


「ヨウコ嬢!! その力で助けに行きなさいよ‼」


「…………私は魔王や勇者より強くないのじゃ」


「そんなことないでしょ!!」


「結果、立っている。仕留められていないのぉ」


 それはきっと白金の鎧が護ったのだ。もとより防御力は高いし、自分自身もタフだと思っている。火の粉を撒き散らしながら剣を振った。何故か前より彼女が……強い気がする。


「おかしい、こんだけ強かったら。ヨウコ嬢の追っ手とかに返り討ちは起きないはず。強くなってる? なんで!?」


 家が一つ吹き飛んだのだ。誰も住んでいない空き家だったことに少し安心する。だがその威力は尋常じゃない。


「愛の女神から力をいただいたのじゃ。お主を止めておくだけの………力が欲しいかと聞かれての。貴女を倒す力を。押し留めておく力を!!」


「愛の女神はそんな事を!?」


「ええ、彼のために。彼の願いのために」


「そんな!! それじゃぁ、あなたは幸せになれない!!」


「元より!! 妖狐!! 稲荷と違い!! 九尾の一族。玉藻、妲己を祖先に持つ者…………結局、国を滅ぼすのが我らじゃ、それが運命じゃ!!」


 ヨウコ嬢が壁から降りる。狐火の青い炎に包まれ大きく燃え上がり。その炎から一体の大きな狐が現れた。九本の尻尾に鋭い鉤爪。屋根に降り立った姿は紛れもなく魔物の姿だった。


「ワレハカレノノゾミノタメニ」


「その姿は!? くぅ、この馬鹿者がぁあああああああああああああ!!」


 それだけの覚悟と力があるなら好きに未来を掴めるのに。何故、やり方を間違うのか。何故変な声に耳を傾けたのか。私は怒りで歯を食い縛る。


「メガミハオマエヲタオセトイッテイル」


「女神は正しいでしょう。愛は美しさと醜さを持っています。ですが、これは認めませんよ!! 私は認めない!!」


 剣に炎を纏わせる。せっかく結ばれたのにわざわざ死地に追いやる事を。私の目の前で許せない。


「絶対に!! 私は認めない!!」


 私は叫んだ。そして、私の声が「ええ、私も認めません!!」と頭に声を残す。赤の他人のような口調で。


「!?」


 頭の中で私に似た誰かの声が聞こえる。そして、一つ思い付き、私は行動に移した。






 俺はネフィアとの連絡を断ち、デーモン王の前に進む。俺とデーモン王の前には黒い沼のような物の穴が空き、エリックを飲み込んだ。


「深淵、悪夢が渦巻く穴へ。ようこそ勇者」


「勇者は辞めた。何処から聞いてくるんだよ……噂をさ」


「簡単だ。酔狂で魔王をさらって自分の奴隷にした男だろ? まぁ綺麗な女だ。独り占めをしたくなるのは欲だ。生き物のな」


「はは、そりゃね? 酔狂だろうさ、女にして拐ってな」


 穴が邪魔で近くまでよれない。遠距離からの攻撃は全てダメだ。エリックが試した。


「…………お主は闇の者だ。どうだ? 饗宴を楽しまないか?」


「残念、嫁が待ってる。帰らないと行けない」


 エリックはどうなっただろうか。様子は黒い穴が空いているだけである。


「そうか、気になるか………なら」


「!?」


「お前も来い!!」


 黒い穴の中からデーモンが現れ、足を掴み引き込む。引き込まれた先は深淵。目の前のデーモン王は幻影だったのだろう。だから、効かなかったのだ。本体はこいつだと全てを俺は察する。


「畜生、最初のミイラの叫びに惑わされたか!!」


 あれのせいで目線がそちらに移ったのだ。やられたと知る。


「わかるか小僧。まぁでも………終わりだ」


 誘われた深淵の中は暗く。そして、どんよりした空気が流れる。地面も黒、周りも黒。光は自分の周りだけ。


「…………やぁトキヤ」


 深淵の奥から声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。


「なんで裏切ったの?」


「なんで、殺したの?」


「トキヤ………私さ、なんでもねぇや」


 声の主は懐かしい黒騎士団のメンバーたち。女性の声はあのバリスタのスナイパーの姉さんだ。俺は溜め息を吐く。悪夢の世界らしい。


 地面からも臓物を撒き散らした兵士が足を掴む。鎧を見ると連合国の鎧だ。周りが明るくなり、亡骸の山が目に入る。


 殺した、兵士、市民、騎士。滅ぼした都市。色んな者たちが自分に向かってはい寄ってくる。紫蘭が寄ってきた瞬間に本当にこれが夢だとわかった。逆に俺は怒りを覚える。


「デーモンさん。ちょっとつまらないですよ」


「くくく、ははははは!! お前はやはり我と同じ深淵を覗けるもの!! だがな…………これはどうだ?」


 また真っ暗になる。そして、次に現れたのは覚えがある。


「トキヤ?」


 ネフィアだ。


「トキヤ………大丈夫?」


 そして、彼女の背後から。大きな剣が刺さる。彼女が悲鳴をあげ自分に手を向ける。救いを求めるように。


「……………」


 また暗くなり今度は首輪を着けた彼女が引っ張られ、断頭台に据え付けられる姿を見せつけられる。そして刃は落ちた。


「…………」


 もちろん、首は落ち。足元に転がる。自分は理解をした。エリックが今はどういった拷問を受けているかを。そして、目を閉じ微かに笑った。


「見るのが嫌か?」


「いいや、楽しいなぁって。デーモン王よ。まってろよ!! 今からその性根の腐った体を真っ二つにしてやるからなぁ!!」


 恐怖よりも……怒りに全身を震わせた。流石に許せる限度を越えている。生まれ変わりなぞ絶対にさせないようにしてやる。





 壁の上に立つ。屋根上からなんとかここまで逃げてきた。壁の内側で戦うと被害が出ると考えたから戦場を選ぶ。被害を避けるために戻ってきたのだ。


ゴゴゴゴ……


 ゴブリンの放火砲が魔力を充填し、砲身を光らせる。放火砲自体が光を放ち暗闇にさえ全貌が見てとれた。


「フゥフゥ狐火!!」


 九本の尻尾から炎の塊が休みなく私に向かってくる。それを剣で切り払った。


ドンッ!!


 それを見たヨウコ嬢が飛び、私に向かって鉤爪で切りかかる。私は後方へよけてそれをかわす。足がもつれそうになりながらもなんとか凌いだ。巨体からの攻撃は重い。


「つっ……」


 魔力も無くなり撃ち合いも出来ない。撃ち合いも相手の九本の尻尾に数で押し負けるため有効ではなかった。


「はぁはぁ………んぐ」


「オワリ」


 九本の尻尾からの炎の弾が面で叩くかのようにまた襲ってくる。何度も、何度も防ぐために剣を振る。しかし、今度は目の前に狐の鼻先が見え。勢いよく体当たりされて壁の上に吹き飛ばされた。体当たりはよく効く。


ドゴォン!!


「ぐぅ!!」


 お腹の中心に鈍痛。吐き気。鎧に対してやはり打撃がよく効く。衝撃により、石の上を転がり。咳を吐く。


「げほげほ」


 顔を上げた瞬間。狐火の球が降り注いだ。連続した攻撃に……私は悲鳴をあげる。


「きゅあああああああああ!!」


ドシャ!!


「フフ、オワリナノジャ」


 転がる体にやけどの痛みが走る。炎に焼かれヒリヒリした痛みが全身にある。炎の魔法を扱う故に耐性はあるが、狐の火と言う魔法はそれを上回る火力を持っていた。


「はぁはぁ……つぅ………」


「残念じゃが、ゴブリンの放火砲は準備ができたようじゃ」


 ヨウコ嬢が姿を戻す。服は燃え付き。きれいな裸体をさらけ出す。


「まぁ、時間稼ぎだけじゃったから………うぐぅ……頭が痛いのじゃ!! なぜ『殺せ』と言うのじゃな!? う、うるさいのじゃ!! あがっ!!!」


 ヨウコ嬢が頭を押さえてうずくまる。誰かに唆されてる。


「す、すまぬ……す、すまぬ………殺しゃな、いかんのじゃ………放火砲に巻き込まれるから大丈夫……大丈夫」


 「誰に話しかけているのだろうか?」と疑問に思ったが今は痛みを噛み締め……私は待つ。そして、その時は来た。


 ギュルウウウウウウウウウウ!!!


 放火砲から激しい駆動音と遠くからでも聞こえるゴブリンたちの離れろと言う声。砲身が赤くなり、魔力が高まった古の『遺物』が咆哮をあげている。


 ドゴォオオオオオオン!! シュウウウウウウ!!


 都市を揺らす衝撃音と共に膨大な魔力球の火球が放火砲から打ち出された。放火砲の足が地面に沈み。打ち出した放火砲の足元や体から煙を噴射する。


「ははは、これで………おしまい」


「はぁはぁ………今よ!! フェニックス!!」


 私は待っていたこの時を。放火砲の上空に火の鳥が現れ、放物線を描き飛んでくる球の射線上に陣取る。


「何をするつもりじゃ!!」


「………放火砲は火を打ち出す物よね。だからさぁ」


 火の鳥が球を翼と体で受け止めて混ざり会う。


「私の炎で操る!! 最初からそれだけが狙いよ!!」


 火球が空中で止まり、光を放ち始める。すでに生み出された炎は消すことはできない。だが光として発散させることは出来る。それを私の体は知っている。私が『炎という物を感覚で理解している』のだ。


「オペラハウスの都市を大切に守ってきた物で!! 都市を破壊するために使わないで!!」


 ゴブリンの放火砲が沈黙し、その場に座る。そして、火球が真っ白に燃え上がり白い光を放つ。閃光として都市を照らし、ヨウコ嬢は眩しくて目を閉じて顔を背けた。私は立ち上がり右手に力を込めて走り込む。


「んんんんああああああああああああ!!」


 そして、ヨウコ嬢の頬を勢いよく全力で殴り抜けた。






 深淵の中を自分は苦慮する。エリックを見つけたが、彼は既にボロボロだったのだ。うわ言のように謝り続けている。深淵を歩くことは簡単だが、脱出の仕方がわからないため困っている。己の怒りを静めながら。


「畜生め」


「ガハハハハ!! 諦めよ小輩!!」


 デーモン王が数体現れ囲む。


「八つ裂きにしてやろう‼」


「いいや!! 八つ裂きより拷問だ」


「じゃぁ火やぶりがいいな」


 デーモンたちが笑いながら近付く。この深淵原理は理解した。本当に悪夢だ。俺たちは何かをされて気絶しているのだろう。しかし、起きることは出来ず。恐怖を産み出しデーモンを強くさせる。夢魔より強烈な拘束を持つ夢だ。


 ネフィアのお陰で予備知識を持っている故に夢とわかる。


「選ばせてやろう。楽に死ぬ以外の方法をな!!」


「…………」


 俺は黙って頭を回転させる。「どうする? どうやって起きればいい? それよりも別のやつに体を譲るか? だれに? はぐれデーモンの魂か? 鋼のドラゴンの魂か?」と混じり合った魂の力を頼ろうとする。


「夢で俺が起きないなら他のやつに体を使ってもらって………ん!?」


 空が眩しい、深淵の中で白い光が溢れた。自分の視界が霞み、光に手を伸ばす。勝手に体が動いたのだ。


「!?」


 伸ばした先で幻覚が見えた。丘の上に立つ女性の微笑み。これが夢であることを再度思い出させた。そして……あの夢にまだ届かない悔しさに唇を噛み締めるのだった。





「夢、じゃないな」


「ごほ……?」


 自分達は気絶から起きたようだ。窓の外が明るい。昼間が戻ったように明るい。目の前の転がっている剣をつかんで俺は立ち上がった。


「ぐぉおおおおおおお!!」


 目の前のデーモンが目を押さえる。窓から閃光が部屋を照らし暗い部屋が明るく照らした。深淵も霞むほどに強烈な光だ。


「悪夢だった。ですが、最後………ヨウコ嬢が引っ張り出してくれました。帰らなくては………彼女の元に」


「エリック、お前もか……おれは残念ながらネフィアの夢じゃなかったよ。悔しい夢だ」


 まだ、あの夢を諦め切れてないのだろうな。それよりも怒りが先だ。


「くぅ…忌々しい光め!!」


「幻覚じゃないな」


「ええ、私たちは恐怖で見えてなかったのですね」


「あの光はなにかわからないが」


「太陽は昇ってましたから魔法が切れたのでしょうね。チャンスです」


「くぅ………まぁよい。お主らは俺が直々に切り落としてやる」


 デーモン王が剣を掴み構えた。俺は笑みを溢す。デーモンや竜と切り合ってきた俺にとってそっちの方がやり易い。そして、今は。


「トキヤ殿、援護はします。止めは任せます」


「ああ、行くぞ!!」


 左右に飛び。二人で魔法を唱える。


「デーモンランス!!」


「風矢!!」


「こざかしい!! 深淵よ!!」


 黒いヘドロが立ち上ぼり、魔法を防ぐ。


「もう一度!! デーモンランス!!」


 デーモンの背に黒い球が生まれ、そこから槍が突き入れる。しかし、槍は刺さらず。今度は弾かれる。


 幻影ではない本物だが、生半可な魔法は効かないようだ。


「こざかしい!! 先ずはお前から潰してやる!!」


「来ましたね!! 誘い込みました!!」


 デーモン王がエリックに向けて跳躍し剣を振りかざす。エリックがそれを見て横に飛ぶ。


「ストームルーラー!!」


 俺は素早くデーモン王の背中に向けて風の刃を当てる。勢いよく奥へ押すかたちになり、壁をえぐり、隣の部屋にまで穴を開け吹き飛ばした。勢いよく打ち込んだ結果……デーモンの王は体勢を崩し倒れる。


「デーモンランス!! これを」


「ああ、借りるぜ‼」


 自分は剣を置きエリックが産み出した槍を走りながら受け取って転がっているデーモンに向けて大きく振りかぶって魂のデーモンの力を思い出しながら投げた。投げ入れ終わった瞬間に剣を拾い、肩に背負って突貫する。


「小輩!!」


 デーモン王が立ち上がり、デーモンランスを剣で弾いた。袈裟の切り上げで右手の剣を高く振り上げているかたちになったデーモンの目の前に俺は立つ。相手はそのまま振り下ろす気だろう。だが、それは俺が許さない。


「はぁああああ!!」


 俺はそうはさせないと勢いよく愛剣を肩から叩きつけるように真っ直ぐ居合いの要領で縦に振り抜いた。デーモンの左肩を真っ直ぐに切り落とし、怒りの絶叫が響き血飛沫が部屋を染める。そう赤く黒く部屋を彩る。自分は離れ、そして止めの声が響く。


「デーモンランス!!」


「風矢!!」


 二人でありったけの魔力を使い剣を弱々しく振り下ろしたデーモンに向けて槍と矢を打ち出す。壁が巻き込まれて崩れ、砂煙を巻き上げながらも相手の手応えがなくなるまで打ち続けた。


 そして、数分後。何個も部屋を壊し続けた攻撃は止み。奥に槍が刺さった裂傷まみれのデーモン王が倒れていた。ピクリとも動かない。


 エリックが一本、確認のために槍を投げつけ刺さった瞬間に絶命していることを理解する。絶命しデーモンランスを弾くほどの力は無くなったので確認が取れた。怒りでありったけ撃ち込んだお陰だ。


「お、終わったな」


「はい、胸がスッキリしました。本当にスッキリしました!! ははははは!! 天にも登るように爽快です‼」


 エリックの笑い声が収まるまで時間を要し、俺は窓の外を安堵の表情で見る。太陽が昇っていると思っていたが……どうやら違うようだ。


「ネフィア。聞こえるか? 空が明るい」


「聞こえる。トキヤは大丈夫?」


「ああ、エリックが笑い捲って不気味だが大丈夫だ」


「そっか………よかった………はぁ………ごめん………迎えに………きて」


「そっちは?」


「ちょっと体が…………ヨウコ嬢も動かない」


「………迎えに行くよ」


「うん…………待ってる」


 会話が切れる。向こうで何かがあったらしい。


「エリック、ヨウコ嬢が倒れた。向かおう」


「!?………ええ。向かいましょう」


「クククク!!」


「「!?」」


 目の前に横たわったデーモンから笑い声がする。デーモンから黒い影が立ち上ぼり部屋が薄暗くなる。


「死んでなかったのですか?」


「いいや、肉体は死んでいる。精神体だ………」


「元々、この体は紛い物……我は不滅なり」


 王の間に吊るされている死体が笑い出す。ケタケタと。


「………魂を破壊しないといけないか!!」


 剣を構え、魔力を流し。走り、黒い霧を切り払った。しかし、手応えがない。


「???」


 霧を何度も切り払うが全く手応えがない。


「何処だ? 何処行った!!」


「…………デーモンランス」


「!?」


 背後から殺気を感じ、その場を横に避ける。背後からの赤い槍をかわし振り向くとエリックが攻撃していた。


「ふむ。劣種と思っていたが軽いし使い勝手がいいな。こいつの体は」


 エリックが槍を構えて笑う。


「!?」


「さぁ……仲間を斬れるか………ん?」


 エリックは笑いながら、槍を逆さに構え腹部に突き刺す。


「な、なに!? げほ!!」


 赤い槍から血が滴る。


「なぜ!? 体を奪った筈!!………クククク。デーモン王………いい恐怖だ」


 笑みが深く、口が歪む。槍を抜きもう一度刺そうとする。


「一緒に逝きましょう!!」


 ザシュ!!


 2回目の突き刺しによってエリックが倒れる。エリックの体からは黒い霧が立ち登った。今度はハッキリと見え、剣を捨て右手を伸ばし俺はそれを掴む。


「捕まえたぞ!!」


 右手に魔力を流し込んで力強く握り潰す。ブシャッと音をたて黒い霧が霧散し、今度は確かな手応えを感じた。


「魂壊し………これで終わったか?」


「げほっげほっ」


「エリック、大丈夫か? いや、大丈夫じゃないな。傷を見せろ…………ん?」


 ひっくり返し、服を脱がす。傷跡を見て応急処置をしようと思ったのだが。


「傷跡がない?」


「…………どうでしたか? 名演でしたでしょう?」


「いや、血があった筈?」


「デーモンランスは血を媒介に産み出します。傷跡を偽装するぐらい簡単ですよ………あとは痛みを悪夢で再現すればこの通りです!! 演じきりましたよ。はははは」


「さすがはオペラ座の怪人だ」


 自分も騙されてしまった。


「ははは!! お褒め預かり光栄ですが………ちょっと血を使いすぎました。立てないです」


「………ギリギリだったんだな。悪夢は晴れたか?」


「ええ、晴れました」


 自分は彼の手を取り立たせた後、座らせ休ませる。笑顔のエリックは何か憑き物が取れた顔をする。満足そうに光を浴びる。


「帰りまでが戦場だが……大丈夫か?」


「ええ、休憩したら折り返しましょう。ヨウコ嬢が待っています。放火砲は失敗したようですね」


「…………いま、物騒な名前を聞いたぞ?」


「ははは、何でもございません」


 俺は背筋を冷える気がした。もしやこの光は……と思ったのだ。





 少し休憩したあとに城の廊下を俺たち歩く。悪魔やデーモンは外の光景に口を開け驚き。そして震えていた。太陽が落ちてくるのかわからないといい逃げ惑う者や。部屋に籠るものなど。侵入者の騒ぎではないようだ。


「……」


 何事もなく外へ出ると陽射しが眩しくて少し暑い。いったい何が起きたかをネフィアに問うがネフィアの返事はなかった。


「急ぎましょう。トキヤ殿」


「ああ、仮面はいいのか?」


「もう、被る必要はないですから」


 二人して、ネフィアの元に向かう。歩きながら町を見るとスケルトンもゾンビもいない。空に浮かんだ物をじっと目を細めて見ている者や、何が起きたかを調べようとする者が溢れていた。


「急ごう」


「トキヤ殿あれを!!」


 エリックが指を差す。壁の近くに来るといくつかの家屋が崩れ、燃えており、何か戦闘があったことが伺い知れる。自分達は焦り、駆け足で壁の階段をあがる。


「ネフィア!?」


「ヨウコ!!」


 ネフィアとヨウコは倒れていた。ヨウコ嬢に至っては一糸纏わぬ姿だ。慌ててエリックが服を脱ぎ被せる。


「いったい、何が起きたんだ?」


「……………ヨウコがネフィアを襲ったのです。邪魔されないように。遠くに放火砲が見えるでしょう?」


 エリックが知っている口ぶりで話をする。元々、都市ごと滅びる気だったと説明してくれた。なんちゅうことを考えるんだこいつ。


「じゃぁ、あれは?」


 空に浮かぶ放火砲の火球を指差す。光を出すだけで………何もない。


「トキヤ殿。ネフィア嬢が何かやったようですね」


「ああ、らしいが何をしたんだ?」


「…………姫様は本当に底が知れないですから」


「そうだった……」


 ヨウコ嬢はエリックが背負い。俺はネフィアを背負う。耳元で寝息が聞こえる。痛みより疲れが大きいのだろうが笑顔でスヤスヤと眠っていた。


「終わったな」


「終わりましたね」


 各々の嫁を背負い、俺たちは輝ける都市の帰路につくのだった。





 










 

 










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