古き良き思い出、今は善き現実②
魔国へ強制送還されるのは人狼ではなく、どうやら私らしく、金輪際帝国に関わる事が無くなる旨をトキヤから聞いた。そんな最後に帝国の魔族を預かる彼女との面会を行う。マクシミリアン女王も流石に怒られたようで手錠されての強制送還を受けていた。やっぱり、やり過ぎは怒られる。そんな中で忙しいだろうに銀髪鬼とそも伴侶が顔を見せた。
「ネフィア女王陛下、ありがとうございました」
「いえいえ、母子共に健康で良かったです。重い身ですが、頑張ってください」
「ありがたき、お言葉。ファリもよろこんでいるでしょう」
「あら、お名前? 私の子はミズキと言います」
「いいお名前ですね。東の名ですね」
「そうなの!! 夫の名前が東の名前だから。ファリちゃんは二人でお決めに?」
「いえ、私1人です」
銀髪鬼の伴侶が大きい大きい溜息を吐く。その姿にトキヤが助言をして二人だけでコソコソ話をする。
「名前の由来はネファリウス様からいただきました」
「そ、そうなのね。あまり、オススメできないかも」
「そんな謙遜を」
「いえ、同じ名前の子が……」
「尚更、罪を擦り付けるのに都合がいいで、モゴモゴ」
銀髪鬼の背後で口を抑え顔を青くする伴侶。そのまま首を腕で締める。その姿に苦笑いしながら私は二人に祝福をかけた。
「女王ネフィアの名で祈ります。あなた方、恋愛婚の家族に幸が多からん事を」
二人は慌てて離れ赤い顔のまま、深々と頭を下げる。名を覚えた未来の帝国貴族に縁を残し、私は用意されていた小船に驚く。大きさは2階の建物程度であり、形は船であるが、入口は後ろが大きく開く。プロペラが4つほどで停止している。船体を緑の迷彩布で隠されていたのかそれを捲るダークエルフの衛兵がお辞儀をし、仕事に戻る。
「え? 船? なんで陸に? 飛行船? でもこんなに小さいのが……」
「最新技術の小型艇だよ。ガルガンチュワはもうマクシミリアン領内を発った。そのままこれで領内で合流予定。ネフィアこっちへ」
トキヤに言われて船に乗り込むと、通路が狭く、人型しか乗れない。そのため人間用の少数精鋭用なのが伺え知れる。客人用というより兵士用の船である。私はそのまま仮眠室で寝かされた。その行為は私が妊婦だからだろう。お腹もだいぶ張ってきた。
「人型しか乗れない小型だから、すまないが幹部用個室で寝てもらう。座る部屋もあるが、運転席の後ろ」
「トキヤも寝るの?」
「運転席の後ろで指示する。仮眠室は全員分はない」
彼はそう言って私から離れようとする。その服を掴み私は聞いてみた。
「一緒にいてくれないの? 別に『あなたが命令する事ない』でしょ?」
「……まぁ、『出してくれ』って言うだけだな」
「じゃぁ、ちょっと避けてない?」
「……」
「顔、すごく苦しそう」
「あぁ、その。笑わないでほしい」
「なに?」
「壁の上での告白、変わらず笑顔が綺麗で惚れ直して恥ずかしくなった。頭を冷やしたいんだ」
照れ隠しに顔を背ける王子に私は体温が上がる。
「そっか、そうだね。頭冷やしていいよ」
「ごめんな」
私は服から手を離し、両手で顔を抑える。頭を冷やしたい気持ちになり唸る。初々しい反応、変わらないあの日に戻ったような。そして私たちは思い知る。
「私とトキヤ。大人になって恥ずかしくなったんだね」
非常に遠い所へ。大人になったと思うのだった。
✽
小型艇は速度重視なのか、飛空艇ガルガンチュアに追いつき、船を寄せて鎖で繋がり。凄く頼りない鉄板の橋が渡される。鎖が手摺となり、鎖に鐶と言う環状の金属製部品
。丸の部分を鎖に通して命綱として衛兵が移動を始める。何人もの衛兵が顔を青くして渡り、私の前に実験する。なお、私は正直に「怖くない」のは飛べるからだろう。同じ理由でトキヤも魔法がある。
だが、頼りないのは頼りない木の板だ。踏み外して怪我の危険がある。
「姫、手を取ろうか?」
「ふふ、ありがとう」
彼の手を取り、鎖を手すりに移動をする。ただただ優しいだけの行為での飛空艇同士の移動はすんなり終わり。小型艇は鎖を外して離れ、牽引用の鎖に再度繋ぎ後方で引っ張られて移動を始めた。私を待っていたのか、数人のお出迎えと共に専用の部屋へと導かれる。
部屋でトキヤは私に魔法を解いた。手を見ると風の輪っかがあり、それが私とトキヤを結んでいたのだろう。スッと消えて解放される。
「気付かなかった」
「気付かなかったのか!?」
「手を握ってくれてるとばかり」
「拘束魔法。一瞬でもスキが生まれたらどっかいきそうだからな」
「行かないよ」
「いいや。お前は鳥籠鳥籠とか言うが。壊してても出れる力がある。頼むから落ち着いてくれ」
「お、落ち着いてるよ」
「それは行動で示す」
「はい」
私、怒られてる。仕方ないね。
「それよりもトキヤはまたお仕事行くの?」
「ん? 魔国での話なら基本は昼は出て夜は帰ってくる。長く何処かへ行くことはしない。そろそろ、お前の護衛が必要だ」
「護衛いるの?」
「いる。お前を憎む奴は多い。そして、臭う」
「臭う?」
「まぁ、帰ってからも忙しいと思うぞ。ネフィア」
「何か話しなさいよ……黙ってないで。何が、臭うの?」
「天使内で不穏な動きがある。元々天使は……『人間側』だと揉めている」
「天使の統べる族長は?」
「それに対しては『わからない』」
裏切るかそうでないかなんて誰にもわからない。疑い出したらキリがない。故に、独裁の最後は虐殺が相場だ。
「……どうする予定なの?」
「族長裁判。全員で怪しい天使をルシファーの前で尋問する。女神の踏み絵も用意した」
「踏み絵……なんとまぁ、ひどいことを思いつく」
それは想像できる苦痛だろう。あまり、いい思いもしないが私には告げ口することもしない。私が関わるべきことではない。国内の治安は彼らが行うのだから。
「ネフィア、俺は話した。これでもう逃げられない。知ってしまった」
「ああ、落ち着いてられないの本当に大変ねぇ。族長裁判は夢で?」
「もちろん、時間が合わないから。だから、今夜の予定だった。夢魔の用意はしている」
「私が用意しましょうか?」
「負担が大きいから傍聴席にでも居ればいいさ。後は我々がする」
世の中はずっと問題続き。でもそれが世の中である。だけど、それでも歯車は回るのだ。




