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日没する処の天子⑤


 風を読む事に長けた者を拾ってから、順調に生活が安定している。そんな中で船長は宝の地図を持ち出す。まるで頃合いのような言い方である。


「全員聞いて欲しい、ある島を探している。海図があり、その島には秘宝が眠っていると聞いていた。そして、私は長い略奪でその島へ至る鍵を手にした」


 酒瓶片手に大きく笑顔で船長は語る。木箱の上で演説を聞きながら、異国の葡萄酒を飲みながら。


「島への海道、島の危険から何人もの船員を駄目にするだろう、だが!! 財宝は我々を豊かにし、俺は女を抱ける」


「「「「ははは」」」」


 乾いた笑い。そりゃそうだ。俺は色々と知識があり、疑うわけじゃないが。船長は「誰かに命じられて調べていた」のだ。夢を語る愚か者ではない。「それがあることを知っていて行動していた」のだ。静かに俺の隣に来る船長は何かを覚悟していた。


「おうおう、トキヤ。なんだぁおまえぇ。疑う顔で」


「鼻が効くからさ。密書……読んじまったよ。焼くの忘れてるからな。帝勅命の私掠船だろ。あんたら全員」


 そこで俺が何者かもしっかり納得出来るほど思い出した。逆に「もう、船にいられない」のだ。


 船長は無表情で感情がわらない。ただ、静かに肩に寄せて口を出した。


「………お前を利用させて貰う。命じられた任務を終わらせるために。その後にお前をお前の知る場所に贈る予定だ。帝勅命の『忍』だ」


「……遭難は船長の手筈か?」


 都合が良すぎる。そう思うほど仕組まれている気がした。まるで「未来」が見えてるような。


「違う。たまたまだ。だが、お前の船を『護衛』していたのは確か。だからこそすぐに助けれた。本当は『襲って捕虜にして利用する』。上の命令でだ。そして『保護して島を攻略しろ』との通達だ。記憶失ってるのは驚いたがな。顛末を報告後は帝は『ゆっくり』だとさ」


「攻略?」


「ああ、だから早急に『口裏を合わせない』といけないな」


 苦心する声に俺は察した。「記憶喪失」なのも都合よかった。なぜなら「知らなかった」と言い訳出来るのだ。


「島攻略後、お前をしかるべき場所に送る事を約束する。海に男の勉強もしてもらったからな」


「船長、船員は知ってるのか? いや全員か、全員がグルか」


「ああ、全員、忍だから知ってる。教えている。だから演じ、それに従ってもらっているからこそ。下剋上が起きねぇんだ」


 最悪な船長である。私掠船であるので「公益的な犯罪者集団」である。しかも、「バレたら始末される」立場でもある。


「海路は2つある。旧海路と新海路だ。宝の地図じゃない。旧海路がその名で呼ばれる」


「新海路で消した島があるのか?」


「察しがいい。そうだ。新海路は『危険箇所』を記されており、そこに島が隠されている。旧海路は島などの陸が明記されている。その危険海域に行くのだ」


「⋯⋯危険って何が危険なんだよ」


「天候が荒れている。それはずっとな」


「そこに行くのはわかるが⋯⋯なぜ俺が必要?」


「大陸一の風魔法使いと聞いている」


「察した。天気をイジれと言うことか?」


「ああ、そのとおりだ」


「……わかった。俺の武器はあるか?」


「これだろう。海に落ちたのを回収させるの苦労したぜ」


 俺の長年の愛剣のレプリカを受け取る。錆のない所を見るとしっかりと油が塗られて保存されていた。


「わかった。これならいけそうだ」


 剣を受け取り、覚悟する。「何かある」事をヒシヒシと感じながら。





 海賊島から数十キロの近場にそれはあった。周囲に溶け込み、偽装され、目視で確認できないが天候がずっと悪く空は雲で覆われた荒い海域がその一帯だけ続いており、不審に映り、あまりにも「隠し物」があることを知らしめていた。


 船長は双眼鏡で様子を見るが首を傾げる。


「島はないんだけどな」


「……それもこれでわかる。錨を下ろしてくれ。それも全部」


「錨を下ろせ!!」


 船長の怒号で動き出すクルー。その一人が声をかけてくれる。


「いいぜ!! 副船長!!」


 副船長。なったつもりがないが、仕方ない。剣を両手で掴み魔法を付与する。そのまま船から飛び降り、海面に立ち、足を固定して大きく振りかぶる。魔力は海から空から全ての自然から借り。詠唱を唱えて威力を底上げしたあと。俺は叫ぶ。


「島よ、消し飛ばされるなよ。風の支配者!!」


 大きく剣を縦に振りかぶり、暴風が剣戟を乗せて海面を走り……大きい金属音とともに雲を裂き、1本の線を作った。


 左右に切り分けられた空間に船が大きく揺れ、船長が叫ぶ。


「馬鹿野郎!! 威力考えやがれ!!」


「………見えたぞ」


 俺は海面で指を指す。その先を船員が乗り出す勢いで見た。


 空が壊れ露出した所に大きい島が映り込み。そして、これた金属片が海に漂う。膨大な砦のような物がその場所にあるのだ。


 そう、「人工物」。それも得体のしれない人工物。


 だが俺は心あたりしかない。蒸気のむせ返る世界の技術を思い出すのだ。


「旧文明かよ」


 俺は……帝が警戒した理由を知り、帝は「知っている存在」なのを理解する。今、接触したのは何かを知っているからだ。


「ネフィアじゃなくて俺が来てよかった。見定める必要があるな」


 出会う者が「敵」か「味方」か「中立」か。


 はたまた、全てかを。





 

 


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