同族の尖兵
商人の家畜小屋を同時に襲撃し、指示をして誘導した結果。都市は一瞬にして騒乱の様相を示す。火蓋を切った結果、多くの抗争が抗争を生み出して終始がつかない所まで膨れる。
「報復だぁ!!」
「野郎共!! 復讐だ」
多くの恨み辛いの鎖が絡まり、多くの血が流れる。そんな中で「我々を知って対処に動いた者」たちを見つける。正確な情報伝達能力。そして、情報が盗まれていることも視野に入っている。厳密には「今の魔王の尖兵」と言える者たちだ。これは「エルフ族長と現魔王の抗争である」と言えた。
だからこそ、私たちはいるここにいる。お義父様の代理として。
「ニィ、サン、シィ。首尾は?」
「上々」
「同じく」
「上と同じ」
頭の中で聞こえる声から善戦の様子が伺え知れた。地図に叩き込んだ場所は解放済み。次に行われるのは殿戦である。護って戦わないといけない。
「殿になる。交戦し、逐次撤退。向こうの個人戦力は全部引き受ける」
ワン姉様の命令により、私たちは追手だろう者と戦う。多くは悪魔だ。裕福な鉄の武装に武器が見てとれ、非常に強硬な筋肉がついた敵に私は背筋を正す。何人も私にも迫っていた。
「こんにちは、今日は何よりいい日ですね」
私に対して数十人の兵士が大斧を構えて伺いながらリーダーだろう悪魔が語りかける。
「奴隷を解放して何をしようとしている?」
「新たな日の出を」
「やはり、お前ら!! ネフィア・ネロリリスの回し者か!!」
「はい」
嘘をつく。だが、それが明確な敵意として向けやすいためである。彼女の影は明るく、名前は地を這い、わかりやすい紹介となる。数人の男は大斧を置き、そして……頭を下げた。戦意がない事を示す。
「どうか我々も、お付き合いしとうございます」
「え?」
私はそれに対して驚くとともに周りを見た。敵意は全て霧消し、私は話を聞く旨を伝える。
「……我々は下級悪魔として使役されて来ました。しかし、待遇はよくならず。ドンドン雲行きが怪しくなっており。ここ一同……悩んでおりました」
「それは『吸血鬼教会のセレファ様』に話せばよろしいのではないでしょうか?」
「過去の悔恨などがあり、それは難しいと思います」
「……ああ、なるほどです。わかりました」
この都市の悔恨はよく知っている。水を流すなんて難しい。恨み辛みが多いのだ。私はお義母様に話をつけ、処遇を聞く。お義母様からは「条件ありの投降を許す」と言う返信があった。
「条件があります。如何なる悔恨を捨てること。また、悔恨で責められていても例え反撃してはならないこと。復讐する事を禁じます。そして、私に忠誠心を見せる事を条件とします。なお、拒否権はありますがその瞬間『敵』です。今は忙しいのです」
脅し含めた交渉。しかし、彼等は頷いてくれる。
「わ、わかった。忠誠心の示し方は?」
「今、奴隷を解放し……向かわせています。それとともに逃げて護ってあげてください」
「婬魔を護れと? この俺らが?」
「私、含めてネフィア・ネロリリス様は婬魔でございます。如何なる悔恨も捨てていただきます」
「………とにかく北門へ向かえばいいんだな」
「はい。よろしくお願いします。信用します」
「ああ」
「最後に個人的な命令です。『生きて命令完遂』をお願いします」
悪魔のリーダー格の男に対して私を手を伸ばし、握手する。そのまま、彼等も命じられるまま北門へ向かった。そして、私の方面は「何事もない」と報告した。その次の瞬間、声が響く。
「サン姉ちゃん!! ワン姉ちゃんとニィ姉ちゃんが!! 声が途切れた!!」
「え?」
「姉ちゃん!! 来る!!」
ガッシャアアアアアアアアアン
大きな音と共に建物が壊れる。そんな中で影が動き、私は身構えて動き出す。その影に向かって。
「………!?」
影は人型の肥大化した両腕を持ち、そしてその両腕には姉様が捕まれており、それを私に付き出して盾にする。残酷な防御と攻撃を私は避けて身をよじり、横に走って距離を取った。
「ワン、ニィ!!」
「あは? よけた? よけたねぇ? 身軽だねぇ? 4姉妹? うるさくてギャギャー騒いでたの君たちでしょ?」
肥大化した腕は黒い光沢があり、所々で歯車の擦れる音と共に魔力の蒸気が吹き出す。腕は義手である事がわかるが、体に対してバランスの悪い両腕はどこか壊れた人形を思い出させる。
「私はサンライト・エルフ。あなたは?」
「両腕に掴んでる仲間に何も感じないの?」
「……全員無事で帰れる奇跡を信じてますが。それは『奇跡』でもあります。あなた夢魔ですね。私と一緒に行きませんか? 私も夢魔です」
「んんん? やっぱり? なぁんだ夢魔衛兵同士のケンカかぁ~人質だよ?」
「ぐぐぐサン!! 俺ごとやれぇえええ」
「サン!! 私に構わず!!」
「許可をいただきました。交渉も無理。名前だけ再度聞きましょう。名は?」
「ビックアームだよぉおおおおおお」
名前を叫んだと同時に人質の二人を投げつけてくる。私はそれを無視して身を低く避けて接近し、ナイフを構えて喉元を狙う。
「うへぇえええ!? 速い!!」
喉元狙い突き刺そうとした瞬間、彼女の腕は大きな平手を私に当てて吹き飛ばす。その強さで身が建物にぶつかり、壁を壊して屋内に転がる。中では震える悪魔の家族がおり、私は立ち上がって損傷具合を確かめた。
「頑丈おぉ」
「損傷軽微、人質解放してますが?」
「だって、手が使えないじゃん。握り潰すには頑丈だったし」
「わかりました」
僥倖、彼女は私に狙いを定めた。情けない事に私は無表情で冷淡な部分があり、ワン姉様、ニィ姉様の方が指示や命令。人を動かすのを得意としている。
「ワン姉様、ニィ姉様。まだ何も終わってないのに寝ている暇はございません。私は彼女を止めて置きます」
「げほ、わかった。サン、任せた!! ニィ!! 立て!!」
「立ちますから!! うるさいです。姉さん!!」
攻撃を受けてもピンピンしているのを見るに、大丈夫そうだ。問題は姉様たちを押さえ付けていたバカ力の夢魔をどうするかである。
「ふふ、多くの夢魔、悪魔、狼、吸血鬼をすりつぶして来たけど……なんか雰囲気違うね。身なりもいいし……うーん? 都市外勢力だぁ」
「正解です」
「じゃぁ~目的は? 目標は?」
「答える義理はございません」
「わかった。『ご主人様』もういいですか? 壊しても?」
「誰か他に……」
私は周りを見るが全くわからない。しかし、雰囲気が変わり彼女の両腕が大きい金属音を発する。私の四肢もリミットを外し、身構えた。
「人を潰す感覚、大好き」
彼女はピョンっと跳ねて拳を握り、叩きつけるように私に振り下ろす。それを横に避けて距離を置き。砕かれた石畳の地面を見た。
「ちょこまかと……」
拳で壊した石を掴んで私に投げつける。いい精度の投擲に私は危うく当たってしまう所だった。軽装の私には当たるのはダメである。
「時間稼ぎのつもり? ムリムリムリ!!」
「ぐっ!?」
「さぁ、捕まった」
私は背後に何かが当たる。背後には赤い鎖がびっしりと埋め尽くされ、そこには確かに壁があり、叩くと石のような固さがあった。
「それ呪縛だよ。逃がさないと言う、鎖の壁。弱いけど~重ねたら強固になるぅ」
「その義手……もしかして……」
拳から吹き出された魔力が固定化した物を散布し、相手の退路を閉じる魔導具も兼ねている。デカイからこそ容量があり、しっかりと組み込めたのだろう。そして、その大きい拳は武器となる。私にはその魔導具に心当たりがあり、知っていた。
「しぇんせぇいの魔法……」
「ああ、やっぱりお前もあの名工の義手なんだぁ~やっぱり何処かの戦闘用奴隷じゃん」
「私は!! いえ、私は違います。私の義手は……戦うための物じゃないんです」
「えええ? あの名工の義手、凄く潰すのに便利なのにぃ? もったいなぁ、どうせ攻撃方法あるんでしょ?」
「………」
黙認する。そして、恩師の「私以外の義手を使う場面」を初めて見た。長い日々で一度も見せなかった世界。それは何故なのかと……今の私に邪念を生ませた。
「スキアリ」
その邪念は致命的な隙を生んだ。彼女は一瞬にして間合いを積め、拳を振り抜き。それに対して反応が遅れてしまい。最低な防御で受けきる事になった。赤い鎖の壁に押し付けられて身が潰される。
「がふっ……」
「おお、固い」
痛みと共に、頭の邪念が消える。拳が離れ、もう一撃を出そうと大振りになった所で私は彼女の顔をめがけて蹴りあげる。鋼鉄の義足が鈍器として彼女の顎を打ち上げた。
「あ、ぐ……」
もろに入ったのか、そのまま後ろに下がり。足をガクガクとさせて頭を押さえて震える。
「夢魔の脳ミソは人と変わらない場所にあるんですよね」
「ぐぎぎぎ……がぁあああああああ!!」
ふらつき、ヨダレを垂らしながら耐える彼女は笑顔で私を見つめたあとに叫びだし。地団駄を踏んでふらつきを治める。
「だいじょうぶ」
気合いでなんとかし、ニカッと笑う姿に少し見惚れてしまう。
「へへへ、私をこんなのにしたのは初めて」
「あれで倒れない人を見たのは初めてです。脳漿ぶちまけて死ぬぐらいに威力を出したんですが……」
「両腕を破壊するのが正解かもしれない」と考えて右足の安全装置を外す。
「頑丈なんだぁ~あれ? どこ」
地面を蹴り、私は駆け、そのまま背後に立つ。大きい拳は逆に視界を狭めて動きが遅く捉えきれない。相手は化物ならいい義手だが、人型には大きすぎる。
「後ろです」
「そこかぁ!!」
「外れです」
力任せに拳を振るって大きく空振る。そのまま距離をつめて体を回し足の裏を叩きつける。流石に防御の姿勢となり、足に装備されている鋭い黒杭が私の魔力爆発の力で打ち出されて杭打ちを行い、拳の歯車を粉々に砕く。その衝撃波は拳に穴を空けて彼女の本体ごと吹き飛ばした。
「かは……げほ……」
「申し訳ないです。手加減……できませんでした」
ガシュンと音を立てて杭が私の足から外れる。使い捨ての杭はそのまま転がり、耐えられず砕け散る。
「ははは……負けたかぁ……ご主人様怒るだろうなぁ」
「………あなた。私と一緒に行きますか? あなたはまだ生きて行けそうです。まだ……救えそうです……」
見捨てた子達を思い浮かべる。そして、それを振り払う。
「あれ? なにそれ?」
「義手は私のを使えばいいです。もう、そんな大きい拳を振ることも戦うこともしなくていい時代が来ます。夢魔だからと……盾になることも選べる時代が」
「へぇ、でもそれってつまらなそう」
「………それはわからないものですよ」
私は目の前の同族に回復魔法をかけようとした瞬間だった。背後に大きい気配がし振り向くとそこにはゴーレムのような、悪魔の化物のような物がこちらに向かって円筒の先を向ける。
「それは!!」
見覚えのある武器に私は避ける事を選ぼうとした。しかし、背後に彼女が居る。結果、私は一つの決定を下した。
ガバァアアアン!!
爆発音と共に打ち出された鉄球に私は左手の義手で受け止めて受け流す。義手は鉄球でへしゃげ、砕け散る。そのまま義手は千切れて落ち、私は打ち出した者に近付き、右手をゴーレムの腹に突き入れる。腹は大きい円盤がついており、それが鈍く響いた。右手の義手の拳が砕け散り、両腕を失う。
「黒鋼の盾に無駄な事を」
「……」
両腕を一瞬で失った私は距離を稼いだ。機能重視の義手の耐久が低いのが仇となり壊れてしまう。そして、それがこの者がなんなのかを察する事が出来た。歯車の軋む音が私の耳を打つ。目障りな音である。
「それ、しぇんせぇいの砲ですよね?」
ガシャンと音を立てて筒を捨てる。ゴーレムのような体と思っていたが、それは半分正解で半分違うのだ。四肢など一部が義手化しており、体の全面に盾を鎧として纏っている。
「お前、あいつが買って行ったゴミじゃないか? 『潤沢な資金があるのに安い物しか買ってくれねぇなぁ』と思ってたんだ。そうか、奴の尖兵に。ゴミの再利用にはいいな」
「………」
私は立ち上がりながら睨み付ける。因縁を感じながら。




