日没する処の天子⑥
島への上陸は人工の港があり無事に停泊出来た。資材を誰もいない港で広げ、環境を整えるのに1日を費やし、警備警戒をしながら石で舗装されているが草木が張った道路を調べていく。
倒壊した家や倉庫などにマップなど資材が残っており、過去の有人の島であった事が伺え知れた。観光パンフレットが「異質」なのを示し、過去の文字から旧文字だと言うのがわかった。
読めるということは。我々の祖先の土地と言うことである。
「大陸と祖国で文字が一緒なのは異質だな。船長」
「副船長。言い伝えで祖は同じと言う言葉がある。『祖同じくし、祖を忘れるな』ってな。同じ修羅の血だろ」
「育ちは大陸だ」
「そらそうだ。だが、祖が同じなのは知っている」
祖が同じ。島国が大陸を制した記録はない。そう、「今の人類の歴史」にはない。
「船長は旧文明をどこまで知ってる?」
「旧文明が滅んでいない事まで知っている」
「どういうこと!?」
「副船長トキヤの門出にいい話だ。修羅の国は『旧文明』だ。わかるな」
これはやばい。そう、ヤバい話である。「わかってたまるか!?」と思うが好奇心が勝ち。そんな表情をしていたのだろう。船長は言葉を続けない。
「あとは帝に聞いてくれ。旧人類の」
「わかった。報酬で聞くことにしよう。雇われ船員なんでな」
俺は俺で、目の前の草をかき分けて道を開けていく。それから数時間後。捨て置かれた建物を見つけ、その日は港へ戻る事になったのだった。
*
「報告します。島内に……施設がありました。地図の通りです。道は壊れておりますが難なく通れます」
「……」
「本当ですか?」
「……」
「わかりました。無事調査後に送り届けます。副船長。帝から連絡だ」
お酒を瓶で頂きながら夜空を見上げて盗み聞きしていた俺は飛び上がって船長に近づくと、船長が耳に何か石などをつけておりそれを手渡した。
「人耳用だからお前でもつけれるはずだ。妖石と言って妖怪との契約で通話できるようになっている。あんたのサキュバスの夢を使っての通話みたいなもんだ」
「あー、はいはい。わかったわかった」
受け取り耳につけ、この時代にそぐわない技術を感じながら通話する。
「えっともしもし? 大陸国家のトキヤ・ネロリリスです」
「もしもし。うんうん、流石は大陸でも『その言葉』で通話するんだね。自己紹介。ミカド。氏名はない。役職名が名だ。唯一無二だからねぇ」
「……」
若い声、軽い声。そして、緊張感を感じさせない声に心当たりを見いだす。ネフィアに似ている。
「今は形式的な儀礼は辞めよう。ビジネスパートナーだ。雇わせてもらっている。超常現象を起こして道を開けてくれた。感謝してる」
「陰陽師、術師がいたでしょう?」
「環境破壊出来る者がまずいない。人を殺る者と環境を壊す者が違うのはわかるだろう。まぁまぁ、お話はそれだけでいいんだが……」
「なにかございますでしょうか?」
「天使が眠っている。天使はご存知でしょう? 型式番号113。113番目の被検体だ」
俺は考えを巡らせる。天使達を知る結果。多くの天使の作り方も広まっている。そして、苦労もだ。
「女神の洗脳を受けてる場合があるから『戦う必要』があるんですね?」
「いや、ない。説得してほしい。彼女は特別な天使だ。歴史書には『エラー番号113番、堕天使』と言う報告書が残っている。顛末書を詳しく読むと『女神を最初に敵対した天使』って事になっていた。不死性を持ち、女神の力で抹消出来ない天使だったようだ」
「……味方になると?」
「味方だ。彼女の未来からの手紙をデータを船長に送る。とにかく救ってあげてほしい。今は誰でも味方がほしい」
味方なのは確定し、手紙もある。捕らわれを救ってほしいとのことだろう。未来からの手紙とある。
「フェザーと言う言葉に聞き覚えはありませんか?」
「『フェザー』だ。これで君はだいたい察したかな。私は彼らの味方だよ。警戒解いてくれないかい?」
「もちろんです。帝」
暗喩の存在のことを知っている故に俺は肩を回しながら大きく大きく溜息を吐いた。そう、俺は察した。理解した。あまりにも最悪な国家である。
「修羅の国は『フェザー』に味方した最初の国ですね」
笑い声の混じった返信だ。
「なら、手伝っても良かったでしょうに……」
「私が出会う始めての日は決まっているのです。そして、私たちは『修羅』のせいで忙しいのですよ」
何があるんだ、かの国は。『修羅』のせいで。
「全部説明してくださいよ。全部」
通信を切られた中で、空を見る。どこも一緒の夜空だが。今日はやけに暗く感じるのだった。




