私たちは姉妹④
ニィ姉様を寝室に招き、ニィ姉様は吊られている一般生活用の義手義足に少し驚きながら入る。昔に比べて壁などに手足があるのは少し不気味だろう。ワン姉様は気にしてなかったが。
「義手義足がこんなに増えて……」
「訓練で故障したり、壊れたり……するんです」
「何故、捨てないの?」
「これらは……私の恩人が作った義手義足かもしれないので、捨てられないんです」
いつもお義母様は何処からか用意してくださっている。しかし、それは市場に出回った物を見繕ってくれているのだろうと私は予想する。もしくは別人の商品かもしれない。
「恩人?」
「私の右手、義手義足を作ってくださった方です。エルフ族長のお義父様よりも前に私は……拾われていたんです」
「それで、あなたは『大人』なのね……」
「大人……なんでしょうかね? 私にはわかりません」
私は悩む。「大人になれれば私はずっと先生の元に置いて貰えたのだろうか?」と思い。首を振る。そんな事は絶対ないと。先生は先生なのだから。教える事がなくなったと判断した。だけど私は納得出来ない。
「サン?」
「あっすいません。昔の事を思い出して……」
「昔の事…………ねぇ。ワン姉さんがあなたに執着してるのは『過去』を話したから?」
「執着ですか………話してないですね」
「………どうして」
ニィ姉様が小さく愚痴る。わからないと言うように。
「どうして、あなたは『違う』の?」
「……………いいえ。違いません。ニィ姉様」
私はニィ姉様の頬に触れる。私はニィ姉様がワン姉様に執着心があるのをシィから教えて貰っている。
「ニィ姉様はこの義手をどう思いますか?」
「えっと……便利な武器、便利な道具だと……」
「………ニィ姉様の頬の柔らかさも、暖かさも何も感じないのです。人の『あるべき感触』が全く私はしらないんです」
「!?」
ニィ姉様が口を押さえる。いけない事を口走ったと思ったのだろう。
「ニィ姉様、そんな顔をしないでください。これが『私』なんです。冷たいでしょう。私の手は……だけど私は悲観しません。同情もいりません。そう、ワン姉様の心配は過剰なんです。ニィ姉様」
「………ごめんなさい。ワン姉さんは優しいから……私は……あなたが羨ましいかっただけ……ごめんなさい」
「許します。だから、今度はしっかり口に出して言ってください。『ワン姉さん、構いすぎです』と」
「ふふ、わかった。納得した。ワンはあなたに『同情』したのね」
「はい。そうです。ですが、私は手足無くても生きていけます。普通に対応してくださいね」
「わかった……その。言い訳させて」
「はい」
ベットに腰かけて私はニィ姉様の太ももに頭を乗せる。驚いたニィ姉様だが、優しい表情で頭を撫でる。
「顔はまだあるので暖かさがわかります」
「ふふ、暖かい?」
「少し硬いです」
私は頬をつねられる。そのままニィ姉様は昔話を話す。
「ワン姉さんとは実は生まれた時から後でずっと一緒だったの。狭い狭い部屋で何人も詰め込まれた部屋でね。そんな中で私は二人で鍛えられたの売り物の『警備員』として」
「はい」
夢魔は商人が買い。鍛えて売る。そういう商売が成り立っていた。お義父様はそういうのを買ったわけである。
「売り物ですね。ニィ姉様」
「そうよ、売り物だった。だからずっとずっと一緒だった。そして、姉様はその時から私の姉だったの」
それはすごく長い間に苦楽を共にした事を意味する。そんな、仲だからこそ。私とシィはいきなりに「仲よくしなさい」と命じられたことに何かあったのかもしれない。心の奥底で。
「シィと私は……余計でしたか? 痛いです。姉様」
強く頬をつねられた。「違う」ということだろう。
「余計じゃない。ごめんなさい、私がほんの少し、子供だった。ワガママでワガママで……でも、やっぱり。妹だから……あんたは……やっぱりその手足が心配になるわ」
「……………はい」
心地いい。非常に心地いい気持ちになる。
「落ち着いて、考えて、話をしたら。なんか、小さいことで悩んでた。そう、私は次女なんだからしっかりしないと」
「そうです。ワン姉様を支えないと……何するかわからないですよ」
二人でクスクスと笑う。そして、扉が叩く音と共にワン姉様とシィが「ご飯」の時間をお知らせする。立ち上がり、向かおうとするときニィ姉様に止められる。
「ねぇ、サン。今度は皆で過去や色んな話をしましょう。未来の夢についても……話しましょう」
私はそれに頷く。ニィ姉様の仲良くなるための提案に賛成し、私は扉を開けるのだった。




