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エルフ族長の思惑..


 執務室で私は悲報を聞いた。昔から使っていた部下の婬魔の作戦失敗と訃報。都市オペラハウスに潜入した後に非業の死を遂げてしまったらしい。


「何故だ………何故ここまで強い!?」


ガシャン!!


「摂政トレイン様、お気を確かに‼」


「はぁ……はぁ………」


 執務机のグラスやワインが床に散乱する。新しく雇った悪魔が慌てて宥め。それを見てから気を落ち着かせる。


「………………ふぅ、結局。奴を仕留めないといけないか」


「勇者ですね」


「ああ、どいすればいい?」


「……………都市インバスヘ向かっていると思われます」


「父と母のいる場所か………あそこを通らなければここへは至れない」


 そう、山々の狭間に構えた要所である。最短ルートの場所だ。


「はい。そこで待ち伏せを行いましょう」


「…………よかろう。3人になったが四天王を向かわせろ。母上も理解してくれるだろう」


「はい」


「それよりも出席者は?」


「リストにございます」


 紙を渡してもらい、眺め笑う。多くの族長や盟主たちだ。何かを考えているだろうエルフ族長も載っていた。


「………よしよし」


「思った以上に出席者が多いですね」


「下見さ………色んな国のな」


 わざわざ、遠路はるばる見に来るんだ。盛大にもてなそう。魔王として相手も計りに来る。例えば……無能なら国を取るつもりで。


「先代よりも誰よりも。父を殺して歴代一の魔王に………」


 ワインが床を赤く濡らし、それを眺め。都市インバスのいい使い方を思い付いた。父上もいるならば……会わせてみるのも手である。


「ククク。元魔王……あの都市がどれだけ恐ろしいかを身をもって知ってもらおう。はははは!!!」


 俺は笑う。我が血族の怖さを知っている故に。




 魔王城の城下町。ここは首都と言ってもいい筈なのだがその大きさは首都と言うほど大きくはなかった。


 しかし、魔王城の外の景観は時期によって何処よりの素晴らしく、そして恐ろしくなる。年がら年中一面の草原が色鮮やかな花でうめつくされているが春にはワイバーン等の繁殖地となり。魔王城に来るワイバーンへの狩りも戦いも始まる。


 エルフ族長である私はもうそんな時期かと溜め息を吐きながら酒場に顔を出した。酒場にもランクはある。上級階層、中級階層、下級階層。置いている酒も値段が違い。味も異なる。だからだろう。入った瞬間奇異な目で見られるのだ。場違いだと。


「え、エルフのお偉いさんが何のようだい?」


「人を探していてね。ここで美味しい物を嗜もうとね」


「へっ………あんたの口に合うものなんかない」


 犬耳の獣人が悪態をつく。色々と嫌われた者だが、有名税のようなもの。気にしない。昔ならきっと激昂していただろう。「誰に口を聞いているのか」と胸ぐらを掴んだだろう。


「合う合わないは私が決める。自慢の逸品じゃなくていい。皆が飲んでいるもので」


「…………あいよ」


 出てきた葡萄酒をいただく。確かに安口な酒だったが。


「旨いじゃないか」


「あんた、結構安いな。それが飲めるなら十分だ」


「そうかもな」


 飲みやすく、これはいい。知らなかった。味わって飲まなくていい。量のみがいい。


「でっ、エルフの族長さんが何のようだ?」


「ダークエルフ族長。バルバトスに用件がある。良く来る店なのだろう?」


「もちろんだ。ああ、お出でなすったぜ」


「そうか。よし」


 私は背後を振り返る。軽装な鎧に身を包んだ黒い褐色の青年が俺を睨み付ける。その目は非常に冷たい。


「四天王さまがこの店に何のようだ? 場違いだと気付かないのか?」


「そんなことはない。気付いているし、それに場違いでは無くなるだろう」


「目障りだ、出ていけ。俺らの店だ」


「いいや、お前に用があって来たんだ。奢るから話を聞いてくれ」


「なんだお前。わかった。話だけ聞こう。それだけだ」


 彼が私の隣に座り注文する。酒が出て来るのを待ち、店長に席を外すように伝えた。私は覚悟は決めた。


「ダークエルフ族長、バルバトス。単刀直入に言う。昔の遺恨を捨て………仲良くしないか?」


「なにを!?」


ドンッ!!


 彼が頼んだビールのジョッキをカウンターに叩きつける。酒場の人たちの視線が集まった。


「静かに…………後で個室へ行こうじゃないか」


「世迷い言を。酒が入って狂ったか? お前が今、何を言ったかわかるな?」


「世迷い言………そうだな。世迷い言だが私は本気だ。四天王を辞めるほどな」


「四天王を辞めただと!?」


「本気だ。だから、ここにいる」


「…………」


 ダークエルフ族長が悩んでいる。言葉の意味を吟味しどうするか悩んでいるのだろう。


 彼は戦いでは恐ろしいほどの力を見せるが平時でも思考が早く荒々しいように見えて真面目であり。私たち以外にはしっかり敬語を使うのだ。その強さは四天王の一人になれる実力者。だが、「ダークエルフ」と言うだけで衛兵長という地位にしか収まれなかった。そう……私が冷遇した。愚かな種族として。

 

「個室か、店長に鍵を借りている。すでに」


 さっき、外してくれっと言ったとき。宿の鍵をひとつ借りている。酒を飲み干し、黙々と2階へ上がり借りた部屋の隣同士を確認した。隣にいないことを確認ができた瞬間に客室に入る。そして内側から鍵を閉め直した。


「よし、続きを話そう」


「昔を忘れろと言うのだな。それは到底無理だ」


「………忘れなくていい。だが、昔のようにいがみ合う関係を止めよう」


「図々しい話だな‼ お前らが俺らを馬鹿にし劣等種として沼、不浄地へ追いやり、果ては地位までも全て操ってる!! 我ら一族はどれだけを辛酸を嘗めさせられたか‼ それを忘れて仲良くしろ? ふざけるな!!!」


「ふざけちゃいない!! 大真面目だ!!」


「俺ら一族もお前らを恨んでいる!! 昔から虐げられた恨みを忘れられる訳がない‼」


「………では。どうすれば忘れられる」


「どうすれば…………」


 ダークエルフは口が裂けるような笑顔で言い放つ。


「お前の首をもって行けばいい。どうだ? 簡単だろ?」


「…………」


「どうした? 怖じ気づいたか?」


「簡単だな。私の首ひとつで許してくれるとは………良かろう。ダークエルフ族長、渡してやろう。だが条件がいる!! 期日が欲しい!! 私の使命を託すものを決める。そして、絶対にエルフ族。ダークエルフ族は仲違いせず共に歩む事をここで約束してくれ‼」


 私は正座し頭を下げた。プライドなど全てかなぐり捨てての懇願。頭の上で息を飲む音が聞こえ、ダークエルフ族長が後ろに下がった。


「エルフ族長!? お前が俺に頭を下げるのか!? どうした、何があった!? お前にいったい!!」


 ダークエルフ族長が驚いた声をあげる。冷静に状況を知ろうとする。


「現魔王…………ネファリウス改め。ネフィア・ネロリリス姫様に謁見した」


「現魔王!? あの放浪している魔王に!?」


「ああ。殺しに行った………が、返り討ちにあい。そして、魔国を任され生かされた!! この命、一度は失い。慈悲で生かされたもの。死ぬことに文句はない!!」


 真っ直ぐ言い放つ。


「え、エルフ族長………お前、変わったのか?」


「生まれ変わった。姫様に出会い。彼女と言う光によって。会えばわかる。強く逞しく美しく光っておられる事を!!」


「……………そうか。激変で少しビックリした。魔王かぁ。俺みたいに日陰者には関係ないな」


「いいや。お前も出会えばわかる。勝てないだろうきっと………おれはそう信じている」


「強いか」


「強い」


 沈黙。そして、笑い声が生まれる。


「はははは。面白い!! エルフ族長、お前の首は保留。先ずは魔王に会ってやろう。お前の信じている者の首を持ってくれば俺の溜飲は下がるだろうさ」


「もし、首を持ってくるならば。私は自害する」


「そこまでか!? なるほど。気になる」


 ダークエルフ族長がうんうんと頷く。


「姫様に出会うなら。全てをさらけ出す事をおすすめする。あと、保留の間。人質として妹をダークエルフ族の住み家に住まわせよう。私が逃げるようなら彼女を殺せ。そうはさせないがな」


「……………わかった。だが、待ってくれ」


 ダークエルフ族長が目を閉じる。


「すこし……悩ませてくれ」


 私は笑みを溢し。胸の中で崇めた。幸運に感謝をと。





 俺はエルフ族長と別れ酒場から出た後。ダークエルフ族だけを押し込んだ寮の自室へ戻る。何故か人の気配が。


「誰だ!!」


 勢い良く扉を開けた先。俺は絶句した。エルフ族の娘がいるのだ。それも、知っている人物。


「お久しぶりです。ダークエルフ族長バルバトスさま。エルフ族長、グレデンデの妹。グレーシアでございます」


「な、なぜお前がここに!?」


「兄上の人質としてです」


 今さっきの話を思い出す。今さっき決めたことだが、エルフ族長はすでに………身内を差し向けていたのだ。


「人質といっても、あなた様のために何でも言うことを聞く所存です。『死ね』と言われれば死にましょう」


「な、な、な」


 落ち着き堂々とした姿に自分は頭を悩ます。


「お、お前はあの狂った兄のために………アホじゃないか?」


「はい。ですが………初めてなんです。兄が私に頼み込んだことは………いつだって邪魔者扱いで冷たい人だったのに。今は、そうです夢を追いかけてる人です」


「…………どいつもこいつも」


 おかしい。昨日まであった世界が変わってしまったかのようにおかしくなりつつある。


「ダークエルフ族長さま。私のことを心配していだたきありがとうございます。何卒、エルフ族への悔恨を私めに………頑張って慰め物として生きます」


「………あ、安心して欲しい。俺そこまで鬼畜じゃないから」


 首をくれと言ったが……まぁ……


「そうなのですか?」


「そう。ああ………エルフ族は俺らを誤解し過ぎている。お前らと一緒のエルフ種なんだから………」


「…………そうですね。すいませんでした。それでもお近くに置いてください。役に立ってみせます」


「わ、わかった」


 自分は悔恨を忘れ、頭を悩ませる日々がやって来るとは思いもしなかったのだった。




 次の日、エルフ族長と顔を合わせる。魔王の情報交換で。


「都市インバス? エルフ族長本当か?」


「ああ、情報ではな………オペラ座の怪人と一騎討ちし仮面を剥いだらしい」


「オペラ座の怪人?」


「知らなくていいか………まぁなんにせよ。出会うならここだな。衛兵代理は任せてくれ」


「ダークエルフ族の部下に嫌われているぞ?」


「気にしない。俺の事を嫌ってくれ。他のエルフ族は嫌わないでくれと説得する」


「…………では。まぁ任せる」


「任された」










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