都市インバス~黒い都市の中の白い教会~..
私の名前はインフェ・アフトクラトルだった。今は、アフトクラトルの名前は奪われ。長い旅の最中である。血で汚れたドレスに。木の枷が私を縛る。
ガタガタと馬車なのか、竜みたいな生き物が荷台を引っ張り。道を進む。木の檻から外を眺めると。沼のような大地が広がりだす。
(うわぁすごい。魔国ってこんなところもあるんだ)
隣で啜り泣く大人たちを尻目に私は景色を楽しむ。私の知らない世界。目に焼き付ける。
(………都市インバスが最後の都市ですか。どんな所なのでしょうか?)
聞いた話は、行き場のない者たちを喰らう都市らしい。帝国の失墜した権力者が送られる流刑地とも言われ。魔国だと言うのに人間は多いと聞く。そしてそれらは餌なのだと。今は私たち奴隷が買われて送られている状態だ。
(美味しいのでしょうか? 私は………)
腐った果実は美味しくはない。私は絶対不味いと思うのだった。
*
ついた先で私だけ下ろされる。黒いお屋敷。中に入ると赤い絨毯が血の錆の臭いで染め上げられていた。所々色が違うのは元は普通の色の絨毯だったのだろう。口に布を巻かれ叫ぶことを許されない中で商人と使用人の女性が会話をし。金額を決める。
「どうぞ」
「はい。いただきます」
まるで、物を渡すかのような簡単な取引。安く買い叩かれても商人は気にも止めない。お金になるだけでいいのだろう。
「………さぁ歩きなさい。ご主人様がお腹を空かせてるわ」
「むぐ」
「叫ばれてもあれだからそのままね」
木の手枷に紐を引っ掻けて引っ張られる。
「神様に祈りなさい……いないけど………」
使用人が顔を曇らせる。神様はいる。しかし、無慈悲だ。私にはわかる。
通された屋敷の奥。執務室のような場所。奥で背中を向ける白い肌の男が立っている。近くに棺桶が何個もあり。使用人がそれを確認する。
「………お食事はすまわれたのですね。お下げします」
「いいや。残せ」
「はい。では他をお下げします」
使用人が台車に乗った棺桶を下げる。そして食事とは。私のことだろうと思うのだった。
「………ようこそ。インバスへ。お姫様」
「もが」
男が振り向き。静閑で青白い顔を私に向けた。目が血のように淀んで紅い。その男性が近付き私の口に当てている布を外した。涎で湿った布をごみを入れる箱に捨て。笑う。
「恐怖で悲鳴をあげられないか。ははは!! 気分はどうだ? 売られた気分は!!」
私は「性格が悪そうだなぁ」と思う。
「恐怖で熱せられた血はうまい。恐怖で冷えるのではない。心臓が高鳴り熱くなる。さぁ激しく恐怖でしろ」
恐怖………いつ死ぬかをビクビクするのはやめたのだ。
「ああ、そうか。恐怖で喋れなかっ………」
目線が合う。なんとも言えない空気が漂った。
「恐怖で怯えている面じゃない………怖くないと言うのか?」
「…………」
私は静かに目を閉じる。食事を邪魔せず。今まで生きてきたことを後悔せず。いい人生だったと信じ。次の生まれ変わりを同じ様に生まれてくる事を人間の神様以外の神様に祈る。魔国って本当に誰が神様なのかはわからない。
「…………」
「…………」
*
おやつ程度に考えていた幼い子。それを見続ける。平らな胸に手をあて、血濡れたドレスを着たまま祈りを捧げていた。恐怖がない安らかな顔をしている。
「何故、恐がらない」
「…………」
「目を開けて答えよ」
「………ん、お食べにならない?」
「聞いてからでも遅くはない」
「………潔い理由でしょうか?」
見た目は幼い子。しかし物言いは何処か大人びた雰囲気を持っている。知っていることは病で早々と捨てられた皇女の一人。権力争いでの道具だったが捨てられた姫だ。
「そうだ」
「…………病で早々と死ぬ事を知っていました。いつ死んでも悔いなく生きていようと心がけて来ました」
確かに、死臭がする。死が近い。死神にでも呪われているのだろう。
「…………いい人生でした」
なにかをボソッと言ったのだが聞き取れない。
「面を上げよ」
面を上げさせる。幼女と目線が合う。真っ直ぐ見つめる大きな蒼い瞳。濁らず、恐怖せず、透き通り、吸い込まれる瞳。しかし、奥に強さを秘める瞳。
その瞳に興味が沸き。短い命、すぐに奪わずともいい事。ゆっくり死んでいくのであれば自ずと濁るだろうと思い…………見てみようと気紛れで決める。そう、気紛れで決めてしまった。
「まぁ腹は膨れている。運がいいな、使用人を呼ぶ。ゆっくり、死んでいくのも見て楽しもうじゃないか」
「……………ご慈悲をありがとうございます」
「ふん、お礼を言うか………変わった奴だ」
そして、たった数ヵ月だか………この出会いで世界が変わる事になるとは思ってもいなかった。そう、幼女の。彼女。インフェの。瞳に。
だが後悔はない。
*
「ふん、せっかく着せている服を血でぬらすな」
「申し訳ありません………」
「まぁいい、新しいのを用意すればいい」
「………げほげほ」
「さぁ、喉が渇いた。餌を用意しろ」
「はい」
*
「お前、まだ生きているか」
「はい」
「お前もしぶとい奴だな」
「体は元気なんです………でも、胸の中がダメなんです。息も詰まっていく。溺れそうになります」
「ほう………苦しんでる姿も良いものだ」
「…………それでは期待に答えられるよう頑張ります」
「……………演技はいらん」
*
「インフェ、血を飲ませろ」
「ダメです‼ 病の血………腐った血で御座います」
「ふん。吸血鬼はその程度問題ない」
「味が悪いと思われます」
「………つべこべ言わず吸わせろ」
「ダメです‼……げほげほ……」
「………すまない。大丈夫か?」
「げほげほ………はぁはぁ………げほげほげほげほ!!」
「ふん、今日は下がれ。拭ってやる」
「すいません………はぁはぁ………」
ガチャン
「………口から出てきた血だが。うまいじゃないか」
*
「インフェ」
「は、はい。ご主人様」
「目を見せろ…………」
「はい。ご主人様? いつもいつもお好きですね?」
「………お前が何故、こんなに真っ直ぐ見つめられるんだ」
「?」
「いや、いい………理由は見つける。興味がある」
「それは、少しうれしいです」
「うれしい?」
「誰も………興味を持ってくれませんでしたから。ご主人様」
「なんだ? 今、忙しい」
「インフェのこと覚えていてください」
「ご飯を覚える必要はない」
「はい。では………興味がある瞳を」
「死体から剥げばいい」
「…………はい」
*
「げほげほ………はぁはぁ」
「インフェ」
「げほげほ……」
ベシュ……
「インフェ!!」
「すいません。床を汚してしまいました。お掃除します」
「インフェ………お前は休め。他の者にさせる」
「……でも」
「命令だ」
「……わかりました。失礼します」
「………………何故。俺は焦る。なんだこの焦燥感は」
*
「インフェ………眷属にならぬか?」
「眷属とは?」
「吸血鬼となり、半永久的な命を得る。そこのグラスの血を飲め」
「……………………………」
「どうした? 飲め。病が納まる」
「お断りします」
「………何故だ?」
「私は、生きてるものです。最後まで生きます」
「何故だ!? 病がおさまるんだぞ‼」
「自分の体は………自分がよく知っております」
「……………つべこべ言わず飲め!!」
「……………わかりました」
ゴクッ、ガシャン!!
「インフェ!?」
「げほげほ………ごぼ………」
べちゃべちゃ
「インフェ!! 何故だ‼ 何故、血が効かぬ!!」
「げほげほ………もう………時間は無いんです」
「インフェ!? 喋るな!!」
「………………」
*
「…………」
「インフェ………」
「ご主人様、そこに居るにですね」
「ああ、目も開かないか………」
「申し訳………ありません」
「もっと早く。眷属にすれば」
「…………運命です。病………じゃないんです」
「!?」
「呪いの……ような物です………偽物インフェは犠牲になったのです」
「…………」
「最後、楽しかったです。ご主人様………手を………」
「あ、ああ」
「ご主人様…………怖いです」
「!?」
「死ぬのが怖い………何もかも無くなってしまう。ひっく………怖い………ご主人様が言った恐怖です………うぅ………最後になってやっと………です」
「…………食えと」
「………………ん」
「無理して目を開けるな‼」
「………最後に諦めがつきませんでした。暖かいうちにどうぞ………目もどうぞ」
「くっ!!」
「……………はぁ………ご主人様。セレファ・ヴァンパイアさま………ありがとうございました。転生先もまた……………………」
認めぬ。認めぬ。
*
「ん…………んん…………!?」
ガバッ!!
私はベットから身を起こし頭を押さえた。鉄格子の窓からは日が射し。部屋を照らすことで朝を告げる。
朝である。私は立ち上がり、鏡に写る下着姿の姿を見つめた。切れ長の美しい瞳に綺麗な金色の美少女が頭を押さえている。そう、紛れもない今の私だ。
「ゆめ……?」
婬魔は夢魔ともいい夢渡りの力がある。だけど、引っ張られるように夢を見るのは初めてだったかもしれない。関わりがある人でない。なのに……見た。
「…………関わる」
直感、夢で見た吸血鬼に私は出会うだろう。セレファ・ヴァンパイア。名前は覚えている。探して、インフェさんの呪いを解かないと。
「夢も途中。後は本人から聞きましょう。トキヤ起きて!!」
愛おしい彼の寝顔を眺めず。揺すり起こす。とにかく仕度しなくてはいけない。探す。
「んあぁ………ああ。朝か、すまない起きるのが遅くて」
「んん、疲れてるんだよ。それにそこまで気を張らなくていいから」
「………張らないから遅いんだよな。でっその顔をを見ると何かあったか?」
「えっ? わかる? うれしい!! 以心伝心!! うれしい!!」
「いつも通りか。朝からいきなりLOVEコールがないからっと思ったが気のせいだな」
「気のせいじゃない!! あったんだよ‼ 夢渡ったの!! 話を聞いて!!」
「わかったよ。聞く」
彼に夢の内容を話す。内容を話し、彼が顔が深刻な顔をした。
「…………一ついいか」
「なに?」
「インフェ・アフトクラトルと言ったな?」
「う、うん。今、凄く大変な事になってる!!」
「いや、そうだろう………でも手遅れだ」
「どうして?」
「インフェ・アフトクラトルはさ、帝国にいたんだけど。妹は知っている。だけど、姉は知らない」
「????」
「チラッと見たことがある。宮廷の内部調査でな。インフェの姫様が妹なら………ランスと一つか二つしか変わらない年上だよ。たしか、従姉だったかな?」
「!?!?」
それってつまり。夢は最近ではなく。
「数10年昔の夢なの?」
「…………まぁ俺が知ってる限りでは。姉は知らない。だが、インフェ・アフトクラトルはもうこの世にいない。葬られた人だ」
「………………」
手遅れだった。
*
宿屋の受付へ顔を出す。宿屋の店主エミールは昨日と同じローブに身を包み。お客の対応はせず、他の従業員に指示をしていた。彼なら何か知っているかもしれない。
「ああ、おはようございます。お二方、お出掛けですか?」
「あの、ちょっと情報を売ってくれませんか?」
「ええ。なんでしょうか?」
「セレファ・ヴァンパイアと言う名の吸血鬼をご存知ないでしょうか?」
「ええ、ご存知あげております。そうですか………わかりました。ご案内しましょう。そのつもりでしたし」
「えっ?」
「…………ここに泊まらせたのは指示があったからか?」
「んん?」
トキヤが腕を組む。流れが読めない。
「はい。黙っていたことをお詫び申し上げます。知ったのは今さっきでした。衛兵が指示を受けお連れしたようですね………言ってくれれば良かったのに全く。衛兵隊は………」
「いや、いいよ。酒も頂いたし。情報も」
「ありがとうございます」
「では、案内してくれ」
「はい」
宿屋の店主とトキヤが会話し。話が纏まる。少し頭がグルグルするが。まぁトキヤが何とかしてくれると言う事で頭の中がなんとか纏まった。
「留守番頼むね」
「いってらっしゃい。お兄様」
「ああ」
宿屋の店主が剣帯を腰につけ。カウンターに招き入れたあとに裏口から外へ出た。黒い壁が圧迫感を出し。押し潰そうとしている錯覚に見舞われながら小道を進む。
路地裏らしく人は居らず。建物によって日は遮られ。至るところ黒い壁で目立たないが血痕が渇いて付着している。
この都市はどこ行ってもこうなのだろう。死と血が隣り合わせの都市。汚れた空気が、停滞している。だからだろうか。連れられた場所は異様だった。
「ん?」
「風が穏やかになった?」
道の切れ目から清らかな雰囲気な場所に出る。高い城のような建物が並ぶ場所に囲まれるような場所。
門を潜ると芝生が生えた広い敷地に飛び飛びの石畳み。そしてその奥には白い大きな教会が建っていた。黒い建物が多い中、異彩を放つ場所であり。驚いてしまう。
森の小川のように澄みきった空気と太陽に照らされている教会はあの錆びれ壊れた教会を思い起こさせた。
「うーむ」
「どうしたのトキヤ?」
「ちょっとだけ居心地が悪いかも」
「そっか………合わないんだ。神聖だもんね」
聖地。そう聖地になりつつある。芝生の上に何人か寝そべって日光浴をしたり、遊んだりしている。
「驚かれましたでしょう。ここが我ら教会の本拠地です」
「ああ、驚いた。ここにこんな所があるなんてな」
「そうそう、兵士眠ってる」
「少しお待ちを」
彼が兵士のもとへ行き頭を叩く。
「おい!! 寝るな仕事中だろ!!」
「!?………あっ!? 宿直長殿!? すいません」
「全く………気持ちもわからなくはないがな」
「申し訳ありません」
私は仕方ないとも思う。ここは寝そべって日光浴すればたちまちすぐに夢見へと誘われるだろうとも思うのだった。
「見苦しい所すみません。では行きましょう」
彼についていき。大きな大きな教会の扉をくぐった。すると大きな聖堂が出迎えてくれる。
雑巾やバケツが浮き。教会を清掃していた。その中で何人かの兵士が祈りを捧げている。
「ここ、教会の雑用は全て聖霊が行ってくれています。すまない、教会の長セレファ殿にお客さんだ」
近くの雑巾が近付き。それが地面に落ちたあと。霊が現れる。メイド服を着た角の生えた霊だ。
「ご主人様ですね。はい、起きていると思われますので右から奥へどうぞ」
「ああ。ありがとう」
聖霊が消え。雑巾がまた浮き。掃除を始めた。言われた通りに奥へと歩を進める。
不思議に怖くない光景だった。
*
トントン
ガチャ
「失礼します。セレファさま」
迷路のような通路をついていった先のドアを開け、中に入る。執務室に大きな棺桶が置かれている。
「こんにちは、エミールさん。そしてごめんなさい………ご主人が起きてません」
「インフェさん。いいんですよ………本当は夜の方ですし」
「インフェ………さん?」
私はフヨフヨと浮いている幼女を見つめた。夢で見ていた彼女そっくりだが。彼女は霊だった。彼女がこちらに向けおじきをする。
「申し訳ありません。しばし、お待ちを」
幼女が棒を掴み棺桶を叩く。中から声がする。
「あ、あ、あと10分」
「くすくす、トキヤみたいな事言ってる」
「ネフィア、昔のお前も……言ってた」
「じゃぁ、お相子だね」
二人でクスクス笑い会う。夢では悲痛な最後かもしれなかったが。穏やかそうで気が緩んだためだろう。笑みがこぼれた。
「ご主人様。お客様です」
「お客様?」
「魔王様と勇者様です」
「!?」
ガバッ!!
棺桶の蓋が勢いよく開けられ、青白い肌の男が慌てて立ち上がる。
「す、すまない。朝は弱いものでな」
慌てて偉そうに取り繕る所はなんとも笑いを誘われ。私だけトキヤの背中に隠れて笑ってしまう。夢での彼とは大違い。威圧感が一切ない。
「………ネフィア。笑っちゃいけないぞ」
「ごめんなさい……ふふ。夢で見た姿より滑稽で滑稽で………」
「それでもだぞ………すいませんうちの奥さんが粗相を」
「いや、こちらこそすまない………吸血鬼故に弱いのだ。おほん、宿直長。ありがとう。下がってよいぞ」
「はい。セレファさま一つお伝えしてほしかったです。重役が泊まりに来ることを」
「…………すまない忘れていた。別に信頼してないとか悪い意味では無くてだな」
「わかりました。では、失礼します」
「……………すまんかった。本当に忘れていた」
夢の彼は何処へ。全く頼りない。
「インフェ。お茶の用意を」
「はい。ご主人様」
「ささ、そこにお座りください」
インフェと言う幼女の姿が消える。そして、すぐにフヨフヨとポットとティーカップが運ばれ、手慣れた動作で注がれる。
「冷めないうちにどうぞ」
「はい。いただきます」
私はティーカップをもち……飲む。苦味が強い茶葉だ。
「うーん。今日も朝から紅茶がうまい。インフェありがとう。早起きしたい理由だな」
「ご主人様、昨日も同じこと仰って起きてこられませんでした」
「…………インフェ」
「すいません。つい…………」
私は笑いを堪える。幼女に尻を引かれる吸血鬼がおかしすぎる。私の吸血鬼のイメージ像が壊れつつあった。
「セレファさん。要件はなんでしょうか?」
「あっと、そうだったな。すまないすまない。まぁ本題入る前に自己紹介を。私はセレファ・ヴァンパイア。ゲロシュは偽名、偽物。私が真に教会を仕切っている者だ。彼女は私の憑き人で補佐のインフェ・ゴーストです」
「インフェです。幽霊やっております。姿はあれですが………死んだときは幼く。十数年経っております」
「ネフィア。十数年経ってただろ?」
「そ、そうだね。ただ、その………うん」
「トキヤ・センゲです。こちらが妻のネフィア・ネロリリスです」
「トキヤの伴侶、ネフィア・ネロリリスです」
自己紹介。一応。
「ええ、ええ。存じ上げております。本当に昔と違い姿が変わりましたね魔王さま」
「ご存じで?」
「ええ、覚えていないですか? 一応は謁見済ですよ」
「…………ごめんなさい」
「はは。いいですいいです。死んだ瞳をされてましたから…………今の瞳の方が美しゅうあります」
白い肌の吸血鬼が笑う。
「で? 要件は?」
「ああ、ああ。話の寄り道ばっかりしてはダメですね。冒険者として二人は旅をされていると伺っていました。そこで…………どうでしょうか一ヶ月ほど教会の傭兵をと」
彼の白い顔が途端に鋭い顔付きになる。緩んだ空気が張り詰めた。
「報酬は出来高で見ます。そうですね………ヘルカイトと言う都市に送ればいいですね」
情報が筒抜けですね。筒抜けですね。
「えっと………お金ですか?」
「生活するのには欠かせない物です。トキヤ殿は魔王さまのために戦われる。それを少しお貸しいただけないでしょうか?」
「そんな。危ない事は………それに魔国へ行かなければ行けません」
「そこをお願いしたいと思います。魔王さま、悪い話じゃないと思います。ヘルカイトの都市の支援もしましょう。どうですか?」
トキヤが目を閉じて悩む振りをする。断るつもりだ。
「そうそう、四天王が今。集まって居られますし、ドッペルゲンガーの強者や人間の狂人が情報を欲してますね。匿ってあげているので安心を………まぁ返答次第で変わるかもですが。全員でかかって来られるリスクは避けるべきです」
「………」
確かに言われてみれば不安はある。と言うよりすでにヤバイですねそれ。まぁ……匿ってくれるなら。
「受けましょう」
「ネフィアが言うなら、仕方がないな」
「英断、ありがとうございます」
「ご主人様のためにありがとうございます!!」
「いや。傭兵だから金で解決だ。気にしないでいい」
「そうですね。あっでも……私がここに来た理由だけは済ませたいです」
「魔王さま。なんでしょうか?」
「実は…………」
私は、今日見た夢の話をするのだった。




