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エルフ族長グレデンデの野望..


 ある日。俺宛に手紙が届いた。姫様であるネフィアに見せずに内容を読んで欲しいとの事で隠れながら読むとエルフ族長がある喫茶で1日待っている事が書かれていた。


 ネフィアにエルフ族長と話がある事を伝えその喫茶に出向く。手紙で話したい内容は理解していた。


「議題、姫様復権派についてか」


 負けた彼は何をとち狂ったのだろうか。





 喫茶店の鈴がなり、窓際に座る人物に手をあげる。あちらもこちらに気付いたのか手をあげた。長い耳が特徴のイケメンだ。


「彼は知り合いなので相席で。紅茶ひとつ」


「かしこまりました」


 店員に注文を済ませ、窓際の向かい側に座る。人型専用の店だ。


「来ていただきありがとうございます。姫様の殿方、トキヤさま」


「ああ、あまりにも気が狂ったんじゃないか心配になってな。頭を強く打ったようだな」


「それはご心配ありません。気は確かですよ。それも清々しい程に」


「本気ってわけか」


 俺は睨みつける。掌を返したこいつを信用するべきかと値踏みをするように。


「まぁ、飲み物来るまで雑談でもしよう」


「ええ、ご注文は?」


「済ませた」


 「注文も聞いていただろうが」と思う。俺は店員に既に座る前に頼んでいる。変なタイミングで聞きに来られるのは嫌だからだ。


「慣れてらっしゃる」


「昔からこうやって、個人的な依頼もあったからな。暗殺とかさ、拉致とか。後は情報収集からなんでもかんでも。やって来た」


「そういう悪い話は明るいうちからが基本ですから」


「ああ、まったくな」


 両方が値踏みする。どのような人物か探りを入れる。そんな間柄だ。


「四天王がここにいるのも変なものだ」


「四天王ですか。ああ、あんなの辞めました。元々、魔物のアラクネ、ネクロマンサー、大悪魔の監視で私が居たのです。それも、『終わりそうだな』と思いました。四天王は姫様を倒せと命令が下されていますが誰も姫様に敵わないでしょう」


「ふーん。ではただのエルフ族長か」


「はい、まぁまだ。味方は誰もいませんが」


「お待たせしました。どうぞ」


「ああ、ありがとう」


「私も、おかわりください」


「はい!! かしこまりました!!」


 自分は即席魔法を唱え、音を押さえる。ネフィアに教えたのは俺だ。出来て当たり前。だが、ネフィアほど持続も広さもない。あいつは特化型の天才だった。彼女はこれだけの事を簡単のやってのけるのだが、それを愛の力といい自分の上を行く。その力は魔王らしくないが伝承に残るどの魔王より凶悪になるだろうと予想がついた。強い片鱗が見え……覚醒しているような程に強者に見える。剣の腕も見違えるように強い。魔法使いの癖に。


「色んな事を喋っても音は漏れない。例えば……」


 机を強く叩く。大きな音がするが店員も他の客も気にしていない。そう、音が伝わらないためだ。ここだけにしか聴こえない。


「本当に、あなたは暗殺向きですね。魔法が」


「ネフィアの方が凄いぞ。都市中に愛の告白を叫びやがった。胸張って、世界の中心で誰よりも愛を叫ぶんだってさ…………迷惑な」


「さすが、姫様。深い愛ですね」


「姫様ねぇ………魔王さまじゃないのか?」


「魔王さまより、今の麗しくお美しい神に愛された姿は魔王と言う暗い恐怖の肩書きよりも姫様がお似合いだと存じます」


「…………おまえ、摂政トレイン側だろ?」


「四天王を辞めた後に実家に帰ると言っております。まぁ彼に色々していただきましたが全てお返ししました。絶縁です」


「そんなことしたら粛清されても文句は言えないだろ?」


「粛清されるほど。私たちは弱くはないですよ」


 完全なる敵意。人が人なら芽を潰す。絶対に芽を潰す。黒騎士団のようなのが無いのだろう魔国には、だからこいつは生きている。


「………勇者さま。目的を先にお話ししましょう」


「ああ、聞こう」


「姫様を魔王に据えたい。私はね」


「却下、ネフィアは魔王を摂政トレインに譲って渡したいらしい。譲位派だ。俺もあのくそったれな席に嫁を置きたくはない。危険で汚れている。まだ、『あいつが座るべき席ではない』と言うことだ。それまで俺が許さない」


「そうですか。妥協案としてどのようなら姫様をお譲り出来ますでしょうか?」


「あいつを慕いながら全員従い。命を捧げてもいいと思うまでの奴隷に堕ちてもいいほどに苦にならない所まで仲間になる。無理だろうがな」


 頭の奥でピリッとした痛みを伴う。何故か過去でそんなことをして命を落としたような気がする。昔の記憶じゃなく生前かもしれない。覚えていないからどうでもいいがな。


「……………無理ですね」


「じゃぁ、一生。魔王は無しだな。おまえもやる気がないし」


「やる気がない!? 許せませんね、その一言」


「許せないのは俺だ。『無理』て決めつけてやろうとしない。諦めてるやつに嫁を預けられるか?」


 睨み会う俺たち。


「ああ、なるほど。あなたは勇者、苦難を切り開ける。わかりました。男に二言は無いですね? その条件を満たせば譲って頂けると?」


「ああ、俺もあいつの剣として尽力してやるよ。お前が愚者か勇者かを見させてもらおう」


「約束です。それと、助言を乞うのはよろしいでしょうか? 険しい茨道なので」


「いいだろう。好きにしな、俺が持てる情報を出してやろう」


「………交渉成立。骨が折れますが姫様の忠義のために」


 パッと笑みを向けいい顔をする族長だと思った。だが恐ろしさも感じた。「聞いとかないとな」と、その考えに至ったのかと。


「エルフ族長。何故、あいつを魔王に据えたい? そして、決心させたのはなんだ? 負けたからか?」


「ええ、負けた事も一因ですが。長くなりますがいいでしょうか? 全部聞いてくださいますか!!」


「お、おう………」


 テーブルを乗り上げてこっちを見る。ちょっと怖い。怖いどころか目に焦点があってないのを見た瞬間に薬をキメている気がして驚く。


「では私の小さな人生なぞ取るに足りません。結論から言いますと姫様に太陽のような熱く暖かい光を見ました!!」


「お、おう………炎の残りじゃないかな?」


 そう見えただけだろう。炎を撒き散らすだけ。


「いいえ!! 昔の女神を称える文献に後光が差すっと言う言葉がありますが私はそれを見ました!!」


「あかん!! これ、聞いちゃあかん奴だ!! 止まらん奴だ!!  黒騎士団長みたいな帝国を崇拝してる奴と同じ臭いだ!! 族長ダメだぞ!!」


「荒々しい炎を巻き上げる姫様はまさしく魔王でした!! しかし、戦いが終わったあとに器の大きさ。優しさを私めに見せてくださいました。強さ、優しさ、器、全てに置いて歴代の魔王よりも上だと私は確信し!! 姫様の元でお仕事がしたいと願うようになりました!! あの笑顔でお仕事を褒められたい!! そう!! 恋に落ちた幼子のように私は名誉も何もかも捨てて崇めたいと思いました!! あのあと。夢、いいえ啓示を見たのです!! 姫様が族長の前で高々に宣言をするお姿を!! 大きな旗を掲がげるお姿を!! ああ!! なんとお美しいお姿でしたでしょうか? なんと心に残る夢でしたでしたしょうか? そう!! 光!! 暗いイメージを持つ魔国の光!! 光なのです!! そう、たとえ茨道でも私、勇者さまが手本となり命を通しての行動を見せつければ道が開かれると思うのですよ!! ええ、感謝します勇者さま!! 姫様をお救いになった事を!! 姫様を育て上げた事を!! 姫様万歳!!」


 「これ、ヤバイ!!」と心で確信し、あることを願うのだった。彼が失敗し謀反で殺される事を願う。「死ねこいつ」と願う。嫁をここまで言われると気味が悪い。俺の方が恥ずかしくなり吐き気がした。


「勇者さま!! 聞いておられますか!!」


「あ、ああ………」


「遠くから眺めていたのですが!!」


 その後も、彼は姫様の素晴らしさを喋り続けるのだった。俺の事を全く気にせずに。





 疲れて宿屋に帰るとネフィアがイチゴジャムの瓶の蓋を開けている瞬間だった。


「あっ………トキヤ」


「はぁ……」


「これ、ちが!! あっれ~? なんでここにイチゴジャムあるんだろうねぇ~なんでかなぁ~?」


「おまえ、気を付けろ。お前に想いを募らせてる変人がいる………疲れたから休むわ」


「えっ、うん?」


「はぁ……怖い。エルフ族長怖い」


「あのトキヤが怖がってる!?」


「うぅ……うぅ……光が、姫様がぁ………」


「………まぁ、今のうちにジャムたべよ」


 俺はすぐベットに倒れるのだった。






 勇者が去った。テーブルで、私は何故かワクワクしている。


「厳しい道のりですが。やる気が湧いて湧いて仕方がないですね」


 姫様は勇者という最強の護衛がついておられる。道半ばで倒れることはない。


 紅茶をすすり、夢を思い出す。神の啓示と言った夢はあまりにもハッキリ覚えている。姫様の背後にウェーブのかかったフードを被った女神。


「愛の女神ですか。魔族にも神様がいてくださるのですね………」


 女神に愛される魔王である姫様。その矛盾がなんとも新しい。


「ダークエルフ族長と会わなければ………」


 長い因縁を終わらせよう。そう、姫様の名の元に。






 僕は湖のほとりで洗濯物を干す。蜘蛛の糸が木々同士を結び。物干し竿の替わりになっている。飛ばないように、粘着の糸をつけ。お客さんの物で干す場所で分ける。


「ランスロット。洗濯物出来た」


「わかったよ」


 寒い時期、僕たちはネフィアの発案で洗濯屋をやりだした。リディアは寒いのが得意らしく苦じゃない事を利用してだ。リディアはまだ最低ランク。冒険者ギルドで広告し、少しづつ上げていこうと思う。しかし、驚く。


「終わらない………」


「終わらないな………」


 馬車が一杯の洗濯物で驚く。年末からやりだし、日に日に増えている。リディアは素晴らしく洗濯が得意なのか足も使って洗う。だが終わらない。皆が冷たい水での洗濯が嫌なのは僕でもわかる。お湯を使って洗濯すればいいのだが。お湯を沸かすのが億劫なのだろう。洗濯物を洗うのが億劫なのだろう。実際、大儲け中だ。


「私、これで食べて行ける気がする」


「洗濯屋ですね。今までなんで無かったんでしょうね?」


「やりたがらないから?」


「面倒なんでしょう。湯を沸かすのも。洗濯することも。さぁ、もうひとがんばりです」


「そうですね」


 何でもない事だが。この時間は何より大切な時間だと僕は感じた。彼女との時間を噛み締めようと思う。都市ヘルカイトを親友から教えてもらった。自分は故郷に帰れない。もし、落ち着くならば彼と同じ地で落ち着こうと思うのだ。


「リディア、僕のわがままを聞いてほしい」


「いつもわがままを聞いてくれるランスロットのわがままなら何でもいいよ」


「親友言っていた都市へ行こうと思うのです。ついてきて貰ってもいいでしょうか?」


「………あなたと一緒にいられるなら何処へでも」


「ありがとう。リディア、さぁ早く終えてご飯にしよう」


「はい!!」


 リディアの魔物とは思えない笑顔に、自分は胸が高鳴るのだった。





 次の日、朝から俺たちは西門へ向かう。ドレイクに荷物を乗せ、宿屋から歩き出した。予定は西側から北上し魔王城を目指す。西側の都市オペラハウスを目指して。


 都市オペラハウスは有名な歓楽街。一度は行ってみようじゃないかと嫁と話し合った結果だ。


 大劇場は今、見物らしい。芸達者な男優の演技が素晴らしいとの事。仮面を被り、色んな仮面を変えて演じる人物に人気が集まっているらしい。


「おっ、ランス。お出迎えか? ちょっと遊んでくる」


「こんにちは、王子さま」


「こんにちは。少しお話があるんだ」


 ランスが自分達と歩を合わせ、歩く。


「君たちが言っていた都市ヘルカイトへ行こうと思います」


「ありがとう。同じ民だな」


「同じ民かぁ~王子さま、いいんですか? 帝国は?」


「リディアと一緒の方が僕はいい。それに、君たちが言っていたまだ始まったばかりの都市だ。力になろうと思うよ」


「ありがとうな。親友」


「ええ、それとですね。魔王城へも行きます」


「魔王城へ?」


「ええ、君たちも向かうでしょう。なので………パーティ組んで攻略しましょう。それが終わったら一緒に帰りましょう」


「いいのか? 最悪、死ぬぞ?」


「僕を誰だと思いますか? 世界一の騎士と言ってましたよね?」


「はははは、確かに言った。わかった………じゃぁ魔王城の酒場で会おう」


「はい、会いましょう」


「「旅に幸あらんことを!!」」


 親友と握手をし、二人で悪い笑みをする。人の家で暴れようと考えている笑みだ。


「本当に仲がいいんだから………ふふ」


 ネフィアが口許に手を当てて笑う。自分達は親友と再開を誓い、西門から出る。まだ雪が残るが春草たちが顔を出している道を歩いた。


「トキヤ」


「ん?」


「親友は捨てなくて良かったね」


「ああ、まったくな………全部を捨てて君に逢いに来たのに」


「トキヤ、それは捨てたけど拾っただけだよ」


「拾った?」


「トキヤは全てを捨てたけど。そう………拾い直せる物もあるんだよ。きっとね」


 もう、私のために落とさせない。逆に拾わせる。それが出来るのは私だ。


「自信満々のどや顔されてもなぁ~」


「だって、世界から捨てられた私を拾ったのトキヤでしょ?」


「そうだったな………そうだったそうだった」


「だから、拾えるものは拾いましょう。私たちのために………ね?」


「ああ、ネフィアの好きにすればいいよ」


「うん、そうします」


 手を繋ぎ、二人で歩く。本腰を入れて、向かおう。2度目の魔王城へ。道草をしながら。


「あっイチゴジャムの件怒るの忘れてた」


「……ひゃい~」


 私は背筋が冷える。





 








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