家族会議..
逃げてきた私たちは酒場の隣接されている個室に向かう。挨拶しながら。姫様は無言でいらっしゃる。
「宿長、個室を借りるよ。お酒も」
「はい、かしこまりました」
「あと秘匿情報の伝達。四天王アラニエ、エルザが絶命した」
「な、な!?」
「情報の判断は任せる」
「はい、かしこまりました!! お酒は部下に………私は緊急会議を行います。夜中ですが」
「わかった」
宿屋に戻ってきた。私は仕事の話が終わった後に彼等を酒場の奥にある要人用の個室に案内する。机、椅子が並び数人で飲む用の部屋であり、重役と合う場所でもある。
「防音はしっかりしております。では、お話を」
「わかった………先ずは」
「トキヤ、そこ正座」
「……………」
「正座しなさい」
厳しい声が姫様から発せられる。勇者が正座をし、深々と頭を下げる。
「ネフィア………すまない」
「謝るのは誰にでも出来る。先ずは話をするところから。いい訳を聞きましょう。さぁ昨日の夜の事から全部話す」
私はインフェの本当に怒った時を思い出し背筋が冷える。変なスイッチが入って天使が悪魔のような冷たさと恐怖を見せるのだ。彼に同情をする。
「ええっと、昨日の夜。風を見に行ったときネフィアに偽装したドッペルゲンガーを追いかけたんだ。ネフィアが外を出歩くのは危ないっと思って」
「次」
「そこで四天王のクソババァに出会ったよ。鎖に捕まって………で洗脳をかけてきたわけだ。相手は俺とお前を引き剥がしお前を始末する予定なのがわかった」
「抜け出せなかったの?」
「抜け出せるが、それ以上に洗脳された振りをして情報を取ってやろうと思ったんだ。あとは………お前が府抜けてる理由が俺なのだろうから。離れてみようと思ってな。ずっと見てた」
何となく理由がわかった。確かに勇者様がいない姫様はキリッとしている。
「府抜けてるから………離れる」
「今のお前に果たして、魔王城に乗り込んで『けじめ』をつけられるか不安だったんだよ」
「ほう………ほう………で、結果?」
「昨日の今日で四天王を倒して俺を見つけたんだ。予想より十分な強さになった」
「………誉めても嬉しくないからね」
「口元が緩んでる」
「お黙り!!」
ビクッとトキヤ殿が震える。私は彼に助け船を出す。
「ひ、姫様そろそろよろしいのでは?」
「まだよ!! どれだけ不安になったか考えた? どれだけ心配したかわかってる? 勝手にやって!!」
「す、すいませんでした」
「許さん!! 絶対に許さない!!」
勇者の顔が強張っていた。あまりの怒りに冷や汗が吹いている。勇者もそこまで怒るとは思って無かったのだろう。
「ネフィア、本当にすまない。この通り!! この通り!!」
何度も彼は頭を下げる。
「府抜けてるから勝手にするんじゃなくて私に言ってよね!! はぁ…………もう勝手に消えないでよ………私の夫はトキヤしか居ないんだから」
「ぜ、善処します」
「うん…………まだ、怒ってるから」
私は話を変えるつもりで声を出す。
「それよりも何故勇者様が四天王エリザの洗脳が効かなかったのでしょうか? 私の部下は四天王エリザに洗脳を受けたら仲間の危険を回避するため自害を推奨してます。手がない筈なんですよ」
「…………元々。かからないようになっているんだよ」
「っと申しますと?」
勇者が姫様の顔を覗き込む。少し笑い照れながら喋り出す。
「いや、こう。目線があって洗脳をしようとする瞬間とかさ、本当に効かなくて何故か考えたんだけど。俺、すでにさ、誘惑されてるんだ」
「ん!? ん!?」
姫様が口を押さえ顔を背ける。
「ネフィアにさ、洗脳と誘惑されてるからさ。効かないんだよ。さすが淫魔だなってさ思う」
「あひゃぁ!? ご主人様!! この人凄いですよ‼ 恥ずかしくないんですか!?」
「インフェ騒がない。姫様?」
「んん!!」
姫様が口を押さえたまま震える。わかったことは喜びを我慢している。怒りが消えるぐらい嬉しいのだろう。
「ネフィア、顔をそらせるぐらい怒ってるのはわかってる。だけど、俺は今もずっと………お前の夫だからな………許してくれ」
「んんんんん!!!」
姫様が勢いよく怒りと喜びが混じった想いを乗せ。勇者の顔を蹴り飛ばした。それで終わりにしようと言うのだろう。
だが……その蹴りは勇者が気絶するほどの威力だった。
*
「………怒りも落ち着きました」
今は恥ずかしくて蹴り飛ばした事を悔やんでいる。
「そっか。よかったよかった~」
「殴ってごめ………なんで笑ってるの?」
「あっ許してもらったからかな? あと………懐かしくてな」
「懐かしくて?」
「昔、しょっちゅう殴ってただろ? いや~昔を思い出すよ。一年たってないのになぁ~」
赤くなった頬を撫でながら口元が笑っている。
「なんだ。俺がいなくてもしっかり戦えるし。よかったよかった」
「トキヤの夢を見るために何度も潜入してるからね…………」
トキヤの夢を見るためには彼の記憶の中にある彼が攻略したダンジョンとはぐれデーモンと鋼のドラゴンと戦わないといけない。実は全敗中である。めちゃ強い。生前より強いやろあいつら。
「はぁ、結局………許しちゃうんだな。私は………」
「ネフィアは優しいからな。一番俺が知ってる。忘れた事を確認して諦めたのも結局、優しいからだろうしな」
「くぅ……なんで今日は甘い言葉を!!」
真面目になろうと思っているのに。
「そりゃ……離れてわかる事ってあるんだ。ネフィアが当たり前に隣に居るってことがどれだけ幸せかを再実感したよ」
「うぐぅ!! くうううううう…………」
「ご主人様!? あの人甘いです!!」
「姫様はチョロあまですね」
「そこの二方!!」
「あの~お客様」
「ああ、君。そこにお酒を置いといて下がってくれ」
「はい!!」
トキヤが立ち上がり席につく。
「家族会議はこれで終わりかな?」
「終わりです。はい。真面目も終わり」
「ネフィア。まだだ」
「………はい」
我慢する。何故かおわずけを食らった気分だ。
「吸血鬼セレファ殿。傭兵の件ですが………決まりましたか?」
「1ヶ月より目標でお話ししましょう。今日で四天王を二人も倒していただいた事は感謝しております」
「結論からどうぞ………色んな奴から聞いたから答え合わせだ。目標は?」
「目標はデーモン王。バルボルグを抹殺しデーモンの勢力を倒し、この都市に波乱を起こします」
「えっ? 「デーモンの王を倒せです」て? そんな危ないことを!?」
「姫様、今日のツケはいいものですね。あとちゃっかり四天王倒してますね」
「………………けっこう足元見るのね」
「吸血鬼ですから」
「まぁ、『そうだろうな』と思ったよ………力を蓄えている段階で。自分の戦力を使わず相手の頭を叩いてもらうか撹乱でもしてもらおうと思ったのだろう?」
「はい。二人でしたら削ぐことが出来ると信じてました。もう十分削いでいただきました。上手く行きすぎて笑いが止まりませんね」
「…………だなぁ」
二人が私を見る。自分に指を差し首を傾げる。
「私?」
「お前、お前。四天王倒すしやっぱ魔王だな………お前」
「姫様は、さすが姫様と言ったところです」
ちょっと褒められ過ぎて、むず痒い。両手を股に挟んで前傾姿勢になりながら恥ずかしさに耐え目線を逸らせる。
「な、なんか。褒められすぎて………恥ずかしいかも。ふ、普通だよ」
「普通だな。褒めることないな。褒めるのやめよう」
「そうですね。姫様、普通です」
「……………ええ」
私はどんな顔をすればいいのか悩む。褒めて嬉しかったのに。
「クスッ。本当に可愛いな~困った顔」
「姫様可愛いですね」
「ご主人様。家族会義です」
「えっ!? インフェ!?」
この吸血鬼。相当に骨抜きにされてるんだろうなぁ。
「まぁ、デーモン倒せが目標なら………のんびりやるかな。ネフィア長期間ここに留まるけどいいな?」
「えっ? うん……」
「デーモンは一人も会えなかったからな。ネフィアの動きが良くて調べが途中だ。だから少しづつ見ていくさ」
トキヤが悪い笑みをする。悪魔のような笑みを見つめ。彼が本当に帰ってきたことを私は実感するのだった。




