不思議な縁結び
首都イヴァリースは非常に綺麗な綺麗な都市だった。花の園のような平原にそびえ立つ城が特徴で、大きい大きい城壁が並び、行商も多く行き交う。
そんな中で、私たちはあの都市に入ると思っていたのだが。お義父様は全く別の場所へと案内してくれる。それは城の後方に離れておいてある小さい城壁の砦のような場所で、中に入ると街が一つ収まっている感じである。ここをお義母様は説明をしてくださる。
「ここはエルフ族長領土。個人的な砦です。駐屯地とも言いまして。軍などの宿泊できる場所になってます。首都への喉元と言うことで……危険な場所です」
お義父様はこのようにして権力を持っている事が伺え知れる。こんな場所に反乱予定の兵士を入れとくだけで威圧感は出るだろう。
「そして、新しい砦も作り中です」
「……魔王が怒らないの不思議だなぁ。ママ、ここって喉元にナイフがある感じじゃんか」
「そうですね。でも都市にはダークエルフ族長がおります。四天王は居ないですけどね。そういうバランスがあり、保っています」
「でも、同盟組んでるんだろ?」
「……秘密ですがね」
私は背筋が伸びた。如何にこの場が戦場になるのか予想出来たからだ。魔王側とエルフ族長側の熾烈なにらみ合いがは始まっているのだ。
「では、皆さん。駐屯地内の宿泊施設へ物を置きに行きましょう。そのまま、ご主人様と都市へ向かいます。もちろん、4人でね」
「お義母様は?」
「お留守番です。良かったですね。実戦ですよ」
右手の義手が軋み、左手で抑える。私は震えたのだ。お義母様の不敵な笑みに恐ろしさを臭わせた言葉に。
*
都市につくなりお義父様は解散を宣言する。護衛と言いながらも家族での小旅行のような物だろう。
「4人とも護衛ありがとう。まぁ衛兵が睨んでいる場所だから大丈夫だろう。それよりも自分たちが婬魔と言うことを忘れずに拐われないように」
「パパ、いいのか? 自由行動で?」
「……フィアが脅してたようだけど。そんなアホな戦いはない。それよりも君たちの『社会性』を鍛えた方がいい。故に姉妹バラバラで何かを時間いっぱい学んで来なさい。時間になったらフィアに呼ばせるから」
私は「丁度いい」と思う。何故なら依頼を貰ってるのだ。
「ああ、ではバラける。何処へ行こうといい。『見てきなさい』」
お義父様の号令で私たちは散る。姉妹でバラけるのは新鮮だった。特にワン姉様とニィ姉様が別々なのである。私はそのまま大通りにある冒険者ギルドに顔を出した。そのまま依頼の受付をすませ無事に依頼が終わり、余った時間をもて余す。一人っていうのは珍しく感じる。ほとんど姉妹と一緒なのだ。
「………」
だから私は「自由に歩く事にした」。時間いっぱい私は右目の宝石に写していく。今の首都である場所を記録するように。大通りは活気はある。裏通りはジメジメとしてカビ臭い。レンガの道路は硬く。街の隙間は大きい種族が入れるように大きくなっている。そして、多くの種族が行き交っている。そんな首都で私はふと、声が聞こえた。
「……助けて」
小さな少女の嘆く声に私は向かう。するとそこは籠に入っている子供たちが売られている場所だった。婬魔が多いだろうが、色んな子供が売られている。
周りは他に薬を売っていたり、怪しげな肉を売っていたり。私は「裏路地」に来たことを察する。
表では売っていない。裏通りの秘密な商店街。ギョロと私は見られる中でそのまま平静を保ち、奴隷商の店へ入る。
私が聞いた声が聞こえず。私は「助ける」と言うような「正義」を噛み殺す。
「お嬢ちゃん……何かお探しで?」
「いえ、少し……声が聞こえたので。何でもないです」
視線が私に集まる。「期待」するような目ではない。無気力な目を向けられる。
「はぁはぁ、冷やかしは帰ってくれよ」
「はい……」
私は思い出す。「私はこの中の誰かと同じ運命」だった事を。そして、考える。「あまりいい物ではない」と。
「………」
私は私の無力を知る。「買う」事も出来ず。ただただ去るだけである。それでも私は「他の店も嫌がらずに観察しよう」と考えて歩く。お義父様は言った。「見てこい」と。その意味を知る。
「これが……世界なんですね」
姉妹の輝く暖かい日々の裏でこんな暗い話もある。不平等もある。そして、私はそんな中で先生に拾われて幸せ者になっている。一つ間違えれば今の私はいない。そして、私は先生のように……「買う力」もない。奴隷を養う力もない。
「おい、お嬢ちゃん。婬魔か? ご主人様は誰だぁ?」
オーク族、リザード族、獣人族の男たちに囲まれる。荒くれの風貌に私は答える。
「……ご主人様はいません」
「ほう? 変な話だな。奴隷だろ?」
「………」
「捨てられた夢魔じゃねぇか? 上物で金持ちに飼われてただろうに可哀想に……俺達が新しいご主人様を紹介しようか?」
「………」
「おい!! 何か言ったらどうだ?」
「私は去ります。さようなら……」
「はははは、全く連れないなぁ~~」
私の腕をリザード族が掴み、その感触に驚いた表情をする。手袋がスルッと抜け、私の義手があらわになる。
「お前!? なんだそれ、義手か!?」
「おいおい!! 滅茶苦茶レアじゃねぇか!! 都市インバスの売りもんだぜ、こいつ」
男たちが剣を抜く。空気が変わり、私は鞄を強く握った。
「こいつ戦闘向けに調製された婬魔の奴隷だ。ご主人様は居ないじゃない。『誰かの刺客』だ」
「………?」
距離を取って私は囲まれる。そして、リーダー格だろうオーク族の男が話をする。
「口を割らない。命令通りに動く。拷問して、なんとか聞き出すか」
「何の話ですか?」
「とぼけるな、おい。こいつを……腕を切り落として口を割らせ………ぐふぅ!?」
男たちは一斉に動き出す。剣を私の腕を斬ろうと振ろうとして近付くのを見た私は大きく息を吸い、鞄を強く両手でもち………オーク族の男に近付いて鞄を振り抜く。
ベキベキベキベキベキ
鞄が深々とオーク族の男のお腹に刺さり、血を出しながら骨を砕いた。骨が見えるほど中身が崩れ、開放骨折しているのをそのまま振り抜き、オークの巨体を投げ飛ばす。
あまりの飛散な光景に男たちは固まる。私は血濡れた鞄をそのまま両手で持ったまま、強さを見せつける。頑丈に作られた義手義足が入った鞄は重量のある鈍器として素晴らしい武器になる事を。
「いきなり襲って来たのはあなたたちです。私は今……むしゃくしゃしてます。見逃してください」
「おい、どうする?」
「お前がいけよ」
「お前ら……」
男たちが一瞬の惨劇に尻込みし、私はそれに一瞥しながら去ろうと包囲の一ヶ所に寄る。すると門が開くように散り、私は歩く。血濡れた鞄を持ったまま歩く。
「背後を襲うか?」
「邪魔だ、どけ」
すると、一人の男が道を塞ぐ。ダークエルフの青年である彼は私に行かさないように立ち塞がった。
「そこの美少女。待ちなさい」
「………なんでしょうか?」
「その鞄を持ったまま表へ出ると血糊で衛兵に目をつけられる。そして『殺人』を行った事が露見する」
「彼は生きてますよ? 生きてます」
ダークエルフの青年は剣を抜き、痛み苦しむオークの首を跳ねる。
「………死んでいるね。誰が殺したかは全員が見ている。君がどんなに『やっていない』と叫ぼうとね」
浅はかな事をしたことを悔いる。そして、私の心は酷く落ち込む。お義母様とお義父様に迷惑をかけてしまうと。無罪では許されないだろう。
「……私は取れる手段は『全員消す』か『お願いして見なかった事にして貰える』か『お義母様、お義父様に相談する』かですね」
「『全員消す』とは物騒だけど……君は確かに出来そうだ。だから、俺が出たんだがな」
ダークエルフの青年が大きく溜め息を吐き、大声で周りの男たちを怒鳴る。
「てめぇら、ささっと散れ!! 見せ物じゃねえぞ……処分されたくなかったらな!!」
その言葉に雲の子を散らすように消えていき、私は彼とだけとなる。
「さぁ、こっちだ。その血を拭いさらないとなサンライト」
私は頷き、いけない事だと知りながら男について行くのだった。
*
ついた場所に私は驚く。そこは衛兵所であり、鍵を開けて入れてくれる。中は広く、設備がしっかりしているのに、誰もいない。私は問いかけた。
「もしかして衛兵なんですか? そして、一人と」
「ああ、衛兵だな。そして、一人だ」
「どうしてあんな所に……」
「君こそ、どうしてあんな所に? いや、君らしいか……そう思えるぐらいには何故か知っている気がする」
「お名前を伺ってもいいですか? 私は初対面です……」
「俺も初対面だ。だけど、名前は知っている。何故だろう……」
「それに関してお答えできますが……先ずは名前を………スイカさん?」
「スイカであってる。西瓜食うか?」
「いただきます」
私は席に座って彼の名前を言い当てる。シャクシャクと切り分けて貰った果物のような物をいただく。
「で、なんで俺はお前を知っていたんだ?」
「私の種族をご存知ですか?」
「夢魔」
「夢で繋がったんです。関係性、縁……そういうものです」
「不思議な縁の結び方もあるもんだ」
「それが夢魔です。『ご存知ですよね?』」
「もちろん、わかる。何故だが………」
「西瓜、美味しいです」
「それは良かった。中々高いんだぞ、それ」
「知ってます。好きなことも。それよりも……助けてくださりありがとうございました」
私は初対面ではないような気がして不思議と信頼をしてしまう。彼もそうなのか、剣を置く。
「いいや、助けたのは彼らだ。君を知る俺は『虐殺が起きても不思議じゃない』と感じていた。現に君は簡単に殺める。まぁ、一人の物を囲んで襲っていたから『正当防衛』ではあるし。脅した理由も『私は君たちの仲間でサンライトは敵な立場』と言う旨を感じさせれただろう」
「彼らを庇ったんですね……」
「一人、殺めたが……あれは情状酌量の余地がある。それに君が語ったら大問題になる。『エルフ族長の娘を襲った』と言うことを広めてしまうと彼らは殺されても文句は言えなくなる。だから、邪魔した。大事にするには早すぎる。まだ『女王陛下』はお眠り中だ」
「………」
私は静かに頷き、そしてお礼を述べる。鞄の血を拭き取りながら。
「それで、最初の質問に戻ろう。君はなんであの場所で『仕事』を? エルフ族長の命令か?」
「仕事ではないです。ただ……『助けて』と聞こえて迷い込んだのです。しかし、見つけたのは奴隷商。お金持ちではないので……難しいと思いました」
「……天性のあれか。そうだな、暴れないだけマシか」
「暴れたのは囲まれたからです」
「そうだな。君は値打ち物になる。『身代金』でもいい。それは自覚して動いてくれ。ここはそういう場所だから」
「……治安。悪いですね」
「ああ、だから俺が一人で見張ってる。小さい事件は無視して……大きい事件は報告。今は報告書を書いてる」
「……申し訳ないです」
「気にしないでいい。報告書を持って出る。一応、君は『目立つ』から気を付けてくれ」
「わかりました。質問いいですか? なんで皆さんはあんな元気なのに『冒険者ギルド』へ仕事へ行かないのですか?」
素朴な疑問だった。特にあれだけの男たちだ。
「いけないからだ。前科者で無法者はギルドは入れてくれない。そんなものを使いたくはない。だから『盗賊ギルド』なんてのがあるし、金持ちは『人拐い』『噂の流布』『表に出来ない事』をお願いする。逆に死んでもいいやつがそういう場所にはいる。君と俺は『恵まれている』」
「そうですか……」
「しかし、君はそれでもここへ呼ばれて来た。何か理由があるんだろう」
「そうですね……西瓜美味しかったです。それではお時間もありますので帰ります」
「わかった。最後に念押しするけど。君は『問題』をもって来やすい。理由はわからないが……それを胸に刻んでおいた方がいいと思うよ」
「ありがとうございます。ではまた会いましょう」
「ああ、会いましょう。にしても……不思議な縁もあるもんだ」
私は衛兵所に頭を下げて去る。そして、そのままお義父様の元へ向かうのだった。




