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古き良き思い出、今は悪き現実⑤


 待つ間に、ミミックによる護衛は成果をあげる。金狼派と刺客だろう者の首が箱に納められて家に運ばれてドン引きし、話を聞くと「晒し首用」で集めていた。裏切り者などの顛末を見せるためらしく。恐ろしいミミック達である。


「金狼派の拠点を監視中」


 ミミックの本体は箱など入れ物で、疑似餌と言うには人間の姿をした偽物の身体である。だが、話を聞くと生殖機能は疑似餌にも用意できるらしく。それで増えているとの事。


「銀髪狼突入。棺桶ミミックの報告では優勢のようです」


 宝箱ミミックが私に逐次報告してくれる。事細かに事の成り行きを。虐殺と言う恐ろしい事件を。


「苛烈ね、人狼は」


 私の言葉に答えてくれるのはマクシミリアンの女王陛下である。冷たい声で答え、さも情もない寂しい声で答える。


「これが戦争よ。あなたは知ってるでしょ」


「……」


「でも、そんな甘いからこそ。いいとこでもある。あなたは下したのを最後まで見る強さは素晴らしいわ」


「私の責任ですから」


 重い空気にミミック達は自分たちの箱や荷物に隠れる。宝箱ミミックさえ、報告を躊躇う。


「報告滞ってますわ」


「す、すみません。ただいま、魔方陣による攻撃があり……その攻撃の余波で建物が燃えだしております。無事、討ち取ったようです」


「そう、呆気ないわね。もう報告はいいわ」


 私は深く深く溜息を吐いて天井を見る。知る顔を思い浮かべながら目を細めた。


「銀髪鬼、あなたはこんな未来を望んだの? それとも、幕引きをさせる娘を用意したかったの?」


 それはたぶん。全く、彼女は考えてない。それどころか、失敗をどうにもできなかったのだろう。だから最悪な結果へと墜ちた。私が関係者となるぐらいに。


「まぁ、これで精算かしらね。全員、居なくなった。宝箱のミミックさん。金狼派残党に報告に回って」


「はい、わかりました。全員、行こう。残党狩りになるかもしれないから身を引き締めて」


 彼女が号令をかけると同時に動き出す荷物群、そのまま私は立ち上がりお風呂の用意をする。エルミアは欠伸をして、立ち上がって私に伝える。


「護衛として暇だったわね。マクシミリアン屋敷へ向かい、事の顛末を話すわ。ネフィア、また後でね」


「ありがとうございました」


「いいのよ、それよりも。これからが面倒よね」


「ですね」


 私は考える。何が必要かと。私に出来る彼女の宿題の締めを。





 多くの修羅場を潜ってもドン引きすることはある。私は彼女に恐れを抱く。


「女王陛下、これが私の愛する愛するお母様ですわ。黙っていれば美しく、綺麗な金毛です」


 満面の笑みで持つ頭部に私は背筋が冷える。悲しみもなくただただ他人のような感情なのだろう。しかし、同時に自分の親も思い出しては察するには十分な知識があった。


「殺した親の顔を持って現れるなんてね。少し驚きましたが私もクソ親のせいで幼少期は過ごしたのでそうですね。羨ましい感じですね」


「女王陛下は私の好む応答をしてくれますね」


 隣のマクシミリアンの彼女の王子様は引きつった表情をして苦労をしているのがわかる。大立ち回りを演じた二人に私は伝えた。


「首謀者の暗殺、事の収束への道筋が出来た事を確認できました。手打ちといたしましょう。では、二人は残党を含めて今回の事件の顛末共有し、以後の判断は全て二人にお任せをします。私は見届け人として仕事が終わり次第に魔国に帰るとしましょう。全面戦争再開は嫌ですからね」


 実際、帝国に居ていい身分ではない。マクシミリアン女王も私も。黒騎士団長は胸を撫で下ろした事だろう。


「わかりましたわ。ただ、集める場は私にはないのです。家は全部燃えてしまいました」


「マクシミリアンの家にお世話になるのですから、屋敷を借りればいいと思います。女王に相談してみてください。旦那様を扱うのも仕事ですよ」


「ソーマ、だそうです」


「ああ、わかりました。ご用意します」


 頭を木箱に納めて二人はそのまま家を出る。報告が終わった後、変わりに棺桶のミミックが現れて同じような報告をした。二人きりになり、彼女のオレンジ色の瞳を覗く。瞳には紋章が浮かび上がっており、深く深く魔方陣が刻まれている。彼女も私に何かあるのか静かに言葉を待つ。


「その目、私の魔力を感じます」


「はい」


「その姿から、私を崇めてるの? やめなさい」


「個人の自由です。それに私はもう、あなたの枷がはめられています」


「枷?」


「はい、私は『未来視』が出来ます。それは非常に強力です。ですが、能力を使うと失明します。使いすぎると視力も落ちます。そして、聖職者として目を癒して治します」


「なんで私を見たの?」


「私の未来を見てしまったんです。もう、逆光で目に焼きつき。そして、力を得ました。『未来視』を持つ他人をも焼けるようになりました。黒衛兵として『未来視』を持つ能力狩りしております」


「おつかれさまです。そういう人も居るのね。でも、あなたはマクシミリアンにも関係持ってそうね。反応あったわ。そして、わざわざ飛び込んで行った。なぜ?」


「マクシミリアンの英雄は色を好むと言う言い伝えがあります。昔は本当に色を好む人が居たのです」


「わかった。そういう事ね。だいぶお年ですね」


「ええ」


 彼女が言うには過去に一度交わりを持った子孫なのだろう。ずっと見ている。ずっと裏で見ているのだ。


「色を好む男を好きになるなんて、嫉妬で狂わないの?」


「本人を見てたら嫉妬するのもバカバカしいです。でも」


 棺桶のミミックは棺桶の中から指輪を取り、指にハメて撫でる。


「…………多くを想い出すぐらいには」


「エルミア姉さんから聞いたけど。息子には正室は居らず、側室だけであり多くの子孫を残した。そういうことね」


 どれだけ1人で見ていたのだろう。


「棺桶のミミックは遺体を宝とする。しかし、本当は違うんでしょう。遺体はその一つ。あなたは何を一番の宝としているか教えてもらってもいいかしら?」


「女王陛下、何卒。許していただきありがとうございました。そうですね。私はマクシミリアンに呪われてます。私の血縁の遺体を集めるほどに」


 彼女は頭を下げる。それに笑いながら頷いた。「危なっかしくて見て居られなかった。始祖の1人」なのだから。






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