四天王上級悪魔エルザ..
自分が教会で日課の祈りを捧げている昼時。教会の並べられた椅子に座り。ステンドグラスから差し込む光を眺めていた。
教会の大きな門は開け放たれており、来るものを拒まない。誰でも祈りに来る。女神像はない故に色んな人達が各々の神を崇拝していく。誰にでも開けられた祈りを捧げる場所、例えそれが。
「どうぞ、あちらです」
「ありがとう」
「奥で祈りを捧げております」
「わかりました。待ちましょう」
魔王としてもだ。
「…………なんでしょうね」
遠くでもよく響く凛とした声。芯が通った声に自分は不思議になる。この前の声とは違う。甘い声とはほど遠い声。自分は席を立ち、歩いてくる魔王に向き合った。
「こんにちは姫様。姫様とお呼びしても問題はないでしょうか?」
「こんにちは。呼び方は自由です。ええ、お好きに呼びになってください」
周りに目線を這わせる。彼がいない。
「………お連れさんは?」
「捕まりました」
「!?」
率直に答える姫様。「いったい何があったと言うのだ?」と思い、慌てる。
「お相手は四天王の一人エリザと死霊術死ネクロマンサー」
「な、なんと。どうやって!?」
「そこは私にはわかりませんが捕らえられてしまった事は事実です。申し訳ありませんが、傭兵の話は無理そうです。お詫び申し上げます」
彼女が深々と頭を下げる。慌てて手を振って「そんなこととしなくていいです」と言い顔を上げてもらう。
「わ、わざわざ言いに来てくれるなんて………大変でしょう!?」
「はい、大変です。ですが、一応状況を説明と一緒に………私に情報を売っていただけませんか?」
「情報を?」
「はい、私は無知です。四天王の名前は知っているだけ。二人の情報をください」
それはもちろん意味するところは戦うつもりだ。
「殺り合う、おつもりですか?」
「それ以外に何かありまして? 相手は私を倒そうとします。殺り合う覚悟をお持ちです」
「しかし、相手は四天王………魔国で一番危ない人物たちです」
「鋼糸のアラニエ。今さっき彼女は打ち取りました」
「すでに!?」
「ええ」
状況を軽く説明していただく。内容は掴めた。確かに、姫様から護衛の勇者を引き離す事は手段として、それは正しい。護衛のいない姫様はただの弱い女の子だ。
「私からは以上です。では、教えてくださいお相手を」
だが、目の前の姫様は果たしてただの女の子であろうか。
「わかりました。お伝えしましょう」
「ありがとう。感謝します」
いいや、違う。今の凛々しい姿は姫様だ。白金の鎧に身を包み。剣を携えた姿は姫様。そう魔国の姫様はこうなのだ。戦う事が出来る。護られるだけの物語の姫様とは違う。
「これで、今夜は戦えそうです」
姫は自信満々に言い放った。勝算をもって。
*
「お茶をどうぞ」
「ありがとう、インフェさん」
フヨフヨと自分の憑き人がお茶を淹れ姫様に手渡す。一口含む姿は絵になる。
「では私めが知り得た情報です。エリザ・バルボルグはここの都市最大勢力のデーモンの妻であり、四天王であり。摂政トレインの母ですね」
「家族で魔国を支配しようとしてるのね」
「ええ、でしょうね。私たちも敵いません」
「種族はデーモン?」
「いいえ、悪魔です。それも大悪魔であり黒魔術を操る恐ろしい方ですね」
「黒魔術って?」
「姫様はお使いになられないのですか? 悪魔であれば使うことが出来るはずですが?」
全くわからない。首を傾げた。
「火を出すだけしか出来ない」
「それは火の魔術です。黒魔術とは黒いイメージの魔術であり。悪魔の血筋しか使うことの出来ない物です。火も黒くベタつき。病、呪い等があります」
「…………もっと詳しく何が出来るかわからない?」
「申し訳ありません。黒魔術を見たものは………」
見たものは皆、死んでいるのだろう。だからこそ不明と。
「わかった。ネクロマンサーについては?」
もう一人の四天王を聞いてくる姫様。
「彼は死霊術が得意であり数多くの死霊を操ることが出来ると伺ってます。ネクロマンサーとは死霊術士の別名であり。本名はわかりません。精々一人か二人しか使役できない筈ですが彼は大部隊を率いる事が出来ます」
「わかった。ありがとう。お茶も美味しかったわ」
すくっと椅子から姫様は立ち上がり。執務室を出ようとする。その背中に声を私はかけた。
「姫様!! お待ちを!!」
「何かしら?」
「今から何処へ行くのですか?」
「宿で仮眠を少し」
「仮眠ですか?」
「はい、夜に活動しますので」
「夜に? 活動?」
「大きな城がありますでしょう? 黒く何処よりも禍々しい。一番大きいのではなくて?」
「バルボルグの城ですか? あそこはデーモンの巣窟です」
「あら? そうなの? でそれが何か?」
「今さっき話した最大勢力の私有地です」
今さっき、教会で聞いていた事の顛末で尾行して何処に入ったかを知っていると聞いていたが。まさかの本拠地だとは思っていなかった。妻なら確かに居てもおかしくはないと思い、考えの浅はかさを悔いる。今はまだ、教会は彼らを越えられない。
「危険です。傭兵を雇っていてもダメです」
「一人で行きます。ご迷惑はかけません」
「………死にます」
「夫が捕まっている状況を黙っていろと?」
それは確かに黙っていられない。自分は浮いて不安そうに眉をひそめるインフェを眺めた。同じ立場を想像する。
「わかりました。私もいきましょう」
「行くとは?」
「一緒に潜入し、戦いましょう」
「ダメです。あなたは教会の主。まとめ役で、何かあれば大変でしょう‼」
「そうです。しかし、ご友人が困っているなら助けたいと思うのが自然でしょう。安心してください。教会には若い指導者は多い。大丈夫です」
「………」
姫様は顎に手をやり。目を閉じて悩んだ後。深々と頭を下げる。
「ありがとう。セレファさん」
「いいえ。心中お察しします」
自分なら、すでに城に入り込んで暴れていただろう。しかし、姫様はそこを我慢している。
「姫様。勇者さまを取り返しましょう‼」
「ええ、頑張りましょう」
少し固かった顔をしていた姫様が柔らかい笑顔を向けて下さった。
*
「おはようございます姫様」
「おはよう」
夜中、私たちは大きな城を眺められる尖塔の上で待ち合わせていた。先に来ていた彼が双眼鏡を置く。空には得たいの知れない生物が飛び。色んなところから阿鼻叫喚がひしめき合う。聞けばあれらの声は捨てられた淫魔や人間と吸血鬼と狼男の声らしい。デーモンもいるとも。
「教会は専守防衛が主ですが。他はしっかりと争っていますね。楽しいですから…………私たちにとって」
「他に娯楽を見つければいいものを」
「今で満足すれば見つけることはないですから………」
結局、ここはそう言う都市なのだろう。
「にしても………姫様はそのお姿で潜入を?」
「これしかないのです。だから、正面突破をしようと思ってました」
着ている白金の鎧は潜入には向かない。音は消すことはできても姿は消すことはできない。目立つ鎧だ。
「私は彼とは違って目立つ魔法に目立つ姿ですから。出来ることは伝えましたね」
「音は消せるのですよね。風の魔法でしたか?」
「はい、彼から教わった魔法です。音は消せるんですけどね。彼なら姿も眩ませられます。得意なのは潜入に暗殺ですから」
「一体、勇者はどういった方なのですか? 大剣の使い手しか聞いておりませんでした」
「彼は風の魔法使い。本当に凄いんですよ? 黒騎士を魔法で一網打尽に出来、この鎧もその魔法のお陰で蒸れずに涼しいのです。あとは……………あっ!」
私は両手で口を押さえる。色々話出す勢いだった。今はそれどころじゃない。
「ごめんなさい。つい………」
「本当に愛されてますね」
「はい」
「では、続き聞きたいですね。吸血鬼ながら血よりも好きです。そのような、お話。後でインフェ共々、お聞かせください」
「では、あなたは生きて帰らなくてはいけませんね。聞きたいのであれば」
「姫様も、私に話すために生きて帰らなくてはいけませんね。何があろうと。では、先に先行して扉を開けます」
吸血鬼の彼が、黒く大きな蝙蝠の姿に変わった。夜闇に紛れながら滑空し。門の前に立っている大斧を持った角の生えた二人の悪魔から離れた場所に降りる。
彼の背後から幼女の霊が現れ、降りた場所から衛兵の元へ行く。
「こんにちはお兄さん!!」
「悪霊!!」
衛兵の大斧を振り霊を切ろうとする。インフェは軽いステップでかわしたあと。舌を出す。幼女の悪戯な顔は様になっていた。そして私は音を消す。
「くっそ!! おい!! 増援をよ……………!?」
衛兵が同僚に顔を向ける。向けた瞬間、少し干からび倒れ、気を失う衛兵。
「吸血鬼か!! 誰か!! 敵だ!!」
シーン
吸血鬼に斧を構え、間合いを取る。城を揺らすほどの大声を出しているが静かである。これだけ大きく叫びが届けばきっと城から予備兵が出てきただろう。
「誰かいないのか!!」
「私が居ます」
「!?」
彼は私に気付き、振り向き驚いた顔をする。
「魔王!!………あが!?」
だが、彼の首筋に吸血鬼が噛みつき。生気を吸う。血と生気を吸われ、気を失い。その場に倒れた。
「美味しいですか御主人さま?」
「うまい。うまい。生きようとしている物の生気と血はうまい。昔は冷えた血がうまかったが………今は暖かい血がいい。インフェが教えてくれた時からだな~はぁ~うまかった。鍵を開けてくれインフェ」
「はい」
幽霊の幼女が大きな門の中に入り込み、内側から鍵の解錠される音がする。ゆっくり開き、人が通れる幅になる。きっとこの門はデーモンのためにある大きさなのだろう。
「どうぞ」
「ありがとう、インフェ。姫様参りましょう。空から開けられないので」
「はい………結界があるますもんね」
「あああ」
幽霊憑きの吸血鬼が門を潜る。目の前には立派な城と衛兵の待合所。黒石の煉瓦が重なり、光を吸っているのか窓以外は真っ暗だ。
窓の光で、周囲がある程度分かるが………地面に骨が転がっているのが散見された。仄かに魔力が通じている。談笑が聞こえ、賭け事に没頭しているのがわかり。吸血鬼が落ち着いて骨を拾う。
「これは、スケルトンですね」
「スケルトン。起き上がるんでしょうか?」
「はい、起き上がり。戦うのですよ物量でね」
「それなら、起動はネクロマンサーが行うのでしょうね。死んでも酷使されるのでしょうか? インフェさんわかります?」
「ええっと、私が見ますと確かに魂が封じられてます」
「………では」
地面に手を付き。魔力を走らせた。出来ることはしておこう。戦力は減るが、私はその場に力を注いだ。
「姫様? 何を?」
「弔いの罠を………まぁ帰りに見せますよ。たぶん」
悪戯な笑みで吸血鬼に話しかけ、彼が首を傾げるだけだった。
*
潜入は順調だった。カンテラに照らされるのは窓だけらしく。廊下は少し薄暗い。しかし、目立つ事は変わらないので悪魔の兵士達を吸血鬼の闇討ち等をしながら歩を進める。
途中、途中で音を拾いながら調べ。捕らえられている場所を探る。
「イメージは地下牢です。あるでしょう」
「拷問部屋ならあるでしょうね地下に」
「…………」
「すいません。不安を煽るような言葉を」
「いいえ、覚悟してます」
「………お強くなれましたね。たった数ヵ月でしょうに」
「1年たつかもしれませんね…………ん?」
私の耳に聞こえた声に言葉が詰まった。
「…………何故? 上?」
城の中は広いが単調な作りのため分かりやすい。廊下が城の手前側を走り1、2、3階で人の住んでいる雰囲気がしている。談笑や、軽装で動く悪魔が多い。それらを避けながら4階へ駆け上がった。この城は兵士も多くいるようだ。
「姫様? 何をお聞きに?」
「トキヤの声と…………四天王のエリザの声です」
「何を仰ってたんですか?」
「私の情報」
「…………拷問で聞き出してるんでしょうか?」
「地下じゃなかったのね」
声が聞こえる部屋の前に立つ。木の扉の両脇に立つ。
「突入は私が、あなたは………私が合図するまで支援しないで」
「しかし………」
「………ごめんなさい。擁護は邪魔になるの。合図はそのまま名前を呼ぶわ」
巻き込むかも知れない。そう、私は並んで戦えるのは難しいと思う。知り合った数日では歩調を一緒にするのは難しい。
「わかりました。退路を見ておきます」
「ありがとう………じゃぁ、行くね」
自分は扉に向かって火球を当てる。勿論は激しい爆発音や、振動を避け。ドアノブの当たりを壊す。
そして勢いよくドアを蹴り破り突入した。剣を抜き、刀身から火の粉を撒き散らす。目の前には黒いドレス姿の四天王エルザが立ち。深いローブを着た仮面の男と会話をしていた。会話は途切れ、四天王が杖を掴む。
「魔王!?」
「トキヤを返して貰いに来ました」
「…………出方が早い。誉めてあげるわ」
「ありがとうございます。では、返して貰いに来ましたよ? 彼の声が聞こえましたの」
「地獄耳ね。まぁいいわ………予定が早くなっただけ」
「予定?」
「ええ、息子の害は取り除かないとね!!」
とんっ!! ジャラジャラジャラ!!
「えっ!?」
「あなた、油断してるわよ」
背後から、鎖の束が私の体を食い込ませる。剣を振り落とされ四肢が拘束される。四肢を拘束する鎖を見ると黒い穴が浮き出し。鎖がその穴から生み出されている。
「黒魔術デモンズチェーンをご存知無いのかしら?」
「…………使えませんから」
「ふふふ。使えない? やっぱりあなた淫魔ね。悪魔のハーフだから使えるかと思ったけど。いいえ、使えないわね。空間を弄ることもデモンズチェーンを魔力で練りあげるのも上級悪魔しか無理よね~」
「………………あなたもアラニエのように罵詈雑言を言うの?」
「当たり前でしょう? 敵なのですから」
「……………んん!!」
ガシャンガシャン!!
鎖は堅く。力で引きちぎれない。背後の吸血鬼には待つことを指示する。魔法を練ろうとするが練る瞬間に鎖が魔力を吸う。
「無理よ。あなたは下級悪魔である淫魔。上級悪魔である私には敵わない」
「………罠だったんですね。こんなに練られた魔法は即席ではないです」
「当たり前じゃない? あなた、ここは私たちの城よ? 普通でしょ?」
「…………そうでした。油断してますね」
考えてみれば当たり前。侵入者から防衛するために用意をするのは当たり前だろう。
「お間抜けねぇ………こんなに息子が苦労するとは………ね? 勇者」
「…………はい」
「勇者?」
「ふふふ、さぁ見せてあげなさい。素顔を」
ローブの男が仮面を外す。素顔を見て私は声を張り上げた。鎖から擦れるおとが激しくなる。
「トキヤ!? トキヤ、なんで!!」
「…………」
彼は答えない。ローブの男は私の愛する彼だった。体の体格をローブで隠し、仮面をつけて素顔を隠していたのだ。
「トキヤ!!」
「ふふ、ダメよ。彼は………私のだから」
エルザが優しく彼の頬に触れる。
「汚い手で触るなババァ!!」
「ババァ? へぇ~ねぇトキヤくん。私は綺麗?」
「はい、綺麗です。エルザお嬢様」
「つっ!?」
「ふふふ、だってさぁ!!」
私は唇を噛み、血の味がする。心の奥で渦巻くどす黒く熱い想いに焼かれそうな気分だ。
「彼をどうした!! エルザ!!」
「勇ましいわね。な~にちょっと洗脳してあなたを忘れさたのよ。私に魅了され、忠誠を尽くすように。堕とすのは簡単だったわ。『愛』って結局そんなものね」
「トキヤ!? そ、そんな!! トキヤ!!」
「では、トキヤくん彼女を串刺しにしなさい」
「はい」
トキヤが立て掛けられている彼の剣を掴む。見慣れた剣を持ち私の前に立った。
「トキヤ………」
「……………」
「ダメよ話しかけても。聞こえないわ」
「トキヤ本当に忘れたの?」
彼は答えない。
「そっか………エルザ。私が死んだら彼はどうなるの?」
「私の部下として働いて貰うわ。最高にいい兵士よ」
「………トキヤをお願いします」
「あなた!?」
「トキヤ、大変な人生でした。忘れて幸せになる方がいいのでしょうね」
サワッ
部屋に風が通り、髪を撫でる。顔を上げ彼の目線と合った。
「……………」
「……………」
「早くしなさい。落ち着かないわ」
耳元で風が伝える言葉は「けじめ」をつけろ。
「そうだったね」
トキヤが剣を肩に担ぎ構える。
「私が言ったんだよね」
剣を構えたまま。トキヤは静止する。
「ふぅ……………んあああああ!!」
「なに!? なに!? トキヤ早く切りなさい‼」
鎖の構造、呪いの状態、属性を考えて魔力を練る。悪魔の力は使えないがこれがどういった魔法なのかがわかる。四肢の鎖が燃え上がった。
「黒魔法は使えない。だけど…………奇跡は使えます‼ 主よ、私に打ち勝つ力を!!」
「切れ!! なぜ動かない!!」
四肢の鎖がひび割れて砕ける。私は落ち、地面に手をつきながらも素早く立ち上がる。
「はぁはぁ………解呪成功。淫魔を縛る呪いが本質ですね。個々で呪いを変えて強度を変えていくでしょう。時間稼ぎありがとう」
「トキヤ!! 切れ!!」
「……………ネフィア。話は帰ってからな」
「はい。いっぱいありますよ。文句が」
「トキヤくん!? あなた!!」
「クソババァ。お世話になったな!! ネフィア、こいつ俺を襲おうとしたぞ。始末しといてくれ、流石にババァはキツい」
「わかった。けじめはつけないとね」
立ち上がり、彼と入れ替わり対峙する。罠はあるだろうが、私の振り撒く火の粉に当たり、炎となって魔方陣が焼けていく。部屋の至るところでどんどん火の粉が上がった。
「どうして洗脳が効いていない!!」
「答える義務はないが………愛かな?」
根本的に違うとは思うけど。うれしい一言。だけど、私はそれだけで強くなれる。
「エルザ、小さい部屋ですが私とあなたどっちが生き残るか勝負です。殺そうとしたのです。覚悟はあるでしょ?」
私は地面に手をついたときに拾った剣に魔力を流す。流すだけで魔法は発言させない。すぐに飛べるように身構えた。執務机が邪魔だが、相手が詠唱を唱えた瞬間を狙う。
「デモンズ!!」
ビィン!!
エルザが口を開けた瞬間、飛び。執務机の上に降り剣を突き出した。
「ラン!?」
「遅い!!」
突き入れられた剣はエルザの顔面に向かう。剣に魔力を流し炎を纏わせた。そのまま突き入れて鮮血が後方の鉄格子の窓に飛び散り、頭を炎で吹き飛ばす。絶叫や叫ぶ事はない。頭が飛び散ったのだから。エルザの体がピクピクと痙攣し、力なく倒れた。
「近距離敵の目の前での詠唱は本来やっちゃいけませんよ? 即席魔法を使えばいいでしょうけど………それも遅く弱い」
剣の血を燃やし、鞘に納め。机から降りる。そして、トキヤに近付き声を荒げる。
「トキヤ!!」
「おう。基本がしっかりしたいい攻めだ」
「お腹に力を入れろ。いくぞ!!」
「!?」
握りこぶしで意思を伝え、彼が強張った瞬間勢いよく。顔にビンタをかました。いい音が部屋を満たす。
彼の体がガクッと崩れ、頬に赤い葉が浮き上がった。
「お、お腹じゃないのか……」
「女の子だからね。さぁ早く立って!! 逃げるよ」
「わかった。ひぃぁ~いって~~」
「………姫様。ヒヤヒヤしました」
「名演だったでしょ? 結構、分かりやすくてビックリした」
「はい。インフェ共々胃に穴が空くところでした」
「私は死んでるので空きませんが気持ちは同じでした」
「ごめんなさいね………夫が」
「今はそんなことより逃げるぞ。こっちだ」
「帰ったら家族会議ね」
「……………」
後で話を聞かせてもらおう。私たちは逃げるように城を出るのだった。




