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天使の反乱⑤


 精鋭で固められた優軍。圧倒的殲滅略奪を容認された文書。天使への慈悲は皆無であり、それどころか前線は天使族で固められていた。前線指揮の天使族隊長が叫ぶ。青い髪の毒槍ラファエルが叫ぶ。


「我々は何者ぞ!!」


「「「「「「天使なり!!」」」」」」


「我々は誰ぞ!!」


「「「「「「英魔なり!!」」」」」」


「我々は英魔天使なり!! 祖国御旗よ、ご照覧あれ!!」


「ご照覧あれ!!」


 圧倒的士気の高さ、各々の独自の得意な武器をもって突入する姿を後方から眺めていた。そんな中でもやはり、数の差があり、そこを埋めるように僕は飛び込む。


「リボンの騎士が現れた!! 我々にはリボンの騎士様がついているぞ!!」


「リボンの騎士が居る。広めろ!! やる気は出る」


「リボンの騎士、ありがたすぎる」


 天使達の間に抜けて味方と敵を個別しながら落とす。僕の首には大きいリボンがついており、味方天使は翼を染色し、部隊紋章などで区別している。非常にわかりやすい。感謝されるなかで天使を落として行き、前線の敵天使が散り散りに敗走。襲撃せずに。


「逃げた天使は他の種族にあげろ。私たちが一番槍だ」


 一気呵成に浮島に突入する天使。そして、それを防ごうとする者が現れる。大天使。数枚の羽根から膨大な魔力。故に天使達から羨望な眼差しで「リボンの騎士さまの獲物」と願われる。


「大天使狩りの首輪付きは……」


 そして、目立つ故に声掛けも多く。多くの腕の自信を持つ天使に狙われる。そう、思っていたが。黒い鱗からヤバい匂いがする。


「黒い……龍!? もしや……黒いワイバーンの傭兵団」


「多方面で活躍中の黒竜人のイレブン。知っているだろう?」


「知っているも何も……最近、天使側でやってる指名手配犯。天使が苦肉で雇った者たち」


 元々はワイバーンや、空の生き物を捕食する物たち。ドラゴンを追いやった元凶の一種族。黒龍は勝手に滅ぶ兵器だった名残が色濃くでた劣等優勢種族。それ故に歪んでいる。


「おまえ、最強らしいな」


 そう、戦闘狂が多く。非常に荒くれ者が多い。故に僕が引き受けるに値する。エースである。


「それが何か? 旧世代の覇者さん。犯罪者で殺されるのに、なんで天使側に?」


「おお、言う言う。俺が落とした奴らは全員不思議そうにしていたな。わかってないなぁ。お前と戦いたいからだよ。『空は自由だ』」


「空賊め」


「……知ってるか、流石は緑龍と言われる。指名手配の俺達の獲物だぜ」


 背筋が冷える。最近起こっている空輸の襲撃事件などや、空島荒らし、空島の裏での利権徴収などが問題化していた。そして、そいつ等は全員同じことを言う。


「空では法が効かねぇ」


「効かねぇわけねぇええだろクソバカやろうが!!」


 自分用に作って貰った剣を尻尾で握り斬り込む。しかし、黒い鱗には通らない。鈍い音が空に鳴る。


「おうおう、あんちゃん。やる気だねぇ」


「ドラゴン!?」


「いいや、ワイバーンさ」


 鱗が逆立ち、射出される。その鱗の攻撃は実態があり、危険を感じて音のブレスで弾いた。


「あんちゃん……ブレス吐けるのか? ドラゴンかい?」


「ワイバーンだ!!」


 鱗での攻撃をいなしながら、考える。逃げるか戦うかを。


「一発受けてやる。一番自信のある攻撃を受けてやる。俺が死ねばお前の勝ちだ」


「自殺願望者め」


 欠陥を見せつける生き物に遠慮なく距離を取って加速する。爆音を空に響かせて剣を魔力を込めて射出し、黒いワイバーンの土手っ腹に当てる。鱗に刺さるが貫通はしない。


「ソニックブラッド」


 そのまま、速度を維持したまま鱗の剣の柄に蹴りを入れる。体当りではない明確な攻撃を見せる。


「ぐふっ」


 腹に風穴が空く。だが、ワイバーンは笑う。血が腹を覆い傷を癒やして無傷を生んだ。その回復方法はドラゴンゾンビを思いだす。


「ラスティ姉さんを思い出す」


「ありゃ黒龍のバグだ。あんな温和なドラゴンと比べるなよ。ありゃ希少種だ。まぁ、残念だなぁ……俺の勝ちだ」


 ワイバーンの口から怨嗟の魔法が唱えられる。なお、僕がそれを知っているので組付き、声を出す。唱えられると自分の腹に穴が空く。


「ソニックブレス」


「つっ……これは………キイタァぜぇ」


 喉奥から音の衝撃波を出しての攻撃。本来ソニックブレスはドラゴンでないワイバーンがブレスを吐くために編み出した僕のオリジナルの魔法技で、至近距離でしか威力がなく基本緊急回避の防御魔法で「弾く」力が強い防御ブレス。しかし、至近距離で当てるとどうなるかを知っている。


「……言葉が聞こえる?」


「なんらぁ、オメェ、ミミ」


 発音がチグハグで僕の声が聞こえず、鱗の隙間から血が出ている。耳と内蔵にダメージが行っているのがわかり、そのままブレスを吐き続けた。離れた後に連絡する。


「ゾンビ系、殺すことは無理。ワイバーンの黒龍の遺伝子が強い。後は任せる」


「ナニガ? ナニヲシャベッテ」


 背後から、透明な翼の生えた亜人数人が網をもってワイバーンを包む。驚き逃げ惑うワイバーンだがそのまま網に包まった状態で落ちていき、無力化を行う。


 蜘蛛の巣の網を持ってきた亜人は右手で軽い敬礼後にそのまま戦場に戻っていき僕はまたフリーになった。


「さぁ、次々」


 そして天使を蹂躙する。





 報告に上がってくる戦況は非常に愚かしい話が散見される結果になった。天使の中でも後方勤務の者たちは「観察者」を失った結果、簡単に扉を開ける。投降者以上に協力者となり、また……潜入した堕天の天使の甘言で鞍替えをしている者たちもいる。


 完全に考えられた「従来の境界線と限度を超えた戦争」を見せている。飛空艇の甲板で様子を伺い


「帝国を滅ぼせるんじゃないか? 君たちは」


「まだ帰ってなかったのかよ。黒騎士団長」


「実物を見てからの報告はいい。俺が焦ってる演技で帝国が存続するならな」


「亡霊め。だが……亡霊に捕まってる奴は他にもいる。御旗大事にしてるのは、最高の外交だ」


「あの方もエルフであればな……」


「それがなかったのは天が決めた。今は下を見ていろ」


 隣に居るローブ姿に人間の温かさを感じない。影だけである。暗殺向きな魔法ばかり得意な人だ。


「ふぅ……気楽な仕事だな。何人死んでも気にしない」


「……………そうだな。仕方ない事だ。それよりもまだ居るなら問いかけたい。空戦力は増えたのか?」


「いいや、実験的にワイバーンを飼いならす兵は居るが……魔法のが優秀であり。魔法使いによるアーティファクト作成が主な研究になってる」


「風の魔法のこれを使え。目の前の空気を踏める土台にする魔法だ。弱いと困る。お前も俺も」


 一枚の紙を用意して書き込み、騎士団長に手渡す。


「裏切り者だな」


「昔から裏切り者さ。すまないけど、開戦派閥が多くてね。もしも、開戦するなら開戦派閥が最前線だ。全員殺してくれると助かる。残念だが『戦争できるほどの国力はない』」


「嘘つきめ。国力はあるだろう」


「自由にできるほど……独裁国家じゃないんだぞ」


「そういう事か。歪んでるな」


「歪んでるが、国は豊かになる」


 妻の方法は多くの事件を生んでいるが、それは豊かさから来る事件が多い。影が消えた瞬間に入れ替わるように伝令が伝えてくる。


「残党……投降の旨、占拠が終わりました」


「占拠続行、捕虜は裁判所へ輸送準備。占拠部隊は……受け渡しまで待機する。商売人に報告。『取りに来い』とな」


 戦後処理を始める。淡々と淡々と。反乱を収める。





 執務用に設けられた部屋で私はソファーに寝転がる。エルフ族長は対面のソファーに座り笑みをこぼして報告を聞いていた。


「女王陛下、王配の手腕。なかなかの物ですね。失敗すれば……失墜して楽ができましたのに」


「失墜で得をするのは族長だけ。失墜で損するのも族長だけ。王配命令とかで無理やり通してる案件あるんでしょ」


「如何にも……揉めて揉めて。裁判所で戦い。決まった事を王配命令として出して頂いており………失墜しては困るんですよね。それよりも空島が増えた事は嬉しい限りです。今、空島がどれだけ重要なのかご存知ですか?」


「………勉強させに来たの?」


「なに、エルフの老人の独り言です」


「老人? エルフでは若人のくせに」


「まぁまぁ、空島の有能性はこの場所の上。『天楽街』『王宮』が示してしまったのです。あの土地は女王陛下の持ち物であり、賃貸である。そして、空の休憩所から。今では『イヴァリース王立第一空港』でもあり、王立飛行場から全国へ。そして首都の城への乗り換えなどの中心になております。城内はもう、昔の城内ではありません」


「懐めちゃくちゃあったかい理由それなんだ」


「女王陛下と王配の基本給料は賃貸です。『天楽街』の独立勢力も商売が上手いので……独立衛兵、独立商店。税金はしっかりと女王陛下に直接寄付し、王配はそれを孤児学院に再寄付にしてます。孤児院からは働き口として徴収すると言うことですね」


 私の知らなかった場所でここまで発展した事に驚くとともに静かな王宮がクソうるさい理由も理解出来た。すっごい工事音がする。王宮に露出パイプも増えたのもそういう事だろう。


「女王陛下の富を集める能力は流石ですね。いえ、ブランド『女王陛下』を使える時に使う。今だから出来ることですねぇ」


「……そう。で、ここで執務する理由を教えて」


「天使の警備員も出払ってます。護衛は私と妻が。それと……せっかくなら溜まってる公務処理をお願いします。王配では無理難題な案件です。ここに指印をお願いします」


 ドサッと置かれた束にゲンナリする。


「あ、赤ちゃんいる体だから」


「妻もいま、居ますが……英魔の一部は運動もしないと出産時に苦労するらしいです。過度な肥満はよろしくないと思います。それに……今は健康そうですね。診断書を書いておきます」


「………え、診断書」


「見てください。私、ナーガ系の医者になりました。立会できます」


「女王陛下として命じる。エルフ族長は立会禁止」


「…………」


 顔が崩れ、地面に座り嘆願をエルフ族長が行う。


「お願いします!! 姫を取り上げる名誉を!!」


「却下!! 姫じゃないし、王子だし、しかも族長であり、不公平になる」


「そ、そんな。妻で練習しますのでご安心を」


「妻で練習するな!! いや? 旦那に取り上げて貰えるのは嗜好か……王配にお願いします」


「くゅ!! 仕方ないですね。すまない、お茶をフィア」


 扉の先に声をかけた後、数分後。お茶をもって現れる彼女は私によく似ており、頬にホクロがあって判別出来る。影武者でもある彼女は影武者ながら素晴らしい戦力である。族長が持つ切り札だ。


「女王陛下、お久しゅうございます」


「お久さしぶり。仲は順調のようね、おめでとう」


「ありがとうございます。女王陛下も姫おめでとうございます」


「王子なんだけどなぁ」


「生まれるまでわかりませんので、姫な気がします」


 彼女はエルフ族長の隣に座る。私に似た彼女を見ているとそういう人生もあったかもしれないんだなと思うのだ。


「最初から女として生まれていれば……愛妾で何処かにいたのでしょうね」


 エルフ族長は首を振る。


「わかりませんよ。体よく奴隷でしょう。フォアと同じ。最悪四肢をもがれて生かされるだけだったかもしれない」


「族長の言うとおりです。王配と一緒だからこそ女王陛下なのです。私も王配と女王陛下が一緒だから、ここに居るのです」


 熱い答弁の裏に「色目使うなよ女王陛下」と目から言葉が出ていた。牽制である。


「そうね。なんか、私とエルフ族長が一緒に居るみたいでそう思っただけだから、本当にフィアちゃん影武者よねぇー」


「バレますけど。わかる人にはわかるらしいです。わかった上で乗ってくる方々が居ますし、聖歌隊試験にもなります。それに……胸は私のが大きく柔らかいです」


「それって垂れてるだけじゃなあい?」


「あら? 女王陛下は運動なされないのですか? 肉、ついてますよ」


「女王陛下も、フィアもやめなされやめなされ」


 ピリッとした空気から一瞬で弾けたような空気に変わる。


「お戯れすぎたかしらねぇ。ごめんなさい。フィア」


「いいえ、女王陛下。私も少し幼かったようです」


 窓に目線をやり、違うことを考える。


「いま、彼らは戦っている」


「ええ、戦っている。女王陛下。全員が生きるために戦っている。私も含めて。そして、争いが生まれるのです。多くの亜人が知らなかった亜人を知り、亀裂が起こっております。ですが、それもゆっくり変わっていくでしょうね」


 エルフ族長が唐突に耳に手を当てて慌てて立ち上がる。何か連絡があったようだ。


「女王陛下、決着です。なので王配は忙しいでしょう。ならば女王陛下。王配のいない所での話です。『天楽街組織』が衛兵、武器、諜報活動を行っている事をご存知ですか?」


「しってる。警備のためでしょう?」


「天楽街の人員全員分。それと衛兵教育。『過剰な戦力』ではありませんか?」


 言質を取ろうと質問してくる。そして、私は察した。


「第3勢力化してるの?」


「女王陛下の……いいえ、王配の私兵化してます。店で得た情報。旅人の情報。カフェハウスやコーヒーハウスの中での集まり。そうですね……リザード族長領内の繁華街を思い起こさせる世界になってます。女王直轄故に『我々が手が出せない場所』なんです」


「なるほどね。でも、『裁判』は国家裁判所管轄し、法令を遵守してるし……」


 エルフ族長に言葉を被せるように喋り出す。その言葉に私は「お願い」を感じている。


「そこは相談なのですが、我々の衛兵を置く事の許可をお願いします。族の衛兵を空港に置くことを了承ください」


「わかった。良いよ。紙はある?」


 ススっと出された紙を読み、内容に不備を見つけられずそのままサインする。これは荒波立てない方法だと察した。


「ありがとうございます。それでは失礼します」


「ええ、ありがとう。またね」


 私は彼が去ったのを確認後、耳を当てる。


「天楽街代表者呼んでちょうだい。場所は執務室で」


 具体的に契約内容を思い出す。我ながら賢い事を褒めてやりたい。


「控えなしだけど、内容は全て知っている」


 全部覚えた。トキヤに教わった通りに。





 夢に呼びされた私は席につく。内乱解決後に「分配」を決めるためにわざわざ呼び出された。場を仕切るエルフ族長の声が響く中で私は玉座に座りながら眺める。最終の決は私が取るのだ。


「優先的に強力してくれた天使の捕虜の処遇は天使長に一任、他は裁判まで留置。天使の所有土地分割はドラフトで。あとは……別に褒賞が女王陛下からいただいた。現状、『天楽街』はユグドラシル商会を超えた存在となりつつある。故に聖域にある空港。そこに衛兵を常駐させることが許された」


 ざわつく族長たち。各々が好き勝手に発言する。


「王立空港の開発権も族長全員に配布。軍港とすることも許可され衛兵在住も監視を含めて行う事を許可され、その土地配分は開発者に配布とする。質問議論だ」


 族長の顔がますます険しくなり、議論が激化する。知らぬ知らぬ間に「天楽街」は非常に厄介な存在に変貌したのだろう。トキヤが私の前に跪き、頭を垂れて話をする。


「此度の反乱、無事に治められた事を報告する。そこで首級によって褒賞を用意したい。金庫を開けてもいいだろうか?」


「金庫?」


「天楽街から貰っている賃金を収めた蔵だ」


「帳簿あるの?」


「もちろん」


 知らない間に私に金が集まっていたようだ。


「よろしい。私の金庫から出そう」


「では、そうしましょう」


 他人行儀なトキヤがニヤリとして、立ち上がった後に夢から消える。追うこともせず。ただただ騒がしい会議を傍観し、数十分後に大きく手を叩き。私は叫んだ。


「決は取った。私はもう休む。各々が誇りある行動に感謝し、益々のご健闘を祈る」


 全員が頭を垂れて敬礼をし、私は夢から醒めるわけでなく、個別の夢に天楽街の責任者を呼ぶ。一人の人間の男性であり、本当に人間な中年が姿勢を正し敬礼する。しかし、その体は影のように揺らぐ。


「女王陛下、お呼びありがとうございます」


 天楽街の責任者は何処か不安定な姿。それは……彼が魔力だけの体。そう、エレメント族なのだ。エレメント族は魔法や、魔力の残滓。妖精のような、妖精でない者達である。そして短命故にすでに彼は2代目である。


「2代目シャドウさん。天楽街は大きくなりすぎた」


「それはそれは致し方ない事です。喜ばしい事に『衛兵常駐』は天楽街の警備員の人件費が安くなるので嬉しい事です。空港が出来ればそれだけ金が動く。良いことばかりです。お金を稼ぐなら最高です」


「そうね。見てたの? 会議」


「王配にお誘いがありましてね」


 シャドウはただただ静かに仕事をする。ただただ静かに揺らぎながら。





















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