黒衛兵の片鱗
「ご主人様、報告です。『路地裏でボヤだってさ』『怖いなぁ……怖い』『衛兵が今、総出で暴動押さえ込んでるらしい』等々の声があり、具体的に何か起きてるかをしりません」
風の噂とは早く広まる物だ。娘がしている事を私は聞き……ある事を確信する。エルフ族長であるご主人様もそれは感じていただろう。
「サンライトを拾った技師はネフィア様から多大な影響を受けていることが『確信』に変わりました」
「そうだろうね。わかりやすい名前に、何を期待していたかはわからないが。確実に女王陛下の威光の影響が出てるね。サンライトは出会っていない筈の女王陛下に『似ている』ことから。きっと、彼女を輩出した技師は『ネフィアの模倣』を夢見てしまったんだろうね」
ご主人様は満面の笑みで話をする。
「立場、場所は違えど同じ事をしてしまった結果。女王陛下の『模倣』をお気に入りの夢魔に夢見てしまう。それに応える夢魔は個人差はあれど能力を発揮する。なら、尚更………夢魔を独占すれば最強の兵を手にする事も出来るだろうね」
「………ご主人様」
「しないさ。そうすれば今度は全員敗北する。バランスだよ、結局。それよりも娘の後始末はお任せしよう」
「はい、ご主人様は?」
「魔王城に魔王に会いに行く。護衛は無しだ」
ご主人様は不敵な笑みを浮かべて部屋から出る。私はその背を見つめながら後始末を考えるのだった。
*
私は一人、魔王城へと歩を進めた。中は厳重に警備が敷かれており、緊急時を思い浮かべる。そして、執務室へと進む。ノックせずに部屋に入り、不敵な笑みで魔王を見た。魔王は由緒ある魔剣を携えて座り、睨み付ける。
昔なら、族長であり、民のためにゴマを擦っていた関係だったでしょう。今ではなにも恐れる事はなくなったようだ。
「魔王、暴動がありましたね」
「裏路地の屑どもだろう。衛兵が処刑する。気にする事はない」
「全くそのとおりです」
「……で、わざわざ俺に会いに来た理由はなにか? 俺が知らないと思わない事だな。『クーデター』でも起こそうとする事を」
「なら何故、暗殺に来ないのです? 怖くて夜もぐっすりです」
「……」
魔王は苦々しい表情をし、手で合図を送っていた。執務室の外に悪魔族の兵士が出迎えているだろう。自分で戦えない愚か者を私は鼻で笑う。
「ノコノコと顔を出して、帰すと思うか?」
「帰りますよ。かわいい妻と娘たちが待っているんです」
「あの奴隷たちとの家族ごっこ遊びに興じるなど……堕ちた物だな」
「ええ、淫魔。夢魔におとしました。しかし、別に悪い事ではないでしょう。暴動も抑えられてるようですし……それに……大好きですから」
「ん?」
私の服が燃えた瞬間に形が変わり炎が静まると仕事の服へと変わる。私は満面の笑みを昔のご主人様に向けた。
「婬魔は『姿を変えられる』事をご存知でない?」
「お、お前は!!」
魔王は剣を抜く。そして……背後で物音がし、倒れる音ともに扉が開く。
「迎えに来ました。フィア」
「はい。タイミングバッチリです」
「……反逆者め」
「まぁ、そうですね。不信任です。今、ここに魔王からの脱退を宣言します。今日はそれだけにお伺いしました。では、さようなら。日の沈る王」
私はご主人様の背後についていく。廊下の悪魔は胸に穴を開けられて絶命し、床を汚していた。
「俺が返すとでも!!」
魔王は魔法を打ち出す。芸のない魔法弾に私は炎をふりかけて包み。そのまま炎に吸収させて、手に納める。
「失礼しました」
そして何事もなかったように私たちはその場を後にした。現魔王とエルフ族長の対立の激化は止まらず。抗争の火種を撒き散らして。
「フィア、これがクーデターと言うんだよ」
「革命とは違うのですか?」
「革命は既になっている……女王陛下のせいでね」
私はわからない。わからないが……エルフ族長の横顔は非常に頼もしく見えたのだった。
*
私は人を選ぶ、私に従える者は仕事が出来ると判断。それ以外に便乗で暴動窃盗する者は見捨てる覚悟だった。しかし、思いも他……皆は従って場外の建築途中の砦まで到着した。奴隷解放後に合流し、そのまま砦に到着する。
話を聞くと「私が怖い」と言う事で従っていた。目の前で殺される雰囲気など、出した覚えはないが一度目の前で殺したのを見ているためか、すんなりと人手が手に入った。
「スイカ先生……これから忙しいですね」
砦に立って待っている人々を見ながら私は衛兵長にお願いした。
「頑張ってください。先生」
「これ、全員俺が一人で見ろと?」
ガヤガヤと騒がしい人たちを見て彼は冷や汗をかく。
「いいえ、そこはエルフ族長であるお父さんの部下も含みます。ただ……責任者は先生になります。ここにダークエルフ族長とエルフ族長の命令書があります。処刑権限もあります」
「……」
「お一人で衛兵稼業は苦しいでしょうから、せっかくです。先生として活躍を期待してます」
「うまく出来ると思うか?」
「最低限でいいではないですか? 私は文字の読み書き。四肢さえなかったんです。弱音ですよ」
「………厳しい事を」
「では、私がお話しします。『騙されてください』とね」
「何を言う気だ?」
私は皆の前に踊り出た後、複数人のリーダー格の方々を集めた。そして、これからの事は「テストであったこと」の話をし「目指すべき目標」の話をする。そのまま、何事もなく解散し各々が言葉にする。「働かないと殺されるぞ」と最初は恐怖で動かす。
「おい、サンライト」
「先生、いいんです。悪役は私で、いいんです」
私はずっとここに居ないのだから。関係ないのだ。
*
私はお義父様の寝室で座り、お義父様に頭を撫でられていた。
「お義父様、ありがとうございました」
「いやいや、全く。暴漢をあそこまで恐怖だけで簡単に従えるとは……魔王の素質があるな」
「いえ。お義父様の砦や、人不足。族長領の豊富な資源があってこそです」
私は今は傷心している。顔には出さないが怖がられていた。
「そうだな、それを見越しての方法だろう。簡単なテストだが。『従わない者は暴動者として消す』なんて、なかなか酷い圧政者じゃないかな。生か死か」
「わかりやすい方法です」
「ああ、そうだな。衣食住を保証なんて言葉は意味がわかってないと伝わらない。そういうものはある程度理解できる頭がないとな」
「そういう方々を増やすのが先だと教えてもらいました」
「おお、そうだ。現に賢い人民が集まれば集まるほどによくなる。制御しにくく、暴れにくい人員だが、逆に賢い人間が集まれば集まるほど。成長していくからな」
私はお義父様からお褒めをいただく。そして、お義父様は真面目な表情に変わり声のトーンを下げる。
「それに、今回でわかったと思うが全く同じ事を都市インバスで行う。いい練習になったんじゃないか?」
「はい」
私は激戦を覚悟している、生まれ故郷の都市で戦うだろう悪魔たちと。




