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仮面の復讐者..


 数日後、パレードの一団が登場し、都市中で話題になる。大きすぎる馬車の一つが門を潜れず。置いてけぼりらしい。大きい箱形のお立ち台らしい物が門の外で待機している。


 そして、それは話題を呼び興味本意で見に行く野次馬がその大きさに度肝を抜かれるのも話題となる。8本の足で歩く得たいの知れない箱。箱の上には簡素な舞台があり。わざわざ用意したのが分かる。壁の上から眺めながら一言。トキヤに言う。


「アホでしょ」


「避けて通っても魔王城の門は潜れねぇよなぁあれ。アホだな」


 二人でバカにした。


「でも、凄い。無駄に大きい舞台」


「移動舞台の発想はいいが大きすぎだろ。てか、アーティファクト無駄に作てるから………勿体ないな」


 またまた、二人でボロクソに貶す。


「二人は見えないね?」


「パレードの中だろ」


 後方で歓声が聞こえ振り向く。ドレイクに引っ張られた馬車の上に幾人もの芸達者が踊るのが見える。女優や男優、オペラ座にいる者達が全員参加してるようだ。


 芸は火を吐いたり、水を出し虹を作ったりと魔法使いもいて賑わっている。ゴブリンの衛兵も楽器を鳴らし、ラッパを吹き鳴らす。


「いた」


 私は指を差した。豪華なきらびやかな紅い朱の馬車に風変わりなドレスを着込んだ九本の尻尾を振る女優が見えたのだ。


 足の開いた場所から覗かせる綺麗な形の素足が眩い。その姿は異国での衣装だと一目でわかり、色気を放っている。青い狐火が彼女の周りを飛び回り、彩り。観客が触れ、驚いている。熱くないようだ。


「エリックがいないね?」


「よく、見ろ」


「んん?」


「あそこ」


 トキヤが指を差した先に仮面を被った男が混じっていた。黒いマントに仮面姿は変わらず。笑いながらパレードの行進中の馬車を飛び回り、大きな大きな声で一人一人観客に紹介をしながら朱の馬車の彼女の元へ行き。隣に立った。


 そして、背後を振り向き壁の上へ立っている私に射ぬくような視線を寄越す。目が合う。


「ん……」


 少し、ゾクッと背筋が冷え。その冷たい目に背筋を震わせた。


「…………トキヤ」


「どうした? 手を振ってるぞ?」


「う、うん」


 私は手を振り返し、さっきの感覚はきっと気のせいだと思い込む。 あまりにも冷えた心だった。


「……………」


「どうした? こういう派手なのは好きじゃないのか?」


「う、うん」


「会いに行こうぜ。待ち合わせ場所は教会だ」


「……………」


 私は後ろを振り向く。四角い箱の歩行劇場を見つめ……何かが起きることを予見させる。


「ネフィア?」


「今、行く」


 私たちは一足先に教会へ行くのだった。





 教会に戻ってきた。教会内はごった返していた。色んな人物が寝泊まりするために解放された部屋を巡り人がうようよと押し寄せる。


 人間も多く。パレードの観客たちや魔王城に呼ばれた者達が泊まりに来ているのが伺えた。


 そして、私は教会のベンチに座り女神像を眺める。愛の女神のイメージ通りだった。その胸は誰より豊満である。目に毒である。


「トキヤ。あの大きい二つどう思う? 私はもうちょっと小ぶりでもいいと思うの」


「ネフィア。男友達とフェチを語る風に話を振らないでくれ。どうせ、自分の胸が一番って思ってるんだろ」


「それ、トキヤが思ってる事だよね?」


「いやいや」


「否定しても、この姿はねぇ………トキヤの好みですからねぇ~」


「まぁ、大きいのは好きだし。貴賤は無い」


「だよねぇ。私も私も、千差万別だよ。実は私は胸よりお尻のラインが好き」


「…………いつか女を襲うんじゃないよな?」


「襲わないよ!!」


 他愛のない話を二人でしながら待つ。すると、後方から聞き覚えのある話し声が聞こえ誰がか来たのがわかった。


 仲良く会話をする二人。その二人が私たちの目の前で立ちお辞儀をする。パレードもとい、出し物を止めて抜けてきたのだろう。


「お久し振りですね、お嬢さん。お隣、良いでしょうか?」


「お久し振り。ええ、いいですよ」


「お久し振りなのじゃ。お二方」


「久し振りかぁ? この前じゃないか?」


「トキヤ、細かいことは気にしない」


 私の隣に仮面の男が座る。そして大袈裟に手を広げ、私の手を掴み感嘆をのべる。


「あの後から。あなたのことを一時も忘れることはありませんでした。美しい女神のようなあなた様にまた出逢える奇跡に感謝を」


 これもなんとも一ヶ月振りな気分だ。この仮面の男はこうやってナンパをする。まぁ今回はあしらわずに応答しよう。


「ええ、自分も悪夢を見せた側で心残りでしたので。元気になって良かったです」


「おお!! なんと慈悲深いお言葉を………」


「おっほん!! いつまで繋いでるのじゃ!!」


 ヨウコの声に仮面の男が慌てて手を放す。

 

「これは失敬」


「はぁ、我と言うものがありながら………お前と言う奴は………」


「美しい女性に声をかけたくなるのは性であります」


「そうじゃないのじゃ………ここへ来た理由じゃろ先ず」


「そうでした、そうでした。あまりの綺麗さに我を忘れて………テテテテ」


 隣に座っているヨウコ嬢に睨まれながらつねられる。


「ヨウコ嬢、わかりました。では、早急にお話しましょう。手紙は見られましたか?」


「ああ、しっかりな。消す炭にもした」


「徹底した情報管理。ありがとうございます」


「いや、まぁ………うん」


 歯切れの悪い言い方をする。さすが我が夫様だ。替わりに私が話を始める。


「行為に及んでいましたので消す炭にしました」


「ああ、やはり入ってましたか…………お見苦しい所申し訳ないです。確認しようにも封が効いて無理でしたので」


「行為? 行為じゃと!?」


 顔が赤くなるヨウコ嬢。


「ネフィア……お前は余計なことを!!」


「うきゅううううううう!?」


 トキヤにほっぺをつねられる。


「ごめんしゃいいいい!!」


「はぁ……まったく」


 トキヤがあきれながら手を離し、私は頬を撫でた。トキヤが何もなかったかのように話しだす。


「まぁ、内容は理解した。デーモンの王を倒せだろ」


「いいえ。デーモンの王を倒すのは私です。依頼と言うのは支援です。私が彼の前に立てる支援をお願いします」


「一騎討ちをするのか?」


「ええ、一騎討ちをし……奴を越える事で………」


 エリックが仮面を外し、ひたいの鎖の印に触れる。


「私は身心共に自由になれる」


 冷たい声で殺意を含ませて言い放った。


「わかった。教会は俺に倒せと指示があるが?」


「それは、私も聞いておりますので………今から執務室へ向かいませんか? トキヤ殿」


「いいだろう。ネフィア、俺はエリックさんと共にセレファさんに会いに行ってくる。呼ばれてたしな」


「わかりました。女は黙って男の仕事の邪魔はしないのがいい奥さんの秘訣です」


「いい嫁貰ったよ本当に」


「…………………むきゅ」


 嬉しいけど。人前だと余計に恥ずかしい。ああ、私ってこんな恥ずかしいことしてたんだと我に帰る。でも、嬉しい。顔を押さえ、自分が赤くなっているのがわかった。


「では、参りましょう。勇者様」


「だからぁ勇者は辞めたんだって」


 二人が席を立ち教会を後にする。残された私たちはどうするか話し合い。ここで待つのではなく酒場で紅茶でもと言うことになった。





 酒場の個室を借り、紅茶をインフェさんが注ぐ。彼女も途中、執務室から出るように言われた所を私たちは拾ったのだ。ヨウコ嬢も最初は幽霊に驚いていたがすぐに慣れ自己紹介も来る途中に済ませてある。


「どうぞ、お二人さん」


「ありがとう。いただくのじゃ」


「ありがとうね、インフェさん」


「メイドの務めですから」


「………ん」


 ちょっと私はソワソワする。落ち着かない。理由はもちろん久し振りのお茶会だからだ。


 何故緊張するかを悩み考えた。1対1なら普通。男性と一緒でも緊張しないのに女性だけになると少しだけ固くなってしまう。


 昔にマクシミリアンのお屋敷で使用人をしていた時はまぁ嫌がったり、適当に流してたが………今はそう。違う。緊張してるが何故か嬉しいのだ。


「ネフィア。よそよそしいのじゃ」


「ええっと、その………複数人との女子会って女性になってから初めてで。ええっと嬉しいなぁって。私、しっかり女性が出来てるって嬉しいなぁ~って」


「姫様、可愛いですね」


「インフェさんもかわいいですよ」


「えっと………私の可愛さは幼子のそれみたいなので………複雑です」


「死んだとき幼かったから仕方ないよ」


「………いえ、ちょっと大きくなること出来るんですけど。悲しいことに短時間なんです」


「そうなんだ………ああ、本当に女子会してるぅ。昔なら出来なかった会話も出来そう。貶したり、愚痴ったり、馬鹿にしたり、侮辱したり、睨み合ったり」


「ネ、ネフィア。女子会をなんだと思ってるのじゃ? あまりに酷いもんじゃぞ?」


「男子禁制、女性の醜いところの出し合い。男がいないから着飾ることなく罵詈雑言の場」


「ま、まちがっておらんがの!! それは、ちょっと違うのじゃ‼」


「では、例えば何が正しいの?」


「ええっと。そうじゃの。こう、なりそめとか。こういうとこ好きとか………じゃぁないかの?」


「じゃぁ!! ちょうどヨウコ嬢のなりそめ聞けばいいね!!」


「あっ!! 私も聞きたいです‼ ヨウコお姉さま!!」


「あふぅ!?」


 はめた訳じゃないが。言い出しっぺの法則。ニヤリと私はする。ヨウコは「はぁ~」とため息を吐いた。


「さぁさぁ。夜の営みを激しいようですし、そこまで至った経緯を教えてね?」


「よ、夜の営み………ごくん」


「……………お主ら。はめよったな」


「ふふ、予行演習と実地いっぱいしてきましたから。女になる前に」


 一応、私の女になる区切りはトキヤを愛してるではなく。本当の気持ちに気づいた瞬間を女になったとした。魔王として勇者に押し倒された事は大人の女になったと考えている。


「はぁ、仕方ないのじゃ。まぁそちは知ってるじゃろ?」


「拾われてからずっとでしょう?」


 同じように私も拾われた。


「そうじゃが、あの後。彼が放心してるなか。ずっと声をかけてたんじゃ。ずーと、想いを淡々と。あなたは仮面を外そうとオペラ座の怪人であり、私の想い人とな。言い聞かせ、そしたら。彼が立ち上がり…………自分の居場所は何処だっと聞いてきたのじゃ」


「それで?」


「大丈夫、もうあなたは居場所があるじゃない。『私だって居場所になれる』てね」


「うわぁ~大胆です」


「その言い方…………何処かで?」


 自分が言ったような言わなかったような気がする。


「彼ね、居場所が欲しかったんだと思う。私と一緒で。でも彼ね……気付いてなかったの。例え元奴隷だったとしてももう。居場所があることを…………元気になったわ。私に認められた事を知ってね」


「…………不器用な人」


「そう、器用なようで。小心者であり不器用な人。名前を一緒にした理由は非公開だけど。このパレード…………復讐が終わったら引退公演をするつもり。劇名はまだ無い」


「いいなぁ~私も見たいです」


「ふふ、招待するわ。そうそう、ネフィアはもう帰ってこないのかの?」


「帰ってこないとは? 女優ですか?」


「そう、器用な男優ぽい女優をこなせるのは珍しいし。花があるのじゃし、ファンも多いじゃろ?」


「ああ、ごめんなさい。私のお熱は夫しか向きませんから」


「あら? 熱い」


「姫様お熱い」


「ええ、熱いですよ。ヨウコ嬢もでしょ?」


「もちろんなのじゃ」


 それからも他愛のない話をし、罵声を吐きながらも楽しい時間を過ごしたのだった。






 彼が帰ってきた時間は遅かった。すっかり夜中になった寝室、鎧を置いて身軽な状態で酒場から頂いたお酒をグラスに注ぐ。


 注いだグラスを親愛なる夫様に手渡した。酒場は大混雑、教会の中もお酒の運送で大混雑であり、在庫が無くなる勢いらしい。儲かってそう。


「ああ、ありがとう」


「長かったですね」


「他愛のない世間話から、色々と調整をな」


「決まったことは?」


「エリックが一騎打ちをするのを俺は支援し、教会は静観するだ。教会はまだ、やる気は無いらしいしパレードの参加者や観客の受け入れだけでいっぱいいっぱいだ」


「夜出歩かれてもね~」


「ああ、まぁでも…………パレードに紛れて沢山の兵士が紛れ込めてるな」


「兵士って皆、オペラハウスの?」


「聞いたらお金で雇った傭兵だけ。衛兵も雇った瞬間だけは傭兵だ」


「そうなんだ。いつ頃…………やる気なの?」


「明後日の夜。それまで何やら準備があるってさ。ネフィア。お前は南側の壁の上に立ってくれ。一応、ヨウコ嬢がそこで立ってるんだってさ。何するか知らないけどな。護衛してほしいらしい」


「私もデーモンの根城に行かなくていいの?」


「男どもで行く。まぁ逐一情報を風で伝えるさ。ヨウコ嬢も不安だろうしな」


「………やさしい」


 確かに私が彼女の近くへ行けば風を拾うことで彼女に教える事が出来る。一緒に行けないがせめて壁の上で事の成り行きを待つつもりなのだろう。ヨウコ嬢は。


「わかった。護衛する」


「先にお金は貰ったから全力で頼む」


「まかせんしゃい!!」


「はは!! 昔より本当に頼れるようになって嬉しい限りだ」


「へへへ………」


 少し、頭をさげる。恥ずかしさと嬉しさで少し悶えた。この感触がたまらないほど愛おしい。


「………ちょろ」


 トンっ、さわっ


「!?」


 頭に手が触れ、撫でられる感触がする。


「本当に頑張ったな」


「あうぅ………撫でるには反則」


「可愛いのを愛でるのはいけないか?」


「いけない訳じゃないけど………その、何も出来なくなるの」


「ほら、そういうにが可愛いだよ。全く………ずっとかわいいままだな」


「………トキヤ。甘い」


「甘いのは嫌いか?」


 頭から頬に、そしてあごに触れ顔を向けさせる。


「大好物です。んぅ」


 触れる唇の甘さは大好物。頭が蕩けるほどに。




  































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