吸血鬼の懺悔..
運命があるなら。きっと夢を見たのは女神が私に夢を見させ何かをしてほしいからだろうと思われる。
私は夢で見た話をしたあと。吸血鬼セレファが……お話をしながら見せたい物があると言い。案内してくれる。
場所は聖堂の脇にある地下へと降りる階段。しかし、階段はカンテラで明るい。降りながら話をする。
「数十年前に私は彼女を買いました」
彼の背中に白い帯のようにまとわりついている霊が。彼のほほに触れる。
「夢で見られた通り、確かに………彼女は息を引き取りました」
階段を降りきるとそこは大きな広間があり棺桶が立ち並ぶ。聖霊達が飛び交い、話し合い、そして掃除をしていた。
「我ら地下墓地。カタコンベ。憑いた殿方を待つ人達の死体置き場です」
死体置き場。しかし、悲壮感や怖さはなかった。
「呪縛し、現世に留まり続ける呪いを受けた者たちです。どんな形であれ。肉片一つと強い想いがあれば現世に留まり続ける事ができます。本来は死後も拷問し、魂を傷付け消滅させる呪いです」
「それが………インフェさんの最後にかけたのですね?」
「ええ、最初に彼女をわがままで現世に縛り付けたのは自分です。そう、彼女の意思とは関係なく。だが、あそこの彼らは意思で残ってますがね」
「ご主人様、インフェはインフェの意思で残っております」
「………ありがとう。吸血鬼は不老不死がここまで辛いには初めてだ」
「ご主人様、インフェは永遠を共にします。これもいつも言ってます」
吸血鬼が嬉しそうに微笑む。幸せそうに。その姿はまるで闇の者には見えなかった。
「毎日聞いているよ…………。そう、魔王さまの言う結果から。私は呪縛の呪いを使い死を認めず。ただただ今まで過ごしてきました。教会と言ってますが他国とは違い。神聖な事はないのです。ええ、ええ」
彼は頭を下げる。確かに物語は悲哀で終わるはずだった。だけど……吸血鬼。来世まで長い。
「呪いの呪縛は苦しくないのですか? インフェさん」
浮いている状態の幼女に話しかける。
「苦しくありません。生前の方が苦しかった覚えがあります」
「そうですか」
何故、ここへ来たか。彼に会わせたかを女神は答えない。だけど………何をすればいいかはわかった。
「頭を上げてください。セレファさん」
「魔王さま?」
彼の姿がアラクネの友人の姿と重なる。悩んでいる。
「何を悩まれているのですか?」
「自分は吸血鬼………今まで多くを殺して来ました無慈悲に………残酷に………そして。いいのでしょうか? こんなにも幸せで」
彼は懺悔する。私に対して。ならば……答えてあげようと私は思う。それも聖職者の仕事なのだから。
「いいと思います」
「!?」
「私たちは聖者ではない。亞人です。生き方は様々。過去を悔いいる気持ちはわからなくはありません。ですが過去は過去です。死んだものは死んだもの。今、生きている私たちがどうするかが重要です」
一応教えを説く。
「………魔王さま?」
「この世は残酷です。生まれ持った物で生きていかなければならない。無慈悲で平等です。それをどう捉えるかです。私は仕方がないと割り切ります。平等なのは生と死だけですよ」
「私もそう思う」
インフェの幽霊が幼女の姿で頷く。
「………………では。自分はどうすればいいのでしょうか?」
「それは自分で決めること。自分を許す許さないは自分でしか決められません。あなたの人生なのですから私には関係ないです。悔いなく生きなさい。ただそれだけです」
「………わかりました。助言をありがとうございます。少し気が楽になりました」
「何も解決はしてませんけどね。長い時間があるんです。答えを焦らずともいいでしょう。そこで見つける事が出来ればいいですね」
「はい」
吸血鬼は八重歯を見せながら笑みを浮かべた。
「呪いは、許して貰えるのでしょうか?」
「呪い? 私には呪いが見えませんが?」
「えっ?」
クスッと笑い、自分は人差し指を唇に持って行き悪戯っぽく。言葉を続ける。
「呪いはありませんけど。愛の女神の奇跡はありました。ええ、素晴らしい教会の『奇跡』を見せていただきありがとうございます」
吸血鬼は驚いた顔をする。そして、彼の想い人を見つめるのだった。
*
教会の出口。吸血鬼と幼女にお見送りをしてくれている。気を使わせてしまっているようだ。
「今日はおもてなしの用意もせずスイマセンでした」
「いいえ。いきなりの訪問だったのですし………」
「そうそう。叩き起こしてすいませんでした。嫁ともども本当に申し訳ない」
トキヤが頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそ。傭兵の依頼は後ほどお伝えさせてください。それと宿屋は無償でお貸しします」
「ああ、そんな………いいのに」
「いえいえ。お気持ちです。それと………小さなお願いですが。この教会に女神像が置かれていないのご存知ですか?」
そういえば台座があるだけで何も置かれていなかった。教会なのに。何処にも。
「教会なのに変ですね?」
「ええ、インフェは人間の女神以外を信奉してるのですが居るとは信じてもイメージがしずらかったのです。愛の女神と仰いましたがその女神様の像をお作りして置いてもいいでしょうか?」
「いいと思いますよ。私も見たことないですしそれも自由ですよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「じゃぁ、また。来ます」
「はい。お待ちしております」
私たちは見送られながら。暗がりへ戻るのだった。愛の女神の思惑通りのような気がする。信者を増やそうと導かれている。そう、思うのだった。
*
夜。眠りについた瞬間。目の前で幼女を抱き寄せる吸血鬼が夢で現れる。その顔は悲痛に歪み。彼女の瞳が澄んでいた理由を知った後だと言うことが理解できた。澄んでいる理由は単純。最後まで精一杯生きようとする意思の現れだったのだ。
吸血鬼には死は無い。餌がなくなるその日まで。だからこそ、最後まで精一杯生きようとする幼女に魅せられた。吸血鬼にないものを幼女が持っている。
誰だって。自分に無いものは惹かれる。私だって惹かれている人がいる。
「………誰がそこにいる?」
「?」
「女か………お前はメイドでもない。誰だ?」
私は首を傾げる。
「お前。誰だ?」
「見えますの?」
「ああ、見える。そして…………綺麗な瞳だ。濁りのない」
彼の夢だろう。過去の夢を見ているのだろう。何度も見るほどその瞬間は辛かったのだろう。
「………彼女は死んだんですね」
「…………………いいや。死んでない」
「いいえ。命の灯火は消えています」
「お前は、天使か?」
「………いいえ。悪魔です」
「つれていく気か!? やめろ!! 認めない!! そんなこと!!」
「寂しいですか?」
「つっ…………」
「威張っても想いは伝わらないのに………手遅れでしょうけど」
「…………」
フワッ………
彼の背後から幼女の霊が現れ優しく彼の首に優しく手を回す。その表情は困った顔をする。しかし、彼はわからない。死体を抱き続ける。
「あなたの背後に彼女の霊が困った顔をしてます」
「!?」
「見えないのでしょうけど」
「…………そうか。なるほど、いるのか………………ありがとう悪魔。そして残念だったな」
「?」
「俺は!! 認めない!! 絶対に!!」
世界が暗転し。私はいつもの夢へと戻るのだった。誰の夢でもない自分の夢に。
*
「はぁ……………」
「ご主人様。今日は遅くまで起きていて大丈夫なのでしょうか?」
「吸血鬼だから。夜は得意なんだけどな………まぁ眠りたくない」
「そうですか。後で紅茶でもご用意します。それで、お会いになって何かありましたでしょうか?」
「彼女は悪魔っと言ったが………天使だった」
「?」
「過去の話を覚えているか?」
「過去ですか? 夢で悪魔が迎えに来た話は何度も何度も………」
「そう、その悪魔は教えてくれたんだ。『インフェが近くにいる』てな………綺麗な瞳だったが悪魔と言った。しかし、本当は違っていたのだろう………確証を得たよ」
「夢の悪魔様でしたか?」
「ああ、夢の悪魔だったよ。姿を思い出したのは会った瞬間だったけどな。流れ込んでくるイメージだった」
「過去にはいないのにですが?」
「言ってたじゃないか………これは『奇跡』だって」
「………ふふふ。そうですねご主人様」
「そう、たまたま夢が繋がっただけ。彼女以外もあり得たのだろう。そう、これは不確定だったが彼女が選ばれただけ………」
自分は彼女が目の前に現れたために夢が変わったのだと理解するのだった。




