天使の反乱④
「「「女王陛下おかえりなさいませ!!」」」
眠りから冷めた私は私の王宮に設けられた作戦室に顔を出す。整列し敬礼する人々に手で応礼をし、すぐに仕事に戻るように命じ、そのまま話を聞く。エルフ族の青年が対応してくれる。
「よろしいです。戦況は?」
「大雑把には優勢ですね。国力の違いです」
「私が必要な事は?」
「なにもありません」
私が起きたのは最近。そろそろ起きないといけない気がした故に。そう、お腹が空いている。
「お腹空いた。子供が……すまないけど。ご飯先にいただくわ」
「はい、わかっております。用意いたしましょう」
起きろと急かされてしまった。ああ、子供には意思がある。
「女王陛下、帝国から使者が来ております。ご案内致してもよろしいですか?」
「重役?」
「王配の元上司です。応接室に監視とともに拘留してます」
背筋が冷えて、慌てて通すようにお願いする。上司は一人しか思いつかない。仮面の魔道士。帝国黒騎士団長である。
「わかった。ご飯は後に先に顔を出します。指示系統は『私には事後報告』です」
「はい。いい結果をもたらせるように努力いたします」
「優勢は嘘じゃない事を期待するわ」
司令室を出た後に面会室に顔を出すと、そこには仮面の男と包まれた天使が一匹おり、さも私が起きてくる事を予見していた登場だ。そんな人がわざわざ顔を出すのだから何かがあるのだろう。仮面の男はさも家のように寛ぐ。
「ようこそ、我が国へ。黒騎士団長」
「久しいな、魔王。お土産の天使だ。こいつから全て聞いている。『残党の天使が蜂起』だが。帝国は天使の願いを聞かない。静観する。『今、やっても勝てない』からな」
天使がもがき動く中で私はそれの処分を呼んだ天使にお願いをし、黒騎士団長様と会談する。
「今まで寝ていた癖に、ずいぶん……余裕そうじゃないか?」
「王などが指示をするのは大雑把。あとは下々が勝手にするだけです。形は連合国のような国の集まりですよ? 王は多いし、しっかりと仕事します」
「忠臣多くて良かったな魔王」
「はい、素晴らしい忠臣たちです。では、わざわざ首を届けた理由は『不戦の約束』ですか?」
「……ああ、それもある。現王は私に仲介を頼んだ。書面はこれだ」
「約束なんて破る物ですよ。まぁ、いいでしょう。帝国は『なくなったらこまる』ので」
侵略敵国として圧倒的に悪感情が強く纏まりが良くなっている現状。弱くなると「復讐」「富制圧」を狙う者が政敵に多くなりやすい。今は良いが、追々に強者が出てくるだろう。
「では、約束事で犯罪者の裁判やその他諸々をマクシミリアンと同じにしていただければいいんだが」
「……誰をお探し?」
「リザード族長領内に犯罪者が逃げている。それらを受け渡してほしい」
「罪状」
「国家反逆罪、そして……呪いの首謀者」
「妥当性あるの?」
「妥当性は帝国が決める。王配は出禁な理由だ」
「トキヤは正直に言うと国家反逆罪ですから、妥当ですね。わかりました。しかし、指名手配書の作成と指名手配犯の受け渡し用の場所を作ってください。また、国家反逆罪の犯罪者が我が国で犯罪を侵した場合は先ずこちらで罪を示してお送りします。事細かな内容は後日送付させていただきます」
「わかった。王にいい報告が出来て嬉しいよ」
黒騎士団長はそのまま一服をはじめようとして私は口を開ける。
「赤ちゃんいるんでお控えください」
「すまない。では、帰りながら吸うよ。その情報は……いいのか?」
「来るなら来い。暗殺出来ると思うのなら」
「お金が勿体ない」
「賢明ね。王は。勇者ぐらいいっぱい寄越せばいい過去のように」
「裏切り者として有能な人材を奪われるだけだな。そういえばあの帝国旗はどうした? 各国の旗は偽物だろう」
「御旗ね。我が家の家宝です。お譲りはいたしかねます」
「そうか。大事にしているのだな」
「ええ、わざわざどうも。それよりも皇帝の亡骸をあんな所に放置し続けてる政権はどうなのかしらねぇ」
「遺体はマクシミリアン女王が引き取った」
「そう。良かった」
彼は完全に「戦争」を回避するための動きをしていた。故に世間話がしやすい。
「知恵者は判断力の欠如で戦争し、忍耐力の欠如によって休戦す。記憶力の欠如によって再戦す」
「……私が居る間は起こり得ないだろうがな。いや、王が呪われた席であるかぎりな」
「そう願います。呪われた席は比喩ですか?」
「実害の方だ。王位継承後に体調が崩れ崩御を繰り返している。故に呪いの主を探している。では、失礼」
部屋を出るとともに入れ替わりで伝令が顔を出す。戦闘が始まったようだ。「残党の天使掃討戦」である。
「勝利後の相手の領地分配は我々に」
「もう、勝つことを考える時期じゃない。御旗と聖剣を持って行きなさい。御旗と聖剣が見ているわ」
「はい」
伝令が下がり、私の長く戦い続けた緑の剣は聖剣と崇められ、帝国の旗は御下された宝。
「女王陛下、我々の戦いをご照覧あれ」
そして、私も。非常に崇められていた。
✽
「王配陛下、女王が帝国と交渉したといいます」
飛空艇の作戦室で数人の長と報告を受けた俺は目を細めて問う。
「前線に出てきてないよな?」
「もちろん、全員が様子を監視しております。それから、御旗と聖剣をお持ちくださいとのこと」
「すでに飛び立ってるから無理だな。まぁ、いい……女王陛下よ、ご照覧あれ。作戦実行時間はフタマルマルマル。放火の射線を遮らず展開。砲撃し、魔法障壁をこの飛空艇で壊す。その後に制空権をとり、天使の島に白兵戦を仕掛け占拠する。正面はワイバーンのあいつが先鋒だ」
最後の確認後に打ち合わせが終わり皆が作戦室から消える。そして、背後に黒いマントが仮面をつけて顔を出す所にナイフを突き立てる。
「全盛期を超えたんじゃないですか? 黒騎士団長」
「まだ弱くならないか、裏切り者」
ナイフを下ろし、鍵をかけて腕を組みながら昔の上司と顔を見合わせる。
「ランスにも顔を出すんですか? 王になるつもりがないかの確認しに行くでしょ。それとも偽にされた本物の聖剣を借りに来たのかな?」
「聖剣を借りに来た。あれは一定の能力がないと抜けない。これ以上、偽物の抜ける王位継承者を増やすのもバカバカしいからな。快く渡してくれたよ。王位継承者が呪いで死んでいく。心当たりは?」
「心当たりはない。あとは聖剣はランスにとっては信用出来る一本だけに堕ちたからな。魔剣や、オーダーメイドの剣を持ちたがってるからちょうどいいんだろ。父親の剣術を学び直しているから邪魔だしな」
「そうか。では、天使を消すのだろう。天使を倒す方法を聞きたい。呪いの発生現説がある」
「……」
俺は黙って魔法と図解を机の上の裏紙に書き込み手渡す。
「なにも聞かない。なにも詮索しない。黒騎士団長」
「察するか。では、タバコをもらっていこう」
黒い影に消えていく姿から、移動する魔法を編み出し、恐ろしいレベルで精度が良くなっている。暗殺するのも容易いだろう。扉の鍵を開けた瞬間、一人のオーク族が顔を出して忘れ物を聞いてくる。顔から全て察している風に見えた。
「タバコな、他の奴に盗まれたぞ。忘れろ、お前が悪い」
「最悪……一本ください」
俺は懐から女王印のタバコを渡す。個人的に持ち歩いている物。
「最悪でしたが、女王印のコレ貰えたら……文句言えねぇなぁ」
「ささっと吸え、戦に行くぞ」
「こんな上等な奴は勝利後に吸うに決まってるでしょ。うーん、いい香りだ。素朴で純情な何も歪まないスッとした」
俺は隊長クラスのオーク族を連れて白兵戦の準備を行うのだった。




