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四天王アラクネのアラニエ..


 夜中、俺は身支度をする。剣を担ぎ、身を引き締めた。


「トキヤ何処かに出掛けるの?」


 ネフィアが俺の姿を見て首を傾げる。


「夜風に当たりにな………あと、この都市の空気が慣れていない。血生臭い空気に」


「懐かしい?」


「戦場の事を言っているなら確かに近い物を感じるな」


「ごめん。私、一緒に行けない」


 怖いから無理なのだろう。


「無理についてこなくていいぞ。幽霊、スペクターがいっぱいだからな」


 聖霊は精霊と似ていて大丈夫だろうが。悪霊はまだダメなのだろう。


「うん、行ってらっしゃい」


「おう」


 ドアノブに手をかける。


「あっ!! 待って!!」


「ん?」


「………その。ぎゅぅ~」


 ネフィアが自分の体に抱きつく。柔らかい感触と甘い匂い。女の子という物を感じとれる瞬間だった。嬉しそう幸せそうに顔を上げる。そして、両手を後ろに回しキツく締めてくる。けっこう力強い。解放されたのは数分後だった。


「じゃぁ、行ってくるな」


「う……うん。えっとちょっといい?」


「なに?」


「気を付けてね?」


「わかってる。大丈夫じゃないが大丈夫だ」


 ドアノブに手をかける。


「…………トキヤ」


「…………なんだ?」


「ごめん。何でもない」


 ドアノブに…………


「トキヤ!!」


「なんだよ!?」


「………早く帰って来てね?」


「もちろん……」


 自分は、ドアノブを勢いよく回し外に出た。引き止められないように。





 宿屋の受け付けに止められもしたが制止を振り切って外へ出る。久しぶりの都市の夜だ。黒い建て物たちが夜闇に溶け込む。そして、うるさい。


「騒がしいが。黒石が全てを中まで通じさせない」


 宿屋出た瞬間から、高く黒い建物たちを登っていく間までに幾多の阿鼻叫喚が聞こえる。狼の叫び、悪霊の呻き。そして、翼音。ワイバーンのような、蝙蝠のような、ドラゴンのような得体の知れない鳥が飛んでいる。スペクターと言う生物だろう。悪霊が集まった所を食べる変な生物だ。そんな物たちが激しい音させ、戦っている事が伺い知れる。


「風拾い」


 音を拾うまでも無いが、現状を見る聞くには欠かせない。


「!?」


 俺は慌てて耳を押さえ、魔法を止める。少しだけ呪詛が聞こえたので慌てて聞くのを止めた。悪霊が呪いを吐いている。犠牲者を増やそうとして。


「本当に魔国だな」


 クワアアアアアア!!!


 黒い建物を飛び回っているスペクターが自分に噛みつこうと大きな嘴を開ける。背中の剣を掴み、その嘴を叩き、剃らさせ剣に風を纏わせて切り刻む。肉片と血が飛び散った。


「移動しよう。臭いで他がきてしま………」


 クワアアアアアア!!!!


 肉片から煙のような物が集まり。今度は悪霊となったスペクターに襲われる。


「………恐ろしい都市だな」


 右手に魔力を流し剣に呪詛を付与する。久しぶり使う魔法だ。


「魂壊し」


 向かってくる悪霊を剣で切り払った。霊の体がひび割れ、粉々になる。


 魂は体で守られているが。皮がない中身は脆いのだ。魂を傷をつける術があるならば本当に脆い。


「ゆっくり鑑賞も出来ない………移動しよう」


 高く塔のような建物から覗いているがスペクターが寄って来てしまう。姿を消しても魂を見て察知し……来る。


「ん……………んんんん!?」


 降りようと眼下を覗いた瞬間、金色の髪が揺れる女の子が脇道に入って行くのが見えた。背筋が冷え。慌てて降りたあと彼女を探す。見覚えがあるないの話ではない。ネフィアが我慢しきれず出てきたのだろう、軽装で出てくる事はやめてほしい。


「ああ、もう!! 油断してるから!! 昔の方がきっちりしてたぞ‼」


 風見や音拾いは避ける。うっかり呪詛を見る聞くをしてしまうと何がおこるかわかったものではない。暗い路地を金色の髪の女の子を追いかける。焦りが背中を這い廻る。


「ネフィア!!」


 彼女に声をかける。そして、振り向いた。路地裏の小さなカンテラが彼女の整った顔を照らす。そして、自分は剣を引き抜き握りしめた。後ろからでは気付かなかったが正面でわかる。同じ容姿だが全て違うと本能が告げる。彼女ではない。


「…………チィ」


 油断した訳じゃない。焦りが冷静を欠いて今の状況を作り出してしまった。ネフィアなら「寂しくて飛び出すだろう」と言う考えを決め付けた結果だ。


「…………すまない」


 自分は剣を振り上げ、状況の打開を迫まる。逃げる先に罠を警戒し。後ろへ逃げず突き抜ける事を選択したのだった。






「ふぁああ~ん。むにゃむにゃ………あふ」



 都市へ来た3日目の朝。背伸びしながら隣を見る。愛しく愛しく好きでたまらない人が夜中に出歩くと言って外へ出たっきり朝まで帰って来なかった。珍しくはない。きっと相手が強いのだろうと深く考えない。絶対に帰ってくると信じてるし縁が切れてないからだ。


「ん? ん?……………ひゃ!!」


 自分は体がスースーすると感じベットを捲って驚く。一糸纏わぬ姿で慌てて布団を抱き締め隠す。


「どうして裸!? どうして? どうして?」


 頭を整理。そういえば昨日は……


「………悪戯で脱いで潜ってたんだ。帰って来て捲ったらトキヤが驚くように。んで、そのまま寝ちゃったんだった」


 思い出して取り乱した恥ずかしさが身を震わせる。バカすぎる。


「お、おバカすぎる………まぁ誰も見てないし大丈夫、大丈夫」


 布団から這い出る。そして、全身鏡の前へ立った。金髪のちょっとつり目の美少女が立っている。元男と思えぬ傷ついていない綺麗な体。


 スタイルのいい腰や大きく柔らかそうな二つの山。自分は自分の体を撫でるように触り。乳房を揉む。柔かさと気持ちよさが感じ。少し濡れる感触が太股に伝わる。


「んく!!………ふぅふぅ………」


 鏡の自分が艶めかしい。


「よし。今日も綺麗だ私!! にぃー!! 笑顔も完璧」


 愛おしい体のチェックを済ませ、笑顔の練習をする。コッソリしている行為。夢には程遠いと思うが………いつかトキヤが泣いて喜べるような、あんな笑顔をしたい。


「笑顔ひとつでここまでするなんて………本当。変な人……くすくす」


 だけど。そんな変な人を愛している私はもっと変なのだろう。全てが好きである。


「さぁ、着替えましょ‼」


 今日は彼がいないので帰ってくるまで遊ぼうと思う。この都市は昼は大丈夫な筈。そう信じて。





 本通り。宿屋の人に聞いても「帰ってきていない」と言っていた。宿屋の店主が不安がっていたがトキヤは風の魔法使い。「トキヤらしく、暗部の人間」と言うことを説明し、納得してもらう。そして傭兵の仕事についてだが。まだ話が決まってないのか「待ってほしい」との事だった。


「さぁ、少し。パンでも買って部屋で待ちますか」


 歩きながら、香ばしい匂いを探り。堅く細いパンを購入した。フランスパンと言う物。フランスと言うよくわからない地名だが。美味しいので結構世の中に出回っている。広めた人はすごいと思う。


ドンッ!!


「あっ………すいません」


「…………」


 パンを抱えて歩いていると歩行者とぶつかってしまった。相手からぶつかって来たようだが盗人ではなく、慌てて財布は確認したら盗まれていなかった。不思議だ。


「なにか?」


「…………」


 ぶつかった人は何処か見たことがあるような姿だ。美青年。金色の髪を短く切り。この都市には似つかわしくない貴族風な人。トキヤの方が格好いいし好みだっと再認識出来る人。


 ふと思うのは他の人を評価しても、好き好きフィルターがあって絶対にまともな評価が出来ない事を今、再認識した。少し、自分が変人なのを理解して、頭を下げてその場を去ろうと歩き出す。少し歩くと背中を叩かれる。振り向くとぶつかって来た人がいた。なんだろうか。


「…………おい」


「はい?」


「この姿を見て何も思わないのか?」


「えっと………もしかしてお知り合いですか? すいません………その。忘れてしまって。格好いい方なので覚えが無いのは変ですよね?」


 首を傾げる。どっかで見たような気はするが覚えがないのだ。


「ナルシストめ」


「知ってます。自分が好きですから」


「はぁ?」


 変な人を見る目をしておる。失敬な変な人です。あってる。


「えっと? 本当にどちら様ですか?」


「………ネファリウス」


「えっ? ネファリウス? 親族方ですか‼ すいません」


「ちがう!! くっそ!! なんだこの天然は!! これでも魔王か!?」


 ボロクソに悪態をつかれる。


「ん? ん? ん???」


「ネファリウス。そうお前は俺だ!! この姿はおまえ自身だ!!」


「ええ!? 胸の膨らみも細い腰や女性らしさがないですよ!? おっぱいどこ行ったんです!?」


 その姿ではトキヤを満足させることは出来ないと思う。


「………………はぁ……くっそ。男のおまえ自身の姿を模倣してるんだ!!」


「へぇ~これが男の私ですか~微妙ですねぇ」


 マジマジと私は見る。感想はこんなのなら、女にするべき。トキヤが女にした理由もわかる。線が細いし中性的で男らしくない。今の私の方が太いかもしれない。足とか……胸とか……おしりとか。安産型ですね。


「…………まぁいい。予定変更だ。お前の『連れ』は俺らが捕まえた。返して欲しくは俺についてこい」


「!?」


 それってつまり………彼が負けた事かもしれない。


「嘘?」


「残念だったな。本当だ!! さぁついてこい………お前の愛しい愛しい者がどうなっても知らない」


 彼は笑う。しかし、目は笑わず真剣であり。私は悩み視線を落とした先で彼の右手は震えているのが見えた。


 落ち着いて再度、彼の顔を見ると強張り、目が怯えていた。トキヤ以上の強さを感じない。「本当にこんなのにトキヤは負けたのか?」と疑問が出る。


「さぁ、来い!!」


「行かないとどうなる? 力づくで引っ張ればいいけど、何故それをしないの?」


 考えてみれば、わざわざ私の目の前に立つ必要はない。力づくで引っ張って行かないのは力が無いから。道行く人々が視線を避け。逃げるように私たちから距離を取った。


「つべこべ言わずについて来い‼」


「罠だよね?」


「…………」


「誰に脅されてるの? 声も、手も震えてる」


「頼む………殺されたくない。来てくれ………」


「最初からそう頼みなさい。いいですよ。行ってあげます。『ありがとう』と感謝を言えば行きます」


「ありがとう………」


「どういたしまして」


 罠だ。だが、ちょっと彼が言うことが嘘ではない事を感じ取る。珍しくトキヤは帰ってこなかった事を考えると何かに巻き込まれたのだろう。彼に案内され路地裏を進む。そして、背後を見せた彼の首筋に剣を抜いて触れさせる。動きは鈍い。戦闘慣れしていないようだ。


「トキヤは無事? こっそり教えて………死にたく無ければ」


「ひぃ!?…………無事です」


「そう、良かった。ごめんね」


 私は剣を納める。彼は本当に私を釣るための餌だ。良かった事は…………鎧を着込んできた来たことである。


「罠のお相手は?」


「…………」


「口がお堅い事ですね。いいでしょう………罠でしょうけど来るものは拒みませんよ」


 私は身を引き締めた。






 都市の外れの路地裏。黒い壁で囲まれた道。そこを進んでいくと大きな大きな道に出る。裏通り、大きな何かが通れる道。そして、表とは違い静かに堅く戸が閉められている。


「音拾い」


 聞き耳を立て音を拾う。聞こえるのは呻き声と戸のなかの人々の生活………そして、虫の大きな足音。その音は頭上からだった。


「!?」


 焦り、上を見上げる。そこに居たのは大きな蜘蛛の体に女性の体がくっついている姿。


 アラクネ族の姿だ。黒い図体、赤い四肢。睨む彼女は親友のアラクネと違い。捕食者の目だった。私は知っている彼女を。アラクネ族の最初の異端児。


「四天王!?」


「アラニエ様!! 連れてきました!!」


 四天王の一人。アラクネ族、鋼糸のアラニエ。唯一無二、私たちと共に住むアラクネ族だった人。今は親友のアラクネがいる。もうリディアとアラニエ以外は彼女のようなアラクネ族は死んだのだろう。他の種類はしらない。


「ふふふ、久しぶりね~魔王様。女なって弱くなっちゃって」


「…………あなたが私に何の用?」


「何の用って決まってるじゃない」


 アラニエの右手に鋼の糸が集まりそれを引っ張る。路地の道が全て鋼の蜘蛛の巣で塞がれ、大きな一本道となった。逃げ場はない。


「私の巣へようこそ、魔王。あなたのために作ったのよ」


「蜘蛛の罠にかかってしまったのですね………私は」


「ふふ、そう。後は料理するだけね」


フワッ


 アラニエの巨体が落ちてくる。すかさず落下地点から距離を取り、身構えた。地面の黒い石が彼女の足でひび割れる。落ちた先が血濡れる。


「いぎゃああああああ!!!」


 私の姿を模倣した彼が絶叫を上げ脳天から足で潰され、鋭い射し込みで一瞬で絶命したことが伺い知れる。ビクビクと死んだ体が震えていた。無慈悲であり、私は驚く。


「ふふ、驚いた? 彼はもういらない。だから殺してもいい。どう? 自分が死んだ姿は?」


「残念ですが仕方がないことだと思います。あと、姿は忘れてしまってそこは気になりませんが…………」


 心底胸糞悪い気分だ。


「あなた。結構ドライね」


「ええ、沢山の死を見てきましたから。ですが、生きようとする者を安易に殺すあなたにはヘドが出ます!!」


 逃げてよけて見捨てた私が何を言っても同じ屑だろうけど……このゴミを見るような目のアラニエは少し生かしてはおけないような気がした。あの攻撃は私じゃない。あえて反らしていたのだ。あの子を殺すように。


「ふふふ。いいわぁ~その苦虫を潰した顔………まぁでも追い込んであげる」


 相手は四天王の一角。それも強者。きっと無闇やたらと動けない。


 シャン!!


 勘で剣を抜き後方を切る。何本かの糸が切れる感触がし、その跳ね回る糸が手甲を叩いた。


 手甲をしていなければ手が切り刻まれていただろう。後方に鋼糸がある事が確認取れ。完全に蜘蛛の巣の内側だと再認識する。


「ふーん。周りに鋼糸があるのわかるのね? 動いたらチョンパよ」


「………どうして私を狙うのです?」


「ふふふ、トレインはあなたを倒せば私を皇后にすると言ったの素晴らしいでしょ?」


「皇后になってどうするの?」


「どうする? 簡単……遊び、食べ、楽をする。好き勝手にする。全て、私の物でありおもちゃであり弱者なのだから」


 親友とは違い。魔物のままの彼女。強さ故に四天王の席を渡すしか無かったのだろう。それで落ち着いて貰おうとしたのだろう。


「ふふふ、どうしたの? 逃げないの?」


 しかし、落ち着きは無いようだ。魔物だから。魔物だからこそ。残忍なのだ。全て餌しか思ってない。


「逃げれないです」


「ふふふ、ええ。逃げれないし逃がさない。でも怖がっていいのよ?」


「怖がってるのはあなた。近づかない」


「近づかない理由は簡単。もう、あなたに勝ち目はないから、向かう必要がないの」


 ニタニタ笑う彼女。余裕が彼女を油断させる。


「…………トキヤはどこ?」


「彼は知らない。お義母様の所でしょ?」


「お義母様?」


「ふふふ。トレインの母親ですわ~」


 トレインの母親、何故だ。


「まぁでも知っててもどうすることも出来ない。ここで死ぬから」


「…………トキヤは生きてる」


「あなたは死ぬ。わたしの愛のために」


「愛?」


「トレインを愛してるわ~ふふふ」


 白々しく愛を語る。親友のアラクネを思い出し胸の奥で熱を感じた。薄っぺらい愛の言葉に私は地面に唾を吐く。不味い不味すぎる味を捨てるように。


「………」


「所詮、護って貰うだけの姫様。私と大違い、私は戦うもんね~強いもんね~ふふふ~」


 鋼の糸の天井を彼女は作った。押し潰すつもりだ。


「さぁ~叫ぶ準備はいい? 泣く準備は? 命乞いは? 絶望する準備もいいね?」


「…………ねぇ。トレインの母親はどこ?」


「知らない~知ってどうするの?」


「トキヤを助けに行く」


「教えない~ふふふ」


 鋼糸の天井が通路を埋め大きくなる。そして、それを彼女ゆっくりと押し。道路いっぱいに広がったそれが黒石を切断しながら私に迫る。その面での攻撃や罠によってここを動けず避けられない。


「ズタズタの肉片になれ!!」


 横は鋼の巣。後方も罠。受けて立つしかない。結局、まだ私は魔王だ。降りかかる火の粉は振り払わないといけない。


「ファイアーボール!!」


 詠唱無しで大きな火球を打ち出し鋼糸の壁を焼き溶かし、穴を明けようと試みた。しかし、触れた瞬間炎は刻まれて火の粉となり、散る。


「残念。私の糸は魔法耐性があるの」


「!?」


 火の粉が壁に当たった瞬間、火花が散った。火の粉へと分散させられ、火が切り刻まれてしまった炎は消えてなくなった。膨大な魔力を使い込んだ筈なのに。


「ふーん。やっぱ勇者が護ってるだけだったのね」


「うるさい!!」


 私は悩む。考える。


「ゆっくり刻まれて死になさい速度は遅くしてあげる。所詮、『愛してる』と言って護って貰うだけじゃね~」


 彼女は罵声を浴びせて楽しんでいる。朝起きて、パン買って、誰かについて行って………罠にかかって。「私の人生はこれでおしまいか?」と考える。だが、私は疑問も持つ。


「彼を呼びなさい~泣き叫んだら来るかもね」


 私は「ここで、終わったら。彼はどうするの?」と疑問が浮かぶ。


「どうしたの? 顔を伏せて迫ってくるよ?」


 答えは彼は自害するだろう。生きる意味が無くなってしまうから。私も同じことをする。だからこそ私は答える。


「あーあ、つまらない。もっと暴れて欲しかったなぁ~」


「死ねない」


「ん?」


 トキヤのために死ぬことは許されない。そう、最後まで足掻く。生きようと努力する。


「愛する彼と長く長く一緒にいたいから!! そう!! これは私のわがまま!! 彼がいないのに勝手に死ねない!!」


 頭の中で何かが切れる音とイメージが浮かぶ。私のなりたい自分の姿のイメージが。


ブワッ


 私は四天王アラニエを睨みつけた。周りで火の粉が立ち上がっている。地面から火の粉が溢れる。私の漏れた魔力が地面で火の粉になる。


「魔法は自由なんだ」


 私は彼がいなくても戦える。彼の隣で戦える。そうなることを望んで旅を出た筈。今、私は試練を迎えている。「護られてばかりの姫様ではないと証明しろ!!」と。


「魔法は十人十色…………」


 イメージする。私だけの魔法を。誰にも負けない物でイメージする。胸に焼けるような熱さを持ち、両手で祈るように右手を胸に手を当てた。この熱は私のだけだ。

 




 私は睨みつける魔王を嘲笑う。睨みつけたと思ったら目を伏せて祈りだしたのだ。笑うしかない。諦めて祈っているのだろう。周りで火の粉が散っているが別に気にするほどでもない。


「ふふふ!! はははははは!!」


 私は高笑う。「こんなのが魔王? こんなに弱いのに魔王?」と腹を抱えて笑う。


「魔王ってそんなにスゴい物じゃないのねぇ~」


「…………………出来た。私だけの魔法。そっか……私はなんで火の魔法が得意だったのか。今、わかった。感謝しますよ。あなたが胸糞悪い者だったから」


「ん?」


 魔王が見上げた。目が赤く輝いている。そして、彼女の背中から大きく炎の奔流が巻き起こった。


 私は右手の糸に魔力を流し込み。ストッパーを外す。直感が囁く。「すぐに殺せ」と「危ない」と。


「死になさい」


 無慈悲に下す。極刑。「遊ばず、殺せ」と本能が囁く。

 

「…………」


 魔王の周囲、上方から鋼糸が弱い女を切り刻もう迫る。肉片も残さない程切り刻もうと。


 しかし、魔王の目線は私を捉え続ける。恐怖せず真っ直ぐ射ぬく。何故なら、全く攻撃が届かないからだ。


ブワァアアア!!


 彼女の背中の炎がうねり。彼女を守るように鋼の糸を溶かした。膨大な魔力の発露。熱波に私は顔を歪ませる。


「な、なに!?」


「……………」


バサァ


 彼女の背中の炎が翼の形をし、火の粉を撒き散らしながら羽ばたく。


 その姿は…………恐ろしい。魔王、悪魔、婬魔などと言われても疑問に思う程に神々しい力に見えた。


「ま、お、う。ぐぎぎ」


 悔しさ以上に。憎たらしい。その姿が。一瞬でも美しいっと感じたその姿が。


「魔王の癖に!! 魔王の癖に!!」


 頭上に鋼糸の球を作り出す。何重にもあゆまれた糸は炸裂し幾多の物を切り刻む事の出来る球だ。


 それを作り上げ、魔王に投げつける。通路いっぱいに膨らんだ鋼糸の毛糸。殺戮の球。


「死ね!! 魔王!!」


 殺意を込めて。


「……………」


 魔王は人差し指を天高く振り上げる。空を指差したその瞬間、魔王の背中の炎が離れ飛び立つ。


「!?」


「行け!! 私の炎よ!!」


 飛び立った炎の翼が鳥の形をとって、鋼糸の球にぶつかって行く。球の鋼の糸はドロドロに溶け、四方に溶けた鉄が散り、黒石に当ってゆっくりと堅くなる。鳥は球を内側から溶かし続けた。


「くぅ!!」


 両手から鋼の糸を伸ばし、魔力を流して鋼の糸の球を操り。炎をズタズタに引き裂く。炎が火の粉となって散々になり。鳥の形が消え失せる。


「はぁ、ちょっと驚いたけど………形だけ変わったファイアーボールね。無詠唱じゃこの程度」


「………尽きない」


「?」


 魔王が喋りだす。


「私の炎は簡単に燃え尽きない」


 背後から、熱を感じる。熱波が背中に当たる。


「誰よりも強い想いは熱く重く、そして激しく」


 私は振り向いた。背後で火の粉が舞っている。


「私の胸は愛で溢れ続ける。そう炎のように熱く熱く、燃え続ける」


 声が響くなかで目の前の飛び散った火の粉の一つが炎となって大きくなる。


「例え消えようとも何度も何度もこの想いは蘇る。私が彼を愛している限り」


 大きくなった炎が4本の尻尾を持つ鳥へと変化し私を睨み、私に向かって飛んで来る。知らない魔法、恐るべし魔法。


「魔王がああぁあああああ!!」


 私は叫び鋼の糸で壁を作るも……炎は糸を溶かし穴を空け。そして炎に私は飲まれた。





 決着は非常に悲惨だった。アラニエに炎が纏まりつき。彼女が暴れまわる。炎を振り払おうと暴れる。壁を壊し、無茶苦茶に動き回る。


 路地いっぱいに彼女の悲鳴が轟く。じっくり焼いている訳じゃない。巨体であり、生命力に溢れた彼女故の悲劇だ。一瞬で絶命出来ない彼女の強さが彼女を苦しめる。


 バタバタと暴れ、それがゆっくりと収まっていく。それを私は見たあと。手を伸ばし炎を収めた。


バサァ!!


 引いた炎は小さな炎の鳥となり、私の肩に止まる。それを横目で見ながら、四天王アラニエの近くで絶命した人のそばへ歩き。手を合わせた。


「世界は不平等ですが。願わくば次は幸せに生きれますように」


 きっと、脅されて。私を誘うように指示されただけだろう。


 彼の体に炎の鳥が降り、そこから体が燃えあがり一瞬にして灰になったあと。炎鳥に灰を纏わせ空高く飛び上がる。細かくなった灰は空高く消えていく。炎の鳥と一緒に。


「トキヤに何かあった。探さなくちゃ」


 私はアラニエの死体と焦げ臭いニオイを残しその場を後にした。





 二人の戦闘を見ている者がいた。


「終わった……ようね」


「ああ、当て馬にアラニエを当てたが魔王は魔王………守って貰ってばかりかと思えば………違うようだ」


「そうね。まぁ………ちょうどいいわ。あんなアラクネの魔物が息子の嫁なんて嫌だもの」


「こっちはいい死体が出来て満足だよ。ただ、アラニエが潰した死体が消えるのは予想外だ」


 隠れ家の戸を空け。アラニエの死体に近付く。いや、微かに動いている。黒く焦げた体だが口は動くようだ。


「ぜぇ……はぁ………くそ、くそ」


「さすが、四天王最強の一角と言われるアラニエさま。死体のふりでしたか」


「殺す殺す殺す殺す殺す………」


「あーあ。アラニエ無惨な姿ね。いい当て馬だったわ~相手を観察するね」


「嘘……つきやがった………魔王は勇者が強いって………」


「ええ、嘘はついていない。でもまぁ強いわね………相性悪かっただけよ」


「くぅ………っそ………」


「そろそろいいですか?」


「いいわ。私は帰る………彼をもう一回誘惑しなおさないと」


「時間がかかりますね」


「いいえ、効果が切れるだけよ。気絶させてるだけ」


「では………私は……いい死体が出来ましたので」


「ネクロマンサー!? やめろ!!」


「一回死んで下僕になって貰いましょう」


 ネクロマンサーと言われた男はアラニエを殺すのだった。自分のために。






 私は音を拾う。路地に隠れて……様子を伺っていた。


「四天王勢揃い。トキヤは捕らえれていて、洗脳を受けている。いいでしょう……………」


 トキヤに貰った剣を抜き。目の前に構える。相手には戦う覚悟がある。ならばそれは宣戦布告だ。


「私が相手をしてあげます」


 彼を助けるために。私は剣に対して意思を固めたのだった。



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