マクシミリアン女王の悩み
次の日、空の旅でエルミア女王との面談を行う。遊ぶのではなく正式な面談である。
「そろそろいいんじゃないですか? 帝国で起きている事を聞いても……」
私が船を用意し、向かう理由は帝国内の不安分子についてである。
「わかった。色々探りをいれてる所だけど帝国内は圧倒的権力者を欠いている状況で内部抗争がポツポツと生じている。それに『人狼』が関わっている」
「人狼……都市インバスの主要種族ですね」
「詳しい話を知らないの。都市インバスの主要種族だったの?」
「都市インバスは夜に強い種族。闇魔法や血の魔法など非常に正真正銘正当魔族と言えるほどの種族が勢力争いしてた土地です。その一種族が『人狼』でした」
「人狼って……獣亜人族となにか違うの?」
「詳しくは知らないのですが。『獣人亜人族』と『人狼』は同じですがルーツ、発生した祖、能力の違い、組分け等々で違うそうです」
「全部説明できない?」
「上部だけですが……ルーツは『人狼ウィルス』なる人間の後天的変化で人間の生活圏から迫害受けたのが祖先。能力として人を『人狼化』や一部の人狼は『霧状になって隠れる』『人として潜伏』『夜は狼になれる』が能力の違いです。獣亜人族の狼族はこれらを持ってません」
「そんな違いがあるなんて別物ね」
「そうですね。亜人族にもなれず、人にもなれず。両方から迫害されるので非常に強力な一家になったと思われます」
「暗殺が得意と言うのも納得。それらが……帝国で暴れてるのは何故かしら?」
「帝国は不干渉なんです。一つ、心当たりがあるなら『銀髪鬼』の願いが残っているので私たちはそれに従いました。約束です」
「どういう約束?」
「約束は『協力するかわりに帝国へ我々を届けてほしい』です。人として人狼ではなく。『祖国に送り返して欲しい』と言う願いです」
エルミアが苦々しい顔をする。私はそれに首を傾げた。
「なにか?」
「……私の知る人狼は『帝国で育って帝国の学園にいる』のよ。その協力は戦争時よね?」
「はい」
「『銀髪鬼』の人狼は『帝国に自分の息のかかった人狼を潜伏させてない』わけがないわよね? 例えば娘、孫がいれば潜伏させて……それを『あなたに認可させる』と面白いことになるわね。潜伏は故郷に里帰りになる。『人狼ウィルス』なんて大変ね。ばらまける」
「ウィルスには耐性があると聞いてます」
「魔族にでしょ? 私の遠い孫は『人狼』になったわ」
「それはおかしいです。人狼の血肉を喰わないと無理と聞いてます。また、時間のかかる術式。性行が必要です」
「その情報……本当?」
「『疫病神』に誓って」
疫病神は『人狼ウィルス』『吸血鬼ウィルス』に関しての話を広めて迫害や噂を一笑させてくれた。それは人狼と吸血鬼の悪評を覆し、逆に治療まで行えると言われる。なお、今では吸血鬼化と人狼化の亜人は『自分の意思』でなる者だけである。
「わかった。信じよう。でも、そんなに人狼になるのが大変なら……確かに仲間を増やすのも難しいわね。いえ、人間の取り入って仲良くなって増やす方がいい」
「結局、結論は私は『銀髪鬼に騙された』わけですね」
「人がいいってのも問題ね。どうするの?」
「あと始末はします。いいえ、正直……気味が悪いですね」
私の知らない所で私の手が目が届かない所で『銀髪鬼』が手を打ったような気もするが、私は彼女を思い出しながらも騙された気がしない。
「ただ『故郷へ』と言うのは本当です。『帰りたい』は本当だと思います。ならば、私は会って話を聞き……結末を考えるべきですね。それが……どうなるかは『神のみが知る』でしょう。この世には都合のいい機械仕掛けの神は居ないのですから」
「ネフィア……あなたは本当に強くなったわね。私はね、その『銀髪鬼』があなたを騙して帝国を我が物にしようとしてる気しかないわ」
「ふふ、それでもいいです。ですが人間も弱くない。私が『禁忌を犯しても達成させる人間』を見ています」
「そうね、人間は弱くない」
「そう、弱くない」
私たちは笑う。人間に魅入られた人同士で人間の国を心配する不思議な状況である。
「それよりも、人狼になった子は大丈夫なのかしら?」
「大丈夫よ、もう……雄って感じでね」
やらかした。酒も抜けてないのか彼女の親族自慢が始まり、私はそれにずっと付き合うことになってしまうのだった。
*
覚悟を決めて晩酌に付き合う。なお、私は葡萄ジュース少々、お水でお腹の子に対して悪くならないようにする。そんな中でふと重い話が飛び込む。
「あなた、最近……力を持っても何もしないの不思議ね」
「力ですか?」
「あるでしょ? 『天楽街』と言う秘密組織はあなたの息がかかってる。また、英国は莫大な力を有している」
「そうですね。ですが、私のは『権威』で『権力者』は族長たちです」
「それでも力を持ってるでしょ。本当に何もしない」
「何もしないがどう言ったものかはわからないですが、私は私で私の出来る範囲で『仕事』してます」
「仕事ね」
「そうです。仕事です」
女王と言う仕事である。それは非常に面倒で特権であり、非常に危ない事を扱う仕事だ。
「あなたは本当に偉いわ。私はね……今、非常に『復讐』の機会を得ているの」
私は口を一文字に縛る。重い重い話である。
「私の実子は帝国に差し出され私に次に会った時は首だけだった。処刑された。結果、それで私たちは帝国の属国領土として生き。そして、子孫が今に続いている」
古い時代の伝説の話である。
「続き、多重な税の中で蓄え。文化を残し、ゆっくりゆっくり耕して来た。そんな中であなたに出会い、あなたが大きくなって王になったのは驚いた」
「はい、私も驚いきました。そして、その縁があったからこそ今の同盟があると言えます」
「そう、私は……『復讐』の機会を得た。実子を奪われた国への復讐。故に悩んだ。『帝国を攻めてしまおう』かと。『帝国を手にしよう』かとね」
「準備してますか?」
「いいえ、正直……何も指示してないわ。ただ……今の帝国には『ざまぁないね』と高笑いしてる」
きれいなハイエルフの表情は清々しい。そして、彼女はハイエルフと言う種族特性を生かして『勝者』となった。
「復讐ではなく、侮蔑の意思を持たせてくれたのはあなたのおかげね。あなたの『恩人』である『皇帝』は私には『宿敵』。この複雑な縁が私を考えさせる。同盟故にね……それ以上にあなたを悲しませるかなって。あなたは力を持ってるのに帝国を落とさない理由もわかったわ」
「なんだと思いますか?」
「帝国をいらないってことなんでしょ? そうする必要がない。英国は帝国なんかいらないの」
「その通りです。それに私は『帝国民根絶やし』に大反対です」
「なんで根絶やしなの?」
「『復讐』したくなるでしょ? マクシミリアン女王陛下。あなたのように過去を水に流せる強い人は少数です」
支配される者と支配するものには絶対に仲良く出来ないと思う。お金の縁がなければそれは敵である。
「ふふ、如何にも」
「マクシミリアン女王陛下、それにですね。正直戦争はするものではないです。もしも、マクシミリアンと戦争なったらどうなるか知ってます? 想定してるんですよ、族長たちの裏切り行われた時を。秘密文書ですが……あまりに残酷です」
「教えてくれるの?」
私は頷いて「知るべきだろう」と思い教える。
「二人の秘密ですが、先ずはスライム族の工作員による水質汚染、疫病撒きが行われます。特に免疫力の低い子供が狙われるようです。そして、食糧などの生産地を襲撃します」
「……もうやめていいわ。聞きたくなくなった。人の心ないの?」
「私も最初は耳を疑いました。『徹底した殲滅、虐殺、迫害』ですので、私は絶対に反対です」
「そうね。本当にこれからは戦争なんて最悪な結果しかないわね。多くの商業ルートが消えるのも厳しい」
「もう、そんな時代は来ないと言いたいですね」
「あなたが力を振り回さなくてよかった。一瞬で滅びるわね。本当に……恐ろしいほどの発展よね。怖くない?」
私は首を横に振る。そして、別の話に変える。
「一つ。振り回している事あるんですけどね。聞きますか? 知れば戻れなくなります」
私は「過去」の事件に首を突っ込んでいる事を匂わせる。それにエルミア姉さんは肩をすくめた。
「嫌よ、あなたの口からはヤバい話しか聞かないもん。もう、嫌になるばっかり。だから、楽しい話をしましょう」
「そうですね。私も普通の人生歩みたかったです。魔王でなく、少女の人生を」
運命を呪いながらも運命の中で孕んだお腹を撫でる。
「ただ、愛しい王子に救われている人生は悪くないですけどね」
「贅沢な悩みね。あなたを羨ましいがる人は多いでしょうに」
「そうですね」
私たちはそのまま国の行く末を話し合い。その後に野球試合を見るのだった。




