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そして夜は訪れる..


モゾッ


「…………」


「ん…………あら?」


 物音がして、体を起こした私。教会の一室を借りている簡素な部屋にテーブルがある。その上にお酒がグラスに注がれており、それをオペラ座の怪人ことエリックが眺めていた。


「ああ、ヨウコ嬢。起こしてしまいましたか?」


「まだ寝てなかったのじゃな」


「ええ」


 私はベットから立ち上がり彼の反対の椅子へ。そして、あくびをひとつ。


「どうされました?」


「それはこっちの台詞じゃ。………眠れんのじゃろ?」


「…………いいえ」


「嘘をいっている顔じゃな」


「……………」


 空のグラスに葡萄酒を注ぐ。赤い血のような色のお酒だ。それを一口含み芳醇な香りを楽しむ。


「私はお前のその………ツレじゃ。長い間も一緒だった。わかるのじゃぞ」


「はぁ。さすがタマモ嬢ですね」


「話してみ」


「……………怖いのですよ。ここで夜、寝るのが」


「ふむ」


「寝れば恐怖の夢を見せられてしまう気がして」


「でっ、起きてると」


「ええ、ええ………見てください」


 彼が手を見せる。震えて揺れる手を見せる。


「情けないでしょう。震えてるんですよ。あの………オペラ座の怪人がね」


「そうじゃの、情けない。じゃがの………ありがとう」


「はい?」


「我にさ、お主の弱さを見せてくれて。大丈夫じゃ………明けるまで寂しいじゃろ。一緒に起きていよう」


「ヨウコ嬢…………はは。ありがとうございます」


「他人行儀じゃの。我はお前の妻ぞ………寄り添うのが務めじゃ」


「はははは。本当にありがとう」


 エリックが笑いながら手を握りしめる。震えが止まり、引っ込める。


「まぁ眠たくなれば寝てくださいね。お体に障ります」


「最後まで付き合うのじゃ」


「そうですか、では。飲み比べましょう」


 私一気に飲み干し。笑顔で頷いた。



 睡魔に襲われたヨウコ嬢がテーブルにうずくまる。飲み比べはすぐに終わらせた。


「すぅ……すぅ……」


 自分は眠ってしまった彼女。眠らせた彼女を抱き止め。ベットへ移動させる。金色の尻尾が少し邪魔くさい。


「…………本当にお強い姫様だ」


 一生懸命。自分のために起きようと頑張っていた。しかし、自分は力を使い眠らせる。健やかに眠る彼女は本当に綺麗だ。


「本当にありがとうございます。ヨウコ」


 彼女はずっと自分を好いてくれる。どんなことがあっても。どれだけ男らしくなくても。それがどれだけ恵まれているかを最近になって実感した。彼女の頭を撫でながら。


「………夜は長く、怖いものでしたが」


 自分は彼女の横に移動する。そして、尻尾に触れる。撫でるように繋ぎとめるように。


「今夜は眠れそうです。起きれば貴女はいるでしょうし」


 目を閉じる。眠りにつこうとした。


ぎゅ


「エリック………むに」


 彼女が振り返り、自分を抱き締める。寝ぼけているだろう彼女が力を強く抱き締める。


「………………」


 彼女の優しさ、包容力に………自分は甘えるのだった。今夜だけは穏やかにいられる。自分を見失う事がなくてすむだろうと。






 夜中、自分は懐中時計を見たあと。婬魔の死体を繋ぎ会わせた縫合体を作り終えたことを確認し自分の主人の間の窓を明けに城を歩く。


 主人の間は死んだ人間、婬魔が鎖で繋がれ防腐剤を入れて保管され、吊され、死んでも自由になることはない攻め苦を味あわせている。城の構造は手前、寮。奥側に拷問所、実験室になっており。私が管轄し、機嫌良く見回っている。作品集を眺めるために。


 バサッ


 大きな巨体に蝙蝠羽根のデーモンが降りてきた。キバや角が恐ろしいほど黒く。深淵を纏った体から障気が漂う。


「おかえりなさいませ。ヴァルボルグ様。お食事は?」


 この主人のデーモンは恐怖を糧にしている。死肉喰いや、生きたまま食べることもする。


「何人かワシを殺そうとしているやつに悪夢を植え付けた。美味だ」


「そうですか。あなた様を倒そうとね………魔王ですか?」


「協会っと言う胸くそ悪い連中、吸血鬼の集まり。狼男ら。あとは新しい顔。今日の昼の奴等だ。夢で見ると………オペラ座の怪人」


「誰でしょうか?」


 自分は眉を歪ませる。


「知らん、やつの夢を探したが見えなかった。二日後にあやつは攻めてくる。くくく、いい餌だ」


「ええ、兵の備蓄はたんまりありますよ。もて余しているところです」


「くくく………誰に歯向かうか覚えさせてやろう。深淵に飲み込んでやる」


「夜は私たちの領域。とんだ自信を持ったもの達ですね」


「魔王いるからだろう。勇者も………どうだ? 良くないか?」


「いい縫合体と兵士になりそうです」


「ネクロ。遊びの時間だ」


「はい。遊びの時間ですね」


 自分は主人が喜ぶような惨劇を用意しなくてはいけないようだ。


「あいつはどうなった?」


「あいつとは?」


「エリザ、わかっているだろうが」


「ええ、頭は無かったので変わりの頭を用意しました。彼女は殺された事は覚えておらず。いつものように拷問室で遊び。執務室で男と遊んでます」


「そうか、そうか」


「私の最高傑作ですから」


 四天王エリザは知らない。すでに自分が傀儡であることを。オリジナルは彼に殺され研究室で冷凍保存されている。彼とエリザの子エリックは何人かのエリザを犠牲に彼と逢い引きさせた結果産まれた実験体。


 魔王になれる恵まれた体、故に魔王城へ向かわせたのだ。何人ものエリザは彼を溺愛する理由はわからないが都合が良かった。


「エリックは王になった暁には我らがデーモンの世界になりますでしょう」


「そうか、俺は興味がない。征服より血の狂乱、恐怖だ」


「ええ、それもいいですが。もっともっと恐怖を出したいでしょう?」


「ふん、お前が遊びたいだけだろ………俺と同じように」


「ええ、遊びたいだけですね。くくく」


 上手く、事が進みすぎて笑えてくる。そう、上手く行きすぎている。






 早朝、目が覚め。あわてて立ち上がる。頭痛で頭を押さえながら、隣の彼を起こし夜中の事を話す。攻撃を受けたのだ。悪夢を見せる攻撃を。


「トキヤ!! 起きて!!」


「ん、んん」


「敵!!」


「ん!?」


 トキヤが勢いよく上体を起こす。


「な、なに!?」


「敵だよ‼ トキヤ!!」


「敵だと!? 何処に!!」


 トキヤが魔法を唱え出す。あわてて口を塞いだ。


「あっ、いや。夜中でね、夢を探られたの」


「………どう言うことだ?」


「デーモンロードかな? なんか、夢を渡り……悪夢を植え付け覗きに来てたんだ。でも、全部かわしたけどね。ちょっと頭がいたい」


「…………デーモン」


「トキヤが戦ってきた野良デーモンと違う。こーんな曲がった角でちょっと血色が違うデーモン。魔物じゃない知恵があるデーモン」


「ちょっと細かな話を聞いていいか?」


 トキヤがベットから立ち上がり背伸びをする。


「夢と言ったな。婬魔と同じ夢を操るのか?」


「そう、夢魔より強力。隠すので精一杯」


「…………もし、夢に入り込まれたら? お前ならどうする?」


「夢の中でトラウマを埋め込む。自分に刃を向けさせるのを渋らせられるかも。私には出来ないけど………それができるような感じだった」


「それって!? 不味い!!」


 トキヤがなにか思いついたのか叫ぶ。


「?」


「すぐに着替えろ‼ 教会へ行く!!」


「???」


「ネフィア、気付けよ。自分で勘づいてるんだ。相手が誰でもいいって訳じゃない。敵対してるなら」


「!?」


 そうか、エリック達が危ない。


「相手が大人しくしてる筈もないか‼」


「ごめん!! もっと早く気付けば!!」


 私は、急いで鎧を着る。相手が相手だったのだ。





 教会へ到着し、執務室へ案内され惨状を聞く。教会の一部の人と傭兵が悪夢を見たあと。部屋から出れなくなったらしい。夢は部屋に出て恐ろしい事に遭遇する夢だったとの事。


 中には殺してきた奴が這いつくばってくる夢。壁が肉塊の夢。白黒い幽霊が捕まって迫る夢。そしてこれを耐えたものは拷問している夢に行き着き。最後は自分が拷問される夢に行き着く。本当に狂乱の夢だった。


「してやられましたね。私も寝ていたのですがね」


「なんともないがの?」


「ヨウコ嬢はエリックさんに護ってもらえたんです。トキヤもそう。夢魔の隣だと大丈夫なんですよきっと…………吸血鬼は元々耐性があるのかも」


「吸血鬼で良かったと思う日が来るとは………」


「しかし、なぜ夢魔なら大丈夫なのじゃ?」


「私たちは元々、夢を見る操る事が出来ます。そして、婬夢が得意なので………」


「それって姫様………その………」


「おぬし、ちょっと………その………別にうちは婬夢みてないんじゃが」


 女性陣が顔を伏せ私も赤くなってしまう。


「ある意味、いい夢だな。悪夢じゃないもんな」


「トキヤ殿は姫様相手に婬夢ですか? 業が深いですね。汚してしまうとは」


「セレファ殿、男という生き物は皆。そういうものです。吸血鬼では理解が難しいでしょうが」


「男性陣黙るのじゃ。今は緊急事態じゃぞ!!」


「そ、そう!! そうだよ!!」


 淡々と「男とは」と語りだすのを遮る。


「ネフィア、婬魔の癖に恥ずかしがるから………」


「違うもん!! 別に婬夢見せて守った訳じゃないもん!! 夢でわざわざ見る必要ないもん!!」


「「「あっ」」」


「……………?」


「見る事ないよなぁ………今更」


「ひぃ、ひゃあああああああああああああ!!!」


 私は耳を押さえ、しゃがみこむ。言ってしまった言ってしまった。言ってしまった。人の目の前で「私たちそういうことしてます」て言ってしまった。違うのに。


「まぁ、なんだ。外傷がないのがまだ救いだ。カウンセイリングしっかりな。あと、明日の夜まで持ちそうにないかも」


「そうですねトキヤ殿。兵の損耗は避けるべき」


「おおう。悲しいかな、グランギョニルの劇場を見ている者たちなのに」


「残酷劇は所詮、『劇』だ」


「そうでしょうかね~私はそれもリアルと思いますが?」


 ドンドンドン!!


「ん? 誰でしょうか。どうぞ」


「失礼します!! 大変です!! 教祖さま!!」


 慌てた教会の衛兵が執務室へ飛び込んでくる。息が粗い。焦りながらも戸を叩く冷静さはなんだったのだろうか。


「なんでしょうか?」


「襲撃です!!」


 一同に戦慄が走る。状況が思った以上に悪くなっていく。


「場所は!!」


「表通りにデーモン!! あと………大きなゾンビが!!」


「今行きます!! 応戦は!!」


「応戦はないです!! 守りを固めていますが表通りは阿鼻叫喚です……」


「わかりました。行きます。皆さんすいませんが会議はお開きです。行きますよインフェ」


「はい、ご主人様」


 勢いよく執務室から衛兵と共に走り出す吸血鬼。残された私たちは私たちで考える。


「うちらはどうするのじゃ?」


「ヨウコ嬢、私たちは教会を護りましょう。全力で寝城を護らなければ。指示を出しにいきましょう」


 彼等は彼等で決める。


「ネフィア、どう思う」


「…………戦力差は大きいよね」


「ああ、大きいよな。兵が減る。畳み掛ける。兵が減る。悪循環だな」


「待つより、攻める。トキヤ……行こう。犠牲者出てる。そして、賽は投げられた」


 まっすぐ……彼を見つめる。


「ああ、全くそうだな。今日から激しい……行くぞ!!」


 私たちも現場へ直行するのだった。






 建物、尖塔を登り。上空から状況を私たちは確認する。大きな黒い物体がゆっくりと屋根を伝って動くのが見えた。普通の建物ぐらいの大きさ。それを見た瞬間に吐き気がする。


「うっ!?」


「ネフィア、目線そらしてもいいぞ」


「だ、大丈夫。凄いねあれ」


「人造魔物っぽいな」


「ううん。魔物じゃないアーティファクト」


「………わかるのか?」


「うん。幽霊がまとわりついてる」


「見えるのかお前も」


「うん。拷問道具なら知ってる」


 黒い物体は色んな物が寄せ集まり。四肢を作っている。胴体は錆びた丸い檻にぎっしりミイラが入っていた。四肢は棘や鞭。椅子、机などが黒い球体で繋ぎ合わされている。その大きな巨体からも色んな死体が吊られていた。まるで動く拷問道具。人の木だ。


「拷問道具に憑依してる」


「ああ、全くおぞましいな………魂を剣で切るか」


「トキヤ……援護するよ。時間を稼いで呼ぶから」


「呼ぶ?」


「魔法はイメージ。十人十色だよ。時間がかかるの」


「よし、なら前衛は俺。後衛はお前。残念ながら有機物に俺の魔法は通りが悪い。任せた」


「うん」


 トキヤが勢いよく飛び。空中で描かれた魔方陣を蹴って屋根を渡り、化け物の前に向かう。場所は低い屋根が集まっている裏通り。目的地の斜線上に教会があるのでそれを守るよう立ちはだかり大剣を引き抜いた。そして彼は剣に風を纏わせる。


「ネフィア、時間は」


「詠唱1、2分」


グワッ!!


 拷問道具の腕で叩き潰そうとトキヤに向かって叩きつける。


ギャン!!


 彼の得意なエンチャント。ドラゴンを吹き飛ばせる技。風を纏わせた剣でそれをはじき返し、化け物がひっくり返る。屋根を魔物は傷付けたが、頑丈な黒石は崩れず化け物を支えた。


「有機物は本当にやりづらい………魂も内側に引っ込みやがって切れねぇし」


 耳元で彼の愚痴る声が届く。珍しく彼の決め手を欠ける言葉に驚きながらも手の中の炎を収束させる。昔にワイバーンを倒した魔法の派生だ。イメージは槍。


「「キシャアアアアアアアア!!」」


 拷問道具の化け物の中身のミイラが一斉に叫びだし都市を震わせる。恐怖を覚える悲鳴だ。苦痛の叫びだ。


「どれだけの奴がこれに喰われたんだ!? ストームルーラ!!」


 剣を振り抜き、生まれた風壁をぶつけて拷問道具を押さえ付ける。悲鳴をかきけしながら。


「…………トキヤ!! 離れて!!」


「わかった。風巻!!」


 大きな巨体を風の渦に閉じ込める。竜巻、竜が登るような風の螺旋。それを見ながら、私は右手の収束させた炎球を握りつぶす。握りつぶした瞬間、弾け、手の中しっかりと炎の束の感触が生まれ細長き槍の形を象った炎に生まれ変わった。


「ファイア!!!」


 それを巨体に向け構え。


「ランス!!!」


 投げる。勢いよく放たれた投げ槍は巨体の中心へ誘導し、竜巻を貫き、拷問道具の中心に突き刺さる。そこから炎が膨張し道具の中身を焼いていく。


「ファイアストーム!!!」


 中身を焼き、その炎が竜巻に混じり火柱を上げ。巨体を焼ききる。拷問道具が燃えて赤くなり、溶け、中身が黒く焦げつき。臭いを撒き散らす。


 炎がゆっくりと収束し、火の粉を撒き散らしながら巨体が崩れ落ち。赤い金属の液状となって地面や屋根にへばりついた。魂は焼き尽いて、動くものはない。


「ふぅ………今は炎を出すにも時間がかかってしまう」


 理由はある場所に罠として火を置いてきたせいである。そう火を置いてきた。


スタッ!!


 隣にトキヤが戻ってくる。少し息をあらげていた。


「はぁはぁ、あれだけの即席魔法………魔力が……からっきしになっちまった………はぁはぁ」


 あの竜巻はやはり相当の負荷があったらしい。


「トキヤ大丈夫?」


「ちょっと休む。ネフィアお前は大丈夫か?」


「じっくり詠唱したから魔力削減出来てるし。魔力無くても大丈夫なんだけど………今は即席魔法は唱えられないの」


「何故?」


「私の炎、置いてきちゃった。あれはただの魔法だし、トキヤの魔法を借りないと無理」


 とにかく今は魔法は使えない。


「どういうことだ?」


「まぁ追々説明するね………こっちみて」


 私はしゃがんで彼を覗き込む。そして勢いよく。


「んぐっ」


 唇を触れ舌を絡ませる。恥ずかしがってる場合ではない。


「ぷはぁ!! トキヤどう?」


「………いきなり何をする!! と思ったが。魔力が少し回復した」


「トキヤにしかできないからね。口移しなんて」


 一番、体の中が密接に繋がれば魔力を渡せる。一番いいのは………まぁその………下半身のあれであるけども。


「婬魔は便利だな」


「うーんこれは好きな相手じゃないと無理だと思う。さぁトキヤ、次なる獲物は?」


「………ゾンビの大群かな首を落とせばいい」


「決まりだね。競う?」


「余裕だな………」


「余裕だよ。生き残るためにね」


「そうか願掛けか。いいぜ。首落とした数だな」


「うん。なんだろ、スイッチ入ったのかな? 刈るのが当たり前な気分になってきた」


「冒険者らしくなったのだろう。狩人の仕事もあるしな。賞金首狩りだってそうだ」


「そうですね。冒険者でもありましたね。じゃぁ冒険者らしく」


 私は炎の剣を抜き放つ。そして尖塔から彼と共に飛び降りる。


「今、冒険しましょうか!!」





 いきなりの襲撃に私は驚くが私たちを狙った戦いかたではない事に気が付く。無差別にゾンビやスケルトンが解き放たれ。生なる者を仲間へと誘っていた。しかし、宿屋や、堅牢な建物に籠りやり過ごせるぐらいに弱い。


「…………解せません」


「ご主人様?」


「インフェ、衛兵たちは無事でしょうか?」


「無事、一部負傷者がいるけどね」


「そうですか」


 そう、生ぬるい。もっと苛烈に攻めて来るはず。


「何が狙いだ?」


 わからない。


「ご主人様あれ!?」


 インフェが奥を指を差す。路地裏から様子を伺う。見えるのは小柄なデーモンが数匹。ゾンビやスケルトンを指揮している。そのデーモンの周りには人狼のゾンビが立ち尽くしていた。


「なるほど。増強ですか」


 普通のゾンビより、強いだろう。目的はわかった。本腰を入れだしたのだ。この時期になって。


「このままでは人狼がそのまま兵に。吸血鬼も人狼とデーモン相手では難しいですね」


「ご主人様。どうする?」


「インフェ………いけますか? 昼間ですが」


「いけます。聖霊ですから」


「………では。汝、我のために遣われし天使なり」


 一言、教会の憑き人の祝詞を言葉にする。インフェの体が薄くなり、消え失せた。そして、表通りに女性が現れる。ゆったりしたドレス。両手に青い剣。足元は見えず。背中に大きな翼を生やす女性は笑みを絶やさない。


「いつみても………美しい」


 感嘆を口に出し。奇跡に感謝をする。死んでから発現した新たな彼女の能力。そう、私の偶像崇拝。


 妄想が彼女を変異させた姿だ。皮肉な事に吸血鬼が愛の女神を信じ、その使いの天使を敬い。それが彼女と愚かに信じる行為が奇跡を起こしたのだ。私だけの魔法とも言える。対価はこれ以外の血を媒体にした魔法は一切使えなくなったこと。


「インフェ………彼等に救済を」


「はい、ご主人様」


 多くの吸血鬼の力を失った。しかし、後悔はない。


「何者!?………幽霊?」


「幽霊風情が何を」


「叩き潰すか」


 デーモン達が大きなメイスを構える。呪われたメイスは幽霊に触れられるのだろう。だが、それはただの霊だ。対象が違う。


スカッ


「なぬ?」


 メイスを振り抜き。翼の女性をすり抜ける。


「こやつ………捕まえるぞ。上質な幽霊だ」


「恐怖に滲ませたら旨そうだな」


 デーモン達がメイスを置き。彼女を捉えようと飛びつく。インフェが剣を構えた。


「きひ? 幽霊の剣なぞすり抜けるぞ?」


 一体が近付き手を伸ばす。それを彼女は切り下ろす。青白い月の光のような剣がデーモンの腕に当たり、そのままスッとすり抜けた。


「ほーら、なんも………」


ブシャッ!!


「!?」


 そして、腕がすっと落ち。鮮血を散らした。あの剣は通ったものを切れる。本来は切れない筈なのに。切れてしまうのだ。


「あがぁああああ!!」


 両手を失ったデーモンが叫ぶ。そのデーモンの首に剣が過ぎ去り。叫ぶ頭がポトッと落ちた。


「ひっ!?」


 仲間の死に驚き。飛び立とうとするデーモン。しかし、フワッと消えたインフェが背後に立ち羽を切り落とす。たまらず、落ちた先でゾンビを盾にするが…………そのまま剣は通りすぎ。デーモンが二つの分かれた。


「ご主人様、終わりました」


「ええ、さすが。インフェ…………私より強いですね」


「そんなことないです。剣を振り回すだけです」


 振り回すだけで斬れるのだから十分だ。


「周りのゾンビを倒しときます」


「ああ、頼んだ。人狼はまだ成り立てだから動かないな」


 人狼の首跳ねていくのを見ながら。次の獲物を探す。魔力が尽きれば彼女が元に戻る。それまでに敵は刈っておこう。さぁ私の天使よ……彼らに救済を。






 色んな場所を走り回り。トキヤに通知をして教会へ戻ってきた。トキヤは先に帰っており。門の下で私を出迎えてくれる。


「45」


「なかなか頑張ったな。その剣で」


「もったいぶらないで」


「101」


「敵わないなぁ………」


 得物の差が大きい気がする。


「戦慣れの違いだ。で、結局なんだったんだろうな」


「うーん。ゾンビを解き放つ理由だよね」


「なんだろうなぁ………俺なら他にすることを隠すためにやるが。教会も襲われていない」


「他に………してそうなことってなに?」


「わからん。陽動っぽいが」


 とにかく情報が足りない。


「トキヤ………空曇って来たね」


「ああ、曇って来た」


「…………太陽沈むね」


「ネフィア。太陽沈んでない」


「えっ? だって暗くなって」


「時計を探そう!! 振り子時計が確か何処かに」


「まって!! 腹時計で見るから‼………ん!! 昼時」


「ネフィア………本当だな」


「うん」


「徐々に暗くなっている」


「曇ってるから?」


「いいや………遠くを見て行こうか」


 近くの尖塔に登る。そして、見えたのは壁を越えた先で真っ黒い空。


「ネフィア…………夜が訪れる」


「トキヤそれって」


「ああ、夜の者たちの世界になる」


 トキヤが冷や汗をかく。私は剣の柄を強く握った。最悪な予感がするのだった。













 










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