古き良き思い出、今は悪き現実③
面談後、隠れ棲む場所でお客様がやって来る。「お荷物のお届けです」と言い食料の入った箱を部屋に持ってきた。私は受け取って財布を持ち出す。
「ありがとう、お金払うね」
「お題は結構です」
人間の男性が笑みを浮かべて話し始める。
「お知り合いから賃金たんまり頂いてます」
「お知り合い?」
思い浮かべるのは黒騎士、昨日のお嬢様、そこで寝ているエルフの女王だけである。まぁ誰かだろう。
「メッセージもあります。『ようこそ帝国へ』だそうです」
「ん?」
彼がメッセージを言った瞬間に箱から魔力を感じ、直感が囁いて私は目の前の男を庇うように翼で自身と一緒に囲った。その瞬間に爆音とともに箱が大爆発をして一瞬で炎に包まれる。粘る炎と共に薬品の臭いが混じり、息を止め、崩れる建物の下で男を支えた。
そのまま、燃える瓦礫の炎を払うように翼を魔力で爆発させて吹き飛ばす。炎をそらに逃し、強制的に空気を入れ替える。男は驚いた表情で腰を抜かし、私はすぐに伝える。
「逃げなさい」
「ひぃいい」
はめられた男はコケながらも逃げ、私は瓦礫の中にいるエルフ女王を掘り起こした。
「ケホケホ、ネフィア。どうしたの?」
「無傷なの流石ですが、運搬品に爆弾か魔法。それと毒を一緒して私を狙ったみたいです」
「それでその姿?」
「説明は後です。移動しましょう。実行部隊が来ます」
「剣がないわ」
私は手に一本の剣を取り出す。緑色の光を出す剣を彼女に渡し、魔力を練る。
「前衛任せます。後衛、魔法使いネファリウスです」
「なるほど、魔法使いのがお得意なのね」
「ええ、剣術は努力。魔法は才能です」
いかなる状況にも機敏に対応こそ冒険者の必要技能。私は瓦礫となった建物に集まってくる衛兵などの足音を聞きながら立ち去る。ゆく宛を考えながら。
✱
衛兵として現場に到着後。俺は死体を探す。帝国の衛兵として雇われた俺は不自然な瓦礫に目を細めた。同僚の衛兵と顔を合わせる。
「瓦礫がどかされて1人分の穴がある。遺体はない。爆発物は何だったんだ?」
「都市内での魔法はない」
「火薬か。キナ臭い今の時期に。借り家だ。名簿を探すか」
「ああ、まぁわかるがな」
「魔王が聞いてるかもしれない、やめろ」
「はいはい、にしても……これで死なないのか。噂は本当だな。不死身って」
「だろう、1回で無理なら百回だ」
「おうおう、面倒くせぇなぁ。そろそろ衛兵が来る」
「ああ、姫さまに連絡するか」
騎士が顔を見せ、衛兵たちは敬礼ともに報告を始める。知らない振りをして人に紛れたままその場所を去る。魔王を追撃するために。
*
「なんでトキヤの家にまぁたお世話になるかなぁ、よいしょ」
私は知っている場所に避難する。敵も知っているだろう場所だが、ならばと選んだ城である。
「ネファリウス。懐かしい家ね」
「懐かしんでる場合じゃないですよぉ。籠城できるように食糧買い込みと、この家の魔法障壁を活性化。黒騎士とも連絡。色々あるんです」
トキヤは深く用意していた。家に何重にも魔法がかけられており、頑丈でありながら魔法を使える城のような場所として作っていた。護るために手段を選ばなかった彼らしい家だが。今にしてみれば最高の別荘である。
「ネファリウス、援軍呼ばない?」
「一人を既に呼んでます。無理やり強引に呼んだので明日にはつくでしょう。一騎当千です」
「どんな子を呼んだのよ」
「特殊部隊員ですね。英魔国黒衛兵です」
「噂で聞いてるわ。死神かしら」
「死神なら可愛いもんですよ。もっともっと恐ろしいです」
黒衛兵は既に私を想像を越える人たちが暗躍し、世界を整えている。それを全て理解することもできないほどに多岐にわたる事件を解決していた。四肢を金属に変えた使用人。禁書を収集することを楽しみにする魔法使い。多くの個性がいる。
「最初からそういうのに任せれば……いえ、あなたが招いた事件だったわね」
「はい、決着は私がつけます。彼女が成功失敗、どちらに転んでも。もう、私に対して明確な敵意があるうちに」
準備をしながら私は銀髪の彼女の顔を思い浮かべながら連絡を取り合うのだった。彼女に私は獲物を譲ったのだから。防衛が主である。




