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日没する処の天使①

 島の中腹から入り込んだ施設の中を船長とだけで進む。理由は単純。俺だけでいい事と、人員が足りないからだ。


 そもそも、施設のみに用があるのだ。


「天使がいるって言うけど。どう見ても、コイツラじゃないよな」


「わからないな。地図から見るとまだ先があるようだ」


 施設の中は異様な光景だった。ガラスの大きい容器が並び。汚れ、濁り。液体が腐っているのもあり、割れた容器から廃液が漏れた跡もある。


 非常に苦しそうなガラスを掻いた爪跡もあるが

、その中身は何もない。骨のようなのもあるが酷く朽ち果てている。


「異様な空気だな船長。夜目は効くか?」


「忍びをなめるな。効く。だが……争った形跡はない。しかし、朽ち果てて酷い」


 ボロボロな部分から光が差し込み。大樹となった草木が施設を自然へと還そうとする。しかし、道だけは綺麗だった。まるで意志があるように人だけが通れる隙間だけは残っている。


「副船長。奥が光っている」


「………構える必要は?」


「ある」


 剣を抜き風を纏わせて身構える。軋む物音が聞こえ、アラーム音が少し掠れた声を発した。だが、それ以外は何も起きず。ただただ2人で身を構えるだけで終わる。


「防衛機構は全て風化しているようだ。燃料となる物があるのかもしれないが……」


「駆動系が壊れてるのかな。動かないからか、色々不具合が起きてたのかもな」


 久しぶりに動こうとしたのだろう。だが、メンテナンスをする機械が既に木に取り込まれており。間接に泥とホコリが詰まっている。故にもう、可動限界に来たのだろう。錆まみれ故に雨水での跡が血を彷彿とさせる。


「ただ動くだけでも異常だ。全く無事な個体もあるだろう。だからこそ気を抜くな副船長」


 船長の言い聞かせるような言葉に俺は返事だけをして、目を閉じる。魔力を送り込み、風を起こして再度、マッピング作業を行う。


「便利な忍術」


「こっちでは魔法。船長、新たな敵影はない。大丈夫そうだ。野生の魔物の死骸があるが……物音で逃げている」


「それで生き物が少ないのか」


「俺を避けているんだろうな。きっと」


「モテナイ男だなぁお前は」


「モテナイ方がいい」


「苦労したんだなぁ」


「全くもって最悪だった。皆、遠くへ行ったよ」


「そうか。すまなかった。聞いて」


「いいさ。そういう時代だ。よしよし。マッピング終わった。ここまで深くで入り込んでからマッピングできたんだ。あとは道に進むだけ」


 俺は明るい声で払拭するように声をかける。こういう廃墟はいけない。メンタルに来る。


「そういえば、天使は見目麗しい女らしいが心当たりないか? 副船長」


「心当たりしかない。子供を作るために用意されている子たちだった筈だ。保存されている旧人類の遺伝子だったか。だが『生まれるのは魔族』。製作者に『フェザー』がいたのか。それとも……」


「天使は魔族。その根本を忘れてる話だな。製作者には居たようだけど。元々、人では無くす下法だからこそ。人でなくなるのは必然だろう。『最後の手段』『崩壊後の復活方法』ではあった筈だ」


「船長………あんた、どこまで……」


「機密文書全解除権限まで」


 重役の重役。側近中の側近。その一人だろう。


「だからこそ。重要人物保護は最重要なんだ副船長」


「その重要人物はこんな禍々しい姿なのか」


「………」


 喋りながら進み、最高の封印されていただろう箇所へ辿りつく。扉は壊れ、封さえない空間の中央には未だに輝く液体に浸った。何も着てない全裸の不死であろう生き物がそこに封じられていた。あまりにもその場だけが「新しい」状態なため、違和感しかない。新品同様な環境である。ただし、コンソール機器はエラーだけを吐き続けていた。エラー内容も「通信断絶」ばかりである。


「周りと違いすぎるだろ……船長。なんでか知らないか?」


「時が止まっていたらしい。埃を避けると汚れの境目があるだろう。女神は『時』を操れたと聞く。それを常時発動していた。弱体化状態だった理由だろう」


「そこまで封印したい天使なんて、起こして大丈夫なのか?」


「大丈夫と思う。少し操作する」


 船長がコンソールに触れたあと。勢いよくクナイを差し込み、印を結んで雷が発生し壊れる。


「そ、操作?」


「ガラスを力いっぱい殴ってくれ副船長」


「わ、わかった。逃げる準備しとくぞ」


 ガラスを殴って一戦覚悟する。こういうのは戦いそうだ。ガラスはひび割れず。ただ振動するのみだった。しかし、中の天使が目を開け憎んだ表情でガラス叩き割ろうとする。ドンドンと音が響く中で。船長も俺も同じようにガラスを殴り続ける。「ピキッ」と音がした場所を集中的に攻撃し、両方の力でガラスが割れ、液体とともに中身の天使がこぼれ落ちる。


「ぜぇはーぜぇはー。女神ぃいいいいい」


 強い呪詛をこぼし、肩で息をしながら口を拭う。その身体に用意していたマントを船長は這わせ目の前に手紙を置いた。天使の目がやっと俺たちを視認した瞬間に「?」と言う表情をして眉を歪ませる。


 見た目はネフィアと同じに見える。そう、いま英国では学生さんと言われるぐらいの若い歳の子に見えるのだ。


「お前らは何者だ? 女神の関係者か?」


 船長が素早く膝をおとして回答をする。


「手紙を読んでくれ。それだけだ。佐藤由紀さん」


 天使の目が驚きと懐かしさの滲んだ瞳を向ける。そして、苦虫を潰した表情の後に手紙を受け取り目を通した。


「私の字、私のサインに絵、私の名前……どういうこと? 私はこんなのを書いた覚えはない」


「今から書き写すそうです。『女神はここにいる勇者に討ち取られました』」


「あのクソ女!! 死んだの!! だから私は解放されたのね………………」


 満面の笑み。そして、悔しい表情で俺を見つける。


「どうやってあのアマ殺せたか分からない。でも、本当にアナタがヤッたの? どうやって?」


「話せば長くなるので今は異常事態で落ち着いてからにしましょう。ネロリリス・トキヤと言います」


「新田晶。佐藤さん、もしよろしければお力をおかしください」


「女神を殺せず。ただただ何も出来ず。封印されているような小娘。だけど、今の状況は知りたい。女神が『潔く負けた』なんて思えないわ。私は私の目で確認する」


 天使がマントを脱ぐ。その身体には既に服があり、簡素な服装で翼を出して羽根の具合を確認する。羽根は黒く5枚であり、大きく欠損し、骨の翼もある。所々がツギハギの翼は痛みを見せるが何処か生きている強さも見せる。


「お手伝いさせてください。それが新田晶の使命でございます」


「大丈夫、あのオンナ。逝ったのはわかった。あいつの翼を継いだ場所。喰えた。ただ、残滓はある。バックアップには私はならないわ。愚かね、バックアップ先に一番いい天使が『私』なんて……愚かね。愚か、愚か愚か愚か!! ふふふはははははは、いいザマァ……いいザマァ………ぐす、うぅ、ううううう」


 途中、大人びた雰囲気の後に膝を崩し、顔を覆って泣き崩れる。咽び泣きながら、小さな声で何度も何度も嗚咽を吐きながら泣き続けるので船長だけ残り俺は先に船に戻る事になった。


 泣く姿は悲壮がつきまとい、あまりにも「いい涙」とは思えず。見た目相応の泣き方に船長にカウンセラーを任せた。


 その後、俺は気を利かせ。船長に夜営道具一式を送り込み。一夜明けた太陽が沈む頃に船に帰って来た。


 何があったかは知らない。だが、落ち着きを見てると「生きる」事への気持ちはあるようだ。


「船長、船出は?」


「あした。そこでゆっくり彼女の話を聞こう。終わった時代の話をな」


 天使が頭を下げる。綺麗な姿勢についつい同じように頭を下げた。その仕草に天使の目が潤むが、俺は理由を知らない。


「ネロリリスさん。ありがとうございました。多くの仇を……ありがとうございました」


 ただのお礼に察する事が出来る。


「皆、悔いなく行けるように。また会えるようになるといいな」


 俺の言葉に「ハッ」とする彼女は柔和な表情で頷く。


「そうですね」


 穏やかな顔をしている。本当に。そんな中でバツが悪そうな


「佐藤君。すまないけど。君はこれから剣客として帝とともに居てもらうから……すまない。『内戦中』なんだ」


「………人を爆弾にしたりしない?」


「殿で持っていこうとする奴もいる。だが、兵は大切にしないとな。劣勢故に無駄な事が出来ない」


「最悪。まーた私は部が悪そうな部隊配属なの……でも」


 息を吸い。深く吐き出した天使は遠くを見る。


「待遇良くしてね。『過去を認めれる』ぐらいに」


「わかった。善処する」


 話がわかる天使でわかった事は「女神への忠誠」と「女神の命令」と「女神の目的」を全て受け入れない堕天使であることがわかる。そして、天使達の会話で過去にヤバい堕天使の存在がホラーで語られていたのを思い出した。「堕天使が来る。喰われると」。


 面白いお話であるが、サボって警備を甘やかしてた天使が怒られてる時によく聞いていた。


「最初の異能、最初の堕天使。もう、伝えられる説明でしかない」


「ふふ、伝説には残ってるのね。あのアマ、『全部の記録』は消せなかったのね」


「記録があったから船長がやってきたので、無理だったのでしょう」


「そうね。そして……私を『使いたい』と思って回収したのでしょ。わかるわ。わかる」


 何処か達観し、何処か苦しそうな表情に過去を引きずる重さを感じて俺は鼻を掻いた。聞くべきじゃない。しかし、知らないと地雷を踏み抜きそうであり、悩みの種である。


「話を聞かさせてほしい。知らない事で迷惑をかけそうですので」


「……いいですよ。敗北者の人生です」


「わかった。あと、先に確認したい。『天使は全て堕天

』した」


「倒そうとしませんよ。いい気味。あの4人も消えたのでしょう。結局、劣化バックアップでも敵対するでしょうから」


 4人とはきっと、四天使だろう。名前も容姿も変わっているが一匹生きている。


「ラファエルと言う天使だけ、ルシファーと名前を変えて仕事している。旧知なら、夢で顔見せ出来るかを聞いておこう」


「四天使が生きている……大丈夫なのそれは?」


「夢で会うか? 今連絡取れた」


「……会わせて」


「では寝たら夢で会える」


 俺は睡眠を促し、俺も同じように睡眠するのだった。


 




 

 








 





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