古き良き思い出、今は悪き現実②
ネファリウスとして活動を考えた時、既に手遅れな事がある。それは話し合いで解決するには血を流しすぎた事である。そしてもっと出血を強いて、治めるしかなくなった。
帝国内は人狼を恐れ、夜中は窓等を固く閉めて夜を恐れて出歩かず。結果、負の感情を喰う生き物が空に舞うほどであった。悪霊、スペクターなど、帝国と言っていいのかわからないほどに危険地帯へと変わる。
「まるで昔の都市インバスみたい。でも、雰囲気はまだ全然いい。あの空の化物を始末すれば治る」
「インバス。私たちは姥捨て都市と言ってたかしらね。昔から有名で、私たちも送ってたわ」
「今、都市を閉鎖してるので無理ですよね。捨てるの……何処にしたんでしょうか?」
「噂では帝国南側の崩壊した都市に送ってるそうね。アクアマリンなども送ってるらしいけど……支配するためにまだ動いてる」
「そうなんですね。まぁ、もう需要がないですからねぇ」
いまだにそういう物は多い。現に「人などを食べないと生きていけない種族」もいる。吸血鬼、グールと言うが、今は普通に豚や亡くなった亜人、血などを貰っている。最悪な味として私の血があるらしい。飲んだり食べたら悶え苦しむほどとの事。最高品の血に私のもある。薄めて調整した血はピリッとし胃袋を熱くしたいなど、なんか刺激が欲しい時に使うとの事。今の吸血鬼は昔よりも悪食ではなく、美食家が多くなってしまった。
「姉さんの血、売ってみませんか? 吸血鬼に」
「嫌よ!? え、売ってるの?」
「天楽街の吸血鬼向け調味料に私の血を薄めたのを用意してるそうです。唐辛子など香辛料混ぜて吸血鬼向けに調整された物らしいです。クイーンブラッドと言うらしいですね」
「あなたの国は面白い物が多いわね?」
「単一種族風、多種族交配ですからね。昔は吸血鬼なんて子供が生まれたら殺すか捨てるかしてたそうですが……吸血鬼は感染症なので事後治療、症状抑えることは出来るそうです。面白いのが吸血鬼と吸血鬼の子供は健全な人で吸血鬼じゃなくなる場合もあるそうですよ」
「ふーん」
部屋の中であれやこれやと雑談し、待つこと数時間後。一人の少年と耳を見せた獣人の娘が顔を出す。私はその顔に驚き、漏らしてしまう。
「驚いた……隔世遺伝と言う言葉がありますが……ここまで『銀髪鬼』に似ているなんて。では、二人とも席にどうぞ」
「いえ、私はこの床でよろしいです」
「銀姉と同じく……床で」
二人は床に正座し、背筋を真っ直ぐにし見上げる。いきなりの行動にエルミア姉と顔見合わせる。そのままエルミア姉に紹介を促した。
「ネファリウス、彼女らは説明した通り。今の事件の首謀者の娘と私の遠い孫です。名はソーマとシャーリと言います。銀色の髪で銀と名乗ってます」
「シャーリーと申します。この度、親族の不始末……誠に申し訳ありません」
ネファリウスと言った瞬間に耳がピクッとなった瞬間から頭を垂れて謝る彼女を私は見逃さない。
「ネファリウスと聞いて反応を示したけど……ご存知で?」
「はい、重々承知の上です」
重い空気、私は「彼女らを処罰しに来た」と思っているのだろう。あながち間違いではない。ゆえに私は彼女らに質問をする。
「問います。もう、これは非常に悪い状況です。なので私が来ているのです。おわかりですね?」
「はい、我が一族の狼藉……英魔国内にも響いておいでなのでしょう」
質問の回答から、彼女があまり「世間を知らないのではないか?」と思えた。帝国外を予測しているのだろうが間違いである。
「魔国内にはなにも響かず。故に知らないかのような平穏であり、逆に好機とする勢力もあるでしょう」
「……」
「なら、何故……私が来たのか。それは『帝国王には恩義があり、彼の地を荒らす賊を始末するために』と言えば納得するでしょうか? もっと早く、もっと速く。事態を知れば取れた手段も多かったでしょうが……遠い地、我々の影響も最低限のみである故にマクシミリアン女王の護衛で単独乗り込んだのです」
偉そうに賢そうに見せる言い回し私はする。嫌味のような感じだが非常に今の雰囲気に合ういいかたである。
「なので情報がほしい。『決着』をつける相手を教えてほしい。まだ古いルールの世界なのだから」
「……」
苦悶の表情ではない。しかし、お腹を撫でながら口を引き絞り覚悟をした目で私を捉えた。
「全ての首謀者は私の母上です。故に身内の不始末は私が行います。上納金、指を集め、謝罪に向かいます故、この度はお待ちください」
「親族殺しの罪を若いもんに背負わせるわけに行きません。却下です」
私の否定に彼女は怒気を孕む。しかし、それは拳を固める事で落ち着かせた。
「私には無理と思いですか?」
「若輩すぎる。一人の小娘で解決するには難しい難局です。それに……母親殺しはあなたの世界では最悪な罪でしょう」
拳を握る強さが強まり、彼女は立ち上がった。そして、小指を咥える。その行為の意味はわからないが、空気を変えるには十分だった。
ブチブチブチ!!
咥えた指を噛みちぎり、ペッと机に飛ばす。手や口には血が滲み、ポタポタと床を濡らす。唐突な行動に呆気を取られる私たちに彼女は言い放つ。
「タマ!! とったりますよ!! たとえそれが、母親でもね!!」
沈黙、受け取った物は刃物を握るのに力を込めれなくなる物。ここを治める必要が生まれた私は静かに言う。
「わかった、そこの君。手当てしに行きなさい」
驚いていた青年がハンカチを出して彼女の肩を叩き、指を隠すように布を当てる。滲む血を見ながら、汗を流す二人が部屋を出た後に私は大きく息を吐き出す。
「ほええええええ、こえええええええ。そういう文化あるって知ってたけど……こわ」
「肝が冷えたわ……確かに小指失うのは『剣士』として力が入らないから絶命と一緒。その覚悟を示す方法としては分かりやすい。でもね……」
机の綺麗な指を見つめる。私はそれを取り上げてハンカチに包み。魔法を考える。
「腐らないように保管しないといけないんでしょ? 私、不得手よ」
「ネフィア……私もよ。元々魔法が強い訳じゃないから『剣士』だったのよ私」
「とにかく、ちょっと魔導書勝ってきます」
「私とこの指を一緒に置いていくの?」
「どうすればいい……あっ医療従事者に聞きましょう」
私は目を閉じて夢を経由し、知り合いに問いかける。貧乏神の院長に連絡をつけて通話する。不思議そうに姉さんは眺めるが、腕を組んで観察している。
「いい魔法よね。遠方と連絡取れるの」
「こんにちは院長」
「うぷ……調子悪いから手短に」
「あっ……はい。切った指の保存方法教えて」
「え、え……え。冷凍魔法で冷やしてすぐに持ってきなさい!! くっつけるから!! 急いで!!」
「あ、えっと……ごめん。私のじゃなくて……他人の。あと帝国」
「帝国!? 患者さんといつ帰ってこれる!!」
「その、えっと」
説明に時間がかかり、指を腐らせない方法を教わる。そのまま魔法を施し、綺麗に木箱を買って納める。
「指を貰ってもまじで困るだけよね」
本当、おそろしい娘さんだった。今の時代では不釣合な。




