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我が種族を奪うために


 馬車の旅は順調に進んだ。後続の馬車隊が待機する場所の下調べも済み、後は私たちだけが歩いて都市インバスに潜入する。お義母様の魔法を封じた魔石を忍ばせ、他の準備が整った。


 見回すと、鎧を着こんだ姉妹達の顔色は……暗いものだった。


「「「……」」」


 緊張よりも、憎々しいような表情を浮かべるが瞳には鬼気迫る闘志が見ており、安心できる。見張りの居ない、都市の黒い鋼の城壁に前もって用意された梯子から上に登り、その瞳で都市を見渡す。


 空にはスペクターと言う怪鳥の幽霊や、亡霊などが留まり、魔法の鎖が至る所でそれらを縛って使役していた。張り付け台や、見せ物にされた死骸を啄む魔物も都市に溢れており、見慣れた世界である。


 物音に狼の遠吠え、悲鳴が木霊する。死が身近な世界がそこにあった。汚れている世界がそこにはあった。先生の嫌った故郷がそこにはあった。


「変わりませんね。お姉さん」


「……女王陛下が来ても変わらなかったからね。シィはここで待機」


「うん」


 シィは一人、長弓と矢筒を紐を使って荷物を上げる。シィは魔法を使わずに戦うために父上の倉庫から引っ張り出した弓はシィの身長ほどある。魔力の補助がないと弾けない剛弓。対亜人用の弓である。


「サン、ニィは個別」


「はい」


「作戦実行は夜に太陽が昇る。撤収作戦は2度目の太陽が昇る事。作戦終了は3度目。深追いはなし、2度目で東門防衛参加、味方は頭に太陽の目印ハチマキと腕に腕章。それ以外は……」


「「「皆殺し」」」


 そう、私達はたった数人で暴動を起こす陽動役なのだ。暴れた後、合流して東門でシンガリを勤める。だが、それ以上に私たちに課せられている物がある。同胞の解放だ。シィが残った理由は同胞への道標を司る。


 やり方は非常にシンプル。頭にここに来いとねじ込むのだ。私たちは前もって覚えている売買所の保管庫へ個別へ向かった。黒い建物を屋根から渡り、私は一ヶ所目の場所へとつく。


 もちろん、悪魔が待ち構えているし。待機所の部屋で牙を研いでいる。大きい倉庫型の保管庫であり……床や壁は乾いた血糊がへばりついている。大きいネズミが骨を貪るほどに酷い環境だが。ここではこれが普通なのだ。


「ん、誰だ?」


「……」


 作戦実行はまだ早い。だが私は倉庫番の3人の前へ体を見せる。


「何処かの使用人か……もう夢魔の販売は終わってる。どっかいきな。今頃、色々物騒で……あんた夢魔か」


「……全て買いに来ました」


「えっ本当か!? まぁ服から見るに上位の金持ちだろうな。どうする?」


 仲間に問う。悪魔の青年に二人の悪魔は首を振り、邪な顔で私を見る。


「いい魂ぽいし、いたぶるか?」


「ご主人には新たな夢魔用意するしな」


「じゃぁ……」


 ゲス。悪魔としてもゲス。私は満面の笑みを3人に向けた瞬間。都市の上空で大きい光が差す。


「なんだあれ!? この前のあのあれと同じ!? 太陽が!?」


 悪魔の身震いと恐怖に揺らいだ隙を私は見逃さない。駆け抜け、手の義手に仕込んだ剣で首から頭を落とし。腰の小さな剣を二人に投げ、頭に刺さった瞬間。私は魔法を使い。お義母さんの炎が頭を吹き飛ばす。


 首が落ちた頭を私は踏み潰し、確実に仕留めた。悪魔は頭を潰さないと死なないほど頑丈なのだ。


「何の騒ぎ!? 敵襲だぁ!?」


 お義母さまの血を使った簡易な魔法具で3人を仕留め。その3人の武器でちょうど良さげな大きな戦斧を拾う。敵襲に気が付いた悪魔たちが同じ武器を持って現れた。


「……太陽が昇りました。せぇんしぇい、見ていますか?」


 私は強敵の前へ義足に力を入れて前のめりに突き進み。悪魔を胴体から斧で切り払う。悪魔の動きは鈍く映り、私の服は黒い血で染まる。そして……髪に触れた返り血が燃え。それを見た悪魔は腰を抜かした。


「お、おまえ!? もしや!! ネフィ……」


「違います。エルフ族長の娘。サンライトでございます」


 問題無用で私は腰を抜かした悪魔を一刀両断する。慈悲は与えずに殺す。そのまま私は一段落をして息を吐き、様子を伺った。周りが騒がしく。至る所で激しい戦闘の音に戦争が始まった事が伺え知れた。


「……」


 ここの悪魔は掃討した。手薄な所から見れる抗争による人材不足、怠けなど。苦戦するような結果にならないだろう事が予想出来る。


「解放ですね」


 周りの安全を確認後、倒れている悪魔の体から鍵を探し私は人身売買の倉庫に忍び込む。鍵を使い、扉を開けるとそこには……雑魚寝した少年少女。それも淫魔ばかりが集められていた。空気も悪く、臭いもヒドイ、衛生面も最悪だ。そして……寝たきりの子も居る。病気持ちだろう。水は桶に入っているが消毒されてもなさそうだ。


「皆さん、ご主人様が買いに来ました。北門の外でお待ちです。出発してください」


 私は命令を下す。意思を奪われた子達だ。逃げる意思さえない。故に「命令をすればいい」と父様から聞いていた。もちろん、脅しも大切である。


「北門はわかるね? ご主人様は待つのが嫌いです。ですから急いでください」


 悲しいか、私の言葉に皆が従ってくれる。そのまま、ドアから出て北門へと目指す。何人か北門を知っているのか道を進む。そして私は……残されて動かない子達を見る。


 息をしていない子、息をしているが長くない子を見ながら祈りを捧げる。願わくはエルフ族長の元で転生することを願いながら、私はその場を去り……彼女らを見捨てるのだった。















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